うつ病

うつ病の治療

投稿日:

うつ病の治療

うつ病の診断

これまでの内容から、うつ病になったときにはさまざまな症状が出現することがおわかりいただけたと思います。しかし、実際にはうつ病になってもすでに述べたすべての症状が出そろうとは限りません。それでは、うつ病はどのようにして診断されるのでしょうか。
最近では、「気分が沈むのでうつ病ではないでしょうか」と心配して受診する患者さんも増えてきました。そのなかには、深刻な悩みがあって気分が落ち込んでいますが、うつ病ではない人もたくさんいます。
うつ病と悩みからくる気分の落ち込みは、どのように違うのでしょうか。第1に、うつ病では、悩み以外の領域にも興味や喜びが感じられなくなります。第2に、うつ病では朝から午前中に具合が悪く、午後から夕方にかけて具合がよくなるという日内変動があります。一方、悩みがあり落ち込む場合は、時間に関係なく悩んでいるときに落ち込みます。第3に、うつ病では、夜中や早朝に目が覚めるなど、睡眠をつづけるのが困難ですが、悩みの場合は寝つくのが困難な場合が多いことです。第4に、うつ病では、悩みが解決してもそれだけでは治りません。逆にうつ病が回復すると、悩んでいる
状況に変化はなくても気分が回復することが多いのです。
最近は、専門家はうつ病の診断を国際的な診断基準に照らし合わせて行います。診断基準を用いる理由として、第1に、専門家が同じ患者さんを診察すれば誰でもほぼ同じ結果が出ます。第2に、診断が同じなら治療も同じになります。いろいろな病院にかかったが、治療方針が違って患者さんが戸惑うことが少なくなります。第3に、今の医療は医師が丁人ですべてをカバーできません。看護師や臨床心理士、ソーシャルワーカーなど役割の違う人たちとの連携が必要です。連携する際には同じ考
えを意味するきちんとした共通の専門用語が必要です。診断基準で使われる言葉は、出身の違った専門家同士が使う共通語なのです。よく用いられている診断基準は、アメリカ精神医学会が作成したDSMという診断基準です。この診断基準は、医学の進歩に歩調を合わせて定期的(約十年)に改訂されますが、現在は第四版(DSM-Ⅳ)が使用されています。
DSM‐Ⅳでは、うつ病を診断するときに抑うつ気分と興味・喜びの喪失を重視しています。

うつ病の診断基準(DSM-IV)

●大うつ病エピソードMajor Depressive Episode
A.以下の症状のうち5つ(またはそれ以上)が同じ2週間の間に存在し、病前の機能からの変化を起こしている。これらの症状のうち少なくとも1つは、(1)抑うつ気分または(2)興味または喜びの喪失である。
(注)明らかに、一般身体疾患、または気分に一致しない妄想または幻覚による症状は含まない。
⑴患者自身の言明(例えば、悲しみまたは、空虚感を感じる)か、他者の観察(例えば、涙を流しているように見える)によって示される、ほとんど1日中、ほとんど毎日の抑うつ気分。
(注)小児や青年ではいらいらした気分もありうる。
(2)ほとんど1口中、ほとんど毎日の、すべて、またはほとんどすべての活動における興味、喜びの著しい減退(患者の討明、または他者・の観察によって示される)。
(3)食事療法をしていないのに、著しい体重減少、あるいは休眠増加(例えば、1か月で体重の5%以Lの変化)、またはほとんど毎日の、食欲の減退または増加。
(注)小児の場合、期待される体重増加がみられないことも考慮せよ。
(4)ほとんど毎日の不眠または睡眠過多。
(5)ほとんど毎日の精神運動性の焦燥または制止(他者によって観察可能で、ただ肌に落ち着きがないとか、のろくなったという主観的感覚ではないもの)。
(6)ほとんど毎日の易疲労性、または気力の減退。
(7)ほとんど毎日の無価値観、または過剰であるか不適切な罪貞感(妄想的であることもある)、(単に自分をとがめたり、病気になったことに対する罪の意識ではない)。
(8)思考力や集中力の減退、または、決断困難がほとんど毎日認められる(患改自身の言明による、または、他者によって観察される)。
(9)死についての反復思考(死の恐怖だけではない)、特別な計画はないか反復的な自殺念慮、自殺企図、または自殺するためのはっきりとした計画。
B.症状は混合性エビゾードの基準をみたさない。
C.症状は臨床的に朽しい苦痛または、社会的、職業的、または他の重要な頷誠における機能の障害を引き起こしている。
D.症状は、物質(例:乱川薬物、投薬)の直接的な生理学的作用、または一般身体疾患(例:甲状腺機能低下症)によるものではない。
E.症状は死別反応ではうまく説明されない。すなわち、愛する者を失った後、症状か2か月をこえて続くか、または、著明な機能不全、無価値観への病的なとらわれ、自殺念慮、精神病性の症状、精神運動制止があることで特徴づけられる。
これらのうちのいずれかが認められないとうつ病とは診断できないことになっています。さらに、うつの状態が二週間以上つづかないとうつ病とはよばないことになっています。この期間の問題は専門家の間でも議論が絶えない点です。後になってうつ病と診断された人でも、発症後一週間ではうつ病ではないといわれることになりかねないからです。DSM-Ⅳではうつ病の症状として、①抑うつ気分、②興味・喜びの喪失、③食欲・体重の変動、④睡眠障害、⑥行動抑制または過多、⑥意欲の抑制、⑦無価値感、⑧思考抑制、⑨目殺念慮をあげています。当てはまる項目数や経過によって病名がさらに細かく分類されています。
一方、WHOでもDSMに歩調を合わせて診断基準がつくられました。WHOでは、もともと世界中の死亡統計などを作るためにICDというすべての病気の診断基準をつくっていました。第10版(ICD‐10)を作成するに当たって、精神障害の部分はDSMの考え方を大幅に取り入れています。
ICD-10の診断基準でもうつ病の症状として出てくるものはDSM-Ⅳと大差ありません。ただ、症状や経過により、さらに細かく病型を分類しているのが特徴です。
それでは、参考までに第1章で登場したカズオさんやシノブさんの症状をDSM-Ⅳに照らし合わせてみましょう。
カズオさんは、まず夜眠れず朝起きられなくなりました(睡眠障害)。その後、新聞を読んでも頭に入らず、物忘れがひどくなりました(思考抑制)。仕事をする意欲が落ち(意欲抑制)、気分が沈み(抑うつ気分)、「自分は仕事ができないダメな人間だ」という考えにとりつかれています(無価値観)。
食欲・体重が低下し、ゴロゴロすることが多く(行動抑制)、好きだったことにも興味が湧きません(興味の喪失)。そして、死ぬことまで考えてしまい
ます(希死念慮)。DSM‐Ⅳに照らし合わせると、うつ病の症状九項目がすべてそろっています。カズオさんの状態は「典型的なうつ病」といっても差し
支えないでしょう。
では、シノブさんはどうでしょうか。彼女はまず疲労感が出て食欲・体重が低下し動作が少なくなりました(行動抑制)。次いで病気のことが心配になっ
て(心気症状)、眠れなくなり(睡眠障害)、意欲も低下してきて(意欲抑制)、物忘れもひどくなりました(思考抑制)。自分を責めることが多くなり(無価値感)、以前は楽しかった孫の世話も苦痛となりました(興味の喪失)。シノブさんも抑うつ気分ははっきりしないものの、DSM‐Ⅳの九項日中七項目は確実にそろっています。こちらもL哨派なうつ病といえる状態です。ただ、シノブさんの場合は、「気分の変化」よりも「体調の変化」が目立つことが特徴で
しょう。このようなケースでは、「仮面うつ病」と診断されることがあります。実際には身体症状が目立つ仮面うつ病のようなケースも、心理面の評価をきちんと行えば、うつ病としての特色を十分備えています。このため、専門家のなかには「仮面うつ病などという紛らわしい病名をあえてつける必要はない」という意見をもつ人も大勢います。

うつ病の原因

これまでの話から読者のみなさんは、うつ病が単なる悩みで気分が沈んだ状態とは違うことがおわかりいただけたと思います。
うつ病の症状のなかでも、症状に日内変動(午前中具合が悪く夕方よくなる)があることや睡眠が途切れる(中途覚醒、早朝覚醒など)ことは、この病気が何らかの体の変化によって起こることを疑わせるものです。
実際に、うつ病の原因となる脳内の変化については古くから研究が行われてきました。また、この研究の歴史はうつ病の治療薬開発の歴史でもありました。
最初に発見されたのは、うつ病では脳内のセロトニン、ノルアドレナリン、ドーパミンなどモノアミンと総称される物質が減ることでした。これらの物質は神経伝達物質といって、神経細胞と神経細胞の間で情報を伝達する働きをもちます。これらの神経伝達物質を枯渇させる薬物(レセルピンという一時代前の高血圧治療薬など)を服用すると副作用でうつ病になることがわかりました。また、三環系抗うつ薬という薬は、これらの神経伝達物質を強める作用をもつことが発見されました。
その後、中枢神経系に働く薬物の大部分は神経伝達の過程に働くことがわかりました。そこで、うつ病の原因に関する研究は、シナプスとよばれる神経細胞と神経細胞のつなぎ目で起こる現象に焦点が当てられました。
このページでは、読者の理解を助けるために、まず正常の神経伝達のしくみについてまとめ、ついでうつ病で起こる神経伝達の変化についてまとめます。

神経の情報伝達と抗鬱薬の作用

神経の情報伝達と抗鬱薬の作用


 
神経細胞は、シナプスというつなぎめで連絡をとります。前(シナプス前)からの情報は、電気信号の形をとります。シナプスは、シナプス前神経細胞とシナプス後神経細胞の間の隙間であるため、電気信号は伝わりません。代わりに、シナプス前細胞終末のシナプス小胞という場所に、神経伝達物質が蓄えられています。神経伝達物質は、シナプス前神経細胞の電気信号により、細胞と細胞の間に放出されます。
放出された神経伝達物質は、シナプス後神経細胞の受容体という部分に結合し、前神経細胞の情報を伝えます。シナプス後神経細胞では、神経伝達物質から送られた情報を電気信号に変換し、情報を発信します。受容体に結合できなかった神経伝達物質は、シナプス前神経細胞に再び取り込まれるか、シナプスで分解されます。
抗うつ薬は、神経伝達物質がシナプス前神経細胞に再び取り込まれるのを邪魔します。この結果、シナプスでの神経伝達物質は増加し、活動を高めやすくします。
本来脳から下りてくる命令や体の末梢から入ってくる情報は、ちょうど電線のように神経細胞から次の神経細胞に伝えられます。神経細胞と隣の神経細胞の間にはわずかなすきま(細胞間隙)があり、この部分をシナプスといいます。神経伝達物質は、シナプス前神経細胞の終末から、このシナプスを通って隣の神経細胞(シナプス後神経細胞)に情報を送ります。電線が電信柱のところで次の電線につながるイメージを思い浮かべてみてください。伝達物質を受け取った神経細胞は、情報を再び電気信号に戻して次の細胞に送ります。
シナプス後神経細胞には受容体という神経伝達物質が結合する場所があります。神経伝達物質が鍵とすれば、受容体は鍵穴の関係になります。セロトニン、ノルアドレナリン、ドーパミンなどは、鍵の形がそれぞれに違い、自分に合った鍵穴(受容体)としか結合しません。神経伝達物質と受容体が結合すると、後神経細胞内に変化が生じ、新たな物質が合成されたり、逆に合成にブレーキがかかるなどの形でシナプス前神経細胞から伝達された情報が具体化します)。
神経伝達物質と受容体

神経伝達物質と受容体↑


 
シナプス後神経胞の拡大図を示します。シナブス前細胞から放出された神経伝達物質は、自分の形に合った受容体と紹介します(鍵と鍵穴の関係)。結合すると、神経伝達物質はシナブス後細胞に働きかけ、その情報を伝達します。この結果、シナプス後細胞内に次の細胞に伝達するための新たな伝達物質が生成され(1次メッセンジャー)、細胞に酵素の生成などの変化を起こします。
また、シナプス前神経細胞には、トランスポートキャリアとよばれる物質があります。神経伝達物質がこれに結合すると、シナプス前神経細胞に再び取り込まれ、分解または再利用されます。
トランスポートキャリア

トランスポートキャリア


 
シナプス前細胞から放出された神経伝達物質は、受容体と結合しないときには、トランスポートキャリア(上図の車に当たる)とよぱれる運搬台に乗り、酵素(星印)から与えられたエネルギーを使い、再びシナプス前細胞内に戻されます。細胞内に戻った神経伝達物質は、再びシナプス小胞に蓄えられます。
トランスポートキャリアは
酵素(ATPアーゼ)から供給されたエネルギーで動きます。
うつ病の治療に使う三環系抗うつ薬、選択的セロトニン再取り込み阻害薬(SSRI)、セロトニン・ノルアドレナリン再取り込み阻害薬などは、各々のトランスポートキャリアに結合して、モノアミンがシナプス前神経細胞に取り込まれるのを阻害します。
抗鬱薬の作用機序

抗鬱薬の作用機序


 
上図は、抗うつ薬のフルオキセチンが、どのようにして神経達物質の神経細胞内輸送を混乱させるかを示しています。この場合フル才キセチン
が、トランスボートキャリアに結合することによって、神経伝達物質分子であるセロトニンが輸送便に底ることを妨げています。したがって、セロトニンは神経細胞内に乗って入っていけませんこうして神社伝達物質であるセロトニンが、拡散してしまうか、酵素により分解されてしまうまで、シナプスにとどまることになるのです。
「うつ病の原因はセロトニンやノルアドレナリンなどのモノアミンが減少することだ」という説をモノアミン欠乏仮説といいます。
正常な状態

正常な状態↑


_____________________________
うつ病の状態

うつ病の状態↑


 
うつ病で病的な変化が起こるのは、神経伝達物質としてセロトニン・ドーパミン・ノルアドレナリンなどモノアミンと総称される物質が働く神経線維です。神経細胞で、神経伝達物質が放出されると、神経伝達物質を分解する酵素、神経伝達物質の再取り込み、シナプス後細胞にある受容体などが働きます。
うつ病では、神経伝達物質が減少します。
うつ病の治療薬(抗うつ薬)のなかには細胞間隙のモノアミン(セロトニンやノルアドレナリン)濃度を上げるものがあるため、一時はうつ病の原因としてク
ローズアップされました。しかし、これだけでうつ病の原因のすべてを説明することはできませんでした。抗うつ薬は、モノアミンの濃度をすばやく上昇させます。しかし、臨床的には抗うつ薬が効果を表すのに二大二週間かかります。モノアミン仮説ではなぜ抗うつ薬が効果を表すまでに時間がかかるのか説明できません。そこで今では、うつ病の原因はモノアミン仮説だけでは説明できないと結論づけられました。
その後研究が進むに従って、むずかしい説が次々に出てきました。特に有力なのは、抗うつ薬が長期にシナプス前の再取り込みを阻害することによって、シナプス後の受容体の数や感受性を減少(ダウンレギュレート)させるという説(神経伝達物質受容体仮説)です。この説のよい点は、第1に既知の抗うつ薬は受容体の数をダウンレギュレートする共通の作用をもつこと、第2に抗うつ薬の治療効果の遅れを説明できる点です。
このほかにも要約すると、受容体という神経伝達物質が結合する場所の異常説、受容体以後の細胞内での情報伝達の異常、ホルモン系がストレスに弱い体質、生体リズムの変動などが注目されています。特に最近では、これらの異常と遺伝子の関連についての研究が進んでいます。
神経伝達物質受容体仮説(長期)

神経伝達物質受容体仮説(長期)


 
神経伝達物質受容体仮説(長期)
三環系抗うつ薬(カプセル)により、長期にトランスポートキャリア(車)が占拠されると、受容体の数が減少して、神経細胞が情報過多にならないように調節されます。このような現象を受容体のダウンレギユレーションといいます。
細胞内の伝達異常の仮説

細胞内の伝達異常の仮説


 
細胞内の伝達異常の仮説
シナプス後細胞の受容体が、神経伝達物質を受けとったにもかかわらず、後細胞内の何らかの異常により伝達が行われなくなることを原因とする説です。
ここでやや専門的なことも交えて説明したのは、気分の変化として現れるうつ病が、実はいわぱ体の変化といえるはっきりとした原因で起きていることが確実であることを示すためです。このことは、次に述べる服薬の重要性につながってきます。

うつ病の治療

うつ病は、ある程度治療法が確立されており、比較的治りやすい病気です。前章でも触れたように、うつ病の原因はまだ完全には解明されていませんが、結果として脳内にある物質のバランスが崩れるということは確かなようです。そこで、うつ病の治療の中心は、脳内の物質のバランスを元に戻すことを目的とした薬物療法になります。
うつ病のなかでも、焦燥感が強く希死念慮が強いものには、体の状態を直接変化させる電気けいれん療法などが行われます。
また、軽症で慢性のうつ病には精神療法(心理療法)が行われることがあります。
ここでは、現在行われているうつ病の治療について解説します。

薬物療法

うつ病の治療で、まず試みられる治療法です。うつ病の治療薬は、抗うつ薬とよばれています。抗うつ薬は1950年代から登場しました。現在日本では約二十種類が使用可能ですが、近々発売されそうな薬も数種類あります。これに伴い、薬の使われ方にも変化が生じています。

抗うつ薬

三環系抗うつ薬

1950年代にイミプラミンという薬が開発されてから、うつ病は「薬で治療できる病気」となりました。イミプラミンおよび類似の薬は、その化学構造式がイミノベンジル環とよばれる三つの環をもつことから三環系抗うつ薬とよばれています。三環系抗うつ薬は、治療効果が高く、価格が安いという利点があります。うつ病に対して三環系抗うつ薬の有効率は60〜70%です。中等度のうつ病に対して効果が高く、重症や軽症のうつ病では効果はやや劣るといわれています。最近は三環系ではない抗うつ薬が次々と開発されていますが、治療効果をみると、イミプラミンやアミトリプチリンなどの三環系抗うつ薬を越える効果をもつものはまだ出ていません。また、医療費の高騰が問題となるなかで、価格の安さは魅力的です。このため世界的には、新薬が開発されても三環系抗うつ薬の処方数は減少していません。もし、読者の知り合いで三環系抗うつ薬を処方されている方がいるとすれば、処方した医師は効果や経済性を重視した良心的な医師といえるかもしれません。
うつ病の治療で使用するとき、三環系抗うつ薬は十分な量を十分な期間使用するという鉄則があります。「薬を飲むと癖になるから」「たくさん飲むと副作用が起こりそうだから」と心配して中途半端な量しか飲まないと、うつ病の治りが悪くなることはすでに証明されています。
三環系抗うつ薬は、脳内のさまざまな神経系に作用します。このさまざまな神経系は、抗うつ薬が働く場所の神社伝達物質の名をとって、セロトニン系、ノルアドレナリン系、ドーパミン系、アセチルコリン系、ヒスタミン系などに分けられます。
「脳内のさまざまな神経系」とは、JRや私鉄などの路線をイメージするとよいでしょう。
三環系の抗うつ薬は、セロトニン・ノルアドレナリン・(作用は弱いが)ドーパミンの再取り込みポンプを阻害する作用があります。これが抗うつ作用に関係します。また、ムスカリン性アセチルコリン(以下コリン)受容体、H1ヒスタミン(以下ヒスタミン)受容体、a1アドレナリン(以下アドレナリン)受容体の阻害作用があり、これらが副作用(目渇、便秘など)に関連します。
うつ病では、何らかの原因でセロトニン系、ノルアドレナリン系の活動が落ちてしまいます。三環系抗うつ薬は、これらの活動を再び活発にする作用があるのです。
三環系抗うつ薬のなかでも、クロミプラミンはセロトニン系に対する作用が強いことで知られています。同時に、強迫症状にも有効です。一方、アモキサピンはドーパミン系に対する作用が強い薬物です。うつ病はドーパミン系とも何らかの関連があるようです。
三環系抗うつ薬の欠点は、副作用の多いことです。しかも、副作用は飲んでから短期間で出やすいのに、効果の方は出るまでに二〜四週間もかかることが多いのです。このため、せっかく効く薬でも途中で止めてしまう人が多いのです。
副作用は、三環系抗うつ薬が脳や脳以外(末梢)の多くの部分に作用することが大きな原因です。具体的には、①アセチルコリン系の作用を抑制(抗コリン作用)するために起きる口渇、便秘、排尿障害、目のかすみ、眼圧上昇など。このため、緑内障や前立腺肥大をもつ患者さんには第一選択には
なりません。②ヒスタミン系の作用を抑制するために起きる眠気、食欲尤進、体重増加。不安の強いケースは眠気があった方が楽な場合もありますが、仕事をするときは眠気は邪魔な作用です。③(脳の外で)アドレナリン系を抑制することにより起きるめまいや立ちくらみなど。これは、高齢者では転倒、骨折などの原因となります。人口の高齢化が進むにつれて今後ますます問題となる副作用です。三環系抗うつ薬には、脳だけでなく心臓に直接作用し心臓の打つリズムを変える作用があります。このことで不整脈が治ることもありますが、新たに不整脈を起こすことがあります。したがって、心臓疾患、特に不整脈のある人には三環系抗うつ薬は使いにくい薬です。
三環系抗うつ薬は、作用も強ければ副作用も多彩な薬物です。効果はあるのに、副作用のために患者さんが飲みつづけられないことが問題でした。したがって、専門医でなければ使いにくい薬であることは確かです。

四環系抗うつ薬

その後、抗うつ薬の開発は三環系抗うつ薬と同じくらい効果があり、副作用が少ない方向へ向かいました。四環系抗うつ薬は、この条件を満たすもので、現在日本では、三種類が使用可能です。特に、抗コリン系作用(口渇、便秘、排尿困難など)が少ないことが特色です。
マプロチリンは、構造式は三環系に似ていますが、セロトニン系にはあまり作用せず、もっぱらノルアドレナリン系に作用するのが特色です。しかし、他の抗うつ薬に比べて、薬疹やけいれんが起こりやすいと指摘されています。
ミアンセリンやセチプチリンは、三環系抗うつ薬と異なり、ノルアドレナリン系のシナプス前に作うつ病を治す用することが特徴です。このため、効果が早いといわれています。またアセチルコリン系の副作用が極めて少ない利点があります。しかし、セロトニン系やヒスタミン系を抑制するため眠気や食欲充進
などの副作用があります。反面、鎮静効果があり、老人の夜間せん妄(夜眠らずに興奮状態になること)にも有効なので、老人には好んで用いられます。

スルピリド

この薬は、はじめは胃潰瘍や十二指腸潰瘍の治療薬として開発されました。その後少〜中等量では抗うつ作用が、大量では幻覚を抑える作用があります。
また、吐気を止める作用や胃粘膜の血流を改善する作用があるため、軽症のうつ病で食欲が低下している場合には好んで用いられます。また、心療内科や精神科の医師以外がよく使う薬でもあります。スルピリドは、脳内のドーパミン系を抑える作用があります。抗コリン作用が少ないため、医師からみて使いやすい薬です。しかし、長期に使用するとプロラクチンというホルモンが出すぎて、無月経や乳汁が出てしまうため、若い女性には使用しないのが原則です。また特に高齢者では、ジスキネジアという体の一部が勝手に動く状態(特に口が勝手に動くことが多く、口唇ジスキネジアとよばれています)や、パーキンソン病に似た症状(手が震える、動作が緩慢になる、歩行困難、筋肉の硬直)が出現しやすくなるので、注意が必要です。

トラゾドン

わが国では1991年に導入された比較的新しい薬です。主としてセロトニン系に作用します。
抗うつ効果は比較的マイルドですが、抗不安作用も併せもちます。そこで、軽症から中等症のうつ病で、不安や不眠があるケースには好んで用いられます。
その作用機序として、セロトニン(5‐HT2受容体の阻害作用と、セロトニン再取り込み阻害作用があげられます。後者においては、三環系抗うつ薬やSSRIより作用が弱いことが知られています。また、ヒスタミン受容体、アドレナリン受容体の阻害作用もあり、副作用の原因となります。
副作用として眠気(ヒスタミン受容休遮断作用)、めまいのほか、立ちくらみ(アドレナリン受容体遮断作用)もしばしば起こります。しかし、抗コリン作用が弱いため高齢者にも使用しやすい薬です。トラゾドンのまれな副作用として、持続勃起症が起こることがあります。

選択的セロトニン再取り込み阻害薬(SSRI)

近年開発され、うつ病の治療法に変化をもたらしたと評判のあった薬です。海外では1980年代から導入されましたが、日本ではようやく1999年にフルボキサミン、2000年にパロキセチンが発売となりました。それまでは、フルオキセチンが「プロザック」という商品名で海外からさかんに個人輸入
されていたようです。当初は海外でも「今まで治らなかったうつが治る夢の薬」ともてはやされたようですが、最近はブームも過ぎて反省期に入りつつあるようです。SSRIは、脳内のセロトニン系に選択的に機能し、セロトニンの再取り込みポンプに取り込まれその再吸収を阻害し、結果的にはセロトニン系の作用を強める方向に働きます。このため、他の抗うつ薬(特に三環系抗うつ薬)でみられるような抗コリン作用(口渇、便秘、排尿障害など)、抗ヒスタミン作用(眠気、肥満など)、抗アドレナリン作用(めまい、立ちくらみなど)が出現しにくいことが最大のセールスポイントです。また、心臓への影響
が少ないため、自殺目的で多量に服用しても生命を失う危険は少ないという利点もあります。SSRIの抗うつ作用は、開発当初は三環系抗うつ薬と同程度とされていました。しかし、今日では重症例(入院中のケースなど)では、SSRIの抗うつ効果は三環系抗うつ薬より劣るとする報告が一般的です。また、投与してから作用が現れるまでに三〜四週間かかり、作用開始までの時間に関しても三環系抗うつ薬の欠点を解決できていません。
SSRIは、選択的にセロトニン系に働くため他の系統の副作用が少ないことは事実です。しかし、吐気・嘔吐、胃部不快感、下痢などの消化器症状、頭痛、投与初期の不安・焦燥などセロトニン系に由来する副作用がしばしば出現します。
また、SSRI服用中に射精遅延、オルガスムスの抑制など性機能障害が出現することがあります。
まれにセロトニン症候群といってセロトニンの作用が強くなりすぎ、発熱・発汗、下痢、顔面の紅潮、興奮、意識障害などが出現することがあります。セロトニン症候群は、重症例を放置すれば生命にかかわることもあるので注意が必要です。
さらに、SSRIが他の薬の作用に影響を与えやすいことが知られています。これは、SSRIは肝臓内で分解されますが、分解する工場に当たる部分(チトクロームP450とよぱれます)は、他の薬も分解するため、先にSSRIを分解すると他の薬は分解されるのが遅れ、結果的に長く体内にとどまるためです。三環系抗うつ薬、抗不安薬、一部の抗精神病薬はSSRIと併用すると前記の理由で作用が強くなります。また、フルボキサミンを服用しているときには、カフェインの作用が強くなったり、喘息の薬(テオフィリン)が効きにくくなる可能性が指摘されています。
以上の事実を総合すると、SSRIの副作用率は三環系抗うつ薬と類似しているというのが最近の見解です。このような理由から、SSRIは開発時の熱気が一段落したといえるでしょう。しかし、副作用の内容を詳しくみると、三環系抗うつ薬に比べて致死的な副作用は少ないし、副作用のために患者さんが薬を飲みつづけられなくなることは少ないようです。そこで、患者さんの生活の質(QOL)を重視すると三環系抗うつ薬よりはSSRIを重視するという主張も正論でしょう。
専門家からみてSSRIの魅力とは、その抗うつ作用よりも幅広い病気に効く点にあります。脳内のセロトニン系は、睡眠、体温調節、性行動、痛み、認知・記憶、精神機能(不安、気分、攻撃性、強迫)などに広く関連しています。このため、現在ではSSRIは不安の病気(パニック障害、対人恐怖症など)、強迫神経症、神経性過食症の治療に第一選択薬として幅広く用いられています。
このようにSSRIは幅広い病態に効果があるため、昔なら病院にかからず苦しんでいた人々を含めて広く使われるべき薬です。しかし、副作用や薬物同士の相互作用も多彩なため、専門家でなければ使いこなすのがむずかしい薬と筆者は考えています。

セロトニン・ノルアドレナリン再取り込み阻害薬(SNRI)

セロトニン系ばかりでなく、ノルアドレナリン系にも作用する薬物です。ドーパミン系、アセチルコリン系、ヒスタミン系にはほとんど作用を及ぼしません。わが国では2000年にミルナシプランが発売されました。
うつ病の原因として脳内のさまざまな系統の物質のバランスが変化することが指摘されています。SSRIが当初期待されたほどの効果が上がらなかったこともあり(期待が高すぎたのかもしれません)、やはりセロトニン系だけでなく他の系統にも作用する薬の方が有効なのではないかとの考えが再び勢いをもちました。
SNRIは、セロトニンとノルアドレナリンの再取り込みポンプに取り込まれ、その再吸収を阻害し、結果的に両系統の作用を強めます。一方、ヒスタミン系やコリン系には作用しません。SNRIは、セロトニン再取り込み抑制のほかに、ノルアドレナリン再取り込み抑制作用をもちます。
SNRIのうち、ミルナシプランはアドレナリン系への作用はもちます。
SNRIのうつ病に対する有効率は、三環系抗うつ薬と同等とされています。しかし、SSRIとの比較では、SNRI(ミルナシプラン)はSSRI(フルボキサミン)より有効との報告があります。また、他の抗うつ薬より効果発現が早いとの報告もあります。
副作用に関して、SNRIはドーパミン系(手のふるえ、歩行困難など)、アセチルコリン系(口渇、便秘など)、ヒスタミン系(眠気、肥満)などが起こりにくいことが特色です。また、SSRIでみられる消化器症状や性機能障害も起こりにくいといわれています。しかし、アドレナリン系に対する作用があることから、しばしば排尿障害、脈拍増加、血圧動揺などの副作用が起こることがあります。このため、高血圧の人がSNRIを服用するときには注意が
必要です。また、SSRIに比べて頭痛、口渇は多いといわれています。
しかし副作用により患者さんが治療を中断する率は低いので、比較的使いやすい薬といえます。

抗うつ薬に問する素朴な疑問

薬に関する専門的な知見をまとめてきました。専門用語もたくさん出てきたので読みにくかったかもしれません。そこで、ここでは日常診療で患者さんからよく質問されることがらをまとめてみます。
・抗うつ薬を服用するとどんな感じがするのか
多くの患者さんは「抗うつ薬」といえば「元気の出る薬」というイメージをもつようです。たしかにうつ病が治れば元気が出ますが、うつ病の患者さんはただ元気がないだけではありません。心のなかでは嫌なことが次から次へと浮かんできてひとときも休めない状態なのです。
抗うつ薬の効果が出たときは本人はむしろ落ちついた感じがすることが多いようです。落ちついてくるとその人本来のもつ意欲が徐々に湧き出て気持ちが安定してくるという感じが近いと思います。
抗うつ薬は、脳内の物質のバランスを変えるものですから飲みつづけなければ効きません。しかし、困ったことに薬の効果が出るよりも先に副作用が出現します。三環系抗うつ薬では口渇、便秘などが、SSRIでは吐気、胃部不快感、頭痛などが、SNRIでは排尿障害や脈拍増加などが多くみられます。また、脳に効く薬はどれでも眠気やふらつきが起こってもおかしくありません。
このように、抗うつ薬は飲み心地のいい薬ではないようです。このため途中で服用を止める人は多いのに、依存症になり抗うつ薬を求めてさまざまな医療機関を渡り歩く人の話はあまり聞きません。
・抗うつ薬はどの程度有効なのか
うつ病自体は、典型的には自然に軽快する病気です。また、高い確率で再発する病気でもあります。臨床現場でも、当初は抗うつ薬を飲んでいても状態が悪くなる患者さんや、薬を飲んで(まだ効き始める時期でもないのに)すぐよくなる患者さんもいます。薬を飲んでも悪くなるというのは、病気が悪くなっている最中で、薬の作用よりも病気の勢いが強い可能性が考えられます。また、急によくなったのは病気が回復期に差しかかったところでたまたま抗うつ薬を服用した場合が考えられます。このほか、いずれの場合もプラセボ効果(後出)といって、薬を飲むことによる心理的な影響も無視できません。
それでは、抗うつ薬はうつ病に対してどれくらい有効なのでしょうか。これまでの研究を総合すると、抗うつ薬を服用してうつ病が改善した割合は、おおよそ60〜70%と考えられます。一方、面白いことに、同じ時期に同じような背景(年齢、性別、重症度など)のうつ病の患者さんが作用のない薬を服用しても26〜40%の患者さんはうつ病が改善します。 以上の結果を総合すると、抗うつ薬を服用すると、本来の薬の作用に加えて心理的な影響がかなり出てくることがわかります。抗うつ薬本来の効果はけっして十分とはいえませんが、薬を飲まない場合と比べて改善率が20〜30%増加することは確かなようです。
・抗うつ薬はどんなタイプのうつ病に有効か
うつ病の重症度でいうと、抗うつ薬は中等度のうつ病に最も有効です。中等度とは、先にふれた診断基準DSM-Ⅳでは大うつ病の診断基準に当てはまるか、これよりやや症状の数の少ないものです。この程度の人だと、仕事や家事をつづけるのがつらく、家でゴロゴロしている状態と考えてよいでしょう。これより重い場合(妄想が強かったり、イライラが強いなど)や軽い場合は、抗うつ薬の効果は下がるといわれています。
また、症状が朝方強く夕方軽くなるという日内変動があったり、睡眠をつづけることが困難などの症状がある場合は抗うつ薬は有効です。
・海外ではどんな抗うつ薬が使われていますか海外では、SSRIなどの新規抗うつ薬が日本より以前から使われています。今後、日本での抗う
つ薬の使われ方は海外での使われ方に近づくものと予想されます。
アメリカでは、処方頻度をみるとSSRIが抗うつ薬全体の約50%を占めていますが、三環系抗うつ薬も根強い人気があり約40%を占めます。特記すべきは、SSRI導入後も処方頻度は減って
いないことです。SNRIなどその他の抗うつ薬は合わせても10%以下です。
EU各国ではSSRIの処方頻度は40〜70%程度です。三環系抗うつ薬は、抗うつ薬総売上の約20%を占めます。三環系抗うつ薬はSSRIに比べて薬価が安いので、処方頻度はさらに高くなります。その他では、SNRIやさらに新しい薬を含めても10%弱です。唯一例外がドイツで、ここでは三環系抗うつ薬が90%近くを占め、SSRIは10%にも達しないそうです。
以上をまとめると、SSRIができてから、抗うつ薬全体の処方頻度は大幅に増えています。この増えた分かSSRIやSNRIなど新規抗うつ薬の処方分とほぼ重なります。

気分安定薬

気分安定薬とは、元々は噪状態の治療に用いられていましたが、その後うつ病の治療や再発予防効果が確立された薬です。主に、噪病相をもつ噪うつ病、難治性うつ病、再発を繰り返すうつ病に対して用いられます。

リチウム(商品名:リーマス)

気分安定薬の代表的な薬です。抗うつ薬だけでは効果のなかったときにリチウムを加えると、三環系抗うつ薬やSSRIの効果を強めることが知られています。特に、セロトニン系の作用を強めるので、セロトニン症候群など副作用にも注意が必要です。
また、リチウム自体の副作用として、投与初期に吐気、手のふるえ、口渇、多尿などがしばしばみられます。これらより頻度は低いものの体重増加、
下痢、浮腫も認められます。
長期使用時に認められる副作用は、上記に加えて、心電国界常、腎障害、甲状腺機能低ド、皮膚病変などがあります。また、高血圧などで塩分摂取を控えている場合、リチウムは体内に残りやすく、副作用が出やすいので注意が必要です。また、妊娠中に服用すると奇形児ができる可能性が指摘されています。妊娠三か月以内の投与は避けるべきです。
リチウムは採血すると、血中濃度(体の中に残っている薬の濃度)がわかります。そこで、定期的に血中濃度をチェックする必要があります。

カルパマゼピン(商品名:テグレトール)

元来はてんかんの治療薬でしたが、蹄状態に有効なことが日本で発見されました。うつ病では、リチウムの場合と同様な使われ方をします。
リチウムより効果が早く出ますが、皮膚の副作用が多いのが欠点です。

その他

てんかんの薬であるバルプロ酸(商品名:デパケン)やクロナゼパム(商品名:ランドセン、リボトリール)にも同様の作用があります。いずれも抗うつ薬に追加して用います。
体内の甲状腺ホルモンも広い意味では気分調整薬の作用があります。抗うつ薬で効果のないうつ病のうち、甲状腺機能が低下しているものには、薬剤の甲状腺ホルモンが有効といわれています。

抗不安薬

俗に精神安定剤といわれている薬です。大脳辺縁系という部分に作用して、不安を和らげます。手軽に使用でき、重篤な副作用が少ないため、幅広く処方されています。日本では、20種類近く発売されていますが、作用の強さと作用時間の長短で使い分けられています。
うつ病の治療では、治療初期で患者さんの不安やイライラが強い場合に使用されます。うつ病がよくなってきたら、抗うつ薬より先に減量・中止するのが原則です。
副作用は眠気やふらつきが主ですが、急にやめると逆に不安が強まることもあります。軽度の依存性はありますが、用法・用量を守っていれば、アルコールやニコチンよりずっと軽度です。

睡眠導入薬

抗不安薬のうちで特に催眠作用の強いものが睡眠導入薬です。最近は、抗不安薬と同じくベンゾジアゼピン系という比較的副作用の弱いグループが主に用いられています。
うつ病では睡眠障害が起こることが多く、この睡眠障害に対して睡眠導入薬を飲むことも多いのです。特に、抗うつ薬は効いてくるまでに二〜四週間かかりますから、それまでの間患者さんが眠れないのを我慢するのはとてもつらいことです。そこで、せめて夜だけでも眠れるよう睡眠導入薬が処方されるのです。

睡眠薬の種類

睡眠薬の種類


 
睡眠導入薬は、作用時間によって長時間作用型(一日以上効いている)、中間型(作用時間は一日弱)、短時間作用型(効果は6〜15時間程度)、超短時間作用型(作用時間が6時間以下)に分けられます。寝つきの悪い、いわゆる不眠症では、翌朝眠気が残りにくい作用時間の短いタイプが好んで用いられます。一方、うつ病では睡眠をつづけるのが困難になるため、作用時間の長いタイプが好んで用いられます。
睡眠導入薬を処方する際、患者さんから副作用に関する質問を受けることが特に多い印象を受けます。患者さんのなかでも、飲んで大丈夫かと心配するタイプと、つらいからもっと下さいというタイプにはっきりと別れる傾向があるようです。
睡眠導入薬には、以ドにあげるような副作用があります。
【持ち越し効果】睡眠薬の効果が翌朝まで残り、眠気、ふらつき、脱力感、日中の作娶能率低ドなどが出現します。長時間作用型の睡眠薬に起こりやすい現象です。
【健忘】睡眠薬を飲んでから寝るまでの間、あるいは途中で起きたときの言動を思い出せないことがあります。健忘が出るのを防ぐには、睡眠薬の用・量を守る、アルコールといっしょに飲まない、服用後すぐ床につくことが重要です。
【依存性】睡眠薬を中止するとかえって眠れなくなり、この結果、睡眠薬が中止しにくいことがあります。このようなときは、作用時間のより長いタイプに置き換えてから減量するとうまくいくことがあります。

抗精神病薬

重症なうつ病では、妄想が出ることがあります。また、初老期以降のうつ病では、焦燥感が強く、じっとしていられないケースも目立ちます。これらのケースには、抗精神病薬が使われます。
抗精神病薬は元来、統合失調症などの治療に使われる薬ですが、心を鎮める作用があり、妄想をとることがあるので、うつ病の治療にも好んで用いられます。
ハロペリドール、クロルプロマジン、レボメプロマジン、チオリダリンなどが用いられますが、副作用としてパーキンソン病に似た症状(手のふるえ、動作緩慢、筋肉が硬くなる、歩行障害など)が出ることがあり、注意が必要です。また、不整脈、血圧低下、立ちくらみなどの心臓に対する副作用もしばしば認められます。チオリダジンは、三環系抗うつ薬やSSRIと併用すると、お互いの作用・副作用が増強されるので注意が必要です。

プラセボ効果

薬を服用したときに、その薬の薬理作用のほかに、薬理作用に関係のない効果が出現することがあります。
一昔前は、医療では風邪の患者さんにビタミン剤を注射するというように、本来は薬理作用のない物質を患者さんに投与することがありました。すると、本来
ビタミン剤は風邪を治す作用がないにもかかわらず患者さんの状態がよくなることがありました。このように、薬理作用に関係なく生ずる効果をプラセボ効果といいます。逆に、ビタミン剤を打っただけなのに頭が痛くなったり気持ち悪くなったりという副作用が出ることもあります。プラセボ効果が出現する確率は比較的高く、ほとんどの疾患において30〜40%の患者に程度の差はあれ現れるといわれています。うつ病治療の実際では、抗うつ薬を服用して1、2日で状態が改善する人もいますが、これはプラセボ効果の可能性が高いといえます。吐気などの副作用は、本当に薬の副作用かプラセボ効果かはっきりしないことも多いのです。患者さんのなかには、「この薬を飲んですぐ吐気がした。飲むのを止めたらすぐ止まった。だから薬の副作用だ」と思う人も多いと思います。しかし逆に、「薬を飲んですぐ出て、止めたらすぐ止まった」のだからプラセボ効果を疑いやすい状況でもあるのです。
うつ病は、症状がよくなってからも長く薬を飲む必要があります。限られた種類の薬のなかで「自分に合わない薬」が少ないにこしたことはありません。そこで、薬を飲んだあとに不快な症状が出たら、「薬そのものの副作用に違いない」と判断する前に、よく主治医と相談する必要があります。

精神療法

最近はうつ病で受診する患者さんのなかに、「精神科を受診したが、薬を出すだけなので心配になった。カウンセリングを受けたい」という希望をもつ人が目立って増えています。うつ病では、これまでにも述べたとおり、脳内の物質のバランスがくずれます。この点は言葉を使う精神療法だけでは回復が期待しにくいものです。そのため、薬物療法が治療の中心になるのです。うつ病では、いろいろなことを否定的に考え気分が沈みますが、問題解決能力が一時的に低下するため本人にとってはいつ為悩んでいる感じになるのでしょう。また、うつ病になりはじめで症状が活発な時期(急性期)は、患者さんの頭の中には否定的な考えが次から次へと出てきます。この時期に、精神療法のように自分のことを振り返るプロセスは、「私はやはりだめな人間なんだ」などと患者さんの自責感をますます強めることになるので原則としてやってはいけないことになっています。
逆に比較的精神療法がやりやすい時期は、うつ病の症状が治まっている時期です。うつ病は再発しやすい病気なので、この時期には発病に関連した状況、自分の性格、行動、人間関係などを振り返りながらある程度明確にすることが大切です。そこで、再発予防をテーマに精神療法を併用することがあります。

精神療法

日本の医療では、うつ病の治療で改まって精神療法を行うことは例外的です。しかし、われわれはうつ病の患者さんの特徴に配慮して診療しています。症状が活発な急性期のうつ病では、小精神療法(笠原嘉先生が考案されました)という方法が広く受け入れられています。周りの人がこの方法を患者さんに行うことはもちろんありませんが、うつ病を理解するうえで、小精神療法の考え方は非常に参考になると思いますので、少し詳しく紹介します。小精神療法の要点は、第1に、医師が患者さんを病気であると確認します。この結果、患者さんは「怠けている」「弱い人間だ」という自責感から少しだけではありますが、楽になれます。
第2に、うつ病とわかったらできるだけ早く休養できる体制にします。うつ病の人は集中力が低下し、仕事の能率も下がりますが、疲労し能率が下がれば、それだけふだんよりがんばって穴埋めするのでますます疲れて能率が下がるという悪循環を繰り返しやすくなります。この悪循環を断つために休養が必要なのです。休養といっても、ただ横になっているだけでは、心のなかでこれまでのことをくよくよ考えたり、自分を責めたりして心は休まりません。なるべく心もゆっくりさせることが必要なのです。しっかりと休養するためには、患者さんが自分の病気を職場に知らせることが大切です。
医師が協力して職場とかけあうのも大事な仕事のひとつです。
第3に、うつ病は原則的に「治る病気」なので、われわれは患者さんにはっきり「治る」といいま
す。実際に、うつ病は早ければ三か月程度で治るので、具合の悪い時期には「三か月で治る」と話して患者さんが希望をもって治療に努力できるようにします。
第4に、うつ病の患者さんは死にたいという考えにとらわれていることも多いので、初診のときに「絶対に自殺しない」という約束をします。うつ病の患者さんは元来義理堅いので、ひとたび約束をすれば自殺することはほとんどありません。
第5に、仕事をやめるとか結婚するなど、人生での重要な決断はうつ病が治まるまで行わないことにしてもらいます。うつ病の急性期は、物事を悲観的に考えやすいので、よくなってから会社を辞めたのを後悔することもしぱしば起こることです。
第6に、うつ病はよくなったり悪くなったりしながら徐々によくなるという経過を患者さんに説明します。特に具合の悪い時期は一圭二週同程度だし、よくなりだしたのにまた悪くなるということもよくあります。長い目でみると、これらの状態もよくなるまでの道筋なのです。悪くなったからといって「もう治らないのではないか」などと悲観しなくていいのです。
第7に、薬を飲むことが大事であること、薬を飲むとその効果が出る前に副作用が出ることがあると話します。飲む薬によって出やすい副作用を具体的に説明しておくことは、薬を飲みやすくするうえで大切なことです。
小精神療法は、うつ病の本質をとらえたすばらしい方法だと思います。

専門的な精神療法

予約をして、1回につき45分から60分の時間をかけて行うのが一般的です。うつ病の治療目的で行われることは日本ではまだ例外的です。また、あらかじめ医師の診察を受けて、精神療法を行っても大丈夫な状態だと確認する必要があります。アメリカでは、うつ病に対して専門的な精神療法が行われています。W門的といっても、精神分析のように長期にわたってその人格の全体を対象として治療を行うのではなく、期間と治療する焦点を決めて治療します。このため、効果のあった人となかった人がはっきりするので、外科手術の成績と同じく有効率などがはっきりと示されています。患者さんの知る権利とインフォームド・コンセントが重視される時代に沿った流れです。反面、患者さんのなかには「根本から治してほしい」というニーズがあります。「治療の焦点をしぽる」ということは、「忠者さんのもつ問題のうちで治しやすい部分を治す」ということです。したがって、「根本から治してほしい」と考える人にとってはやや物足りなさが残るかもしれません。また、ごく軽いうつ病を除けば、通常は薬物療法も同時に行います。
精神療法が有効なのは、うつ病のなかでも軽度から中等度のものです。特に、心理社会的なストレスが明らかに存在している場合、心のなかに葛藤がある場合、対人関係に問題がある場合、性格の偏りがうつ病に影響を及ぼしている場合などは精神療法を併用することが多いようです。
精神療法には、認知療法、対人関係療法、精神力動的(精神分析的)短期精神療法、行動療法などがあります。アメリカの研究では、それぞれの治療法の有効率は、認知療法が四七%、対人関係療法が52%、精神力動的短期療法が35%、行動療法が55%です。
ここでは、最も研究が進んでいる認知療法と対人関係療法を紹介します。

認知療法

人の感情は、その人の物のとらえ方の影響を強く受けます。認知療法は、患者さんの物のとらえ方を変化させることによって沈んだ気分を変化させる方法です。
うつ病の患者さんは、「自分はだめな人間だ」「だから周りの人は自分に愛想をつかすだろう」「この病気はずっと治らないだろう」などと自分、世界、将来に対して悲観的に考えています。認知療法では、このような考え方を二つのレベルに分けて考えます。
一つは自動思考とよばれる、ある状況で自然に湧き起こる考えやイメージです。
自動思考
恣意的推論:十分な根拠もないのに自分勝手に推測して判断する
二分割思考:常に白・黒をはっきりさせる
選択的抽出:自分が気にしていることばかりに目を向け、結論を急ぎたがる
拡大視・縮小視:自分の関心のあることは大きくとらえ、自分の考え
や白眼こ合わない部分は過小評価する
極端な一般化:ごくわずかな事実を取り上げて決めつける
自己関連づけ:悪い出来ホをすべて自分の責任にする
情緒的な理由づけ:そのときの自分の感情から現実を判断する
もう一つはスキーマとよばれるその人の基本的な人生観です。自動思考やスキーマは、物事を瞬間的に判断するときに重要ですが、何らかの原因で現実とずれると感情や行動が乱れます。
認知療法では、患者さんが「どのような状況でどのような考えが浮かび気分が沈んだのか」を記録し、治療者とともに「この場合、どのような自動思考が働いたか」「ほかの考え方はないか」を考えながら認知を修眼していきます。一般的な、あるいは客観的な考え方・感じ方ができるように導いてあげる方法と言い換えてもいいでしょう。
認知療法は薬物療法に匹敵する効果があるという研究もあります。特に、軽度なうつ症状や性格に偏りのあるケースには有効です。

対人関係療法

対人関係療法は、対人問題がうつ病の発生と進行に関与するという理解のもとに、対人関係問題を解決する治療法です。実際の治療では、原因は詮索せず、患者さん自身と身近な人たち(家族、友人、恋人など)の関係を取り上げます。他者との関係での不適応には、悲哀、対人関係上の役割をめぐる不和、役割の変化、対人関係の欠如などがあげられます。
悲哀とは、自分にとって重要な人と別れたり、価値を置いていたものを失ったときに起こる体験です。別れた人との関係を整理して、自分の心のなかに改めて位置づけし直します。
対人関係上の役割をめぐる不和とは、人間関係のなかでお互いに期待する役割にずれがあるため問題が生じている状態です。
役割の変化は、出産、卒業、就職など環境の変化が大きいときに起こりやすいものです。
古い役割と新しい役割のそれぞれについてバランスのとれた見方ができるよう考えていきます。
対人関係の欠如は、患者さんが満足できる対人関係をもてなかったり、人間関係がすぐ破綻してしまう場合に問題となります。
対人関係療法は、薬物療法や認知療法に匹敵する効果が報告されています。特に重症のうつ病や強迫的な人には認知療法より有効といわれています。

その他の治療法

①電気けいれん療法
電気刺激を用いて患者さんにけいれんを起こさせる治療法です。「人為的にけいれんを起こす」という強い作用のため、近年では全身麻酔をしてけいれんを起こさずに脳に電気を通す無けいれん電撃療法が一般的になりつつあります。
電気けいれん療法は、薬物療法と異なり効果が早いことが特色です。また、すべての抗うつ療法のなかでも最も高い有効率を誇るともいわれています。
電気けいれん療法は、自殺の危険性が極めて高い患者さんや食事をとれずに栄養状態が悪化する患者さんなど重症例では第一選択となります。また、副作用のため薬物療法が困難な人や、妊婦などにも有用です。
副作用として、頭痛(数時間から一日で改善)、記憶障害(約一か月で改善)、脱臼・骨折(無けいれん電撃療法では少ない)、一過性血圧上昇、頻脈などがあります。また、即効性はあるものの、効果の持続は短いので、電気けいれん療法終了後には薬物療法が必要です。
②新院療法
一晩中断眠させる全断眠法と夜間後半部を断眠する部分断眠法があります。効果発現までの期間が短く、早ければ断眠中に効果が出ます。また、副作用が少ないため、妊婦、高齢者、希死念慮の強い人に用いられることがあります。
欠点として、効果の持続が短いことがあげられます。このため、薬物療法を併用することが多いようです。また、まれに幻覚妄想状態や蹄状態になるといわれています。
③高照度光療法
冬になるとうつ病になる季節性感情障害という特殊なうつ病に用いられます。この病気は、日照時間が短くなる冬になるとうつ病が悪化します。日照時間が短くなる季節をもつ緯度の高い地域に多いことが特色です。この治療法は、早朝に約二時間、蛍光灯8〜10本くらいの光を光源から約一メートル離れたところで当てます。有効例では、数日の照射で効果が出ますが、中止すると2、3日でもとに戻ってしまいます。副作用は少ないのですが、まれに噪状態になるとの報告があります。また、目の病気がある人には施行するにあたって注意が必要です。
 

-うつ病
-

Copyright© サプリ館公式ブログ , 2021 All Rights Reserved Powered by STINGER.