うつ病の治し方・治療薬
医療機関の選び方
うつ病が疑われるときは何科を受診すればよいのか。
うつ病の疑いがあるとき、あるいはうつ病の治療を受けたいときにはどんな医療機関を選べばよいのでしょうか。
精神科関係の診療科の中には、さまざまな名称を名乗っているものがあるので、選択に迷ってしまう人も多いようです。ここで、いま一度整理しておきましょう。
●精神科
精神の病気、つまり心の病を専門とする科です。精神医学の立場から診断・治療を行います。
うつ病を専門的に治療するのも、この精神科です。
●神経科、精神神経科、神経精神科これらの科目を標榜しているところもすべて精神科です。精神科と標榜すると患者さんが受診しにくいとの配慮もあって、これらの名称を名乗っていますが、診療内容は精神科と同じです。もちろん、うつ病の治療も専門としています。
●心療内科
心と休を一つのものとしてとらえ、身体と精神の両面から診断・治療していこうとする「心身医学」の考え方に立った診療科です。言いかえると、心の問題で起こる身体の病気(心身症)を治療している内科です。
あくまでも内科で、精神科ではありませんので、重症のうつ病、躁うつ病、統合失調症など、いわゆる精神病は扱いません。うつ病の診察や治療も行いますが、症状が軽い場合に眼られ、症状が重くなると精神科を紹介することが多くなります。仮面うつ病のように精神症状が目立たず、身体症状のほうが強く出ている場合には、心療内科を訪ねるのもよいでしょう。
病院の規模や種類によってどんな違いがあるか。
大学病院や総合病院の精神科、単科の精神病院、個人医による精神科の医院や診療所(クリニックと称しているところも多い)など、ひと口に精神科といってもいろいろあります。これらに違いはあるのでしょうか。大学病院や総合病院の精神科は、内科や婦人科、外科など他の診療科と連携して治療にあたることができ、検査設備なども充実しているという利点があります。反面、診療時間が午前中のみのところが多く、外来患者の数も多いので、じっくり時間をとって患者さんの話を聞いてあげられないおそれもあります。
また、うつ病を治療するには、医師と患者の間に信頼関係があることがたいせつですから、ひとりの主治医に一貫して経過をみてもらうのが理想です。
大学病院や総合病院は医師の異動が比較的頻繁なので、治療が長期にわたる場合、たびたび担当医がかわってしまうということにもなりかねません。
一方、精神科の医院や診療所は、開設者が大学や総合病院などで経験を積んだ医師であることが多く、長期にわたって親身に診療してもらえるというメリットがあります。診療時間帯にも幅があり、仕事をつづけながら通院する場合などに便利です。午後や夕方や土曜日、ときには日曜日にも診察を受け付けてくれるクリニックも少なくないようです。単科の精神病院については、外来の場合は各病院間にそれほど違いはないのですが、入院が必要な場合は、うつ病の治療の専門病棟を設けている病院を選ぶことが重要となります。
うつ病の患者にとってよい医師とは。
よい医師の条件としてまずあげられるのは、当然ながら、病気に対して専門的な知識と技術を豊富に持っていることです。医学の世界は日進月歩で、なかでも精神医学の進歩は目ざましいものがあります。常に勉強を怠らず、最新の情報を知ったうえで治療を進めてくれる医師を選びたいものです。
また、人格が円満で患者の話をよく聞き、本人や家族の質問に対してうるさがらずに答えてくれるという点も重要です。さらに「インフオームド・コンセント」についての気配りもあって、病気の種類、病状、治療方針、治療法などをていねいに説明してくれる医師なら、なお安心でしょう。
そうした医師の技量や資質などに加え、うつ病の治療で大きなポイントとなるのが、医師と患者との「相性」です。どんな病気でも多かれ少なかれそ
うですが、特に「うつ病」の場合は医師と患者との関係は治療効果を左右するほど重要な要素となります。相性とは、ひと言でいうと、医師の人間性への共感のようなものです。どんなに世間で名医といわれている医師でも、患者さんが「イヤな先生だな」と思ってそっぽを向けば、治療は遅々として進みません。「この先生なら、なんでも相談できる」という信頼関係ができ、遠慮や疑心が解けたときに初めて治療効果があがります。
どのようにして病院をさがせばよいか。
ここまで繰り返し述べたように、うつ病は体の不調から始まることが少なくありません。ですから、最初はうつ病とは気づかずに、内科などの一般診療科を訪れることが多いものです。それがかかりつけの医師(ホームドクター)であれば、身体症状のかげに隠れたうつ病を発見してくれる可能性は高いといえます。患者の生活背景やうつ病になる以前の状態、つまりふだんの状態をよく知っているからです。
「うつ病の疑いあり」ということになれば、そのかかりつけの医師に精神科や心療内科の医師を紹介してもらいましょう。このとき、必ず紹介状を書いてもらい、今までの経過がわかるようにして新しい医師を受診します。そのほうが重複した問診や検査をしなくてすむので効率的です。
また、最近では企業でも、内科を主とする産業医やメンタルヘルスの専門医、カウンセラーなどを置くところがふえてきています。勤めている人の場合は、そうした専門家に相談してみるのもよいでしょう。そこから、さらに外部の医療機関を紹介してもらうことも可能です。
初めて精神科や心療内科をさがすときは、このように医師同士の連携によって紹介してもらうのが、最も安心で確実な方法といえます。
そうした心あたりがまったくない場合には、最寄りの市町村保健センター、保健所、精神保健福祉センターといった公的機関に相談してみましょう。そこでは、カウンセラー、保健師、医師らによるアドバイスが受けられるほか、医療機関に関する情報も得ることができます。
いわゆる「名医ガイド」のような本も数多く出版されていますので、それらを参考にするのも一つの方法ですし、
最近では、インターネットを利用して、医療機関に関する情報を人手することも可能です。
●神経内科、脳外科
うつ病を脳の器質的な病気と誤解して、神経内科や脳外科を受診する人がよくいますが、それは間違いです。
神経内科は、筋萎縮性側索硬化症やパーキンソン病のような神経性の難病をはじめ、脳や脊髄、神経の障害を内科的に治療する診療科です。脳外科は、脳の外傷や脳腫瘍、脳の血管障害などの外科的な治療を必要とするような脳の病気を専門に扱う診療科です。
いずれも、うつ病の診療は行いません。もし診察をしてくれたとしても、精神科を紹介するのがふつうです。
●子どものうつ病
子どものうつ病の場合は「児童精神科」を受診するのが望ましいでしょう。
幼児や児童のうつ病の治療は、子ども自身が症状を十分に説明できないことなどから、たいへんな労力と技術を要します。子どもの成長を助けるための
プログラムが必要となったり、いじめの問題がかかわってくるなど、大人とは異なる点が多いため、一般の精神科医では対応しきれない面があります。
児童精神科は厚生労働省が正式に認めた名称ではないので、病院の看板には書かれていないことも多いのですが、実質的に児童精神科を独立させて診療にあたっている病院はあります。また、一般の精神科でも、児童の精神医療に力を入れて、子どもの治療を専門的に行っている病院もあります。
地域の保健所、児童相談所、教育相談所、幼稚園や小学校の校医、かかりつけの小児科医らに相談して、そのような医療機関を紹介してもらうのがよいでしょう。
うつ病の治療の進め方
うつ病の診察・診断はどのように行われるか。
精神科の病院やクリニックを訪れると、まず最初にかなり時間をかけた問診が行われるのがふつうです。これを予診(インテーク)といいます。
医師の診察の前に行う予備面接のようなもので、心理カウンセラー(臨床心理士)、精神科ソーシャルワーカー、研修医らが担当することが多いようです。担当者は患者に対して、自覚症状、ストレスの原因、性格や病歴、家族のことなどをくわしく質問し、その結果を医師に報告します。
予診が終わると、精神科医による診察が行われます。あらためて医師による問診が行われ、患者は悩んでいる症状について説明したり、医師の質問に答えたりします。
そうした話し合いを通して得た情報や観察結果(患者の精神状態、身体症状、日内変動、性格や生活状況、既往歴や家族の病歴など)を総合判断して、医師は診断を下すことになります。そして、うつ病と診断されれば、今後の治療方針や具体的な治療法について説明がされます。必要であれば薬が処方されて、その飲み方や作用、副作用などについても説明があることでしょう。
使用する薬や治療の方針が決まるまでの初期の診察は、毎回やや時間をかけた話し合いが持たれるのがふつうです。その後、治療が軌道に乗るにしたがって、診察に要する時間は短くなり、通常5〜10分程度となります。
必要に応じて、心理カウンセラーによるカウンセリングが行われることもあります。病状にもよりますが、時間は1回につき30〜90分程度です。
「休養」「薬物療法」「精神療法」がうつ病の治療の3本柱。
うつ病の治療法として第一にあげられるのは「休養」です。それも中途半端に休む程度のものではなく、仕事や学業、家事などから離れた徹底的な休養が必要となりますごうつ病治療の基本はとにかくのんびりと体んで、心身の疲れをとることにつきるのです。その際、うつ病は必ず治る病気であることを医師は患者によく説明して、休むことを納得してもらう必要があります。
具体的な休養のとり方や期間は、うつ病の種類や症状の程度によって違ってきますが、ごく軽症のうつ病であれば、抗うつ薬を飲みながら、ほぼふつうに仕事をつづけることも可能です。
しかし、うつ病になるような人は元来が生真面目で責任感が強い性格のため、いったん仕事をやり始めると手を抜くことができません。ついついがんばりすぎて、かえって病気をこじらせてしまいがちです。そこで、しばらく仕事を休んで、治療に専念するようにすすめられるケースが多いようです。休職するときには、医師の診断書をつけて勤務先に届けを出します。
うつ病の治療法として、第ニにあげられるのが「薬物療法」です。
うつ病の発症には、脳内の神経伝達物質の機能障害が関係していると考えられています。そうした生理的に病的な状態を改善するために薬物療法が必要なのです。抗うつ薬には脳内の神経伝達物質の働きを回復する効果があり、うつ病の治療に不可欠であることを知っておいていただきたいと思います。第三にあげられるのは「精神療法」です。精神療法のやり方にはいくつかありますが、うつ病の場合には、外来・入院を問わず支持的精神療法(支持療法)が中心になります、この療法は、とかく弱気になっている患者の心理状態をくみとったり、それを支持することによって精神的に立ち直らせ、回復させる方法です。そのためには、患者のかかえている悩みをよく聞き、訴えを理解してあげる必要があります。
入院が必要なのはどのような場合か。
精神科の治療には、通院治療と入院治療があります。
通院治療の利点は、患者が日常の生活を維持しながら治療を受けられることでしょううつ病の多くは通院で治療が可能です。定期的に通院して、抗うつ薬をきちんと飲み、休養を十分にとっていれば、たいていは回復します。
入院が必要なのは、あきらかに重症の場合や自殺の危険性が高いケースなどです。栄養而も含めて、身体の衰弱が激しいときも入院の対象となります。
また、軽症であっても、その環境から引き離さないと患者が十分に休養できないような場合には入院をすすめることがあります。たとえば、幼い子どもをかかえた主婦の場合には、家にいると、子どもの世話に追われて十分に休養がとれません。自営業の場合も、自宅で療養していたのでは、どうしても仕事が気になって、ゆっくり休めないことでしょう。そんなときは、思いきって入院することで十分に休養がとれるようになり、治療に専念することができるのです。
医師の側から見ても、毎日の症状の変化をくわしく知ることができ、患者との精神的交流がばかりやすく、薬の調節などもしやすいという利点が入院治療にはあります。
●カウンセリング
カウンセリングとは、心の悩みを持つ人と専門的訓練を受けたカウンセラーとがもっぱら言葉を介してやりとりをすることによって、悩みの解消をはかることをいいます。
カウンセリングの基本は、忠告したりすることではなく、あくまで本人が自力で解決策を見いだして立ち直ることにあります。カウンセラーはそれを援助する立場にいるといえるでしょう。
近年は、精神医療の分野でもカウンセリングは重要な役割を担うようになり、心理カウンセラー(臨床心理士)を常置している精神科の病院やクリニックもふえてきました。うつ病の患者さんにも、自分の悩みをじっくり聞いてほしいとの理由から、カウンセラーによるカウンセリングを希望する人は多いようです。
うつ病の患者さんに対して、カウンセラーは治療や教育をしようという姿勢ではなく、相手の苦悩にそのまま応じながら、現在の本人の気持ちやおかれている状況を聞き出すようにします。
また、うつ病の場合は、周囲との関係が非常に重要です。したがって、本人だけでなく、両親や友人、上司や同僚などから話を聞く必要も出てきます。
そうして得られたさまざまな情報はカウンセラーから主治医に伝えられて、その後の治療に十分に生かされます。
もし通院している病院にカウンセラーがいない場合は、個人で開設しているカウンセラーもいますので、きちんとした資格を持った信頼できる専門家を主治医に紹介してもらうようにしましょう。
●診療にはできるだけ家族も同席をうつ病は、家族や周囲の人が「最近、様子がおかしい」と気づいて発見されることが多いものです。つまり、うつ病によって起こる外見的な症状や生活上の変化は、本人よりもむしろ客観的にみている家族のほうがよくわかっているケースが多いのです。こうした患者の家族から得られる情報は、病気を診断し、治療していくうえで非常に重要となります。
また、うつ病の治療には家族の理解と協力が不可欠です。特に自宅療養の場合には、患者が十分に休養ができる環境をととのえていただくなど、家族の協力が治療効果をあげる重要なポイントとなります。逆に家族がうつ病という病気を十分に理解していないと、不用意な言葉や態度でかえって患者を追いつめてしまうこともあります。
こうしたことから、診療の際には、できるだけ家族のかたも付き添っていただくことをおすすめします。
●うつ病専門病棟
日本では、うつ病専門の病院やクリニックは今のところないようですが、うつ病専門の病棟は全国各地の精神科の病院に併設されるようになってきています。そのような専門病棟がどこにあるかわからないときは、入院が必要といわれた病院やクリニックで紹介してもらうとよいでしょう。
うつ病の薬物療法
効果があらわれるのに早くても1週間はかかる。
うつ病の治療に用いられる薬を「抗うつ薬」といいます。
うつ病の発症の基盤には、脳内のメカニズムの障害という「生物学的な原因」があることがわかっています。脳内の神経伝達物質であるアミン(ノルアドレナリン、セロトニンなど)の働きが低下したために、神経細胞間の情報伝達が阻害されて、うつ病が起きるのではないかと考えられているのです。
抗うつ薬は、種類によってこまかな作用機序(働きの仕組み)は異なりますが、基本的にはこうしたノルアドレナリン、セロトニンなどの神経伝達物質の働きを増強して、神経細胞間の情報伝達を促進することで、うつ病の改善をはかるものです。
具体的には、①意欲亢進(思考、行動面の抑制をとり除いて意欲を亢進させる)、②気分高揚(抑うつ気分を解消して気分を高揚させる)、③不安解消(不安や緊張、焦燥感などをとり除く)という主に3つの効果があります。
この3つの効果のあらわれ方は、抗うつ薬の種類によって、それぞれ強弱があります。また、ひと口にうつ病といっても、人によって症状の出方はさまざまです。たとえば、ゆううつ感が特に強い場合もあれば、不安・焦燥感が目立つ場合もあります。そこで、実際の治療にあたってば、それぞれの患者さんの症状に合わせて、用いる薬を選ぶことになります。
薬の種類にもよりますが、抗うつ薬は服用し始めてから効果が感じられるまでに早くても1週間ぐらいはかかり、十分な効果があらわれるまでには4週間ほどかかります。最初は身体症状が軽くなり、次に抑うつ気分がしだいに消えて、そのあとに意欲が出てくることが多いようです。
うつ病は、軽症の場合は短期間で軽快することもありますが、多くの場合はすっかりよくなるのに半年ぐらいはかかります。抗うつ薬も徐々に量をへらしながら、4〜6ヵ月間は服用しつづけるのがふつうで、ときには1年、2年以上と服用しつづけることもあります。八分どおりよくなったから、あるいは副作用が気になるからといって、自己判断で早い時期に服用を中止すると、症状が逆もどりしてしまうので、医師の指示どおりにきちんと飲みつづけることがたいせつです。
よく用いられるのは三環系、四環系の抗うつ薬。
現在、日本で主に使用されている抗うつ薬は、その化学構造によって、
①「三環系抗うつ薬」
②「四環系抗うつ薬」
③その他
に分類されています。この中で以前から使われ、今でもよく用いられているのが.三環系抗うつ薬です。三環系という名称は化学構造に3つのベンゼン環(亀甲形で表記される)を持っていることからきています
1957年にイミプラミンの抗うつ効果が確認されて以来、アミトリプチリン、トリミプラミン、クロミプラミンなど、数多くの三環系抗うつ薬が開発され、うつ病の治療に用いられてき
ました。トフラニール、トリプタノール、スルモンチール、アナフラニールなどといった商品名の薬は、いずれもこの三環系抗うつ薬です。
これらのイミプラミンをはじめとする、1950年代から1970年代に開発された三環系抗うつ薬は「第一世代抗うつ薬」または「古典的抗うつ薬」と呼ばれています。
第一世代抗うつ薬は、うつ病の薬物療法の中心的役割を担ってきましたが、抗コリン作用による副作用があらわれやすく、抗うつ効果があらわれるのに時間がかかる(10日〜2週間)というデメリットがありました。ことに、副作用のほうが抗うつ効果よりも早くあらわれた場合には、患者が勝手に服用を中止してしまいがちであるという問題点も指摘されていました。
そのため、1980年代以降になると、三環系抗うつ薬ではあっても副作用の少ないものや、4つのベンゼン環を持っている四環系抗うつ薬が開発されるようになりました。これらの抗うつ薬を「第二世代抗うつ薬」と呼んでいます。
第一直代抗うつ薬にあたる三環系抗うつ薬には、アモキサピン、ロフェプラミン、ドスレピンなどが、四環系抗うつ薬には、マプロチリン、ミアンセリン、セチプチリンなどがあります。
第二世代抗うつ薬の特徴は、第一世代抗うつ薬にくらべて抗うつ効果があらわれるのが早く、副作用も少ないという点です。しかも、四環系抗うつ薬には1日1回の服用ですむものもあって、その利便性も大きなメリットです。
こうした長所を持つことから、近年では、うつ病の薬物療法において第二世代抗うつ薬が頻繁に使われるようになってきました。ただ、抗うつ効果自体は、第一世代抗うつ薬のそれを上回るものではなく、かえって効果が弱いという印象を持っている医師も少なくないようです。
三環系、四環系以外のさまざまな抗うつ薬。
三環系抗うつ薬、四環系抗うつ薬以外の抗うつ薬としては、モノアミン酸化酵素(MAO)阻害薬、スルピリドや炭酸リチウムなどがあげられます。
モノアミン酸化酵素(MAO)阻害薬は、他の抗うつ薬にくらべて、意欲亢進作用が著しく高いのが特徴です。
また、抗うつ作用とともに、強迫観念にもとづく不安や抑うつ症状、強迫神経症にも効果があります。
しかし、肝障害をはじめとする副作用が起こりやすく、服用時の食物摂取に制限があるなど使用上の制約が多いために、現在、日本では発売中止となっています。
一方、欧米では、第三回代の抗うつ薬として、副作用の少ない新しいタイプのモノアミン酸化酵素阻害薬である「RIMA」(選択的可逆的MAO-A阻害薬)が開発され、すでに臨床で広く使用されています。その中の一つであるモクロベマイドは、現在、わが国でも開発・治験が進行中で、早期の発売が期待されるところです。スルピリドは、三環系、四環系といった一般的な抗うつ薬とはまったく異なる化学構造を持つ個性的な薬剤です。もともとは食欲促進薬や潰瘍治療薬として使用されていましたが、抗うつ作用があることがわかり、うつ病のほか、神経症、統合失調症の治療にも用いられています。三環系、四環系抗うつ薬にくらべると、抗うつ作用は劣
りますが、抗コリン作用による副作用が少なく、即効性があるのが特徴です。
炭酸リチウムは、踊状態・うつ状態の両方を正常化する作用のある薬です。
双極性うつ病(躁うつ病)に特に有効ですが、単極性うつ病にも効果を示します。また、炭酸リチウムには予防効果があり、ごく少量の炭酸リチウムを長期にわたって服用する維持療法が、うつ病の再発防止に有効であることが
わかっています。
話題の新しい抗うつ薬「SSRI」。
最近、新しい抗うつ薬として注目を集めているのが「SSRI(選択的セロトニン再とり込み阻害薬」です。
SSRIとは単一の薬剤名ではなく、同じような作用を特つ薬剤のグループ名です。
欧米では1980年代から1990年代にかけて、フルオキセチン、サルトラリン、パロキセチン、フルボキサミン、シタロプラムという5つの薬剤が相次いで開発され、SSRIはまたたく間に抗うつ薬の主役に躍り出ました。特にアメリカでは、1988年に発売されたフルオキセチン(商品名プロザック)がうつ病の特効薬と喧伝され、一種のブームのような状態となったこともあります。
日本ではSSRIの認可が遅れていたのですが、フルボキサミンが1999年に承認され、デプロメール、ルボックスの商品名で発売されました。
抗うつ薬の作用機序については、脳内の神経伝達物質のうち、ノルアドレナリンの働きをより強めるか、セロトニンの働きをより強めるかで考えられています。SSRIはセロトニンの働きを増強する作用のみを持っています。
SSRIの抗うつ効果は三環系抗うつ薬とほぼ同等で、しかも効果があらわれるのが早いのが特徴です。抗コリン系の副作用が弱くて少ないこともわかっており、心臓や直圧など循環器系への影響が少ないため、高齢者や身体疾患の合併者でも安心して使えるというメリットもあります。
今後、日本でも、うつ病の治療にSSRIが使用されるケースがふえていくことが予想されます。
●うつ病に用いられる
抗うつ薬以外の薬
うつ病の薬物療法では、抗うつ薬以外の薬を併用することがしばしばあります。うつ病になると、不安やイライラ感、さらには不眠を伴うことが多いので、抗不安薬や睡眠薬が症状に応じて併用されます。
患者さんに不安やイライラ感などがみられる場合に抗不安薬を併用すると、2〜3日で不安がとれて、気持ちが落ち着いてきます。
不眠がみられる場合には、軽い催眠作用を持つ抗うつ薬が用いられるほか、ベンゾジアゼピン系の薬剤が比較的安全な睡眠薬として処方されることが多いようです。
●抗コリン作用とは
人体のリズムは自律神経の働きによって、無意識のうちにコントロールされています。自律神経には、交感神経、副交感神経の二つがあり、お互いにバランスをとり合って働いています。このうちの副交感神経を刺激するアセチルコリンという物質の働きに桔抗して、副交感神経の働きを抑える作用のことを「抗コリン作用」といいます。
抗うつ薬、特に第一世代の抗うつ薬は抗コリン作用があらわれやすく、副交感神経の働きが抑えられるために、口の渇き、便秘、発汗、排尿困難、目のかすみ、鼻づまりなどの副作用がしばしばみられます。
●抗うつ薬の点滴療法
いろいろな治療をしたのにもかかわらず、いっこうによくならない難治性のうつ病には、抗うつ薬の点滴療法を行うこともあります。即効性があり、副作用も少ないといわれています。
「SNRI」について
SSRIと同じく第三世代の抗うつ薬で、さらに新しい抗うつ薬の1群が「SNRI」(セロトニン・ノルアドレ
ナリン再とり込み阻害薬)です。セロトニンだけでなく、ノルアドレナリンにも働きかけるところがSSRIとは異なっており、一般的にはSSRIより抗うつ効果が高いといわれています。副作用が少なくて安全性が高いことでも注目されており、わが国では2000年にミルナシブランが認可されました。
抗鬱(抗うつ)薬の副作用は?
副作用の症状の多くは一過性で、徐々に軽減する。
薬の種類にもよりますが、抗うつ薬には大なり小なり副作用があります。
第一世代の三環系抗うつ薬では、口の渇き、便秘、かすみ目、眠気、吐き気、手指のふるえなど、多様な副作用があらわれます。これらは、主として抗うつ薬の持つ抗コリン作用によって起こるものです。
また、過剰に投与した場合は循環器の機能に影響を与えて、動悸や頻脈、起立性低血圧などを引き起こしやすいことも知られています。そのため、心臓病を併発している人や高齢者が使用するときは注意が必要とされます。
なかでも、最も頻繁にみられる副作用は目の渇きです。本人にとっては不愉快な症状ですが、薬の量を減らさなければならないほど重くなることはありません。ガムをかんだり、あめ玉をなめたり、水分をこまめに補給することで症状を軽減することができます。
便秘がひどいときには、便秘治療薬を併用するとよいでしょう。
いずれにしても、これらの副作用の多くは一過性のものです。投与後すぐに起こり、初期に症状が強く、7〜10日間ぐらいのうちに徐々に軽快することが多いようです。
第二世代の三(四)環系抗うつ薬では、第一肌代にくらべて、抗コリン系の副作用や昭司器への影響は軽減されています。しかし、副作用がまったくないというわけではありません。その頻度や重症度は低いものの、三環系抗うつ薬の化学構造を持つ薬剤では、第一世代杭うつ薬と同様のパターンの副作用がみられます。また、四環系抗うつ薬では、頻度は少ないのですが、発疹、痙攣などの副作用があらわれることがあります。
第三回代の抗うつ薬である「SSRI」は副作用が非常に軽くて少ないことで注目を集めています。確かに抗コリン系の副作用や循環器への影響はほとんどありませんが、一過性の消化器系障害(吐き気、食欲低下、下痢など)や不眠、手指のふるえなどがみられることがわかっています。
勝手に薬の服用をやめたり量を減らしたりしない。
抗うつ薬の副作用で問題となるのは、ほとんどの場合、それが主作用である抗うつ効果よりも早くあらわれることです。しかも、この副作用の症状には、うつ病本来の身体症状とよく似たものが多いため、患者さんは薬のせいで症状が悪化したと勘違いして、服用をやめてしまうことがあるのです。
抗うつ薬を不用意に中断すると、効果があらわれないばかりか、かえってうつ病が悪化して、結果的に治療が長引いてしまうこともあります。医師に相談せずに勝手に服用をやめると、効果があらわれないのはその薬が患者に合わなかったからだと医師は判断しますから、重大な治療万針の間違いも引き起こしかねません。
副作川などの不調を感じたら、自己判断で薬の服用をやめたり、量を減らしたりせずに必ず王治医に相談するようにしてください。副作用をやわらげる薬や方法もありますし、状況によっては医師の判断で薬の量を加減したり、種類をかえることも可能です。
抗うつ薬の主な副作用
しばしばみられるもの:●口渇 ●便秘 ●かすみ目 ●眠気(鎮静) ●めまい ●起立性低血圧(立ちくらみ)●発汗 ●頻脈
ときどみみられるもの:●排尿困難 ●吐き気 ●食欲低下 ●手指のふるえ ●体重増加
まれにみられるもの:●発疹 ●痙攣発作 ●錯乱、せん妄 ●不整脈 ●パーキンソン症状 ●黄疸(肝障害)●血液障害
●他剤との併用にも注意
抗うつ薬以外の薬を併用していると、薬同士の相互作用で思いがけない副作用が出る場合があります。ふだん服用している薬がある場合は、あらかじめ必ず主治医に知らせておきましょう。
●勝手に服用量をふやすのも厳禁
効果があまり感じられないといって勝手に抗うつ薬の服用量をぶやしたり、1日に何度も服用するのがめんどうだからといって、まとめて飲んだりする
のはやめてください。もし薬を1回飲み忘れた場合には、次の回から規則正しく服用するようにします。2回分服用する必要はありません。
抗うつ薬以外の薬剤
「うつ」の薬物療法には、抗うつ薬以外の薬を併用することがしばしばあり
ます。2つほど例をあげてみます。
たとえば、マイルドな「うつ」では、身体症状として不眠が多発するので、軽い催眠作田をもつ抗うつ薬が用いられるほか、ベンゾジアゼピン系の睡眠導入剤が比較的安全な睡眠薬としてよく用いられます。また、不安を主として訴える「うつ」には、抗うつ薬の不安抑制効果だけでなく、抗不安薬を併用することによって不安抑制の効果を高めます。
いずれにしても、薬同士の相互作田を考慮して、適切な処方をすることが条件です。
うつ病の精神療法
日々の医師と患者間の対話がすべて精神療法となる。
精神療法とは「治療者と患者の間の精神的な交流を介して、患者の心身の障害を治療する方法]とか「精神の不適応状態を訂正させて、適応を.再獲得させるための方法」というように医学的には定義されています。
このようにいうと非常にむずかしいもののように思われるかもしれませんが、実際には、毎日毎日の医師と患者間の対話のすべてが精神療法であると理解していただいてよいと思います。
患者をとり巻くあらゆる問題について相談にのり、具体的に一つ一つ処理・解決していくプロセス、つまり医師が患者に与えるアドバイスのすべてが精神療法となるのです。
うつ病にはいろいろなタイプがあり、それぞれの型によって治療の方法も異なってきます。それは薬物療法だけでなく、精神療法にもあてはまります。しかし、いずれのタイプでも、うつ病になったときに最もたいせつなのは、心身の安静と休養です。したがって、うつ病の精神療法では、患者さんが心身の安静を得られるように、さまざまな働きかけをしていきます。
うつ病の治療で中心となるのは「一般的精神療法」。
精神療法にはさまざまな種類がありますが、うつ病の治療では「支持的精神療法」(支持療法)を主とする一般的精神療法が中心となります。
支持的精神療法は、とかく弱気になっている患者さんの心理状態をくみとったり、それを支持することによって精神的に立ち直らせ、回復させる方法です。
そのためには、患者さんのかかえている悩みをよく聞き、訴えを理解してあげる必要があります。
支持的精押療法の基本は、患者さんの訴えを「なるほど、よくわかる」というように支持しながら、よく聞いてあげることです。患者さんの言うことに善し悪しの判断を下したり、「あなたは間違っている」などと責めたりはしません。気持ちをできるだけ楽にしてあげるように接して、患者さんの自尊心を高めるように努めていきます。
そして、患者さんが悲観的になったり、孤独に陥ったりしないようにさまざまなアドバイスを行いながら、どうすればつらい症状を解消することができるかを医学的に指導していきます。
一般的精神療法としては、このほかに「表現療法」があります。
これは、患者さんが主として言葉で自分の悩みや不安を表現することによって、内心に抑圧された不満を発散させて、心の負担を軽減していくものです。
言葉で表現できないときは、絵を描いたり、グループで劇を演じたり、遊戯をして自分を表現する方法がとられることもあります。
さまざまな種類がある「特殊精神療法」
特殊精神療法はそれぞれが体系づけられた独自の理論や技法にもとづいて
行われるもので、「認知療法」「洞察療法」「行動療法」「森田療法」などといった治療法がこれにあたります。
特殊精神療法のなかでも、近年、うつ病の治療にしばしば用いられているのが「認知療法」です。
うつ病の患者によくみられる認知のゆがみは、なんでも白黒をつけようとする二分割思考、何か一つのことで世の中すべてこれだと考えてしまう極端な一般化、よい出来事も悪い出来事にすりかえてしまうマイナス化思考、自分の失敗を過大に考えてしまう拡大解釈、何かよくないことがあるとそれぱかりくよくよ考えてしまうこと、「〜すべきである(すべきでない)]という考え方に支配されてしまうことなどです。
認知療法では、患者が持っているこれらのゆがみを医師と患者との共同作業でさがして、それぞれについて検討し、話し合います。
それによって認知のゆがみを修正し、より現実的で適応する物の見方を患者が身につけていくように援助していきます。
「洞察療法」は、不安や恐怖、抑うつ気分などの原因を心の内側(潜在意識)からさがし出そうというものです。患者の内部にある病理性を自分で洞察
させるために、医師と本人とが長い時間をかけて話し合います。有名なフロイトの精神分析療法や、ユングの分析的心理療法などがこれにあたります。
「行動療法」は「訓練療法」とも呼ばれ、実際の体験を通して患者自身の適応力を高めていく治療法です。外出恐怖症や対人恐怖症の場合に、弱い刺激から少しずつ慣れる訓練をしていくのがその一例です。
うつ病で帰宅拒否症に陥っている人に対して、初めは週に1〜2日、次は3〜4日というように、家へ帰れる日数を徐々にふやしていくような訓練をするのもこの行動療法といえるでしょ
「森田療法」は主に神経症に対する治療法として、精神科医の森田正馬氏によって考案された特殊な精神療法です。
うつ病には基禾的に不適とされますが、神経症的な特徴をあわせ持ったうつ病などに用いられることがあります。
この治療法の特徴は、不安や恐怖、悩みを排除しないで、受け比め、つきあうことが助言されるという点です。うつ病の場合も「人間は誰しもそうした要素を持っているんだから、うつ病と仲よくしなさい」というように、うつ病の不快な気分や症状を「あるがままに」受容することがすすめられます。
こうした特殊精神療法は一般に軽症〜中等症の単極性うつ病、神経症的なうつ病などに適しているとされ、重症のうつ病、双極性うつ病、急性期のうつ病などには不適とされています。
いわば「両刃の剣」ともいえ、多くの精神科医が、うつ病のタイプ、病相期(前駆期→極期→回復期→中間期)、症状の特徴、患者の性別・年齢・生活環境などを考慮しながら、使い分けているのが現状といえるでしょう。
●うつ病の病相期
うつ病の経過を観察すると「前駆期」「極期(抑うつ期)」「回復期」「中間期」という4つの時期があります。
このうち、極期(抑うつ期)が最も症状の激しい時期で、薬物療法が行われるのも極期が中心となります。最も精神療法が重要なのは中間期といえますが、そのほかの時期にも医師の判断によって適宜、精神療法が行われます。
前駆期とは、うつ病になりかかった時期のことです。いろいろなことを手がけなければならないとあせりながら、今までふつうにできていたことができなくなって、思い悩んでいる状態といえます。本人はうつ病の前駆期であると自覚していないケースが多いのですが、この時期に治療を開始すれば、早期に回復することも少なくありません。
極期(抑うつ期)は、うつ病を発症している時期のことです。これまで述べたような、うつ病特有の精神症状やさまざまな身体症状があらわれます。
回復期は、文字どおり回復に向かいつつある時期です。うつ病の回復は身体疾患のようにスムーズにはいかないので、精神原鳶によって慎重に社会復帰に導くことが重要となります。
中間期は、うつ病が軽快して社会復帰も遂げている状態です。ただし、放置したままだと再発のおそれもあり、それを予防するうえで重要な時期であることから、うつ病とうつ病の間という意味で中間期と呼んでいるわけです。
この時期では、なぜうつ病になったのかということを本人がよく分析することが重要です。医師との話し合いを通じて、うつ病が発症するきっかけとなった日常生活のパターンや出来事、ストレス源などを突き止め、さらには自分の性格特徴をよく理解して、再発予防に役立てることが大事です。
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