うつ病

新しい種類の「うつ病」

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新しいタイプのうつ病

うつ病の増加によるニッポンの損失
「うつ病は増えている!」と言われて、みなさんはどんな印象を持ちますか?
「まあ、たしかに会社でも『うつ』で休んでいる人がけっこういるな」とか「うつ病による自殺の話を週刊誌で読んだ」とか「そういえば、このあいだ駅前にできた心療内科、けっこう繁盛しているみたいだな」とか……。
会社の上司・同僚・部下、親戚縁者、近所の方、友人、友人の友人などなど、探してみれば、あなたのまわりに「うつ病」患者さんが一人はいるのではないですか? いると思いますよ(もっとも、いない人はこの本をスルーしているでしょうが……)。
でも、「うつ病」って、こんなに多い病気でしたっけ?
えっ、専門家じゃないからわからない? その通りでした。じゃあ、専門家に聞いてみましょうか。私の印象では、おそらく同業者(精神科医)100人に聞いたら、95人くらいは、「昔に比べてうつ病の患者さんは増えている」と言うでしょう。天下の厚生労働省も、うつ病が増えているというデータを公開しています。
では、なぜうつ病が増えたのか?
説はいろいろあります。もっともまことしやかに言われているのは、「バブル崩壊後の不況や、さまざまなストレス要因が引き金になっている」というもの。でも、よく考えてみると、昭和一ケタのころの世界恐慌に続く昭和犬恐慌などは、現在の不況の比ではなかったはず(さすがに平成の不況で娘を売る人はいないでしょ)。ストレスといっても、命を取られる可能性も高かった戦時中や戦国時代などは、ある意味、いまよりも高ストレス社会。満州事変のころや戦時中にうつ病が多かったとか、戦国武将がうつ病だったなどという話は聞きません。
「昔に比べて、ニッポン人がヤワになったから」などと言う人もいますが、何をもって「ヤワ」と言っているのかが検証不可能なので、これも理由としては弱い……となると、結局、「うつ病が増えた本当の理由というのはよくわからない」というのが正直なところ。ただし、増えているのは事実です。
ちなみに私の説は、「たしかにうつ病になるニッポン人は増えているが、アメリカ流操作的診断基準とマスメディア、インターネットがさらにうつ病を増やしている」というもの。これについては、次章でくわしく説明しようと思っています。
もう一つ、問題となるのは「自殺」のお話。
これは、もうみなさん、マスメディアのおかげで、「うつ病と自殺には深い関係がある」ということで、共通認識になっていると思います。ここ数年は、1年間の自殺者数が3万2000人から3万3000人(ちなみに交通事故による死亡は年間約6000人)。ニッポンのどこかで、1日平均90人が自殺で亡くなっている計算です。そのうちの5分の1が、うつ病による自殺とされています(つまり、交通事故による死亡者数とうつ病による自殺者数が同じぐらいということです)。これも、厚生労働省と警察庁が、それぞれ発表しています(警察庁生活安全局地域課の「平成20年中における自殺の概要資料」によれば、平成20年の自殺者数は3万2249人で、うち6490人がうつ病による悩みや影響で自殺しています)。
都会に住んでいる方だと、おそらく「人身事故」で電車が止まってしまって、遅刻したという経験が一度はあるでしょう。そのほか、救急病院に勤めていると、飛び降り、入水、大量服薬などなど、毎日のように見かけます。ほとんどが自殺目的です。
最近は、医学がけっこう進歩していて、自殺を試みて(「自殺企図」と言います)も、助かることがけっこう多く(いわゆる「自殺未遂」)、一説には自殺未遂者は自殺既遂者(本当に亡くなってしまう人)の10倍もいるのだとか……。そうすると、毎年、本当に膨大な数のニッポン人が、自殺企図していることになります。
まあともかく、この本をお読みになるうえで、「うつ病にかかっているニッポン人が増えている」ということは、前提として押さえておいてください。
では、ここで問題。うつ病が増えると誰が困るでしょうか?
うつ病になった人。それは正解1 あとは? 家族。それも、たぶん正解。それから? 精神科医? でも、うつ病の患者さんが2倍に増えているならば、精神科医が2倍働くか、精神科医を2倍にすればいいだけの話です(実際は、どちらもけっこう難しかったりしますが……)。それだけ?
う〜ん、それぐらいじゃないかな、直接困っているのは……。しかし、昨今のニッポンのうつ病事情をみていると、そうは問屋が卸してくれない。患者さんや家族、精神科医はもとより、企業も、お役所も、学校も、みんなが困っている。一筋縄ではいかない状態におちいっています。
なぜか?
その答えの1つとして、うつ病というのは、とってもお金(コスト)がかかる病気だということ。患者さんも、家族も、企業も、お役所も、うつ病による経済的損失に困っているのです。
ここで素朴な疑問。うつ病の治療って、そんなにお金がかかるの?
実は、そんなにかかりません。少なくとも諸外国に比べれば、安すぎて笑いが止まらないくらい。だから、ニッポンの精神科医は、朝から晩まで1日何十人も(場合によっては100人以上も)患者さんを診ないと採算が合わないのです(以前、アメリカの精神科医と話をする機会があったとき、「昨日は5人も患者を診てたいへんだった」と言われたときは、腹立たしく思ったものです。1日5人しか診ないで採算が取れるというのは、アメリカでのうつ病の治療費がいかに高いかということです)。1日何十人も診ているのに、別荘はおろかベンツの1台も買えないのが、多くのニッポンの精神科医がおかれている現状です。ああ、なんとけなげで献身的なニッポンの精神科医……。
では、どこにお金がかかるのでしょうか?
直接コストと間接コストという考え方があります。直接コストというのは、診察代や薬代など、うつ病の治療にかかる費用のことです。それに対して、間接コストというのは、うつ病のために患者さんが仕事を休まなければならないことなどによる、家庭や社会の損失を指します。
家庭の損失としては、たとえばうつ病で仕事ができなくなることによって、収入が減ることも含まれます。社会の損失としては、たとえばうつ病の患者さんが働けなくなることによって、会社などが受ける損害があります。営業職で稼ぎ頭だった人が、うつ病になって仕事ができなくなり、その会社の売り上げが落ちて損害をこうむった場合、これも間接コストに入れるわけです。自殺された場合には、家族や社会が受ける損失、すなわち間接コストはさらに膨大なものになると思われます(たとえば、40歳の人が自殺した場合、自殺しなければ定年の60歳までに稼げていたであろう20年分の収入が間接コ
ストということになります)。
ということは、間接コストは、直接コストよりも非常に高額であると推定されるわけです(実際の間接コストは計算不能なので、推定値しかわかりませんが)。つまり、うつ病は膨大な間接コストがかかるのです。WHo(World Health organization=世界保健機関)も、うつ病は心疾患(心筋梗塞などの心臓病)についで、世界で2番目にお金がかかる病気だと言っています。日本のデータではないのですが、アメリカで1年間にうつ病にかかるコストは約5兆円(1993年の報告による、当時の日本円換算)、イギリスで1年間にうつ病にかかるコストは約3兆4000億円(2006年の報告による)とそれぞれ推定されたそうです。
わがニッポンでも、うつ病による経済的損失は、年間推定2兆円(2007年の報告による)と言われています。2兆円ですよ、2兆円! どのくらいの額かというと、企業の時価総額でいえば、ソニーとかヤフーが約2兆円。JR東海を東海道新幹線ごと買っても3000億円くらいお釣りがきます(いずれも平成20年末現在の時価総額)。イージス艦なら16隻(こんごう級イージス艦1隻を約1250憶円として計算)、F15Jイーグル戦闘機であれば200機(同じく1機を約100億円として計算)も買えます。うつ病だけで、1年間でこれだけの経済的損失があるのです。
なるほど、お金がかかることはわかりました。だったら、バンバン治しちゃえばいいだけのことじゃないの?
おっしゃる通りです。でも、そうはならない。なぜなら、最近のうつ病は、とても治りにくく、というよりは治らなくなってきているから。では、なぜ治らなくなったのか? その理由を明らかにしていくのがこの本の趣旨なのですが、おそらくは、いままでの常識が通用しない「ニュータイプなうつ病」が増えているからではないかと思うのです。

蔓延する新しい種類のうつ病の特徴

昔のうつ病とはあきらかに違う

「最近(最近と言っても、ここ10年ぐらい)のうつ病は、昔のうつ病とは違う!」
うつ病が「昔と違う」というのは、べつに私だけが思っていることではなく、おそらくはうつ病の患者さんたちを診ている精神科医の95%(なぜ100%ではなく95%なのかは、前出同様)が感じていることだと思います。「現代型うつ病]「新型うつ病」、一部で「ヘタレうつ病」などと呼ばれている、かつてはあまりみられなかったタイプで、精神医学の教科書にも、あまりくわしくは書かれていない新しい(?)タイプのうつ病です。
誤解していただきたくないのですが、20年前にも「ニュータイプなうつ病」的な患者さんはいましたし、現代のニッポンにも古いタイプのうつ病(「オールドタイプのうつ病」)の患者さんはけっこういます。現代ニッポンでは、すべてのうつ病の患者さんがニュータイプなうつ病にかかっているというわけではなく、あくまで確率の問題なのですが、間違いなく「ニュータイプなうつ病」は激増しています。まさに、現代社会に蔓延しています。この点が問題なのです。
では「ニュータイプなうつ病」のどこが問題なのでしょうか。問題点は2つあります。—つ目は、「ニュータイプなうつ病はわかりにくい」ということです。2つ目は、おそらくはこちらのほうが大事なことなのですが、「ニュータイプなうつ病は治りにくい」ということです。どういうことなのか? 以下に、簡単に説明しましょう。

「教科書通り」ではなく「教科書破り」

最近、「うつ病と診断すべきか、せざるべきか、それが問題だ」というハムレット的な患者さんが、けっこう多くなっています。つまり、「わかりにくい」ということ(むろん、医師が気づいていないだけという場合も多かったりするのですが)。これがニユータイプなうつ病の特徴というか、問題点の一つです。
私がいるような大学病院では、週にI回ぐらい、カンファレンスをしています。カンファレンスというのは、最近来院した患者さんについて、何人もの精神科医が集まって、ケンケンガクガク議論しながら、診断を確定し、治療方針を立てていくことを目的におこなうのですが、これがうまくいかないことがしばしばあります。
まず診断する時点で、「診断基準(32〜33ページを参照)上はうつ病だけれども、本当にうつ病と言っていいのだろうか?」ということがあるのです。知らない人が聞くと、「この人たちに任せて本当に大丈夫なの?」と引かれてしまいそうですが、考えれば考えるほど、わからなくなる患者さんというのがけっこういます(このような状態ですから、治療方針も立てにくいということになります)。
なぜこのようなことになるのかというと、「教科書通りではない」うつ病が多いからです。この「敦科書通りではない」うつ病も、ニユータイプなうつ病の一つです。何をもって「教科書通り」とするかは議論のあるところですが、本書では、昔から典型的と言われているメランコリー型のうつ病(これまでわが国で出版されてきたうつ病に関するほとんどの啓蒙古は、このタイプのうつ病の患者さんの診断と治療について書かれています)を「教科書通り」または「オールドタイプのうつ病」と言うことにします。
さらに話をややこしくしているのは、「教科書通りではない」というその内容が、多様であるという点です。つまり、いろいろなタイプの「教科書破り」がいるということです。こうなると、もう何か何だか収拾がつかなくなってしまいます。
最近、「うつ病の多様性」ということが、しきりに言われています。もともと、教科書通りのうつ病にもいくつかのタイプがあったのですが、さらに教科書破りのうつ病にもいくつかのタイプがあって……などというと、もう何か何だかわからない「あれもうつ病、これもうつ病」といったカオスの世界になっていくわけです。

「教科書破り」だから治療が難しい

診断の時点で「わかりにくい」状態ですから、ちゃんと治療できると思うほうが間違っているのです(ミもフタもない言い方ですが……)。
うつ病の治療法に関しては、精神医学のちゃんとした教科書を読めば、ちゃんと書いてあります(内容は少し古いことも多いのですが、これは教科書が書かれるまでのタイムラグのためで仕方がない)。より新しい情報としては、治療ガイドラインや治療アルゴリズム(手順)などというものが数多く出されており、専門家であれば、それを読めばいちおうは治療法がわかります。また、最近では、ネットでググれば(インターネットを使って、グーグルで検索すれば)、一般の方でもある程度はわかるようになっています。
しかし、これらの多くは、オールドタイプのうつ病に代表される教科書通りのうつ病の治療法であって、ニュータイプなうつ病には通用しないことが多いのです。通用しないどころか、教科書通り、治療ガイドライン通り、ネット通りにやったら、逆にうつ病が悪くなっちゃったり、会社に行けなくなっちゃったり、なんてこともよくあります。
つまり、「治りにくい」というか「治しにくい」ということ(むろん、医師がヘボ、通称ヤブなだけという場合も多かったりするのですが)。これがニュータイプなうつ病の2つ目の問題点です。とはいうものの、「治せない」ではお話になりませんので、いちおう、ニユータイプなうつ病への傾向と対策について、まとめてみたいとは思っていますが……。

なぜ「ニュータイプ」なのか

なぜ「ニユータイプなうつ病」について書こうと思ったのか、その経緯を説明しましょう。
話は約20年前にまで遡ります。そのころの私は、精神医学の右も左もわからない新人研修医=フレマン(医学界の業界用語でフレッシユマンの賠)でした。フレマンには、いまも昔も指導医(医学界の業界用語ではオーベン。ドイツ語で上級医の意味)がついて、精神医学のイロハを教えることになっています。むろん、当時の私もオーベンに、うつ病についても教えてもらいました。そのときの記憶をひもといてみますと、たしかこんな説明をされたような気がします。
「うつ病というのは、非常に生真面目で、勤め先には滅私奉公、ちょっと融通がきかないような感じもするけれど、まわりの人にはけっこう気をつかっていて(こういうタイプを「メランコリー親和型」と言います)、たぶん学生時代には上下関係の厳しい体育会系で鍛えられたであろう、50歳代ぐらいの、大企業であれば課長さんか部長さんぐらいの熱血ジャパニーズ・ビジネスマンが、『ガス欠』とか『電池切れ』といった感じでかかる病気だ」と。また、「ちゃんと休ませて、ちゃんと治療すれば、ちゃんと治る病気だ」とも。
たしかに、その当時、オーベンの下で受け持っていたうつ病の患者さんの多くは、まさしくそういった人たちでした(古きよき時代の「オールドタイプのうつ病」ですね。くわしくは第m章を参照)。ところが、ここ10年くらいの間に状況が変わってきました。
最近、私が診ているうつ病は、そこそこ真面目ではあるものの、たぶん学生時代にはサークル活動ぐらいしかしていなかったであろう、若干「KY(空気が読めない)」なところがあるものの、これまでは何とか無難にやってきた、まだまだ入社数年から十数年程度(入社数ヵ月ということもある)のもともとエネルギーレベルの低い若造が、上司などとの些細なトラブル(さすがに殴られたりはしませんが、ちょっときつく怒られたとか)をきっかけに「ひきこもっちゃった」という感じでかかる病気になってきたのです。そうして、ちゃんと休ませて、ちゃんと治療しているはずなのに、ちゃんと治ってくれない病気になってしまいました(元九州大学の樟味伸先生日く、「病み終えない」うつ病)。まさに、うつ病が「ニュータイプ」になってしまっているわけです。
ニュータイプなうつ病は、私がかかわっている大学病院の外来や某企業で診るかぎりでは、35歳前後に多いようです。この年代は、20年前であれば、あまりうつ病にはならない年代でした。少なくとも日本では……(アメリカの文献などでは、この当時からうつ病の若年化がみられていたようですが)。
現在、35歳前後といえば、いわゆる「第2次ベビーブーマー」や「団塊ジュニア」と呼ばれてきた年代。おそらくは、小学校高学年〜中学時代にかけて「機動戦士ガンダム」ブームに巻き込まれた(?)人たちです。機動戦士ガンダムといえば「ニュータイプ」(「ニュータイプ」について知らない方は、ネットなどで調べてみてください)。そういえば、機動戦士ガンダムの主人公、アムロ・レイの名ゼリフに「親父にもぶたれたことないのに!」というものがありましたが、まさにそういった人たちが「ニュータイプなうつ病」にかかっちやっているわけです。
 
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