働き盛り世代の「うつ病」症例別
出社拒否症
会社に行くのが怖くて朝になると頭痛や耳鳴りが。
今、サラリーマンの世界で会社に行きたくても行けないという「出社拒否症」が増加しています。その原因はさまざまですが、たとえば、昨今のオフィスの急激なOA化か中間管理職ばかりでなく、一般職員の心を追いつめてしまうケースが少なくありません。
Wさん(38才)は、ある中堅食品会社の係長でした。Wさんの部署でも合理化のため、パソコンが導入されました。コンピューター会社からインストラクターが派遣され、操作方法などを教えてくれます。が、何度説明を受けても、Wさんにはチンプンカンプンです。それとは対照的に、若い部下たちはどんどん操作を覚えていきます。Wさんもなんとかついていこうと懸命に勉強しましたが、どうしてもダメです、
そんなある目のこと、部下たちが「うちの係長、バカじゃないの?」と話しているのをWさんは偶然、立ち聞きしてしまいました。これが引き金となり、Wさんは会社に行くのがイヤになってしまったのです。
ある朝、超きると頭痛や耳鳴りがします。それでもがんばって出社しようと電車に乗りましたが、会社のピルが見えてきたところで、それ以上は足が動かなくなってしまい、とうとう家に引き返してしまいました。驚いた奥さんが「なにかあったの?」と理由を聞いても、何も答えません。
その日を境に、Wさんは会社にどうしても行けなくなりました。家を出るには出ても、公園や映画館などで時間をつぶし、夕方になると、いかにも会社に行ってきたかのような顔をして帰宅します。まるで学校に行きたがらない「登校拒否」の子どものような状態がつづくようになったのです。そんなWさんの異常はすぐに会社で問題となり、産業医の紹介のもと、上司に伴われてクリニックを訪れました。
出社拒否症の人をはげますのは禁物
Wさんの出社拒否は、パソコンの操作ができないことで、コンピューター社会に適応できない「ダメ人間」の烙印を押されたように思い込んでしまった結果でした。しかし、パソコンができないことが、Wさんの能力や人格のすべてを否定するわけでは、もちろんありません。また、係長という役職は必ずしもみずからパソコンを操作する必要はなく、部下にまかせて、上がってきたデータをチェックするだけでいいはずです。Wさんもそうした割り切り方ができれば、「心の病」に襲われることはなかったのではないでしょうか。
Wさんの場合は、休養を十分にとったあと、さまざまな柿押療法が効を奏して、入院1ヶ月後に職場に復帰することができました。パソコンの操作は部下にまかせ、自分なりに中間管理職としての道を歩んでいくことができるようになったのです。
こうした出社拒否症では、不用意なはげましの言葉は本人をより追い込む結果になるので禁物です。そのはげましが苦になって、自殺してしまうケースも少なくありません。もし身近に出社拒否症に陥った人がいたら、けっして「がんばって」などと、はげまさないようにしてください。
●春は「うつ病」にかかりやすい
転勤や配置転換のシーズンである春は、うつ病にもかかりやすい季節です。
実際、心療内科でも4、5、6月に新患数は集中し、その人数は1年間の約4割を占めています。よくみられるのは、事務職の人が営業職に移されたり、コンピューター専門技術者が別の部門に配属されたりするケースで、不慣れな不適応の仕事からくる過度の緊張が、うつ病を引き起こす原因となっているようです。
●昇進うつ病
出社拒否症につながりやすい心の病に「昇進うつ病」があります。これはせっかく昇進をしたのにもかかわらず、新しい職場環境になじめなかったり、過度の重責感によって、うつ状態に落ち込んでしまうものといえます。
頭痛や動悸、めまいなど、さまざまな身体症状を訴えて、しだいに会社を休みがちになり、ついには辞職に至ることさえあります。
サラリーマンにとって本来、昇進は大きな喜びのはずですが、不況の今日、昇進したとしてもすぐに業績をあげられるとは限りません。責任感の強い人ほど会社の期待にこたえようと必死になり、思ったように成績があがらないと自責の念にかられて、うつ状態に陥っていくようです。
休日恐怖症候群
家族にウソをついて無人の会社に休日出勤。
仕事のない休日くらいはゆっくりと休みたい。これがふつうの人の感覚ですが、「仕事中毒(ワーカホリック)」の人たちの中には「休日が怖い]と訴える人がふえています。実例で、その心理状態をみていきましょう。
電機メーカーの部長を務めるDさん(49才)。会社は完全週休2日割で有給休暇も多く、家族とのレジャーも十分に楽しめる時間があります。しかし、実のところ、Dさんはこの週休2日制が苦痛でしかたありませんでした。
特に部長になったころからは休日になると、不安がつのり、精神的に落ち着きのなさやイライラを感じるようになりました。とりたてて趣味もなく、家にいても何もすることがないため、考えるのは会社に残してきた仕事のことばかりです。緊急の仕事というわけではないのですが、一度気になりだすと、不安感はどんどんふくらんでいきます。イライラして、家族にあたることも多くなりました。
ついには「会社に忘れ物をした」などと口実をつけて、休日に無人のオフィスに出動したり、会社の近くの喫茶店で時間をつぶしたりするなど、まったく不自然な行動をとるようになっていきました。
そのころから体調もくずし始めて、不眠や胃痛などのさまざまな症状があらわれるようになり、本来の平日の仕事にまで支障をきたすようになってしまったのです。
創造的、生産的な趣味に熱中できる時間を持つこと。
こうした「休日恐怖症候群」にかかる人は、かつては、高度経済成長期を支えた昭和ひとけた生まれの世代で非常に多くみられました。不況下の現在では、バブル明に会社の繁栄を支えた30代後半〜40代後半の中堅サラリーマンにしばしばみられています。
もともと、日本人は遊び下手といわれます。週休2日制が定着した今でも、休日に仕事のことをいっさい忘れ、完全休養をとって心身ともにリフレッシュできる人はそれほど多くありません。高度経済成長期における「仕事が趣味」と言い明る企業戦士のような強者はさすがに減ってきたものの、休日をほんとうに有意義にすごしている人は少ないのが現状です。本来の「余暇」とは単に仕事と仕事の間の「余った暇な時間」だけのことではありません。この言葉の意味をいま一度深く考える必要があるでしょう。
休日恐怖症候群を防ぐためには、創造的でしかも生産的な趣味を持つことがなによりです。自分のこれまでの人生を振り返ってみて、昔やっていた趣味、たとえばプラモデルづくりとか、魚釣りなどを再開してみるのもけっこうでしょう。それらが見あたらないのなら、とりあえず競馬やパチンコなどのギャンブルでも、深人りしなければかまいません。どこかで仕事から完全に離れ、仕事のことを完全に忘れる環境をつくり、新しい生きがいを見いだすことがなによりもまず大事なのです。
また、職場でも、大きな事業は自分ひとりで抱え込まないようにして、自分の力で仕事をやるという心がまえを持つことをおすすめします。
●ギャンプルに関する注意
競馬やパチンコなどに関与する場合、あまりのめり込みすぎると、今度は「ギャンブル依存症」になりかねないので、ある程度のセルフコントロールが必須のことになってきます。
●休日恐怖症のセルフチェック
次にあげたうち、当てはまる項目が多い人ほど注意が必要になってきます。
①仕事に追われ、休日に家に持ち帰る。
②家族の中で孤立している。
③マージャンをしようにも将棋をしようにも遊び仲間がいない。
④休日になると、無人の会社に出社することがある。
⑤家族といっしょにいても会話がはずまず、おもしろくない。
⑥家にいると落ち着かずに、イライラする。
⑦休日が近づくと、体調が悪くなる。
●「余暇」と「暇な時間」の違い
毎日の生活のうち、仕事から解放され、とりたてて何もすることがない時間のことを「暇な時間」といいます。
それに対して「余暇」とは、自分で積極的に時間を生み出し、たとえばレジャーなどの自由な時間を見いだすことを意味しています。
現代社会はストレスで満ちあふれています。心の病を寄せつけないようなライフスタイルをつくるためには、自分なりに有効な「余暇」を育てることがなによりも重要だといえるでしょう。
いじめられ症候群
部下との価値観の違いが「いじめ」のきつかけに。
「いじめ」はもはや学校における小・中学生だけの問題ではありません。現代のいじめは、まさに大人社会にも蔓延してきているのです。特に会社の中で「部下が上司をいじめる」という、これまでは考えられなかったようなことが起こってきています。
ある中小企業の課長職をまかされているEさん(39才)は、仕事が趣味と本人自身が言い切るほどの会社人間でした。Eさんの若いころは、働けば働くほど会社の業績が向上し、収人もふえていったバブル期の入り口でした。
自分の働きが会社の発展と直接結びついていたため、仕事が楽しくてしかたがなかったEさん。課長になってからもサービス残業はもちろん、休日出勤も当然でした。それは個人の生き方ですから、仕事をストレスに感じないのであれば問題はありません。しかし、Eさんは自分の価値観が部下たちにも通用するものと信じ込んでいました。そのため、この不況の中で部下たちに残業を強制しようとして、トラブルを起こすことになってしまったのです。
会社の業績が低迷している今こそ、なおいっそう働いて、自分たちの手で会社をもり立てていきたい。それがEさんの念願でした。しかし、若い部下たちには、会社のためのみに慟いているという気持ちはなかったようです。結果として、Eさんのかけ声に部下たちは反応することなく、残業も休日出動もなにかと理由をつけて断ってきました。それでもしつこく残業を促すEさんを、部下たちが敬遠するようになったのも無理はありません。
若い人たちの価値観を認める寛容さを持つように
部下たちの態度は実に露骨でした。Eさんが部屋に入っていくと、部下たちはそれまでの雑談をサッとやめたり、話しかけても無視したりします。一杯飲みに行こうと誘っても、全員が申し合わせたように断ります。
部下だちとコミュニケーションがとれないと仕事もうまくいくわけがありません。当然、日常の業務にも支障が出始めますが、自分と部下たちが不仲だということを上司に言うわけにはいきません。Eさんは孤独地獄の中に落ち込み、自分は中間管理職失格だと思うようになりました。そして、不眠や疲労倦怠などの症状があらわれ、うつ状態に陥って精抑科矢訪ねたのでした。
Eさんの場合、心の病を起こした直接の原因は部下たちの「いじめ」ですが、そういう状況をつくり出したのはEさん自身といえるでしょう。
若い人たちは会社人間以外の顔も持っています。つまり、公私をきちんと分けて、プライベートの生活を大事にします。バブル期に仕事に夢中になり、企業を繁栄させた世代の価値観を、そうした今の若い人たちに理解してもらうのは至難の業といえるでしょう。そのギャップを埋められない管理職は、いじめの対象になりやすいのです。
こうしたケースでは、自分の考えを部下に押しつけずに、若い人たちの価値観をよく理解して、尊重する寛容性が求められます。また、問題をひとりで背負い込もうとせずに、上司や同僚に打ち明けることがたいせつです。
●どんな人がいじめられるか
①劣等感が強く、ひがみやすい。
②不注意なミスを重ねる。
③人づき合いが悪い。
④無責任で、すぐあきらめる。
⑤性格にクセがあり、協調性に乏しい。
●いじめられる体質の改善法
①ひがみっぽい性格をコントロールする。
②自分の立場を主張してみる。
③つまらないミスをしない。
④インフォーマルな関係を大事にする。
⑤相手のふところに飛び込む。
●いじめられ症候群
(Kさん48才・会社部長)の例
Kさんは仕事が趣味のまったくの会社人間です。学歴がなかったことから、人の倍も働いて、やっとこの地位を得ることができました。若いころから苦労しただけに低姿勢で、上司ばかりでなく部下に対してもいつも遠慮がちだったようです。
そんなこともあってか、せっかく部長になったものの、上司にも部下にも甘くみられてバカにされる日々がつづきます。しかし、Kさんは劣等感から萎縮してしまい、そんな周囲に対して毅然とした態度をとることができません。悩んだ末に、うつ状態になってしまい、精神科に入院しました。
結局のところ、復職はうまくいかず、転職してKさんはやっと立ち直ることができました。
リストラうつ病
サラリーマンにとって
「リストラ」は最大のストレス。
今の不況は、これまで以・にに大きなストレス環境をサラリーマンに生み出しています。どうあがいても上がってこない業績、業務縮小に伴う配置転換や転勤、関連会社への出向などなど、ストレスの要因はさまざまです。その中でも最もショ。クが大きいのが「リストラ」でしょう。
ある中堅商社に勤めるSさん(42才)は生真面目で責任感の強い性格で、同期の中でも課長になるのが早いほうでした。しかし、バブルの崩壊後、会社の業績は著しく悪化していきました。ついには退職者募集という事態になり、それはやがて管理職にまで及んできたのです。かつての仲間が1人、2人と去っていく職場の中で、気の小さいSさんは次は自分の番だと思うようになりました。
Sさんは会社から突然、関連会社に役員として出向を命じられます。一見栄転ですが、そこは営業不振でいつ倒産してもおかしくない状況の会社です。
「君の手腕を期待して」と会社側はいいますが、間接的な肩たたきでした。
家には高校受験を控えた息子もおり、どんな悪条件を突きつけられてもリストラされるわけにはいきません。
Sさんは業績を上げようと新天地でがんばります。初めは何から手をつけていいかもわからなかったSさんでしたが、ここが踏ん張りどころと意を決すると、除々に数字も上がってきました。
「やった! これでオレも本社に戻れる]と期待をふくらませて、本社の経常会議に参加したSさんは、得意満面で業績アップを報告します。しかし、会社の対応は非情でした。「まだ数字が足りない。もっと上げろ」とさらなるプレッシャーをかけてきたのです。
会社からの「いじめ」がきっかけで発症することが多い。
あとでわかったことですが、実は本社はすでに関連会社の再建をあきらめていました。そこでSさんを「業績不振」を理由に解雇したかっただけなのです。Sさんはこの残酷な現実に気づき、それまで張りつめていた糸がプツンと切れ、何もかも失ったような気分になってしまいました。
それからというもの、Sさんは朝になると激しい嘔吐、頭痛などを感じるようになり、出社するどころではありません。無理に会社に出ても、仕事に集中できずにミスの連続です。本社はそこをつけ込んで、いやがらせのようにSさんにまた別の関連会社への配置転換を命じました。ついにSさんのストレスは極限に達し、ある日、スーツ姿のまま蒸発してしまったのです。
幸い、数日後、Sさんは生まれ育った郷里の公園で、ベンチに座って考え込んでいたところを発見されました。
事情を聞いてみると、なぜ自分がそこにいるのかすら記憶がないほど、茫然自失の状態でした。
Sさんは精神科に1ヶ月ほど入院。会社には辞表を提出し、退院後は奥さんの口利きもあって、親戚の会社の仕事を手伝うことになりました。小さな会社なので忙しい毎日ですが、これまでと異なりマイペースで働けるので、以前とくらべて精神的にはとても楽になったといっています。このような「リストラうつ病」にかかる人は、30〜40才代の生真面目で責任感の強い人が圧倒的に多いのが特徴です。症状としては、ゆううつや不安などの精神症状はもちろんのこと、不眠、食欲不振、頭痛、肩こりなどの身体症状があらわれてきます。
その原因は、多くの場合はSさんのように会社からの「いじめ」が発端となっています。ろくに仕事もさせてもらえない窓際族に追いやられる人、自分が最も不得意な部門に配置転換される人、もっとひどい場合だと自分の後輩の下につけられたりする人などさまざまなケースがあるようです。4〜5月に多発して精神科などを受診するケースが顕著なのも、本人にとっては負担になる転勤や人事異動などがその主な原因になっていることの証でしょう。
うつ病の兆候は、職場でも家庭でもあらわれます。ただ、会社においては、うつ病だと周囲に悟られて、リストラの対象となってしまうことを恐れ、あえて「こんなに元気だ」というところを見せるために、いつもニコニコしている「微笑みうつ病」という形をとることもあります。
家庭では、急に飲酒量がふえたり、寝起きが悪くなったり、身体がだるくて会社を休みたいなどということが多くなりますので、奥さんが注意深く見ていれば、異変に気づくはずです。
最後に、リストラうつ病を防ぐ、ストレス克服法を紹介しておきましょう。
①置かれる環境を認識する。
②疲れたときは十分に体む。
③家の者や友人と話をする。
④周囲に耳を傾ける。
⑤余暇を大事にする。
⑥一度に2つのことをしない。
⑦自分自身をたいせつにする。
⑧ときには、ひとりっきりになる。
⑨負けるが勝ちを心がける。
⑩体の健康に留意する。
●「リストラうつ病」にかかりやすい日本人
ストレスの要因はさまざまありますが、仕事を生きがいと感じる人の多い日本人の場合、欧米の人にくらべて、倒産や解雇、左遷など、仕事上の喪失体験がより大きなストレスとなることがわかっています。
この不況下の「リストラうつ病」の増加には、そうしたわが国独特の事情もからんでいるものと考えられてなりません。
セルフナーバス症候群
自分の評価を気にして興信所に調査を依頼。
競争が激しいサラリーマンの世界では、上司の評価によって出世が決まるので、他人の自分に対する評価はとても気になるようです。ましてリストラの嵐が吹き荒れる現代では、自分の人生を左右してしまうかもしれない人間関係に疑心暗鬼になってしまうのも当然の帰結でしょう。
それを確かめる手段として、大手.電機メーカーで課長を務めるTさん(40才)は、電話帳で見つけた興信所に自分白身の調査を依頼しました。
Tさんはこれまで大きなミスもなく、順調に仕事をこなしてきました。残業もいやがるどころか、むしろ禎極的に自分から希望するくらいです。その意欲が認められて、3年前に同期の誰よりも早く課長のポストにつきました。
課長になってからもますます仕事に意欲を燃やし、業績もアップ。部下の誰からも次期部長候補と目されていました。しかし、会社からは出世に関する次のステップについて、いっこうに動きがありません。心の内でいら立ちがつのりだしたTさんは、しだいに仕事も手につかなくなってきました。
そうした悩みや不信感を解消するために、バカバカしいこととは思いつつ、Tさんは、上司や会社の自分に対する評価を興信所に調べてもらったのです。
調査結果が手元に届くまで気が気ではありませんでしたが、今までの実績や会社への貢献度か考えれば、本人としては期待もありました。しかし、届いた調査書をいざ開いてみると、自分への評価は予想していたものとはまったく違ったものでした。可もなく不可もなく、ごく平凡な評価だったのです。
「わが道を行く」という気がまえを持つことが大事。
Tさんは、それまで築いてきた自信が崩れ去るのを感じ、すっかり落ち込んでしまいました。そして、部下の小さな失敗にもいら立って、大きな声で怒鳴るようになったのです。家でも、ゆううつな顔をしていたかと思うと、ちょっとしたことでいらついたりと様子がおかしくなり、あまりの変わりように心配になった奥さんがTさんを私のクリニックにつれてきたのです。
このような新しい症状は「セルフナーバス症候群」(別名「自己調査症候群」)と呼ばれています。自意識過剌ぎみの人に多く、自分が他人からどう見られ、どのように評価されているかを非常に気にします。それがこうじて興信所に自己調査を依頼するという不可思議な行動に出たりするわけです。
この症状の治療万法はカウンセリングが中心となります。仙人の目を必要以上に気にする自意識過剰の性格を少しでも変える努力をしなければなりません。そのためには、出世や他人よりぬきんでることだけを目標とせず、さまざまなことに挑戦し、視野を広げ、無理のない自分自身のライフスタイルを見つけることがたいせつです。他人からどう思われようと「わが道を行く」くらいの気がまえを持つことが、この病気の予防・治療につながるのです。
Tさんは、あせって早く出回するより、マイペースに生きることのほうが大事というアドバイスを聞き入れ、今ではすっかり立ち直っています。
●「セルフナーバス症候群」の自己チェック
次のうち、当てはまる項目が多い人ほど要注意です。
①自意識過剰で、ヒソヒソ声が聞こえると、すぐ自分のウワサをしていると思い込んでしまう。
②仕事が生きがいで、出世したくてしようがない。
③趣味がなく、友人が少ない。
④周囲の評価が気になって自己主張できない。
⑤どんな状況にあっても満足できず、不満が多い。
⑥自分に自信が持てない。
⑦同僚より出世が早い。
⑤家庭より仕事が大事だ。
⑨自分は人一倍慟いていると思う。
微笑みうつ病
笑顔の裏に隠された苦しい心の病
ここ数年、増加傾向にあるのが「微笑みうつ病」です。これは、ストレスによってきわめて不自然に、異様とも思えるほどニコニコしたつくり笑いをする状態に陥る心の病です。
ある化粧品メーカーに動めるTさん(40才)は生真面目で、仕事も徹底してやらないと気がすまないタイプです。人一倍がんばりやで人望も厚く、次期課長候補として注目されていました。
ところが、2年後輩の部下が大口契約をまとめるなど、メキメキと業績を伸ばしてきたのです。Tさんに代わって社内の注目を集めるようになり、職場でも人気があって、上司もなにかとその後輩を重宝がります。
Tさんは「後輩が俺より先に課長に昇進するのではないか」という不安にさいなまれ、夜も眠れないようになりました。出社しても仕事に集中できず、業績も急落していきます。それと同時に、Tさんの異様な明るさが社内でウワサになっていったのです。
Tさんはほんのささいなことでも大笑いし、仕事でミスをしてもニコニコしています。そんなTさんの態度を見かねた上司が注意をしても、ニコニコしているばかり。ついには「注意をしているのに、ヘラヘラ笑うとはなにごとだ!」と一喝されてしまうという事態を起こしてしまいました。
それでも、Tさんの異様な明るさはやむ気配がありません。さすがに、おかしいと感じた上司が奥さんに連絡をとりました。すると、家庭ではまったく逆の状態で、Tさんは笑うどころか、暗くふさぎ込んでいるというのです。
わずかな兆候も見逃さすに早期発見、早期治療を。
微笑みうつ病はストレスが原因で起こる軽症うつ病の一種です。苦しいゆううつな気分を隠そうと、やたらにつくり笑いをしたり、明るく振る舞ったりするのが特徴です。
昨今は「○○さん、うつ病じやないか」とウワサが立つだけで、リストラの対象になりかねないご時世です。自分自身で変調に気がついていても、職場では隠し通そうとします。むしろ「こんなに元気でやっているんだ」とアピールするために、一所懸命つくり笑いをすることになってしまうのです。
このほかに症状としては、うつ病特有の日内変動という生活リズムの変化がみられます。午前中はボーッとしてミスをしたり、会議で発言しなくなるなど、仕事に集中できません。それでいて周囲が話しかけるとニコニコと愛想よく、午後から退社まではがんばり通すというのが典型的なパターンです。
このような状態がつづくと、ストレスはますますたまり、ある日突然、蒸発あるいは自殺といった最悪のケースを招くこともあります。重症のうつ病は自殺を実行する気力もありませんが、軽症のうつ病の場合はまだ気力や体力があり、その実行力が残っているからこそ、むしろ注意が必要なのです。
それだけに早期発見が重要となります。たとえば、寝起きが悪い、朝の動作がのろい、午萌甲ミスが多い、食欲不振、不眠などの兆候がみられたら、周囲がすすめて、いち早く専門医の診察を受けさせることがたいせつです。
●「微笑みうつ病」のセルフチェック
以下の点に気がついたら、微笑みうつ病を疑ってください。
①夜、よく眠れなくなってきた。
②寝起きに気分がすぐれない。
③疲労感があり、倦怠感を感じるようになった。
④不安で、イライラするようになってきた。
⑤食欲がなく、体重が落ちてきた。
⑥便秘や下痢をするようになった。
⑦頭痛や肩こりがひどくなった。
⑧口が渇くようになってきた。
⑨性欲が減退し、異性に関心が持てなくなってきた。
燃えつき症候群
心身の極度の疲労から燃えつきたような状態に。
「燃えつき(バーンアウト)」とは今まで動いていた電動機などのモーターが、突然、焼き切れて動かなくなる状態のことをいいます。これを人間に当てはめると、今まで第一線で全力を尽くして働いていた人が心身ともに疲れ果てて、うつ状態に陥り、突然、無気力になってしまうことを指します。
日本ではバブル崩壊後、企業のリストラなどが進み、そのしわ寄せが中高年層を中心に迫ってきました。それに伴い、心身の極度の疲労から、燃えつきたような状態になってしまう「燃えつき症候群」の人たちがふえています。
大企業の部長代理職を務めるMさん(45才)は責任感が強く、仕事一筋に打ち込んできた典型的な会社人間でした。将来を嘱望され、同僚を尻目にトントン拍子で出世してきました。
しかし、バブル崩壊で会社の業績もしだいに悪化していきます。がんばりやのMさんはなんとかこの不況を乗り切ろうと躍起になりましたが、思うようにいきません。元来の几帳面で責任感の強い性格が災いして、今のポストを重荷に感じるようになってきました。
会社はリストラを進めるとともに年功序列制度も見直し始めました。年齢ではなく、実力本位で評価される時代
がやってきたのです。真面目だけが取り柄という仕事ぶりでは対応できない時代になり、Mさんはますますプレッシヤーを感じ始めます。
しだいにMさんはひどい不眠に悩むようになりました。眠れないまま朝を迎え、布団からはいずるように出ても、何もする気力がわきません。奥さんに尻をたたかれて、しかたなく出社しますが、不注意でミスを連発して上司から叱責を受ける始末です。やがてMさんは自分の努力とがんばりを評価しない会社に幻滅を感じ、ついには「生きていても無音詐呼だ」と思い始めました。
そんなある朝、発作的に自宅の部屋で首をつろうとしていたところを奥さんに発見されたのです。
中高年だけではなく若い人も要注意。
このMさんの例は「家庭をニの次にして働いてきた中高年の悲哀」というひと言では片づけることができません。
なぜなら、燃えつき症候群は今や中高年だけでなく、若年者も含めた日本のサラリーマン全休の問題だからです。
バブル期に入社した世代の若いサラリーマンは、好況期という恵まれた時代に社会人としてのスタートを切ったこともあり、逆境を経験していないという弱点があります。そのため、今のがまんをしなければいけない時代に対しての免疫がありません。
仕事がうまくいかないのは時代の流れとは考えずに、自分の責任だと思い悩み、自己不信に陥ってしまう人も少なくありません。その結果、気力の糸がプツンと切れてしまい、うつ状態に陥ってしまう危険性があるのです。
燃えつき症候群は自殺に至る例が多いこともわかっています。そのような事態を防ぐためには、仕事だけにのめり込まず、趣味や運動などでストレスを解消するよう心がけるとともに、いい意味でのミーイズム(自分主義)を身につけることが必要となるでしょう。
●過労死予防の10力条
「燃えつき症候群」の症例は、1970年代に米国の精神科医であるH・フロイデンバーガー博士によって初めて発表されました。当時の米国では、サービス業を主とする専門職の中に忙しさのあまり、精神疲労で「うつ状態」に陥る人たちが多かったようです。
日本でも急度経済成長期以降、会社に人生を捧げているような、いわゆる働きすぎの人たちに、この燃えつき症候群が多発して注目を集めました。
燃えつき症候群で特に注意が必要なのは、本文でも触れた自殺のほかに、突然死や過労死です。ストレスの影響が身体のほうにあらわれて、心筋梗塞や脳卒中などの発作を起こす危険性もあります。左にあげた「過労死予防の10ヵ条」は、そのまま燃えつき症候群の予防策にもなりますので、ぜひ参考にしてください。
①休日は必ず家庭で休む。
②残業はなるべくしない。
③休日には家庭へ仕事を持ち帰らない。
④規則正しい日常生活を心がける。
⑤つとめて多くの余暇を持つ。
⑥日ごろから趣味や運動をたいせつにする。
⑦家族とのコミュニケーションを大事にする。
⑧地域社会に密着した生活を目ざす。
⑨ボランティア活動に生きがいを見いだす。
⑩人間ドックなど、定期的に健康診断を受ける。
錆びつき症候群
バブルが崩壊したあとに特に急増している。
バブル崩壊前は、仕事にのめり込んで心身ともに疲れきり、うつ病にかかってしまう「燃えつき症候群」が多くみられました。ところが、バブル崩壊後の平成不況下では、それとはまったく対照的な「錆びつき症候群」にかかる人が急増しています。
錆びつき症候群とは、高い能力を持ちながら責任のある仕事を与えられないために実力を発揮することができず、いつしかやる気を失って、軽症うつ病にかかってしまうものです。
Yさん(35才)は名門私立の中・高校を経て東大へ進学。卒業後は都市銀行に入社し、バリバリ仕事をこなす一方、社内の留学制度を活用してアメリカのビジネススクールに留学するほど、将来を嘱望されていました。
帰国後、Yさんは留学で学んだことや培った人脈を仕事に生かそうと張り切っていました。ところが、そんなYさんに金融不況が直面します。会社はリストラや部署の統合か余儀なくされ、新規事業も先送りとなりました。Yさんも人事異動で今までの経験が生かせる職場とはいいがたい部署に移り、いわば誰にでもできる仕事をやらされることに。これまで確実にエリートの階段を上ってきたYさんにとっては耐えがたいことでした。
与えられた仕事をこなすだけの毎日。初めは焦燥感にかられていたYさんでしたが、しだいに虚脱感に見舞われ、すっかり仕事への熱意を失ってしまい
ました。ある日、廊下ですれ違った元上司がYさんの生気のない表情に驚き、専門病院でカウンセリングを受けるようにすすめたのです。
会社以外の場所で、自己をみがくように心がける。
「錆びつき症候群」で大きな問題なのは、30〜40代の若い世代に忠者がふえてきていることです。本来、この年代はビジネスマンとして能力を開花させ、
伸ばしていく時期です。そんな時期にやる気を失い、能力を錆びつかせてしまっては、本人のみならず、会社ひいては日本社会全体の損失といっても過言ではありません。
では、そんな錆びつき症候群を防ぐには、どうしたらいいのでしょうか。
自己の能力を錆びつかせないためには、やはり自分自身をみがくしかありません。もし現在の職場でやりがいのある仕事に挑戦する機会が得られないなら、それ以外の場所で自己研鑽を積むことをおすすめします。方法はいろいろあるはずです。中小企業診断士や社会保険労務士といった資格に挑戦してみる、英語や中国語などの語学の勉強をする、ボランティア活動で視野を広げてみる……。とにかく前向きに何かにとり組むことが、この病気を防ぐことにつながるのです。また、資格取得などの目標を持つことで、やる気をとり戻せれば、会社の仕事にも新しい魅力を発見できるかもしれません。
錆びつき症候群になる人は、もともとは能力の高い人たちです。新たな目標が見つかれば、自然と立ち直っていけるはずです。会社での仕事に恵まれない時期こそ、逆に自分をみがく絶好のチャンスだと考えるぐらいの気持ちの余裕を持ちたいものです。
●錆びつき症候群の自己チェック
次のうち、当てはまる項目に○をつけてください。
①得意な専門分野を持っており、将来を嘱望されている。
②目分でも優秀で仕事がよくできるほうだと思う。
③35〜45才という働き盛りである。
④目前の仕事を自分ひとりでやろうとするほうだ。
⑤今の自分には実力を発揮できる場所がないと思う。
⑥周囲から+分な評価を受けていないと思う。
⑦仕事上の失敗で自尊心を傷つけられたことがある。
⑧向上しようという意欲がわかない。
⑨最近、やる気を喪失している。
⑩これ以上、がんばっても無意味だと思う。
《判定法》○の数が
1〜3個……正常範囲
4〜7個……錆びつき予備軍
8〜10個……錆びつき症候群
帰宅拒否症
どこにも居場所のないお父さんたち。
かつて高度経済成長時代には、多くの会社人間が仕事ばかりに夢中になり、家族を犠牲にして企業戦士として働きつづけました。その結果として、家庭に自分の居場所を失い、家に帰りたくても帰れないお父さんたちがふえていきました。そのような病的状況を「帰宅恐怖症候群」といいます。
それでも、当時は家庭で粗大ごみ扱いをされても、会社に行けば彼らにとって。趣味ともいえる仕事がいくらでもあって、それなりの生きがいを感じることができました。
ところが、バブル経済が崩壊して以来、時代は‐.変しましたこ平成不況が長引くにつれて仕事もなくなり、リストラや失業を前にして、お父さんたちは心の余裕を失ってきています。そうなると家に帰ることが恐怖どころではなくなり、出社拒否症とも対比できるような「帰宅拒否症」という、より深刻な状態が生まれてきたのです。
商社に動めるIさん(48才)はがつてはエリート社員として将来を嘱望されていました。ところが、不況のために、これまで順調だった会社の業績は
どんどん悪化していきます。業務縮小やポストの削減など、経営の合理化が進められるようになり、おかげでIさんも思うようには昇進できそうになくなりました。給料も頭打ちのうえ、あまり重要ではない部署に異動をさせられ、いつか自分もリストラの対象になるかもしれないという不安をかかえながら毎日を送っていたのです。
しかし、奥さんのほうはそうした弘情をまったく理解せず、夫が出世しないのは能力のせいだと考えて、Iさんに向かって愚痴をこぼしたり、イヤミを言ったりします。
Iさんにしてみれば、会社の仕事にやりがいが持てず、家にいても針のむしろに座っているようでいたたまれません。どこにも心の安らぐ場所がなく
なってしまったIさんは、精神的に追いつめられていきました。
あるとき、Iさんが家に3日間も帰らない日がつづきました。さすがに心配した奥さんは会社まで出かけて、勤務中のIさんを呼び出しました。そして「どういうこと?」と夫を問いつめたところ、毎日カプセルホテルに泊まっていたことがわかったのです。
ナイトホスピタルはお父さんの駆け込み寺
家に帰りたくない……。そんなIさんのようなお父さんがふえています。
こうした「帰宅拒否症」の人たちのために、私のクリニックでは「ナイトホスピタル」という制度を設けています。
一度、この心の病にかかると完治には非常に時間がかかります。しかし、彼らは家に帰れないだけで、社会生活をまったく営めないわけではありません。症状によっては社会と接触を持っていたほうがよい場合もありますし、また家庭に帰るとせっかくよくなった症状が悪化するケースもあります。
そんな人たちのいわば駆け込み寺的役割を果たすのがナイトホスピタルなのです。
彼らは治療か受けながら、毎朝ここから会社に出動し、夕方になるとまたここに戻ってきます。家に帰ることができない彼らも、ここでは実にリラックスしているようにみえます。
Iさんにもナイトホスピタルに入ってもらい、治療をつづけました,しかし、Iさんの心が落ち着きをとり戻しても、奥さんの態度が変わらなければ、またここに戻ってきてしまうでしょう。そこで、奥さんを言めたカウンセリングをあわせて行い、やがて I さんは家に帰ることができました。
Iさんの例はけっして特殊ではありません。下の「帰宅拒否症・自己診断テスト」でご自分をチェックしてみましょう。あなたも帰宅拒否症の予備軍かもしれません。
「帰宅拒否症」は日本特有のもの
「帰宅拒否症」はわが国特有のものとされています。というのも、その背景には、図のような日本独特の社会構造があるからです。
日本ではこれまで、父親(夫)にとっての共同生活体は職場およびその周辺の隣人社会でした。わかりやすくいうと、生活の中心は職場であり、人間関係もすべて仕事にからんだもの。家庭はいわば寝に帰るだけの場でした。これに対して欧米では、父親の生活の中心は家庭であり、人間関係も地域コミュニティーに根ざしたもの。職場は働いて生活の糧を得るための場と考えられています。
帰宅拒否症という奇妙な社会病理現象をなくしていくためには、価値観の転換をはかり、日本型から欧米型へ移行していくことが必要でしょう。
帰宅拒否症・自己診断テスト
当てはまる項目に○をつけてください。
1. 仕事のみが生きがいである。
職場
2. 仕事がうまくいっていない。
3. 出世が止まって、給料が上がらない。
4. 生真面目で要領が悪い。
5. 小心なため、もめごとがきらいである。
性格
6. 特定のことに恐怖心を持ちやすい。
7. これといった趣味もなく、スポーツもしない。
8. 妻が出世や収入にうるさい。
9. 妻は出勤時に見送らない。
10.妻や家族との会話に乏しい。
11.妻が健康管理にうるさい。
家庭
12.子どもに受験生がいる。
13.子どもに勉強を教えるようにしいられる。
14.子どもにバカにされている。
15.家庭での居場所がなく、気が休まらない。
16.家庭の中で無視されている。
17.社宅住まいである。
18.なにかと近所と比較されている。
生活習慣
19.いつも小づかいに困っている。
20.給料は振り込み制で、妻が実権を握っている。
判定法 20項目中10項目以上当てはまる場合は要注意。
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