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フランスの避妊と人工妊娠中絶

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フランスは人権宣言の国であり、自由の国である。アメリカのように恋愛がスキャンダルにならない国でもある。だから、避妊や人工妊娠中絶についても寛容で早くから制度が整っていると思われるかもしれない。ところが一方で、フランスは政教分離とはいえ、カトリックの国である。カトリックの影響や国の人口政策もあって、実はフランスで避妊や人工妊娠中絶が合法化されたのは一九六〇年代未から一九七〇年代のことである。合法化はたしかに遅いのだが、フランスのいいところは法律を作る際、徹底した調査と議論を行うことである。その結果、未成年の性と生殖の権利にもかなり配慮した法律ができた。ここでは、その法律の内容と法律を実行するための公的な性情報・相談サービスの内容について紹介したい。

未成年と避妊と人工妊娠中絶

 一九六三年、一足先にアメリカで市場化されたピルがフランスでも市場化された。そのため、それまで避妊具の宣伝と販売を禁止してきた一九二〇年法が事実上骨抜きとなってしまった。そして一九六七年に、避妊を自由化するニューウイルト法が成立した。フランスでは、男性用コンドームは避妊手段というより性感染症予防の手段とみなされていて、一九二〇年法では性感染症予防のためとして唯一販売禁止を免れていた。だから、ピルの登場により初めて完全に近い近代的避妊法ができたと考えられた。
 一九七〇年代に入ると、女性運動の高まりのなか、人工妊娠中絶の合法化が最大の要求となった。人工妊娠中絶の合法化をめぐる激論のなかで、人工妊娠中絶は最後の手段であり、いかに避妊のための情報や避妊手段の提供を徹底して行うかが論議された。その結果、中絶法成立に先立つ一九七四年にニューウイルト法の一部が改正された。
 画期的な改正点の一つは、避妊具の費用は医療保険により七〇〜ハ○%払い戻されること。もう一つは、未成年(一八歳以下)は家族計画教育センターに行けば、匿名で親の許可なしに、無料で避妊具の配布を受けることができるようになったことである。この二つの改正により、年齢にかかわらず誰でもが避妊手段を手にすることが容易になった。
 そして、T几七五年に人工妊娠中絶法が成立した。妊娠一〇週(日本の計算では一二週)の終わりまでの人工妊娠中絶が女性の自己決定権として認められた。未婚の未成年の中絶の場合には、当の未成年の同意の他に、親権を行使する者の丁人、さらに必要がある場合には法定代理人の同意が必要である。ただし、未成年の自己決定権を守るため、本人の同意の確認は実親または法定代理人の居ないところで行われなければならない。
この法律に特徴的なことはカウンセリングの規定があることだ。中絶を望む妊娠した女性は年齢にかかわらず、医師の説明を受けた後、別の所定の施設で相談し、必要な情報の提供を受けなければならない。その証明書と医師との面談から一週間後に、中絶の意志の再確認があって初めて中絶ができるのである。一九八二年には、人工妊娠中絶の費用について医療保険からハ○%が払い戻されることになった。このように、フランスでは避妊と人工妊娠中絶には社会保障が適用されている。家族計画教育センターの活動
 フランスでは、避妊が合法化され、人工妊娠中絶の合法化が現実化し始める一九七〇年代初頭、学校における性教育の取り組みも始まる。この性教育については後に触れるが、現実に、フランスの若者が具体的な性情報や相談、避妊手段を手にするのにもっとも有効に機能しているのが、家族計画教育センタ‐(Centre de Planincation et d’ Education Familiale)である。人工妊娠中絶を最後の手段とするために、やはり一九七〇年代初め、若者や大人のための性情報の提供、相談場所として全国に設置され、県議会の管轄のもとに本格的な活動が開始された。
ローヌ県の場合
 では、実際に家族計画教育センターはどのような活動を行っているのだろうか。私の友人の住む、都市部の多いローヌ県(県庁所在地リヨン)の例を見てみよう。フランス本国は九五県あるが、寒村部の多い県を除けば、規模の差はあっても、同程度のセンターのネットワークがほぼ同様の性情報・相談活動を行っていると推察される。
 ローヌ県には一九の家族計画教育センターがあり、そのうち四つが国立病院、ハつがローヌ県センター(元の医療I福祉センター)、一つがフランス家族計画運動協会の中にそれぞれ置かれ、残り六つが家族計画教育センターと名乗っている。フランス家族計画運動協会と六つの家族計画教育センターの運営主体は民間団体である。フランスの場合、活動実績を持つ民間団体に補助金を出し、このような公的活動を担ってもらうケースは多い。
 地理的には、病院が各市内に、その他はすべて都市部郊外にあるコミューヌ(最小の地方行政単位で人口規模二〜三万人)の中にあり、なかでも移民の多い地域にある。
 センターには、必ず医師(婦人科医) 一名、助産婦一名、カップル(夫婦)問題カウンセラーが一名、ソーシャル・ワーカーが一名配置されている。受け入れは月曜日から金曜日までだが、時間帯はセンターによって異なっている。だいたい午前、午後とも開いている。主な活動として、①婦人科医による診察、②避妊手段の処方、③避妊のフォロー、④妊娠診断(以上は婦人科医の担当)、⑤家族-カップル関係、性、避妊、出産、人工妊娠中絶についての情報提供とカウンセリング(これはカップル問題カウンセラー、助産婦、ソーシャル・ワーカーの担当)を行っている。リヨンの家族計画運動協会と若者
 一九のセンターの中でも、もっとも利用者の多いリヨンの家族計画運動協会における若者の利用状況を見てみる。婦人科医の診療を受けたい場合は一般的にはあらかじめアポイントをとる必要があるが、その他は不要である。入るとすぐ受付があり、三人の女性(カップル問題カウンセラー助産婦、ソーシャル・ワーカー)が居て、訪れた若者を受け入れ、相談の内容を聴き、その場で答えられることには答え、もう少し内密の相談が必要な場合は、三室ある個室で相談に応じる。
 避妊に関しては、一ハ歳以下(未成年)の場合、婦人科医の処方で、無料で、避妊具、避妊薬(ピル)が配布される。ただし、無条件にいくらでも配布するのではないことを示すために、例えばコンドームなら一回に五個くらい、また任意で、払える人には寄付程度のお金をもらうこともあるようだ。ハ歳以上の場合は、学生でも働いている場合でも失業していても必ず社会保障に入っているので、医療保険により診察料一一五フラン(約二三〇〇円)のうち、三分の一の自己負担となる。その他、最初の性関係、避妊具の使い方、妊娠、ピル、中絶などについてやさしく解説した無料のパンフレットが多数置いてあり、いつでも持っていけるようになっている。
 この協会を一九九八年に訪れた若者の延べ人数は約一万人(同伴者も入る)、そのうちIハ歳以下(未成年)が一七%、一八〜二五歳が六一%、二五歳以上が二三%。この数字はここ三年間ほぽ同じである。全体では、外国人は一七%、学生が五〇%、残りの半分の多くは失業者などが多い。
 婦人科医の診察を受けた若者は約半数の四八四四人、そのうち半数はピルの更新、その他は緊急避妊法(後述)、感染症や妊娠の相談で、妊娠テストは八五〇回実施。情報活動に関しては要請の多い順に、避妊、人工妊娠中絶、妊娠、性感染症、エイズとなっている。
 この家族計画運動協会の組織は、ドキュメンタリスト(資料・文書の整理・提供担当)を含む運営担当が四人、他の家族計画教育センターと同様に、婦人科医、助産婦、カップル問題カウンセラー、ソーシャル・ワーカーの専門家四人がパートタイムのスタッフとして配置されている。
 運営資金として、補助金のハ○%は県議会から、残り二〇%は県の保健福祉局からの補助金と、情報活動による資料販売などにより賄われている。この組織は全国組織で、現在六六県に同種のセンターを持ち、一九七〇年代に活躍した団体の中で、当初の目的方針を失わず、現実的な活動を続けている数少ないフェミニスト団体である。
性教育と民間団体
 学校における性教育に関しては、一応中学では教える内容がカリキュラムに入っているが、実際に性教育を行うかどうかはその先生、もしくは学校長の考え方次第というところがある。そこで別に、カップル問題カウンセリング/情報・相談センターの名のもとにリストアップされている民間団体(ローヌ県の場合は九団体)が、活動のIつとして学校に出張してボランティアで性教育を行っている。
 このリストの中に先に述べた家族計画運動協会も入っていて、一九九八年では中学校一校、高校一校、福祉系学校二校について、計一一回の出張授業を行っている。こうした学校への出張授業の問題点は、学校に居る保健婦との関係である。保健婦は性教育のための教育を必ずしも受けていないので、外来者を快く思わない傾向があるようだ。
また、カップル問題カウンセラーとは、ソーシャル・ワーカーのような国家資格ではなく、四〇〇〜五〇〇時間の教育を受けて主婦などが取得する資格で、カウンセリングが主な仕事となっている。

フランス女性の年齢別の避妊法

フランス女性の年齢別の避妊法

緊急避妊ピルとフランスの若者

 フランスの避妊法の主流はピルである。ここでピルについて少し触れておきたい。一九九四年の国立人口問題研究所の調査によれば、二〇〜二九歳の女性では五五%がピルを使用している。ただし、エイズの問題ではコンドーム併用のキャンペーンが行われた。先の調査では、最初の性関係の際にピルとコンドームを併用したのは五%で、多くは最初の性関係ではコンドーム、関係が安定してくるとピルに移行するという使い方をしているようだ。
 ピルに関して、今年(一九九九年)六月に画期的な動きがあった。新しい種類の緊急避妊ピル
「ノルレボ」が処方せんなしで、女性なら誰でも年齢にかかわらず、薬局で自由に買えることになったのである。ただし、医療保険の払い戻しの対象にはならず、自己負担で、値段は五五〜六五フラン(約一一〇〇〜一三〇〇円)。従来の医療保険の対象になる緊急避妊ピルについては婦人科等の指定医師の処方せんが必要で、その処方せんを持って薬局に行きピルを買うのだが、新しいピルには処方せんが要らない。
 この緊急避妊ピルは、避妊しなかった場合、性行為後七二時間以内に飲めば妊娠予防の可能性を持つピルである。ノルルヴォは従来の緊急避妊ピルより避妊効果が高く、二四時間以内に飲めば妊娠予防率が九九%、二四時間以降七二時間までだと八五〜九五%である。また、今までのものより副作用が少ないことが自由販売になった理由の一つだが、さらに大きな理由は、望まない妊娠のリスクの高い女性たちが自由に手にできるようにするためである。
 二〇歳以下の若い女性の望まない妊娠は毎年一万件あるとされる。そこで、このピルの普及のために情報キャンペーンが行われようとしている。さらに国民教育省は、一四〜一五歳を対象に学校の保健婦に緊急避妊ピルの配布を委託できないか、その調査に入っているといわれている。こうし
た措置には、望まない妊娠を何としても防ぎたいという意志が感じられる。
おわりに
 以上述べてきたように、フランスにおける若者にとって、家庭でも学校でもない、地域にある家
族計画教育センターのような機関が果たしている役割は大きい。性の問題は友人には相談できても、
確実な情報ではないし、親とか先生には相談しづらい。現に、センターを訪れる若者は、自分では
十分情報を持ち、何でも知っているつもりでいるが、その情報が間違っている場合が多いという。
こうしたセンターが地域にあることで、そしてそこに行けば性情報をもらえ相談ができ、避妊具、
避妊薬(ピル)まで無料で配布されることで、若者たちがどれくらい人工妊娠中絶や性感染症から
守られているかわからない。
 日本では、若者たちへの公的な性情報提供や相談事業は丁回に進まず、常に「寝た子を起こすこ
とはない」式の理由のもとに放置状態である。日本の若者たちの性感染症の増加、人工妊娠中絶の
増加等を考えるとき、フランス社会が若者たちの現実の状況を認め、それに対して具体的合理的な
対策を講じていく姿勢は参考にすべきではないだろうか。日本でも、若者のリプロダクティブ・ヘ
ルス/ライツを認め、地域に家族計画教育センターのような機関をぜひ作っていくことを提案した
いと思う。

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