うつ病

うつ病の方の家族はどのように接したらいいか

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うつ病の方の家族はどのように接したらいいか

ある患者さんが、うつ病になったとき、家族はその患者さんにどのように接したらいいか不安になります。
前のページに登場したカズオさんの家庭でも、家庭の雰囲気は変わりました。妻は、内心おろおろしていますが、カズオさんに悟られまいと無理に明るく振る舞っています。そして、「早く元気になってね」「これもストレスのせいよ」と慰めたり励ましたりします。子供は、カズオさんとのかかわりを減らしますが、カズオさんと視線が会うと話す言葉が浮かぱなくなります。
シノブさんの家庭では、夫は自分が不安なことを隠そうとしません。「散歩しよう」「旅行はどうだ」とシノブさんを連れ出したり、インターネットで抗うつ薬の副作用などシノブさんが不安になる情報もそのままの形で本人に伝えてしまいます。娘は、以前自分の結婚をめぐってシノブさんと摩擦があったため、シノブさんの具合が悪くなると、摩擦の記憶がよみがえってしまいました。「お母さんにかわいそうなことをした」と罪悪感を感じる一方、「いつまでわだかまりをもつんだ」という怒りの感情も周囲の心がまえ湧いてきました。そして、シノブさんに「いつまでくよくよしているの。前向きに考えなさい」と小言をいってしまいます。
カズオさんの家庭は、家族が感情表現を抑える傾向があるようです。一方、シノブさんの家庭は自分の心の中に湧きあがるネガティブな感情をそのまま相手にぶつけてしまう傾向があります。しかし、共通するのは家族が本人とどう接したらいいのか悩んでいることと、結果的には家族の対応は本人の
不安を強めたり罪悪感を刺激していることです。
両家族が本人に行っていることは、①励まし、②関与の減少、③身体活動の勧め、④不快な感情を本人にぶつけること、などです。
家族としては、本人が元気のないときには「もしかしてうつ病ではないかな」と疑うことが大切です。いつも表情が冴えずつまらなそうな顔をしている、気弱な言動が多くなった、身だしなみに気を配らなくなった、ぼIっとして小さなミスが多い、じっとしていられず同じことを何度も心配するなどの行動があればうつ病を疑うきっかけになります。しかし、本人から家族に相談することはまれです。
もし家族が「うつ病ではないか」と疑ったら、本人にうつ病の疑いがあること、きちんと治療すればよくなることを話して、医療機関の受診を勧めてください。同時に、仕事や家事はできるだけ休める環境をつくりましょう。
最近では、うつ病の患者さんが病院に初診で来るときに家族の方が一緒に受診することが多くなりました。診察場面でたいていの家族の方は「本人とどう接したらいいのでしょうか?」と問いてきます。家族にとって、うつ病の患者さんとどう過ごすかというのはそれほど切実な問題なのです。
うつ病の患者さんに接するには、やはりコツがあるようです。一言でいえば「カズオさんやシノブさんの家庭を真似するな」ということですが、もう少し建設的な視点からまとめてみましょう。
本人と一緒に受診するような熱心な家族は、「うつ病の人を励ましてはいけない」というのは知識としてもっています。
励ますことには、「がんばれ」と叱咤激励することも含まれます。激励することが本人に負担になるのは誰でも納得できそうです。しかし、「励ます」ことのなかには、家族が善意から「早く元気になってほしい」ということも含んでいます。家族としては心配して善意でいったことなのに、本人は「元
気になれなくて家族に申し訳ない」と悲観するのです。家族が「どうしたら早く治るだろうか」とうつ病に関する情報を集めるのは大切なことですが、「こういう治療がいいんじゃないの」と次から次へと本人に伝えるのも本人への干渉となります。ちょうどシノブさんの夫がこのケースに当たります。
家族は、うつ病になった人を怠け者扱いをしてはいけません。うつ病は、カズオさんやシノブさんのようなまじめな人がなりやすい病気です。家でぼーっとしていることが多かったら、本人をなじる代わりに「うつ病ではないか」と疑いましょう。
家族のなかにはうつ病の患者さんが朝起きられないでいると、「寝てる癖がつくと治るものも治らないから」と無理に起こそうとする人がいます。うつ
病は、特に朝から午前中具合の悪い病気なので、具合の悪いときはゆっくり寝かせてあげましょう。
「動かなければ体がなまるから」と散歩に連れ出す人もいますうつ病がよくなると、本人から「歩いてみようかな」という気分になるものです.こうな
れば体が疲れない範囲で散歩してもいいのですが、
「歩かなければいけない」と思いながら歩くのは、休養を邪魔する行為です。
本人を旅行やカラオケに連れ出そうとする家族もいます。あくまでも「楽しいことをすれば気分が晴れるだろう」という善意で誘っているのです。しかし、うつ病は本人が健康なときなら楽しいと思うことにも興味がなくなる病気です。旅行やカラオケに行っても楽しくないばかりでなく、かえって疲れてしまうのです。これも休養を邪魔する行為です。
このように、やってはいけないことばかりあげていくと、読者のみなさんはうつ病の患者さんとつき合うのはむずかしいと感じられるかもしれません。うつ病の患者さんは、声をかけられてもつまらなそうな顔をしています。家族はついつい励ましたくなってしまうのです。家族も接し方に自信がなくなると、カズオさんの家庭のように、腫れ物に触るような気分になり、本人との接触が減ってしまいます。しかし、実際にはうつ病の患者さんは本当は家族にあたたかい声をかけてほしいのです。家族のかかわりが少なくなれば本人は「家族に愛想をつかされた」と落ち込んでしまうものです。
家族が「どう接したらいいか」と悩む背景にはうつ病の患者さん独特のものの感じ方や人間関係が指摘されています。
うつ病になりやすい人は、人から拒絶されることに敏感です。このためいわゆる「外づら」はいいのですが、家族など「身内」の人には愛を求めて相手を束縛しようとするのです。家族があたたかい言葉をかけてもつまらなそうな顔をしているのは、家族にもっとあたたかい言葉をかけてほしいからかもしれないのです。このため家族は心理的、時間的に束縛されやすくなります。また、患者さんは言葉には出しませんが、「私は具合が悪いのにあなたたちはちゃんと対応してくれてるの」という攻撃性を家族に向けることも少なくありません。家族が「どう接したらいいか」悩むのは、このあたりとも関連するようです。
こう考えると、家族が患者さんを励ましてしまうのは、患者さんに「具合が悪いからそばにいてくれ」と拘束されている状態から自由になるための反応とも考えられます。
元来、うつ病の患者さんは過去に多くの失望体験があり、失望を恐れるあまり身内の人を束縛しようとする傾向が指摘されています。これに対する反応として、二次的に家族は患者さんに批判的になりやすいのです。患者さんは、うつ病になると次第に家族に依存的になります。しかし患者さんの生い立ちをみると、人に心を開く体験をもつ機会が少なかったので、依存したいのになかなか人を信頼しにくい傾向があります。このため家族から愛されたいと思いながら、「愛し方が足りない」と攻撃したりします。ここで、家族が拒否的になると心を閉ざしてしまいがちになるのです。患者さんが心を閉ざすと、「いつまでも不愉快」な状態、すなわち、はたからみると慢性のうつ状態となります。
うつ病の患者さんは、世俗的な一つの目標にとらわれて人生を生きることが多いようです。そして、その生きかたに行きづまるとうつ病になりやすいのです。このような事態を防ぐためには、家族とともに生活の幅を広げる方向で問題を解決する姿勢が必要でしょう。
最後に周囲の人がとるべき模範的な態度をまとめてみます。
①ふだんまじめな人の変調には、うつ病の疑いを特に忘れないようにする。
②本人に向き合い、きちんと自分の考えを伝えるようにする。
③休養の重要性を納得させ、完全に休ませる。
④励まさない。
⑤「周りの人に見捨てられたくない」という気持ちが空回りしている状態であること、そのために周囲の人が「うっとうしい気持ち」になりやすいことを理解してあげる。

友人はどのように接したらいいか

うつ病の患者さんは、家族に対しては束縛したり攻撃を向けたりしますが、他人に対しては紳士的に振る舞うことが多いのです。また、自分の弱みをみせることを極端に嫌います。このため、友人が患者さんの不調を早期に発見することは意外とむずかしいのです。
カズオさんの会社では、同僚はカズオさんが昼食をあまり食べられず、仕事でミスを重ねるようになってから不調に気がつきました。それでも、カズオさんに何と声をかけてよいかわからず、「元気出せよ」と話してコミュニケーションを打ち切ろうとしました。
シノブさんの近所の人たちは、本人がうつ病と気づかずに「薬は癖になる」「漢方がいい」「サプリメントがいい」など、それぞれが思ったことをそのまま話していました。どちらのケースも、結局本人が辛い思いをすることになってしまいました。
周囲の人が是非知っておくべきことは、うつ病という病気があること、そしてうつ病は大変ポピュラーな病気で、自分の周りにうつ病の人は常に存在しうるという点です。周囲の人で、これまでと比べて仕事のミスが増えたり、遅刻や欠勤が増えた人がいれば、「こいつ怠けてるんじゃないか」と思うよりも「この人はうつ病かもしれない」と疑うことが大切です。
仕事をしていくうえでうつ病になりやすい状況があります。①仕事量が多い、②自分の役割があいまい、③役割上の葛藤がある(自分はやりたくないが会社のためにはやらなければならない)、④自分の裁量で仕事のペースを決められない、⑥よい評価が得にくい、⑥情緒的負担の大きい人的交流などです。このような状況に置かれた人の健康状態には特に気を配る必要があります。
職場のメンタルヘルスを取り巻く環境はここ数年で大きな変化がありました。第1に、うつ病の人が自殺した場合に、自殺直前に業務上で過重な負担がかかっていると認定されれば「過労死」として労働災害に該当するようになりました。これまでは、いくら仕事が大変でも、自殺するのはあくまで
も本人の意思なので労災とは認定されなかったのです。しかし、2001年12月厚生労働省は労災認定基準を改訂しました。新しい基準では、「発症直前一か月に百時間を超える時間外労働」または「発症直前の二〜六か月間に平均ハ○時間を超える時間外労働」がある場合には業務との関連が認められます。また、発症前六か月間の月平均残業時間が45〜79時間の場合も個別に検討される、すなわち労災と認定されうることになりました。さらに同省は2002年には「過重労働による健康障害防止のための総合対策」を発表しました。これによると、時間外労働は月に四十五時間以内にするべきとされています。さらに、各労働基準監督署が事業所での実情を把握するとともに、過重労働がある場合には、産業医が労働者と面談し、必要な保健指導を行うように指示しました。
すでに紹介したように、うつ病になると希死念慮が出現します。そしてうつ病から回復すると希死念慮はなくなります。患者さんも、「あの当時はどうし
て死にたいと思ったのだろう」などと不思議に感じることもあるようです。実際には、病気のために本来の本人の意思とはいえない状態で自殺する人も少なくないと考えられます。
うつ病による自殺が労災と認定されると、企業のなかでもメンタルヘルスの位置づけが大きく変わってきました。今までは、メンタルヘルスといえば企業にとって福利厚生としての意味合いをもっていました。しかしこれからは、企業が労働災害に対してのリスクマネジメントとしてのメンタルヘルス事業を展開する方向へ向かうことでしょう。
本人の周囲の友人が、うつ病を早期に発見する、あるいはハイリスクな職場に勤務する人がうつ病になる前から定期的にチェックすることはこれまで以上に大切になります。
では、周囲の人が仲間の様子がおかしいと気づいたらどのように対応したらいいでしょうか。第1に本人の話をよく聞いてみることです。「開く」ことは簡単なようでなかなかむずかしいことです。相手が話している間は、たとえそれが正しくなくても自分の意見を先にいってはいけません。平たくいえば、自分の力の及ぶ範囲をわきまえて、余計なアドバイスをしないことが大切です。例えば、シノブさんのようにすでに病院を受診した人に対して、「私は更年期障害だと思う」「薬は癖になるわよ」など根拠のない考えを述べるのは百害あってI利なしです。「自分はこの病気の専門家ではない」という自覚が大変大切なのです。ただ聞いてあげること、そして通院をしやすくしたりするように協力するのも周囲の人の勤めでしょう。

カズオさんとシノブさんのその後

カズオさんは再び会社を休みました。本人は「会社に申し訳ない」という気持ちが強くなり、落ちつかなくなりました。このような状態では家族もカズオさんを放っておけません。妻は、会社とクリニックの先生に連絡をとりました。医者は妻に、カズオさんがうつ病であること、休養と服薬が必要なことを話しました。そこで、妻はカズオさんを連れて再びクリニックに行きました。そこで新しい抗うつ薬、睡眠導入薬と、「休養が必要」という内容の診断書をもらいました。不思議なことに、それまでは会社に自分の病気を知られるのを嫌がったカズオさんは、診断書をもらうと諦めがついたのかかえってほっとしたようでした。妻は会社の上司にも電話で事情を説明し、快く事情を了解してもらいました。
その後カズオさんは家でゆっくりしながら服薬もきちんと行いました。睡眠は数日で回復し、約三週間後には食欲も出て、それまでうるさいだけだったテレビも楽しめるようになりました。さらに約一か月後には自ら「散歩をしてみよう」と思い始めました。それでも朝のうちは体がだるくて頭がぼーっとするため、朝食後は一時間程度の睡眠をとりました。約三か月後には朝もすっきり起きられるようになったため、会社と復職の話をしました。この結果、本人ひとりに負担のかかる仕事からはずれて、不日勤務を行うことになりました。その後、徐々に勤務時間を延ばしていきましたが、特に問題が起きなかったため、約六か月後に負担の軽い別の部署へ移動し、そこで通常業務を行うことになりました。
シノブさんの家族(夫と娘)も、医師に相談に行きました,そこではシノブさんはうつ病であること、うつ病はただの悩みとは違うこと、休養と服薬でよ
くなることを説明されましかツーまた、娘の結婚をめぐる本人の葛藤には、うつ病が治るまでは触れない方がいいこと、「本人の弱さを克服する」という発想
は本人をますます追い詰めるだけで有害無益なことを敦わりました。
家族の勧めと協力もあり、本人は家事を休むことにし、家事は夫と娘が協力して行うことになりました。定期的に通院と服薬もできるようになりました。夫や娘にとっては、シノブさんが憂うつそうな顔をしているのをみることは耐えがたいことでしたが、なんとかのど元まででかかった「がんばれ」
という言葉を飲み込んでいました。
約一か月後には不安感やだるさが徐々にとれてきて、夜は少し気分が楽になりました。二か月後には午後からは笑顔がみられることもあり、食事の後片づけはするようになりました。このころから意欲が出だし夕方には散歩を自ら始めるようになり、四か月後ごろから徐々に家事の負担を増やしていきました。

うつ病の再発予防

カズオさんもシノブさんも、適切な治療と周囲の人々の協力のおかげで健康を回復することができました。しかし、まだ油断は禁物です。今の状態は寛解という状態で、再発をする可能性も高いのです。ではうつ病の再発を予防するにはどうすればよいのでしょうか。
厳密にいうと、うつ病が完全に健康な状態に戻る前に再度悪くなることを再燃とよびます。一度完全によくなったうつ病がある期間を経て再度悪くなることを再発とよびます。しかし実際には、再発と再燃の区別がはっきりしないことも多いので、ここでは両方を再発とよぶことにします。
残念ながら今の医療水準では、うつ病の患者さんが将来再発するかどうかを十分に予測できません。
うつ病が再発しやすい人
生物学的要因
①重症病相の既往
②慢性化したうつ病の既往
③過去2回以上のうつ病の既往歴
④(躁)うつ病の家族歴
心理・社会的.要因
①未婚女性
②経済的困窮
③支援する人の少なさ(夫婦間不和など)
④生活上の変化(職場・家庭など)
⑤(病的の)社会適応の悪さ
うつ病再発防止で気をつけること
1.服薬を納得すること
2.自分の性格を知ること
3.家族関係の調整
4.ストレスの軽減
5.「予備力」を残す
6.日常生活管理ー生活リズム、食習慣、日光浴、音楽など
7.新しい集団のなかでの体験をもつ
8.社会復帰スケジュールの作成
これらの傾向をもつ人は、すぐに治療を止めずに、長い間治療をつづける必要があります。
再発を予防するうえで人切なことは、第1に、患者さんが納得して服薬することです。読者の皆さんが一番疑問に思うのは、「うつ病がよくなってからいつごろまで薬を飲みつづければいいのか」という問題でしょう。
せっかく改節したうつ病がぶり返しやすいのは、よくなってから1〜4か月の間といわれています。そこで、少なくとも四か月以・には服薬することが好ましいといわれています。WHOでは、うつ病の改善後少なくとも六か月は薬を飲みつづけ、さらに六か月は定期的に通院することが望ましいとしています。また同時に、うつ病の改善後二年間にわたり寛解状態がつづけば薬を止めることを考えてもよいとしています。
これまでのさまざまな研究でも、再発防止のためには、抗うつ薬はうつ病治療の時期と同じ量(減量しない)を少なくとも四〜六か月は服用することを勧めています。また、抗うつ薬は二、三年服用することが再発予防に有用とされています。いくら調子がよくてもあせって薬を減らさないことがいかに大切かおわかりいただけたでしょうか。
大切なことの第2のポイントとしては、自分の性格を今まで以上に知ることも含まれるでしょう。
医師や臨床心理士など専門家との共同作業で、今の生活で自分の置かれた状況とこれまでに歩んできた道のりを振り返って、患者さんが物事に執着する事実を明らかにするのは大変意味のあることです。
うつ病の患者さんは、過去の不幸や失敗が繰り返されることを恐れています。無意識のうちに「自分のしていることは不十分だ」という前提のもとに生きています。このために、幼児期から人に甘えず、周囲の期待に沿うことにより、周囲の人からほめられたり頼られることで自尊心を維持する傾向があります。他人がどう思うかということ以上に、自分自身の評価が大切であることを知ることがうつ病の再発を防ぐためには必要でしょう。
「自分をよく知る」作業は、基本的には本人が主体的に行うものです。専門家は本人の主体的解決を援助することしかできません。ある意味では患者さんが一生をかけて行う営みといえるでしょう。
第3に、家族関係の調整も再発予防には大切です。他人には甘えないうつ病の人も自分の身内に対しては頑固・わがままで、執拗に保証を求める傾向があります。これが高じると周囲の人は息苦しさを感じてしまいます。事実、うつ病患者の夫婦は、外科患者の夫婦に比べて、お互いにより敵意を示しやすく、相手をコントロールしようとする傾向が高いことが指摘されています。またうつ病患者と同居する成人家族の四〇%以上が精神医学的な治療を必要とするという報告すらあります。特に、家族が患者に対して批判的な言動の多い場合は、通常の家族と比べてうつ病の再発率が約三倍にものぼるという報告があります。また、ささいな批判的言動で再発しやすいのもうつ病の特色です。シノブさんの家族がこのようなリスクをもっているといえます。夫婦関係がうまくいかなくなっているときは、その夫婦が「私たち」という感覚をもてることを目標にして向き合うことが大切といわれています。具体的には、夫婦がお互いの感情や問題について支持的にかつ自由に話し合うのです。そうはいっても、夫婦がにわかにお互い向き合って話し合うのはむずかしいものです。そこでうつ病が寛解した後も家族へのサポートは継続的に必要といえます。
うつ病の人がいくら自己評価が低くても、不幸なことが起こるたびに病気が再発するとは限りません。再発に大きな役割を演じるのは、長くつづく精神的な緊張です。過重な労働(労働の質・量どちらでも起こりえます)、職場の人間関係、夫婦関係、嫁姑関係、最近では不況に関連したリストラの問題など、われわれの周りには常に緊張を強いる状態は数多くあります。このようなストレスをコントロールできればうつ病にかかりにくくなることが予想されます。これがうつ病を予防する第4のポイントです。
うつ病の患者さんの行動パターンとして、周囲の期待に応えようとして目的に向かって全力をつくすという傾向があります。うつ病の人は無趣味な人も多く、これらの人に「何か趣味をもったら」といってもあまり効果はありません。うつ病の人は、自分のもっている力の多くを他人の評価を得るために使ってしまっているので、余裕の持ち合わせがなくなってしまうのです。そこで、何をするにも六、七割のエネルギーで行い、いつも予備の力をもつことが大切です。少しむずかしい表現をすれば、「世俗的な価値観から距離を置き、生活の幅を広げる」と表現できます。これが再発予防に関する第5のポイントです。
第6番目は、日常生活で行えるものです。生活を規則正しくし、睡眠・覚醒時間、食事時間などを一定にするといいでしょう。適度に運動をし、アルコール、タバコ、カフェインなど精神機能・自律神経機能に影響の多い物質はなるべく控えましょう。ちなみに、飲酒習慣は抑うつ症状(うつ病とは限りません)の予防にはある程度有効ですが、すでにうつ症状をもっている人に対しては、抑うつ症状を長期化させる可能性が指摘されています。食事では、セロトニンの原料となるトリプトファンを含む食品をとるといいかもしれません。卵黄、牛乳、チーズ、アーモンド、バナナ、きな粉などには多くのトリプトファンが含まれています。また、日照時間が少ない季節にうつ病になりやすいこともあるので、朝方日光を浴びることでうつ病になりにくくなる可能性があります。古くから音楽の心身に対する影響も指摘されています。音楽は人体の隅々まで作用するため、その効果を直接測定することはなかなかむずかしいものです。しかし、多くの健常者が音楽に触れることにより気分を落ちつけるのと同様に、うつ病の再発予防でも、不快な気分やイメージを好きな音楽で軽減することは手軽で、
経験上からも有効な方法といえるでしょう。
第7にうつ病が慢性化すると、症状はよくなったのに、人格が変化して以前と比べて極端に依存的になることがあります。このようなときには、心を許せる仲間と接する時間を設けて、そのなかで過去の自分を思い出しながらこれからの役割を考えるとよい場合があります。
第8に、社会復帰に際しては、①病前性格について、②何がストレスになったか、③一社会復帰をしたときにそのストレスはかからないか、④ストレスがとれないときにはどうするか、などを事前に主治医と話し合い、方針を立てる必要があります。あせる人にはブレーキをかけ、躊躇する人には軽く背中を押すくらいのさじ加減がとられることが多いのです。
このように、うつ病の再発を予防するには日常生活の身近なリズムからその人が生きていくうえでの価値観までさまざまなレベルでの調整が必要です。患者さんひとりでは困難なことも多く、再発予防の過程で多くの支援を必要とします。読者であるあなたはもちろんのこと、あなたの家族や友人がうつ病になる確率は無視できない数字なのです。
うつ病になったからといって、「精神病だ」とか「治らない」などという暗いイメージをもつ必要はありません。しかし、「うつ病は心の風邪」で何もしなくてもすぐ治るというイメージをもつのも困りものです。なぜならば、うつ病は.肖発しやすいのに、「すぐ治る」とだけ思っていれば、再発予防がおろそかになるためです。
うつ病は、糖尿病や高血圧と同じように患者数の多い慢性疾忠で、しかも医学的な治療でかなり改善する病気です。読者のみなさんがうつ病の正確な情報を理解すれば、周囲の人がうつ病になったときにその人をサポートできる機会が少なくないと思われます。

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