うつ病

精神科医の選び方

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精神科医の選び方

最初はどこでみてもらうか

ノイローゼであれ、うつ病であれ、心の悩みは必ず体の不調を伴うものです。そこで、心の悩みの有無にかかわらず、体の不調感を訴えて、まず最寄りの医師にみてもらえばよいのです。
これがいつものかかりつけの医師で、自分のことや自分の家族のことをよく知ってくれている医師なら最適です。医師によってプライバシーが侵害されると考える人がいるかもしれませんが、自分をとりまく環境などの情報を知ってもらうことは、適切な診断を下すためにぜひ必要なことなのです。
同じようなことは、会社の診療所についてもいえます。ビジネスマンは時間的な制約もあって、会社の診療所を頼ることが多いのですが、かぜなどと違って、心の悩みが根底にあるかもしれないと思われるときには、なかなか会社の診療所を利用したがらないものです。自分の昇進や人間関係にマイナスになると判断してのことでしょうが、医師は患者の意思に反してまで、不利益になることを第三者に告げるようなことはありませんから、安心してみてもらってください。医師には守秘義務があるのです。
家庭医、またはかかりつけの診療所では、問診や、必要があれば体のチエックをし、簡単な検査を行います。とりあえず身体症状を改善するための服薬を指示されることがあるかもしれません。
しかし身体的に何も問題がないことが明らかになったあとにも、自覚症状がとれない場合には、心の病いの存在を考えないといけません。その段階で、家庭医や診療所は、遣切な精神科の病院や医院を紹介してくれるはずです。
アメリカやイギリスでは、医学上の問題についてどんなことでも相談できる窓口として家庭医が存在します。各医科大学には、家庭医を養成する部門があり、医学部の学生のほとんどが卒業後、まずこのコースをとります。約10年前、私はこの制度を視察した経験がありますが、家庭医養成のための教育のうち、1/4から1/3は精神医学の研修にあてられていました。
つまり、アメリカやイギリスの家庭医は、精神医学の素養を備えた内科医であるといえるのです。
日本ではこのような制度ができていないので、個々の医師の努力に期待しなければならないのが現状です。わが国でも、このような医師が医療の第一線で活躍する時代が早くくることを期待したいと思います。

精神科医を紹介してもらったら

初めてみてもらった医師は自分の治療範囲を超えると判断したら、専門医を紹介してくれるはずです。心の病いを扱うのは精神科ですが、心身症のように身体的な症状が前面に出ている場合は、心身両面をみる心療内科のある医療機関で診察を受けてもよいでしょう。
神経症の場合は、みずからが悩む、あるいは過剰な不安を持つことに特徴があるので、自分から進んで相談や診察を受けようとする姿勢があります。しかし、病気によっては受診をいやがることもありますが、その場合は家族の対応に影響されやすいので、家族の判断がたいせつです。
治療が遅れると、以後の病状を左右することにもなりかねません。よく説得して、受診させるようにすべきですが、どうしてもだめな場合は、家族だけでも医師に相談して、指示を得るようにしたいものです。
新しい医師を紹介してもらうときは、必ず紹介状をもらってください。
紹介状の中には、いままでの病状の経過や検査結果、治療内容が書かれていると思います。もし、紹介状がなく、いままでのことを知らないまま診断を始めると、経過を聞き出すために長時間を要し、場合によっては再度同じ検査をしなくてはならず、患者にとっても医師にとっても多くのムダを費やすことになります。
また、患者の口を通して話されることが必ずしも必要な客観的事実ばかりではないので、医師はその中から必要な情報を取捨選択しなくてはなりません。もし可能であれば、いままでの症状経過のメモを作成して医師に渡すのはよいことです。
紹介された医師のところを最初に訪れるときは、なるべく家族が付き添うようにしましょう。医師が患者本人から得られる情報は全体の1/3程度といわれます。残りの2/3は家族の情報と患者の自覚症状とが半分ずつを占めると私は考えています。家族の情報は診断のうえで欠かせないものです。
次にたいせつなのは、現在服用中の薬を医師に知らせることです。このためにも紹介状が必要です。また、ほかにも治療中の病気があって服用している薬があれば、すべて報告してください。一般医や本人が、心の悩みとは全く関係がないと思っている薬剤でも、その服用が心の働きを乱している例は少なくないのです。

よい医師、よい病院とは

心の病気をとり扱う医師として、よい医師とはどんな医師であるのか、この質問に正しい答えが出せる者はいないと思います。よい医師としての条件にはいくつかあると思いますが、その中のどの点がたいせつと考えるかは、個人個人によって異なるからです。
そこで、ここでは私が考えるよい医師の条件をあげてみようと思います。
⑴患者の立場をよく理解できる医師
1人の人間としての患者の立場を理解できることがたいせつです。これは、医学的に正しい診断ができる能力とは違います。医学的診断や治療はじょうずでも、良医でない医師もいます。そういえば読者のかたも少し理解を深めていただけるのではないでしょうか。
さらにつけ加えるなら、よい医師の第一条件は、人間性豊かな医師ともいえるのです。
⑵相性のよい医師
人と人との間に問題が起こり、それを楽しみ、かつ悩むのが人間です。人と人との関係は、どちらに原因があるというわけでもないのに、しっくりいかないということはありうることです。いわゆる相性が悪いという状態です。心の悩みを問題とする医師と患者の間では相性のよしあしが治療の成果を左右することもあるのです。
精神科の治療の中には精神療法という部分があり、これは信頼された医師と患者の関係を基本においてのみ成り立つものです。信頼されない者同士では、心の悩みを解決する共同作業イコール精神療法を行うことは不可能なのです。
もし、紹介してもらった精神科医が自分とは合いそうもないと思ったら、もう一度家庭医と相談して、精神科医を選び直すことも一度は必要でしょう。しかし、このようなことでたびたび医師の間を渡り歩く患者になると、たいていの医師は相手にしてくれなくなります。
⑶勉強している医師
精神医学に限りませんが、現代の医学の進歩には目覚ましいものがあります。その中でも精神医学の分野は日々進んでいます。心の病気の大きな部分を占めていた神経症(ノイローゼ)という項目さえ消えかかっているのも、多数の研究結果に由来しています。
薬物療法に関しても、脳の働きに由来する心の悩みについての精神薬理学的研究が進歩し、薬物療法はきめのこまかいものになってきました。それに対応するためには、精神科医は常に勉強しなくてはならないのです。そして常に新しい知識を身につけていなければならないので、これは精神科医としてきわめてたいせつなことなのです。
では、以上のような条件を備えたよい医師はどこにいるのでしょうか。正解はありません。
ただいえることは、医師と患者の関係はきわめてパーソナルなもので、個人対個人の関係であり、個人対病院でも、個人対組織でもないのです。いくらりっぱな建物を構えていても、大きな組織であっても、そこにいる医師がよい医師であるとは限りません。
近い将来に医師過剰といわれる時代が到来しようとしています。そのような事態になればますます医師選びはむずかしくなるでしょう。そこで、ある特定の地域に限って、医学的問題をかかえている人に、よい医師・適切な医師を推薦する役目を持つコンサルタントが必要な時代が来ると思われます。このコンサルタント業務は、経験豊かな医師が行うのが最も望ましいことです。
しかし現状では、一般の人が医師のよしあしについて情報を得るのはなかなかむずかしいでしょう。少し回りくどいようでも、ふだんから家庭医とのよい関係を持ちつづけ、きちんとした人間関係を築いておくことが最良の方法と思います。そのような家庭医なら、自分の患者を自分が信頼していない専門医に紹介するようなことはありません。もし、家庭医が精神科医を知人として持っていなくても、間接的にでもよい医師をみつけてくれるものです。
質のよい医療を求めるためには、平素からの心がけと、わずらわしく思える紹介状という手順が必要です。紹介状は、通貨のようにたいせつなものと思ってください。

医師をかえたいとき

紹介状があってもなくても、医師と患者との出会いは偶然的なもので、ゼロの状態から新たな人間関係をつくり出さなくてはなりません。医師がどんなに誠意を持って、最新の治療をし、一方で患者が精いっぱいその治療を受け入れようとしても、どうにも歯車がかみ合わないということは、しばしば起こります。
科学的には説明できなくても、人間と人間とのつながりは非常にメンタルな部分に左右されますから、いわゆる相性が悪い場合には、お互いの努力が報われない結果に終わることも出てくるでしょう。
せっかく紹介状をもらったのだからと遠慮をして通院しても、このような場合は思うような成果が上がりませんし、いつとはなしに通院の足が遠のくことにもなります。私も、このようなことは何度も経験しています。
患者も家族もともに相性が悪いと感じたら、遠慮せずに紹介してもらった医師に相談して、主治医を選びかえることも必要です。患者には医師を選ぶ権利があるのですから。
これは、どの専門医にもあてはまることですが、ことに精神科の場合は、いわゆる精神療法が治療上の大きなウエートを占めているからです。精神療法はお互いの信頼関係がなくては成立しません。遠慮や疑心がある表面的な人間関係では、精神療法は成り立たないのです。
その意味で、たびたび担当医がかわるような病院は、たとえどんなにりっぱな設備のある病院であろうと、最初から避けたほうがよいでしょう。心の病気は、治るまでにある程度の期間が必要です。いったんは治っても、その後の再発予防に至るまで長い間のフオローがありますから、その間の継続的な治療を1人の医師で行えることが望ましいと思います。外来治療のたびに担当者がかわったり、しょっちゅう医師の異動があるような病院では、よい治療は受けら
れないことが多いといっても過言ではないのです。逆に、どんなに小さな診療所でも、自分と相性のよい、いつも決まった精神科医に治療を受けることができれば、そこはよい医療機関です。
それでは私の勤務する病院では、その点で理想的な医療が行われているかと問われますと、現実にはなかなかそのとおりというわけにはいきません。大学病院や基幹病院は医育機関でもあり、若い医師を養成する義務を持っているの
が現状です。この場合は若い医師がローテーシヨンで研修しますから、主治医の交代が起こります。私どもの病院も例外ではありません。そこで主治医の交代がやむをえない場合には患者さんに事情をよく説明して了解を得る努力をしています。
やはり、どうしても転医すると決めたら、かってに治療をやめるのでなく、前医から、次の主治医への紹介状を書いてもらってください。これは、新しい治療を早く軌道に乗せるためにどうしても必要なことです。もし紹介状なしで、新たな医師に受診した場合には、また1から治療や検査をやり直さなければならず、非常にムダな時間と費用を費やすことになります。
転勤や引っ越しなどで主治医をやむをえずかわる場合も同様です。必ず紹介状をもらってから転医するようにしましょう。

入院が必要な時

最近は心の病気の大多数は外来治療で治すことができるようになってきました。しかし、中には種々の理由から入院治療が必要になる場合もあります。
精神科に入院するということに、多くの人が拒絶反応を示すのを、私は長年の経験で知っています。入院を社会からの隔絶や逃避ととらえたり、マスコミなどの無責任な報道で精神科病棟をこわいところととらえているせいかと思います。家族が示す有言、無言のおそれが患者に影響することもあるでしょう。
ところが、入院することで、さまざまなストレスから解放され、病状が好転する例は非常に多いのです。一時的にせよ、生活や仕事の悩みや問題から切り離されることで、すべての物事が好転していく様子を私はたびたび経験しています。
もし、医師から入院治療の話があったときは、患者と家族、医師の三者で十分に話し合って、前向きに対処してほしいと思います。
どんな場合に入院治療が必要となるのか、私の経験から説明してみます。
⑴病気が重症で、体の衰弱が著しく、通院が不可能なとき。
老年期のうつ病などでよく起こる症状です。
うつ病で食欲がなくなると、高齢者では容易に脱水症状を起こし、危険な状態になります。
⑵不安や焦燥感が強く、昼夜を問わず動き回るようなとき。
部屋の内外を徘徊したり、予測のつかぬ行動に出るときは、家族の者だけでは看護ができなくなります。噪状態では社会に不適応な行動が起こることもあります。
⑶外来での薬物療法では症状のコントロールがむずかしいとき。
1種類の薬剤の普通量の投与で症状が改善する割合は、向精神薬(抗不安薬、抗うつ薬、抗精神病薬)の場合で70%といわれています。普通量で反応が悪い場合は、さらに高用量の投与が必要になってきます。この場合には副作用が強く発現する可能性があるので十分注意しなければならず、外来治療ではむずかしくなることも起きるのです。また、病状によっては、抗うつ薬と抗精神病薬を併用したり、複数の薬を投与しなくてはならない場合や、ある種の薬を投与しても無効なばかりか、かえって症状が悪化することもあります。このような場合は、複雑な配慮や副作用のコントロールが必要で、外来治療ではむずかしいことになります。
⑷合併症があるとき。
心の病気と糖尿病や高血圧などを合併することは多く、また、慢性疾患があると心の病気が発症しやすくなることもあります。このような場合は、複数の病気の治療を同時に行わなければなりません。ところが、多種類の薬を同時に使うと、お互いの薬が作用し合って、思いがけない副作用が起きたり、作用が強すぎたり、逆に効かなかったりということが起こります。これを薬の相互作用といい、まれには危険な状態に陥ることもあります。このような場合には、総合病院や大学病院に入院して、各科の医師が協力し、連絡をとり合って治療をする必要があります。
⑸医師の指示が守れないとき。
異常とも思えるほどに副作用を恐れて、どうしても薬を服用しなかったり、家族が協力しない例がときどきあります。
投薬しても少しもよくならない患者さんに、よく聞いてみると、指示された薬を半分しか服用しなかったり、ひどいときは全然服用しない、ちょっと気分がよくなったからと以後は服用を中止してしまったりというような例はよくみられます。どうしても医師の指示が守れないときは、入院をすすめることもあります。
⑹家族が協力的でないとき。
心の病いの発症原因にはまだわからないことも多いのですが、環境が関与していることはまちがいありません。そこで治療には医師の努力とともに、家族の協力が不可欠です。医師が指導しても、家族の様子に変化がなく、家族が患者さんにあたたかい寛容な態度で臨まず、冷たい態度を示すときには、入院治療が効果的です。家族から離れて治療を受けると、どんどん好転する例をときどき経験します。
最後に、自殺のおそれがある患者さんの場合ですが、この場合には必ず入院しなければならないということはありません。家庭環境がよい場合には、外来治療のほうが安全でかつ十分な
効果を上げることができることもあります。

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