うつ病

家族は患者をどう支えたらいいか

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家族は患者をどう支えたらいいか

患者と家族の関係

自分の家族が心を病んでいると知ったとき、ほとんどの人は非常な衝撃を覚えます。自分に責任があるのではないか、遺伝病なのだろうか、もうふつうの生活は送れないのではないか、経済的なことはどうしよう、などということが頭の中を駆けめぐります。かと思うと、世間体が悪いとか、子どもたちの結婚や本人の結婚に差し支えるから隠しておいたほうがいいだろうかとか、なぜ自分の家族だけこんな目にあわなくてはならないのだろうかとか、ほんとうに病気なのだろうか、病院の先生はおおげさすぎないだろうかといった疑問や不安も次々に押し寄せてきます。
しかし、こうした不安や悩みは、病気をよく知らないために起こる部分もかなりあります。家族はまず、本人の病気を正しく識ることから勉強を始めてほしいものです。もっとも本に書いてあることは、どく一般的なことが多く、個々のケースにあてはまらないことや、もっと深く知りたいと思うこともたくさんあるでしょう。そのようなことは主治医にどんどん質問してください。家族が患者のためになりたいと努力している姿をみて、腹を立てたりめんどうがる医師はひとりもいないと信じます。
精神科の病気に限りませんが、病気が長引いたり、繰り返したり、軽くなってくるにつれ、周囲の人からみると、少しも病気のようにみえず、もうよくなっているのにいつまでもぶらぶらしている、これは怠けやわがままなのではないかとか、もうちょっと努力するべきだ、などと思ってしまいがちです。しかし、そのようにみえるのも、病気の波であったり、薄皮を1枚ずつはぐように少しずつ回復している重大な時期であることを、家族のかたはぜひ理解してあげなければなりません。このようなことも、病気のプロセスとわかれば耐えやすいのですが、知らなければ耐えがたく感じられるものです。
心の病気を持つ患者さんの家族が忘れてはならない最も重要なことは、家族関係が病気の経過に大きく影響するということです。
イギリスを中心とした多くの研究に、家族が患者にどう影響するかをテーマにしたものが目立ちますが、それによると、EE家族(EX‐pressed Emotion Family)といって、明らかに悪影響を及ぼす家族グループがあることが指摘されています。このような家族は、⑴家族が患者に感情をあらわにして話し、⑵患者のやることを批評したり、批判したりします。研究は主として精神分裂病患者とその家族を対象にしていますが、近年、神経症やうつ病など、ほかの多くの心の病気でも、EE家族が、病気の経過に悪い影響を与えていることが、しだいに明らかになってきています。
このような家族では、家族の接し方や考え方、感情などがストレートに患者の病状に影響を与えます。見方を変えれば、家族の中での精神的な問題が、そのうちのいちばん弱い人にしわ寄せされて症状としてあらわれているとさえいえると思います。EE家族ほどに極端ではないにせよ、患者と家族は互いに影響し合っていることは事実です。
このEE家族とは全く逆に、家族のサポートを得て、心の病いが治った例もたくさんあります。多くの家族のご苦労を私は迪日みていますが、中でも家族の支えがきわ立って優秀だった例を紹介してみましょう。
患者は一部上場の大きな鉄骨機械メーカーの社長でしたが、すでに5年にもわたってうつ病で悩んでいるとのことでした。眠れずに気分が沈み、何をする意欲もなくなって会社を1週間ばかり休み、家で静養するということを繰り返していましたが、病状が思わしくないとの訴えで、私のところへ紹介状を持って転医してこられたのです。
治療にあたって、いままでの経過がわかれば、これからの治療がスムーズに始められてとても助かると患者さんに伝えました。すると、次回は奥さんがいっしょに来院し、それまでの経過を克明に記録七たノートを私に見せてくださいました。なんとそのノートには、過去の症状と治療の内容が実にきちんと整理して書かれていたのです。専門家でもできないくらい、正確に観察し、しかも家族の情愛にあふれたその記録に、私はたいへん感動し、また助けられました。このノートのおかげで、私どもでの治療は順調にスタートすることができたのです。
その後、何度かの症状の繰り返しをへて、しだいに病状は軽くなっていきました。受診と受診の間でも、困ったことがあれば電話をもらい、私が指示を出して、それを実行してもらったこともたびたびありました。いつもゆったりと包容力豊かに患者を見守っている奥さんの姿に、逆にこちらが励まされる思いもしたものです。そのせいか治療効果がしだいに上がり、受診と受診の間は少しずつ延びていきました。会社の仕事も自分の状態に合わせてうまく処理するよう助言し、やがて長男に社長を譲り、自分は会長として余裕のある生活をするようになり、最終的には、うつ病の症状は消失しました。
私とのつきあいは計15年にも及びましたが、その間の奥さんのサポートぶりは実にたいしたものでした。患者はいつも奥さんのことを「私の看護婦」といい、「自分は看護婦のいうとおりにしているのだ」と笑っていましたが、全面的に信頼していたようです。
この例は、家族の支えでうつ病をうまく克服した成功例です。
時がたって、患者がほかの病気で亡くなられたとき、奥さんは、家族の支えが心を病む人にとってどんなに重要なものであるかを、しみじみと語ってくださいました。私にとって忘れられない症例です。

家族に何ができるか

心の病気に限りませんが、家族の1人が病気になると残りの家族は大きな影響を受けます。このとき家族のとる態度は大別して二つあると思われます。一つは家族が患者を無視して患者抜きの生活をつくるパターン、もう一つは患者を中心に生活していくパターンです。多くの場合はこの両極端をミックスして、家族の気持ちは揺れ動くことでしょう。家族のひとりひとりによって対応がバラバーフというケースもよく見受けます。
患者はひとりぼっちになればまナます症状を強めていきますが、他の家族の生活は守られます。患者を中心にした生活は、見方を変えれば患者に振り回される生活かもしれません。
ほかの病気の場合と同様に、負担はより多く女性にかかってきます。患者は依存的で要求が多く自己中心的で、よくならないとくどくどと不調を訴えたり、そうかと思うと攻撃的になって病気の種類によっては暴力をふるったりもします。病気とわかってはいても、家族もうんざりしたり、いらいらしたり非難したくなるのも無理はありません。そのため、体の病気を持つ人の家族と同様に、心の病人を持つ家族も、心身の不調症状を持っている割合が一般より高いといわれています。どんなに愛情と忍耐を持って臨んでも、限界はあります。
あるときは悲観的になったり、あるいは疲れ切ってしまい、家族にも治療が必要となったケースを私はたびたび経験しています。 患者が高齢者の場合には、ひとりぽっちになってしまうことがしばしばあります。
子どもが患者の場合は、家族が各自の生活を多少犠牲にしてでも、子どもを中心に生活していくことが多いようです。
父親、もしくは夫が患者の場合は、いろいろな意味でゼフゼフの不安定な家庭になりがちです。経済的な問題もあるし、患者本人が病気だと認識しないときには、予おくれになることもあります。
母親、もしくは妻が患者の場合は、日常生活への影響はもっと深刻になるでしょう。毎日の生活のめんどうを見る人がいないうえ、患者の世話をする人も多くの場合手薄で、家族共倒れの危機もはらんでいます。
いずれにしても家族は、自分のできる範囲で患者の苦しみを理解し、共感を持ち、いたわりながら、一つ一つの具体的な問題を処理していかなければなりません。
あなたが家族構成上のどの立場にあっても、困ったことがあれば、それを乗り越えるため、また、患者や患者をとり巻く他の家族のために相談相手になってください。そうすることで家族自身の相互の悩みも軽くしていくことができると信じています。
以下、代表的な心の病気について、もう少し具体的に話を進めてみますが、それでも各自のケースからみるとまだまだ生ぬるくて不満が残るのではないかと危惧しています。足りないところは、各自、主治医と話し合って、あるいは各自の創意工夫で補っていただきたいと思います。
医師となんでも話せる間柄になることは、患者だけでなく家族にとっても重要なことです。

うつ状態の看護はどうしたらよいか

初期、極期の看護
うつ状態の人は、長い長いトンネルに入って、しかも絶対に出られないと感じているようなものだといわれます。このような状態のときに、薬を服用して休んでいれば必ず治るということを、医師が繰り返し話したとしても、わかってもらうのはとてもむずかしいことです。理解してもらうためには、家族の協力がぜひとも必要です。医師のいうことには半信半疑でも、家族のあたたかい呼びかけを待っている人は多いものです。
しかし、病気のときの憂うつは、ふつうの憂うつとは性質も程度も大いに異なりますから、自分の経験から推察して、たいしたことはないからがんばれとか、気の持ちようでよくなるなどという励ましは絶対にいわないでください。
患者は、周りの人にわかってもらえないことでいっそう苦しむのですから、批判や説教などはいっさいタブーです。
しかも本人は病気とは思えなくて、自分の努力が足りないとか、能力がない、意志が弱いなどと思って自分を責めます。もともとまじめでがんばりやタイプの人が多いですから、自分が休むと周囲に迷惑をかけると考え、あるいは世間体が悪い、だらしがないなどという理由で、休息したり、精神科を受診することをいやがる傾向が強いのです。そのようなときは家族がストップをかける役目を果たさなくてはなりません。本人がまだまだやれると思っても、家族は
休養をすすめてください。そして、できれば本人の仕事をかわってやります。自営業の場合はもちろん、それ以外でも会合は代理で出る、家族が関係する行事は延ばす、電話はかわって出るといったこまかい配慮が本人にとってはたいへんな休養になるのです。この時期はお見舞いや面会も断ったほうがよいでしょう。
また、この時期は患者になるべく重大な決断をさせないようにします。この先ずっとこのような状態がつづくと考えて、会社や学校をやめたりしたくなるのですが、家族がじょうずに対応して、そのような決定は先に延ばすようにしてください。早まった決定はあとで後悔することが多く、かえって社会復帰の妨げになるからです。
身体的にあまり悪いところがないと、親切心から患者に散歩や運動をすすめることがよくあります。すると、もともとまじめなタイプだけに、そのすすめに乗って無理やり体を動かしてみたりするのですが、いっそう心身が疲れるだけで、ますます気がめいってしまい、そういう自分を責めて病気が悪化します。この時期に、はっぱをかけたり、激励することは、フルマラソンでやっとゴールインした人に、もう1周走れというのと同じだという医師もいます。本人がやりたいように、楽なように生活するのをそっと見守るという態度が必要です。
うつ状態になると自分のことだけで精いっぱいで家族のことに関心がなくなり、セックスにも関心がなくなります。また、あれこれと要求が多くなったり攻撃的になって、家庭内や職場の対人関係でト’フプルを起こしやすくなります。このようなときは、家族も友人もつい感情的になってしまいがちですが、これは病気のせいであると冷静に受け止めていただきたいものです。同じことをくどくどと訴えることも多く、わずらわしいのですが、そのようなとき
は、必ず治るということを繰り返し話してあげてください。
それでも家では休めないようであれば入院することも考えましょう。入院は重症の場合に限らず、自営業や主婦など家では休養をとりにくいときにも必要です。また、家族が看病に疲れ果てたときに緊急避難的に入院を活用してもよいのです。入院しただけで非常に症状が好転する患者さんは多いものです。
中等症以上のうつ状態では、ほとんどの人に自殺の考えが起こります。自殺が起こりやすいのは不眠が強いときや早朝に目が覚めてしまって苦しいとき、不安やいらいらが強いときですが、これを予防するには説得だけでは無理で、十分な薬による治療が必要です。うつ状態の人は事前に死にたいと大騒ぎすることはないので、重大なサインを見のがすことがあるのですが、眠れない、疲れた、体の調子が悪いというような訴えがふえてきたら、ただちに主治医に連絡をとってください。
もちろん、このような状態のときは、家族との心のきずなが、より重要です。心身ともにひとりにしないで、患者の苦しみを理解してあげましょう。うつ状態を抜け出した人から、家族のことを考えて自殺を思いとどまったという告白を聞かされることが再三あります。事実、お年寄り、アルコール依存のある人、単身者、家族との心のつながりの乏しい人などに自殺の多い傾向があります。また、マタニティー・ブルーは産後の抑うつ状態をいいますが、高じると自殺率が高く、親子心中のおそれもあります。
睡眠薬などを大量に飲んで自殺をはかったときは、救急病院へ連絡し、主治医にも連絡をとります。飲み残しなどから服用量がわかれば治療の助けになるでしょう。幸い一命をとり止めても、けっして問い詰めたり、説教をしないように。一度自殺をはかった人は繰り返しやすい傾向があります。救急病院に入院したときは、家族は自殺を認めたくないためなるべく早く退院させようとしますが、再び自殺をはかるおそれがあって危険です。十分に休養をとって落ち着いてから帰宅したほうがよいと思います。

回復期の看護

うつ状態の回復には人によって差があり、治りかけたようにみえても、また悪くなるといった、波の揺れが大きいことがよくあります。
こういう時期が長くつづくと、家族もあせりの気持ちが出てきて、いらいらしたり、やはり全快することはないのではないかと悲観したりします。しかし本人はもっと苦しいのです。明日こそはと思っても、翌朝になると相変わらずおっくうで人に会いたくない、おもしろくも楽しくもない、とても出社できそうもない、やっぱり自分はだめな人間なのだと落ち込みます。
あるいは、きょうはよいのに、翌日はだめだったり、午後からはよいのに、翌朝になると出勤の決心がつかないというぐあいです。まるで逃避のように思えて、つい激励したくなります。しかし激励されたりプレッシャーをかけられるたびに患者の心は苦しくなり、病気は再び悪化するということを忘れないでください。
もし、本人があせっていて、十分に治っていないのに社会復帰をしようとしているのであれば、ブレーキをかけることも必要です。
もうほとんど出口まできているのに、出口がみえないこの時期は、本人も家族もあせりで傷つきやすくなっています。必ず治る、必ず出口に到達するということを繰り返し話してください。この時期を春が来る前の三寒四温にたとえる人もいます。「冬来たりなば、春遠からじ」という心境で、間もなく来る春を待ってください。本人がよくなったと思えないのに、周りからよくなったということは禁物です。
では、ほんとうによくなった状態とはどんな状態なのでしょうか。一般には、朝の目覚めがよく、食欲があり、以前関心があったことに興味が出るようになれば、社会復帰が近いと考えてよいでしょう。テレビをみて楽しめ、食べたいものがイメージでき、セックスに対する関心が回復し、女性なら買い物をしたくなったりお化粧に関心を持つようになれば、治った状態とみてよいと思います。
しかし、こうなってもすぐには社会復帰せず、しばらく様子をみたほうがよいでしょう。病気の原因が仕事や職場にあると思われるときは、転職や配置がえを申し出てもよいでしょうが、原則的には元の職場に戻るのがよいと思います。仕事の質を下げられると自尊心が傷つきますし、新しいことに適応するほうが負担が大きいこともあるからです。
主婦や学生の場合も、同じような考え方で対処してください。しばらくは慣らし運転にして、無理なようなら迷わず再び休養します。くれぐれも病気の間の遅れをとり戻そうなどとあせらないことです。
職場でも、最近は心の病気に対する理解が深まってきました。社会復帰後は、本人ー家族ー会社の上司や診療所、そして主治医の連携プレーがうまくいくことが再発防止の大きな力になります。
うつ状態の大部分は、一定期間をへて完全に解消して元に戻ります。しかし、どくまれには軽い不調が何年もつづく場合があり、いわゆる慢性化の道をたどることがあります。この場合は家族の負担は大きくなり、家族の役割も大きくなると心得てください。
慢性化の原因として考えられるのは、
⑴薬や休息が不十分であったり、不規則である場合
⑵社会復帰が早すぎて失敗した場合
⑶高齢者などで脳の老化が進んでいる場合
⑷体に慢性的な病気がある場合
⑸うつ状態の原因になった状況がつづいている場合
⑹心理的に孤独であったり、居場所がないと感じている場合。あるいは生きがいが見いだせない場合
などです。このうち、圓、圓に思い当たることがある場合は、家族としても対応を考え直す必要があるでしょう。
たとえば、配偶者の死亡や退職、夫婦や嫁姑の確執などです。
また、家族はよかれと思って対応しているケースでも、患者を追い詰めている場合もあります。過保護すぎると依存的になるし、親や配偶者があまりに支配的、干渉的、攻撃的であっても病気が慢性化します。一生懸命やっているのに、家族のせいで慢性化するなどといわれては腹も立つでしょうが、万一思い当たることがあれば、考え直してみてください。ともに悩みながら、少し控丸めな協力がよいようです。
家庭外のことに慢性化の原因があれば、家族や本人が考えるふつうの姿を考え直してみます。本来こうあるべきという水準をもうちょっと引き下げてみると、ぐんと気が楽になるものです。あれもできない、これもできないと否定的に判断せず、できることを評価してみましょ
いまの状態で何ができるか、習慣的なことでも趣味的なことでも、やりたいことをさがせるようにサポートしましょう。

再発予防のための看護

いったん治療が終わるとホッとして注意の目が届きにくくなりますが、うつ状態は再発する傾向もある病気です。再発が毎年1回以上起こる場合には、主治医とよく連絡をとって、薬で予防しますが、この場合は副作用の出現を監視するのが家族の役目です。
学校や職場に復帰したあとも、疲れたら早めに休むように助言してください。がんばりすぎないように、自分の力を出しきってしまわないように気をつけてあげてください。
予測される心因、たとえば定年、転居、転勤、法事、入試などについては事前に心の準備をするようサポートし、自分の力以上にがんばらなくてもよいことを認めるように仕向けるのも家族の役目です。
さらに、各人の人生観、価値観を見直すことが必要になる場合もあります。競争社会から抜け出すことを脱落、退却と考えないで、もっとゆとりのある自分なりの価値観をつくり出せば、ストレスの量は減少します。仕事ばかりの人生から、別の生きがいをともにみつけてみましょう。家族でこういうことを自由に話せる雰囲気であれば、悩みがあっても重大にならないうちにだれかに相談できると思います。
どんなに注意をしても、特別の原因もなく再発することがあります。そんな場合は、また本人は自分が病気とは思えなくなって、自分を責め、自分で克服しようとしますから、家族が早く気づいて、医師に受診するようアドバイスする必要があります。うつ状態の再発は、以前の発病のときの症状とよく類似しているものです。一般的には、不眠、食思不振、疲れやすい、朝に憂うつな様子がみられるといったような症状で気がつきます。
ときには噪状態が起こることもありますが、その場合はうつ状態以上に、本人には病気の認識がありません。家族が早めに対処しないと、社会的なトラブルに巻き込まれたり、疲れすぎて身体症状が悪化したりします。

神経症の看護はどうしたらよいか

不安神経症の看護
神経症は心の病いの中では軽症とランクされていますが、病気という認識が強いだけに本人が感じる苦痛は大きいともいえます。
神経症の中でも、不安神経症は比較的治りやすい神経症といわれていますが、初めて患者が不安発作に襲われたら、周囲の人もいっしょになって狼狽してしまうことでしょう。不安感情には、相手を巻き込んでしまう作用があるからです。
急性の不安発作時には、なるべく平静な気持ちでそばに付き添って患者を見守ってあげてください。とはいっても、あわててしまって患者の不安をいっそう強めてしまうケースも多いでしょう。
神経症の不安は正常の不安にくらべるとずっと大きくて、押しつぷされるような感じがします。なるべく誠実にゆったりとした態度で苦しさを受け止めてやり、でも必ず治ることを口に出して保際してやります。日ごろから信頼している家族に治ることを保際してもらうと、患者の気分はだいぶ楽になるものです。
神経症に限りませんが、背中をさすったり、手を握ったりという身体的な接触は、何才になっても効果があります。やさしい言葉とともに抱き締めてあげてください。
不安発作がひどいときは、患者はさまざまな要求を出してきます。病気だからといって家族が要求を受け入れてばかりいるのはあまり望ましい対応とはいえません。あまりに過保護になると、患者は無意識的にせよ、病気を利用して家族を振り回すことになります。
発作のないときに、患者を交えて家族で病気のことを話すのはよいことです。不安神経症は家庭内の情緒的な孤立状態によって発症するという考え方もありますから、発症の原因について家族じゆうで考え合うことも必要でしょう。ここで何か結論が出なくてもかまわないのです。家族が自分といっしょに考えてくれているという一体感を感じることがたいせつなのです。
不安神経症が長引いて慢性化してくると、家族はしだいにあせりを感じて「気のせいだ」とか「甘えている」などと患者をしかりつけたり、批判するようになります。家族の中には患者を無視したり、相手にしなくなる人が出てくるかもしれません。こうした対応は患者の不安感を増強し、孤立感を深めて症状を悪化させます。
神経症では患者のパーソナリティーに匿題があるとはいえ、現実的な社会生活での対応が不可能な状態ではありません。発作のたびに患者の不安を極力努力して理解し、具体的なサポートをしてあげていると、患者にとって心強い安心感が得られるようになります。
そして、不安を受け入れながら苦しんで生活することを、ともに学んでいってほしいと願います。私たちが生きている限り、不安は消し去ることのできないもので、それを克服しながら生活していくことによって人間的な成長をとげることができるのだと考えます。

ヒステリー神経症の看護

ヒステリーという言葉は興味本位に使われることも多く、わがまま病とか仮病と混同される場合もあります。ともすると家族もそういった考え方に巻き込まれがちですから、看護にあたっては、ヒステリー神経症が本人の意思には関係なく起こったものであることを、正しく理解する必要があります。
このことが十分にわかっていないと、患者を指導したり説教したり、あるいは精神修養のような場所に加入することを強制したりといった、まちがった選択をしてしまいます。
ヒステリー性格の人は、自分自身に自信が持てない人が多く、他人に認められ、承認されることでかろうじて自分を支えているという状態なのです。そのため、自分の病気が周りの人に誤解されていると知ったときには、いつそう症状が悪化します。また、自分を傷つける行為を起こしたりします。ヒステリー神経症は病気であることを理解し、愛情を持って看病することが、なによりたいせつなことです。
しかし、心の病いの場合は、病状を正確につかむことがなかなかむずかしいものです。外傷があったり、熱が出たりという病気と違って、目に見えない心の苦しみを他人が推察するのは簡単なことではありません。
ヒステリー性格の人は症状が派手でいろいろな行動を起こすわりには、自分が困っていることを言葉にして相手に伝えるのがへたです。ひとりで心の中に溜め込んで、悩むことが多いのです。そのため家族は本人の心の悩みに気がつかず、つい身体症状や派手な行動のほうに目がいってしまいがちです。このようなときは、患者のおかれている状況をなるべく冷静にくわしく観察し、患者の気持ちをわかってあげるように努力してください。家族が自分のつらさをわかってくれたと感じると、患者は少しずつ心を開いてきます。そうなれば、言葉で悩みを話し始めることでしょう。これはもうりっぱな精神療法でもあるのです。
しかし、症状が長引いたり、繰り返すようになると、家族にもしだいにあせりやあきらめの
感情が起こるようになります。心の病気は治るまでに多少の時間がかかるものであることを知ってください。しかも洽ったことが明確にわかるまでには一進一退をつづけます。その間はじっくりとあたたかく見守ることが必要です。家族が「いつまでぐずぐずしているの」とか「簡単にできることなのにどうしてだめなの」などと不用意な発言をすると、癒えかけていた心の傷が再び悪くなってしまいます。家族のあせりはストレートに本人に伝わりますから、ゆったりとした気持ちで待ってあげてください。
「もう治らないのでは」といった家族のあきらめも、本人に悪い影響を及ぼします。よくなりたい、そのために努力もしようと思っている意欲を失わせるような言動は控えてください。

強迫神経症の看護

強迫神経症の患者は、自分でも変だと思うような考えや行動にとらわれていますから、他人からそのことを指摘されるのをいやがります。本人がこだわっている行動や考え以外にはどくふつうの生活ができるために、自分が病気であることを認めないかもしれません。そんなときは「相談に行こう」という形で受診をすすめてください。それでもだめな場合には、家族だけで相談に行っても、医師は適切なアドバイスをしてくれるはずです。
患者が強迫観念で頭の中がいっぱいになって苦しんでいる様子がみられるときは、「だいじょうぶ」「心配ない」といった、安心できる言葉をかけてやります。このとき家族がいっしょに苦しんでしまうと、症状はいっそう悪くなります。なるべく静かに接し、体を包み込んでやると、一時的とはいえ落ち着きます。このようなときの患者は、どうしてよいかわからないほど不安で、それをどう処理していいかわからない無力感にさいなまれているのです。
何度も強迫行為を繰り返して苦しんでいるときは、とりあえず外からの力で止めてやりたいと思いがちですが、無理やり中断したために、もっと強い不安や興奮が起こることもあります。できれば患者が尊敬している家族、権威のある家族ーたとえば父親など?が行為を止めさせるとよいでしょう。
強迫行為をつづけて疲れ切ってしまったときは、積極的に休むようにサポートします。患者は体みたいけれど、どうしたらよいかわからなくなっていますから、具体的に指示し、誘導してやります。しかし、このときに強迫行動に対する批判などは絶対にいってはいけません。
家族が強迫行為の相手をさせられたときはどうしたらよいでしょう。子どもの強迫行為によくみられるのですが、自分の行為を確認してほしいために、家族を巻き込むことがあります。このようなときは、いきなり断るとパニックになることがありますから、何回かは相手になり、そのあとで「もうだいじょうぶ」といって安心させてやめさせるのがよいでしょう。
それでも患者の不安が去るわけではなく、なぜこんなに苦しむのだろうと悩んでいます。ときには家族にその答えを求めてくるでしょう。
そのときは、家族はいつも患者の味方であって、患者はけっしてひとりぼっちではないことを繰り返し話してください。いっしょになって原因をさがそうとする必要はありません。
病気が長引いてくると、どんなに患者を愛している家族でも、ときに腹立たしくなってしまうこともあるでしょう。また患者にとって何の力にもなっていないのではと感じて無力感に襲われることもあるかと思います。そんなときは家族も疲れ切っているのですから、第三者に助けてもらうことも必要です。だれかかわってもらえる人をさがして、たまには息抜きすることも考えてください。患者と家族の休養のために、一時的な入院を考えても、それはけっして逃避にはなりません。
患者とともに家族も苦しむのは、患者が家族に助けを求めているからです。それを忘れないでいただきたいと思います。
強迫神経症はかなりの率で子どものころから症状が出ているという報告もあります。両親に原因があるのではないかなどと自責的に考える必要はありませんが、両親のどちらかに強迫的傾向があって、それが子どもに向けられて子どもの自律性や自発性を規制してしまうことがないかどうかを冷静に見きわめてみるのもよいことだと思います。

薬物療法をどうサポートするか

すでに何回も述べているように、心の病気を治すためには薬が不可欠です。しかし、一般的風潮として、精神科の薬に対しての拒絶反応が強く、これが治療の妨げになることがよくあります。薬をこわがる理由としては、
⑴心の病気を薬で治せるはずがない
⑵副作用が強いのではないか
⑶依存性があって、一度服用を始めたらやめられなくなるのではないか
というようなことが多いようですが、もっとひどい場合には、薬によって人格が変えられてしまうのではないかとか、いつもポーッとして使いものにならくなるのではというような心配をする家族がいます。家族だけではなく、精神科以外の医師や看護婦でさえ、なるべく薬は服用しないようにといったアドバイスをすることさえあります。
しかし薬は心の病気の治療に欠かせないものです。もし薬なしでいわゆる精神療法だけで治療しようとするならば、多くの患者を苦しめることになり、自殺の危険が非常に高くなります。正しく使えば薬はけっしてこわいものではありません。もちろん人格を傷つけたり、治ったあとで依存性が残って困るというようなこともありません。
医師から薬物療法を行いたいと告げられたら、ぜひ患者さんを説得して医師に協力していただきたいと思います。噪うつ状態などで本人が病気だと自覚していないときには、ことに家族の説得が必要になります。
ところで、薬は服用開始後効果があらわれるまでに少し時間がかかります。睡眠薬や抗不安薬は早く効くのですが、抗うつ薬の場合は、1週間たたないと効果を感じないかもしれません。
薬が効き始めると、ぐんぐん不快な症状が消えていきますから、この分だとIカ月もすれば全快かと期待するのですが、強い症状が消えたあとでも、なんとなくすっきりせず、八分どおりの回復かという状態が長くつづくこともあります。万一、この時期に薬の服用を中断してしまうと、再び強い症状に苦しむことになりますから、くれぐれも注意してください。
依存性を恐れて薬を早くやめたいという気持ちはわかりますが、医師の指示に従って、きちんと服用してください。多少とも依存性のある抗不安薬や睡眠薬は必要がなくなればきっぱりと中止しますが、抗うつ薬は用心しながら少量ずつ減量してやめるのが原則です。その期間は早くても3ヵ月、おそい場合は数年余に及ぶことも珍しくありません。この期間、患者がきちんと薬を服用するためには、どうしても家族のサポートが必要です。高齢者や自殺のおそれがある場合は、薬の管理は家族が行ったほうがよいでしょう。
薬によって副作用の強弱があります。副作用は薬の服用を始めてすぐに起こることもあるので、病気の悪化と考えたり、薬が体に合わないといって服用をやめてしまう人が多いのですが、慣れてくれば症状は消えますから、多少のことなら我慢してつづけてください。高齢者などで症状が強い場合は薬をかえたり、減量してもらいます。まれにはアレルギーによる発疹が出ることもありますから、薬を飲み始めたら最初の1週間は、特に患者の様子に注意してください。おかしいと恩ったら、すぐに主治医に連絡をします。
薬の飲み方などは医師から指示があると思いますが、生活が乱れている場合はなかなか指示どおりにはいかないものです。食後30分などとあっても都合のいいときに服用してもかまわないので、あまり神経質に考えないでください。服用を忘れてしまったら、1回抜けてもしかたないでしょうが、あまりたびたび抜けると効かなくなります。何種類かの薬がいっしょに処方されますが、医師は薬の相互作用などをよく考えて、より効果的にと処方しているのですから、かってに取捨選択しないでください。医師に黙ってかってに薬を選んだり減らしたりすると、正しい治療ができなくなります。
なお、他科で服用している薬があれば、どんなものでも必ず報告してください。
受診の際には、なるべく家族も同行して、薬の効果や副作用を医師に知らせてください。患者は、医師に対する遠慮や、せっかく先生がよくしてくれるのにすまないといった気持ちから、よくなっていないのによいといったりすることがよくあります。この逆のこともあります。
また、家族にはみせない面を医師に出したりすることもあるので、診察中に患者の意外な面を知って、参考になることもあるでしょう。治療はあくまでも患者と家族と医師とがチームを組んで行うものだということを忘れないでください。

家族自信の健康を守るために

医師はどうしても患者の立場に立ちますから、家族に対しては要求することが多く、ときにはプライバシーの侵害ともとれるような批判的なことをいうかもしれません。
そのうえ、家族も今後のことを考えたり、患者の看護などで心身ともに疲れています。世間の無理解に対する気苦労も多いことでしょう。さらに病気が心の病いであれば、こういう家族の悩みを患者と共有できないという淋しさもあります。心ない人から、育て方が悪かったのではとか、だれの遺伝なのだろうといったおせっかいの声が耳に入ることもあるでしょう。
このような状況を抜け出すためには、なるべく多くの人で患者を支えることを考えましょう。自分を責めず、自分ひとりで背負い込まず、自分の健康を考えることです。
病気は患者のせいでもなければ、家族のせいでもありません。しかし、家族の心が不安定では、患者の心の病気はいつまでたっても治らないのだということを第一に考えてみましょう。
週に1回は患者のそばを離れて自分だけの時間を過ごせるように、家族のチームワークを組んでみましょう。家族が非協カ的であれば、その家族を主治医のところに同行して、話し合ってみてもよいでしょう。どうしても無理なら、一時的な入院を考えます。
家族や親族がみんなで患者を支え合えれば理想的ですが、現実はそうもいかないかもしれません。しかし、それが世間体を考えてというようなことであれば再考してみる必要があるでしょう。予どもにはどう知らせたらよいかという相談がときどきありますが、病気だということは知らせて、子どものできる範囲で協力してもらうことがよいと思います。隠し事はいっそうストレスをひどくします。
同じ病気で悩む家族と話し合えるとよいのですが、家族の会のような組織はまだまだ少ないのが実情です。しかし、病院によっては会が結成されていることもあります。待合室などで他の患者と知り合う機会があれば、積極的に活用してもよいでしょう。ただし、心の病気は人によって経過も治療も異なりますから、自分の経験の押しつけにならないよう、またアドバイスを受けるときも個人差のあることに留意して、一定の節度が必要です。
多くの人が善意でさまざまな意見を寄せてくれることも、かえって家族のストレスになることがあります。よく効くという食品や薬、健康法、民間療法などはまだよいとして、宗教のすすめや、先祖のたたり、家相の話などは、聞くほうにとってもかなり負担になるものです。断りきれずにこうした助言を受け入れたために、病気が悪くなった例もたくさんあります。
こういった助言は、多くの場合、善意はあっても精神医学の知識がないために、よくなるどころか、悪くなることも多いのです。ことに祈禧や精神修養的な施設は危険です。どうか、冷静に対応してほしいと思います。
もちろん家族が、正しい信仰を心の支えにすることはよいことで、なんの問題もありません。
経済的なことをはじめ、家族だけでは解決できない限題が生じた場合は、保健所や福祉事務所に相談してみましょう。病院によっては院内にケースワーカーやソーシャルワーカーがいて、さまざまな相談に乗ってくれます。ヘルパーさんを頼めることもありますし、各種の福祉制度が利用できるかもしれません。これらは、自分から申し込まない限り利用できないものですから、積極的に活用したいものです。

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