うつ病

新しい、うつ病の種類

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新しい、うつ病の種類

アメリカ流操作的診断基準、マスメディア、インターネットのおかげ(?)で、現代ニッポンにはうつ病患者が増えました。とくに、アメリカ流操作的診断基準のDSM-Ⅳ。これが、うつ病の足切り点を下げたことだけは間違いありません。
なぜかって? いろいろ説明するよりも、論より証拠、次の会話をお読みください。
〈 〉内はDSM‐Ⅳの大うつ病エピソードです。基準B、D、Eはクリアしているという前提で読んでください。精神科医(以下、医) どうしました?
患者(以下、患) 最近、毎日疲れやすくて、やる気も出なくて、仕事に行けないんですよ。〈A6とC〉
医 いつごろから?
患 ん〜。半年ぐらい前かな?〈A6が2週間以上続いている〉
医 ほかには?
患 ん〜。何するのもめんどくさい。
医 最近、わけもなく悲しくなることはない?
患 あ〜、いつも。「人生つまんない」っていう感じ。〈A1〉
医 生きている価値がないとか?
患 まあ、そんな感じかな。
医 最近は、いつも、そんなふうに思っている?
患 はい。〈以上、A7と取れなくもない〉
医 イライラしたりはする?
患 あ〜、いつもしてるよ。
医 話を変えるけれど、たとえば趣味なんかで、いままで楽しくやれていたことが、最近では、しても楽しくないと感じることはない?
患 あ〜、そういえば、オレ、趣味でバンドやってたんだけど、ゼンゼンやる気が起きなくて、最近はやってないかな。バンドの仲間、どうしてるかな……。〈A2〉
医 思考力とか集中力はどう? たとえば、新聞を読んでいて、ちゃんと内容が頭に入ってくる?
患 あっ、新聞、ふだんから読んでないんで。
医 テレビは?
患 ん〜。テレビもあんまり見ないな〜。
医 仕事をしていて、段取りが悪くなったとか、前より時間がかかるようになったとかは?
患 ああ、それはありますね。最近、なんでできなくなっちゃったんだろうって思いますよ。〈A8〉
医 決断力が落ちたということはないですか?
患 もともとフリーターで、決断する必要もないんでわかりません。
医 睡眠のほうはどうですか? 眠れないとか?
患 いえ。眠れてますよ。っていうか、朝も眠くて、起きられないんですよ。だから仕事にも行けなくて。それで、「まっ、いいか」ってことで休んじゃう。
医 昼間も眠い?
患 はい。一日中眠くて、寝ちゃってます。〈A4〉
医 食事は?
患 まあ、フツーに食べられますよ。
医 変に食欲がありすぎるということは?
患 ああ、たまにありますよ。
医 体重は増えました?
患 最近は、食っちや寝生活をしてるから、今月だけでも5キロぐらい太ったかもしれないな〜。〈A3〉どうでしょうか?
単なる「ヘタレなニイちゃん」にしかみえないかもしれません。でも、驚くなかれ(べつに驚かなくともよいのですが)、これでも、いちおうは、DSM-Ⅳの大うつ病エピソードの診断基準を満たしています。つまり、立派な「うつ病」です。それどころか、取り方によっては、基準Aのうちの7項目も満たしているので、軽症ではなく中等症ということになります。
こんな「ヘタレなニイちゃん」(べつに「ネエちゃん」でもいいのですが)でもうつ病と診断されるご時世ですから、一言でうつ病と言ってもいろいろ。そこで、現代ニッポンで実際にはびこるニュータイプなうつ病たちを、勝手に3つに分けてみました。まあ、かなり乱暴な話なのですが、私が説明しやすいからということで許してください。—つ目が「DSM-Ⅳにものっているタイプのうつ病」、2つ目が「DSM-Ⅳにはのっていないタイプのうつ病」、そして最後が「パーソナリティ障害などを併存したタイブのうつ病」です(最近増えている、高齢者などが脳卒中のあとに起こす「血管性うつ病」も大事な問題なのですが、話がややこしくなるので、本書ではカットさせていただきます)。

DSM‐Ⅳにのっている新しいうつ病

DSM-Ⅳにものっているタイプのうつ病には、大きく分けて、2つのタイプがあります。
1つ目は「双極型」。うつ病はうつ病でも、俗にうつ病と言われている「大うつ病性障害」のうつ病ではなく、「双極I型障害」や「双極豆型障害」という病気の「大うつ病エピソード」というタイプです。2つ目は「非定型」。こちらは「大うつ病性障害」
のうつ病なのですが、症状的に非定型、つまりフツーのうつ病とはちょっと達った特徴があるというタイプのうつ病です。昔は、双極型も非定型も、そんなに数はいないと信じられていました。しかし最近では、とくに若い人たちのうつ病のかなり多くが、双極型か非定型なのではないかと言われています。
しかし、前にも書いたように、フツーの精神科医はオールドタイプの人間であることが多いので、これらのタイプのうつ病を、ついつい見逃してしまうんです。つまり、アンダー・ダイアグノーシスになりやすいのです。これらのうつ病(とくに双極型)の特徴は、フツーのうつ病に対する治療をしていても、なかなか治りきってくれないという点。場合によっては、遂に悪化していく一方なんてこともあるので注意が必要です。

双極型のうつ病

双極型のうつ病というのは、双極性障害という病気でうつ病になっているというもの。「双極性うつ病」や「双極うつ病」と呼ばれることもあります。双極性障害は、昔は「躁うつ病」と呼ばれていた病気で、大うつ病エピソード以外にも、躁病エピソードや軽躁病エピソードなどがみられるものです。
DSM-Ⅳでは、双極性障害をI型と豆型に分けています。躁病エピソードか、混合性エピソードがみられるものを「双極I型障害」、大うつ病エピソードの合間に軽躁病エピソード(診断基準は↓の記載参照)がみられるものを「双極Ⅱ型障害」と言います。ちなみに両方の表の基準B4の「観念奔逸」とは、たくさんの考えが同時に起きてまとまらなくなることや、次々と新しい考えに思考が飛ぶことを言います。基準一B6や7は、いわゆる「逸脱行為」のことです。躁病エピソードと大うつ病エピソードのどちらの診断基準も同時に満たしているものを混合性エピソードと言いますが、実際に2つの診断基準を同時に満たしていることはめったにありません。アメリカ精神医学会は、混合性エピソードという診断をさせたくないんじゃないかと思えるほどに(軒並み診断基準が甘いDSM-Ⅳにしては珍しいことなのですが)、めったに起こらない状態ですので、これは無視して話を進めましょう。
ついでに言うと、ニッポンの多くの精神科医が使っている(誤用している)混合性エピソードとか躁うつ混合状態とかいうものは、躁病でみられやすい症状も、うつ病でみられる症状も少しずつあるといったようなニュアンスのもので、実際にはDSM-Ⅳの混合性エピソードとは似て非なるものです。

躁病エピソード

A.気分が異常かつ持続的に高揚し、開放的または易怒的ないつもとは異なった期間が、少なくとも1週間持続する(入院治療が必要な場合はいかなる期間でもよい)。
B.気分の障害の期間中、以下の症状のうち3つ(またはそれ以上)が持続しており(気分が単に易怒的な場合は4つ)、はっきりと認められる程度に存在している。
(1)自尊心の肥大、または誇大
(2)睡眠欲求の減少(例:3時間眠っただけでよく休めたと感じる)
(3)普段よりも多弁であるか、喋り続けようとする心迫
(4)観念奔逸、またはいくつもの考えが競い合っているという主観的な体験
(5)注意散漫(すなわち、注意があまりにも容易に、重要でないかまたは関係のない外的刺激によって他に転じる)
(6)目標志向性の活動(社会的、職場または学校内、性的のいずれか)の増加、または精神運動性の焦躁
(7)まずい結果になる可能性が高い快楽的活動に熱中すること(例:制御
のきかない買いあさり、性的無分別、または、ぱかげた商売への投資など
に専念すること)
C.症状は混合性エピソードの呈準を満たさない。
D.気分の障害は、職業的機能や日常の社会活動または他者との人間関係に著しい障害を起こすほど、または自己または他者を傷つけるのを防ぐため入院が必要であるほど重篤であるか、または精神病性の特徴が存在する。
E.症状は物質(例:乱用薬物、投薬、あるいは他の治療)の直接的な生理学的作用、または一般身体疾患(例:甲状腺機能亢進症)によるものではない。

軽躁病エピソード

A.持続的に高揚した、開放的な、または易怒的な気分が、少なくとも4日間続くはっきりとした期間があり、それは抑うつのない通常の気分とは明らかに異なっている。
B.気分の障害の期間中、以下の症状のうち3つ(またはそれ以上)が持続しており(気分が単に易怒的な場合は4つ)、はっきりと認められる程度に存在している。
(1)自尊心の肥大、または誇大
(2)睡眠欲求の減少(例:3時間眠っただけでよく休めたと感じる)
(3)普段より多弁であるか、喋り続けようとする心迫
(4)観念奔逸、またはいくつもの考えが競い合っているという主観的な体験
(5)注慧敏浸(すなわち、注意があまりにも容易に、重要でないかまたは関係のない外的刺激によって他に転じる)
(6)目標志向性の活動(社会的、職場または学校内、性的のいずれか)の増加、または精神運動性の焦躁
(7)まずい結果になる可能性が高い快楽的活動に熱中すること(例:制御のきかない買いあさり、性的無分別、または、ばかげた商売への投資などに専念する人)
C.エピソードには、症状のないときには、その人に特徴的でない明確な機能変化が随伴する。
D.気分の障害や機能の変化は、他者から観察可能である。
E.エピソードは、社会的または職業的機能に著しい障害を起こすほど、または入院を必要とするほど重篤でなく、精神病性の特徴は存在しない。
F.症状は、物質(例:乱用薬物、投薬、あるいは他の治療)の直接的な生理学的作用、または一般身体疾患(例:甲状腺機能穴進症)によるものではない。
注:身体的な抗うつ治療(例:投薬、電気けいれん療法、光療法)によって明らかに引き起こされた軽眼病様のエピソードは、双極Ⅰ型障害の診断にあたるものとするべきではない。
話が脱線しましたので元に戻しましょう。
このうち録病エピソードは、けっこう派手な症状で、本人よりもまわりが大迷惑しますし、けっこう長く(診断基準では1週間以上)続くので、本人をみればすぐわかります。シロウトさんでも判断ができるものです。だから、双極I型障害は診断しやすい。
アンダー・ダイアグノーシスになりにくいのです。それに対して軽躁病エピソードは、「軽」とついているだけに軽い。それに、長く続かないことが多い(診断基準では4日以上あればよい)。まわりもそれほど困らない。それどころか、うつ病で元気のなかった人が元気になった(ちょっとハイになった)ということで、むしろ喜んでしまう。つまり、見逃しやすい。というわけで、双極皿型障害は、アンダー・ダイアグノーシスになりやすいのです。
躁病エピソードと軽躁病エピソードの違いを、もうちょっと具体的な例をあげて説明しましょう。どちらも、ふだんでは買わないような高いものを現金またはカードで買うことが多いのですが、躁病エピソードですと、何百万円といったケタの買い物をしたり、不必要にたくさんのモノを買ったりします。だから、マトモな人が見ると「オカシイー」と思って主治医に相談できます。ところが、軽躁病エピソードですと、たとえば5万円くらいの時計を2〜3個とか、服を4〜5着とか、比較的マトモな範啼にとどまることが多い。1回ぐらいなら、まわりも「まあ、好きだったらそのくらいはアリかな。最近はフツーの人でも「大人買い」することもあるし」と見過ごす可能性が大きい。周期的に何度もそんなことをしていて、はじめて気づくということが多いのです。
しかも、軽躁病エピソードは長く続かないことが多い。主治医の精神科医にしてみれば、1ヵ月に1度の診察で偶然、軽躁病エピソードの時期にぶつかる可能性は低い。たとえ、家族がついてきているとしても、ちょっとハイな時期が4〜5日あったという程度の認識なので、そのことについての話もしない。
だから、双極Ⅱ型障害はアンダー・ダイアグノーシスになりやすい、つまり、本当は双極Ⅱ型障害の治療をしなければいけないのに、大うつ病性障害という、違った病気の治療が延々と続く。「このうつ病は、治りにくい(または、治らない)」ということになるのです。一例を紹介しましょう。
Wさんは現在、37歳の専業主婦。会社員の夫、小学6年生と2年生の2人の子どもがいる。3年ほど前から家事や育児をすることがおっくうになり、2年前から近くのメンタルクリニックを受診している。治療は、三環系抗うつ薬のドスレピン(商品名・プロチアデン)が、1日150昭処方されていた。薬をのみつづけていても、いっこうに改善がみられず、昼間から寝てばかりで、家事も育児もほぼ放棄状態。子どもの学校関係の仕事はいつもキャンセル、夫も半分あきらめムードであった。
このようなWさんだったが、このままだと家族からも見放されるという危機感から、セカンドオピニオンのようなかたちで、私の外来を訪れた。その時点で、大うつ病エピソードの診断基準を満たしていた。使っている抗うつ薬もゾコソコの量である。たしかにフツーの難治のうつ病のようにみえる。しかし、なぜかここで、私のなかに眠っていた精神科医のカン(?)がピピッと慟いた。ときおり調子が高くなったり、たまにたくさんの買い物をしたりすることがないかと間いてみた。すると、1年に1回か2回ぐらい、急に子どもの学校行事の仕事を率先してやりだしたり、ブランドものの子ども服を5〜6着まとめて買ったりする時期があるという。期間としては数日から長くて2週間ぐらいなので、「まあ、たまには少しぐらい、こんな時期があってもいいかな」程度に思っており、このことについては、主治医にはまったく話していなかった(だから気づかれなかった)。というわけでWさんは、じつは双極Ⅱ型障害であった。
その後は、Wさん本人の希望により、私の治療を受けることになった。まず、三環系抗うつ薬は躁病や軽躁病を起こすリスクが高いので、ドスレピンを1ヵ月ぐらいかけて中止した。同時に、気分安定薬の炭酸リチウム(商品名・リーマス)を、血液検査で血中濃度を漏りながら、だんだんと増やしていった。最初は炭酸リチウムの副作用で、眠気やだるさがあると言っていたWさんだったが、3ヵ月ほどで副作用には慣れてきた。そのころには、昼間は起きて家事や育児もできるようになり、子どもの学校行事にも参加できるようになった(むろん、軽躁病エピゾードも起きていない)。
双極型のうつ病(とくに双極Ⅱ型障害)をみつける方法はただ一つ。軽躁病エピソードっぽい症状がなかったのか、しつこく観察して、みつけだすしかありません。

非定型のうつ病

非定型のうつ病の「非定型」とは、「定型(典型的)」ではないという意味。もともとは、1950年代の終わり(私もまだ生まれていないころのことだ)に、その当時のフツーの抗うつ薬だった三環系抗うつ薬があまりよく効かず、MAOI(モノアミン酸化酵素阻害薬)という種類の抗うつ薬しか効かないと言われていた(信じられていた)うつ病のタイプを指す言葉でした。フツーじゃない薬しか効かないから「非定型」うつ病(この由来を知っている精神科医も少なくなってきました。最近の若いドクターは知らないんじゃないかな)。
でも現在では、この分類をすることはありません。フツーのうつ病(=オールドタイプのうつ病)の症状が「定型」。そこからはずれているから「非定型」。というのが一般的です。
非定型うつ病の特徴の1つが、「気分の反応性」。何かよいことが起こったときには、一時的によい気分となります。たとえば、ふだんは何をする気力もわかないのに、自分の好きなことや楽しいことをするときだけは、一時的に元気が出るし、楽しめもする。だから、ふだんはうつ病で動けないのに、デートや海外旅行などの楽しいイベントなら行けちゃうわけです。ハタから見ると、単に怠けているか甘えているようにしかみえない。
そのほかの特徴としては、過食やそれにともなう体重増加、睡眠過多(一日中、眠くてしようがない。むろん、夜も眠れる)、からだが鉛のように重くなって動けないこと、などなど。対人関係上のささいな問題で急に泣き出したり、わめきちらしたりする(ひどく情緒不安定になる)ことも、非定型うつ病の特徴です。情緒が不安定なので、なおさらワガママにしかみえない。
気分の反応性は、オールドタイプのうつ病(メランコリー型のうつ病)ではまったくみられない症状です。また、オールドタイプのうつ病は、食欲不振、体重減少、不眠が原則。だから「非定型」というわけ。最近、20歳代から40歳代にかけて、とくに女性に非定型うつ病が増えていると言われています。
非定型のうつ病は、シロウトさんがみると、単に怠けているかワガママ娘(息子)にしかみえない。いまはそのようなことはないと信じたいのですが、昔は、精神科医でも「そりゃ、単なるワガママだよ」と言って、治療もしないで帰しちゃったことも多かったとか……。というわけで、非定型うつ病もアンダー・ダイアグノーシスになる可能性が大!
まあ最近では、マスメディアやインターネットのおかげで、うつ病にはこういった非定型のタイプもあることがだんだんと知られるようになってきたため、アンダー・ダイアグノーシスになる率は、一昔前に比べれば格段に減ったとは思いますが。単なるワガママだと言って帰しちゃう「化石のような精神科医」も、たぶん滅っているとは思うのだけれども……。
非定型のうつ病のもう一つの問題は、治療上のこと。まわりの人間には、どうしても怠けやワガママにしかみえないので、治療への協力が得にくい。場合によっては、治療している精神科医にも、ネガティブな感情が生まれることもある(オレらは忙しくて、デートにも海外旅行にも行けないのに!なんて)。また、このあと説明するパーソナリティ障害を併存することも多い(うつ病とパーソナリティ障害とが併存すると治りが悪い)。治療薬の面でいうと、海外で難治の非定型うつ病の治療に使われるMAOIが、わがニッポンではまったく使えない(むろん、MAOI以外の抗うつ薬でも効いてしまう患者さんは多いのですが)。さらに、われわれ精神科医にすれば、典型的なオールドタイプのうつ病と追って治療経験が少ない。こんな問題点を抱えているのです。

DSM-Ⅳにのっていない新しいうつ病

次に紹介するのは、DSM-Ⅳにはのっていないタイプ。DSM-Ⅳにものっている双極型や非定型は、単にアンダー・ダイアグノーシスが多かっただけで、じつはけっこう昔から知られていました(だからこそ、アメリカ精神医学会の診断名=DSM-Ⅳにも入っているし、教科書にも、いちおうはのっている)。だから、厳密に言うと、双極型や非定型は「ニュータイプ」じゃないとも言えます(最近増えているのは事実ですが)。
それに対して、ここで紹介するDSM-Ⅳにはのっていないタイプのうつ病は、ある意味、本当の「現代ニッポンで実際にはびこっているニュータイプなうつ病」です。DSM-Ⅳにのっていないうつ病は、さらに次の2種類に分かれます。—つ目は、専門の医学雑誌で報告されているタイプのもの。DSM-Ⅳや古めかしい精神医学の教科書にはのっていないけれども、専門の学術雑誌にはちゃんとのっています。学問的にもそれなりに研究がされていて、プロの精神科医の間では(少なくとも勉強家の精神科医の間では)、よく知られているものです。
2つ目は、マスメディアなどでつくられたタイプのもの。新聞、雑誌、テレビなどの取材を受けた芸人、もとい精神科医が、その場の空気で何となくっくったというシロモノ(と言ったら言いすぎか……)。自分の著作を売るためにつくったものもあります(何を隠そう、この本のタイトルにある「ニュータイプなうつ病」こそは、コレなのです)。でも、一般のシロウトさんには、こちらのほうがよく知られていたりもします。
2つ目のほうは、いちいち調べるのも面倒くさいですし、学問的には「?」な内容のものも多いので、—つ目のほうをいくつか紹介しましょう。

笠原・木村のⅢ型

笠原・木村のⅢ型というのは、笠原嘉氏と木村敏氏が1975年につくった「うつ病の笠原・木村分類」に出てくる病型です。笠原・木村分類は、つくられたころには一世を風邪していたようで、当時の精神科医で知らない者はモグリだとまで言われていたそうです(そのころの私は小学生でしたので、もちろんそんなことは知りませんでしたが)。
しかし、DSM-Ⅳの前のバージョンのDSM‐mが1980年にできて、ニッポンに上陸したあとは、この分類はすたれてしまったようです。私が精神科医になった1990年代前半には、すでに「昔の話」になっていて、これを使って診断したり分類したりすることはありませんでした。
ところが、いま読み返してみると、この分類はけっこうよくできている(もちろん、いまの医学の知識では、ちょっと違うのでは? という内容や、DSM-Ⅳとの整合性が取れていないところもあるのですが)。
笠原・木村分類は、うつ病をI型からV型の5つに分けているのですが、とくにいま注目されているのはⅢ型。通称「葛藤反応型」と言われるタイプ。未熟な性格で、ほかの人に対する配慮ができない人(いまでいう「KY」?)がなりやすいと書いてあります。依存的で、弱点に触れられることに弱く、他罰的(他人やまわりの環境などのせいにする)で、対人葛藤が強いといった特徴もあります。特記すべき点は、Ⅲ型には抗うつ薬がほぼ無効であると書いてあること。これって、「ニユータイプなうつ病」そのものですよね。

逃避型うつ病(逃避型抑うつ)

逃避型うつ病は、広瀬徹也氏が提唱しているうつ病の一病型。広瀬氏の論文によれば、20歳代後半から40歳代のけっこうエリートと思われるサラリーマンが、職場の配置転換にともない、新しい上司と相性が合わなかったり、前の仕事と勝手が違ったりすることが引き金になって発病しやすいとのこと。仕事がまったく手につかなくなり、そのうち職場に行けなくなり……というパターンが多い。
最大の特徴は、希死念慮がほとんどないこと。つまり、オールドタイプのうつ病と違って、あまり死にたいという気持ちは起こらないようです。そのほか、他罰的(「上司や会社がすべて悪い!」)で、仕事以外の遊びなどにはフツーに行ける点など、オールドタイプのうつ病にはない特徴は、まさに「ニュータイプなうつ病」。一人っ子で、母親や妻などの女性との心理的な結びつきが強く、あまり挫折を知らなかった人がなりやすいようです。
会社を休んだ直後にはよくなっていることが多く、休んでいる間は治っているものの、いざ社会復帰しようとすると、またうつ病の症状が出てくる。なかなかたいへんなタイプのうつ病です。

未熟型うつ病

未熟型うつ病は、阿部隆明氏が提唱しているうつ病の一病型。阿部氏の論文によれば、まわりから庇護されて(守られて)、とくに葛藤もなく育った、いわゆる「ミジュク者」の20歳代後半から40歳代の男女が、職場や家庭での挫折をきっかけに起こすうつ病。本来は、双極Ⅱ型障害の一病型とされていますが、最近はフツーのうつ病(大うつ病性障害)にも使うことがあります。
特徴は、ひどく不安になったり落ちつかなくなったりといった症状が強いこと。リストカットや大量服薬(薬のイッキのみ)をしたり、周囲の人々を責め立てたりするので、まわりはけっこう迷惑します。
ワガママ、甘えん坊、自己チュー(自己中心的)だった子どもが、社会に出て困ったことに出くわすと、どうしようもなくなってうつ病を発病したというパターンが多いようです。自己愛傾向が強く、自分の能力を過大評価していて、自分探しを始めて、職を転々として、といったタイプの人にも多いようです。こちらも治りにくいうつ病です。

恐怖症型うつ病

恐怖症型うつ病は、松浪克文氏が提唱しているうつ病の一病型。松浪氏の論文によれば、職場の配置転換にともなって発病することが多い点は、逃避型うつ病と似ていますが、こちらは職場に対する恐怖心が強いところが特徴とされています。そのほかは、だいたい逃避型うつ病と同じですが、職場に対する忠誠心や愛着、帰属意識の低い人が多いようです。

職業結合性うつ病

職業結合性うつ病は、加藤敏氏が提唱しているうつ病の一病型。加藤氏の論文によれば、仕事量が増えたり、スピードを要求されたりといった現代社会に特有のうつ病のタイプ。不眠、疲労感、頭痛’肩こり、イライラ、不安眠が強い。重症化すると、まるでダムが決壊するかのごとく、突然パニックになったり、過換気になったり、自殺したくなったりして、病院に運び込まれるというパターンを示します。昔に比べて仕事量も残業も多くなった現代ニッポンの企業内に増えているタイプのうつ病です。

ディスチミア親和型うつ病

ディスチミア親和型うつ病は、樽味仲氏が提唱した、現代の青年に多いうつ病の一柄型。メランコリー親和型とよく対比されます。ディスチミア親和型うつ病は、不全感(満たされていない感じ)と倦怠感、回避(苦手なものを避ける)と他罰的感情(他者を非難すること)、衝動的な白湯行為(リストカットや大量服薬など)を起こしやすいことなどが特徴で、学生のスチューデント・アパシー(学生無気力症候群)などとも関連があるとされています。
雅味氏によれば、もともと自己チューで、自分自身への愛着が強く、自分に対して漠然とした万能感や過剰な自負心をもっている若者が、このタイプのうつ病になりやすいようです。また、規範に対してストレスと感じたり、秩序に対して否定的感情をもっていたりするというのも、このタイプのうつ病になりやすい人の特徴のようです。オールドタイプのうつ病と違い、「病み終えない」こともディスチミア親和型うつ病の特徴の一つです。つまり、オールドタイプのうつ病には有効な抗うつ薬や休養によって、ちゃんと治ってくれずに慢性化する。遂に、環境の変化によって、コロッとよくなっちゃうこともあります。本当に精神科医泣かせのうつ病です。

双極スペクトラム障害

双極スペクトラム障害は、アキスカル(H.S.Akiska1)氏が提唱している、うつ病と双極性障害に関する新しい概念です。DSM-Ⅳの双極性障害には、双極I型障害と双極Ⅱ型障害がありますが、双極スペクトラム障害は、双極性障害の範囲をさらに広げたものだと考えてください。
双極スペクトラム障害には、ごく短期間(3日以内)でも軽躁状態になったことがある人、抗うつ薬によって軽踊状態になっちゃった人、もともと感情の起伏が激しかった人がかかったうつ病などなど、ちょっとでもハイな状態があったうつ病のすべてが入ります(むろん、これらはすべて、DSM-Ⅳでは大うつ病性障害、すなわちうつ病と診断されます)。
アキスカル氏のこの考え方には、じつはいくつかの根拠があります。双極スペクトラム障害と考えられるうつ病の患者さんは、抗うつ薬が効きにくい、抗うつ薬で軽躁状態になりやすい、うつ病のエピソードを繰り返しやすい、近親者に双極性障害の患者さんが多いなどの特徴をもつことが多いというのがそれです。さらにアキスカル氏は、双極スペクトラム障害の患者さんは、フツーのうつ病と考えるよりもむしろ、双極性障害と考えて治療したほうがよいのではないかと言っています。

パーソナリティ障害などを併存した、新しいうつ病

うつ病は、パーソナリティ障害を併存していると、難治になりやすいことが知られています(うつ病にかぎらず、ほとんどの精神疾患で言えることですが)。つまり、パーソナリティに問題のある人がうつ病になると、とても治りにくいということ。
「パーソナリティ」というのは、日本語では「人格」と訳されることが多いのですが、「気質」と「性格」からなるとされています。気質と性格は似ている言葉なのですが、「気質」という場合には、その人が生まれつきもっている、つまり我から受けついだ遺伝的な要素が強いものを指します。それに対して「性格」は、後天的なもの、つまりその人が育っていく問に身につけたものを指します。性格は、その人が育った社会や文化の影響を受けやすいと言われています。
「パーソナリティ障害」というのは、一言で言えば、パーソナリティがかたよりすぎていて、社会生活がしにくくなっている状態を指します。パーソナリティ障害について書き出すと、それだけで1冊の本になってしまいますので、この本ではくわしい説明はパスします。パーソナリティ障害という病名(パーソナリティ障害を「病気」とするのかどうかは議論のあるところですが)は、DSM-Ⅳにもあります。DSM-Ⅳには10種類のパーソナリティ障害が紹介されていますが、そのなかでも、自己愛性パーソナリティ障害、境界性パーソナリティ障害、依存性パーソナリティ障害の人がうつ病にかかると、とくに治りにくくなります(むろん、ほかの種類のパーソナリティ障害でも、うつ病は治りにくいのですが)。
自己愛性パーソナリティ障害というのは、英語では「narcissistic personality disorder」つまりナルシスト。「障害」というほどなので、それがきわまった人とでも言いましょうか。境界性パーソナリティ障害というのは、字面だけではイメージがわかないでしょうが、感情の起伏が激しく、対人関係が不安定で、リストカットなどの自傷行為を繰り返すような人です。依存性パーソナリティ障害は、文字通り、依存的で他人まかせ、自信に欠けて決断力がなく、そのくせ無責任といった人です。まあ、こういう人たちのうつ病なら、治りにくいだろうな、というのは誰でも患うことでしょう。でも、問題はここから。明らかなパーソナリティ障害でなくとも、問題になりそうな「パーソナリティ傾向」があるという場合。つまり、自己愛傾向の強い人、境界性パーソナリティ傾向の強い人、依存傾向の強い人の場合です。むしろ、難治のうつ病の患者さんには、ガチガチのパーソナリティ障害の人よりも、こっちのパターンの人のほうが、数の上では多いと考えたほうがよいでしょう。自己愛傾向の強い人というのは、いわゆる「自己チュー」だったり、他罰的(他人やまわりの環境などのせいにする)だったりします。最近のニュータイプなうつ病で、なかなか治ってくれない患者さんをみていると、自己愛傾向の強いことがけっこう多い。こういう患者さんの口からは、「自分は全然悪くない。むしろ被害者だ」とか「うつ病が治らないのは、夫が治療に協力してくれないからだ」とか「このような状態になったのは、会社の理解が足りないせいだ」とか「調子が悪いのは、仕事が多すぎるせいだ」といった、他人や周囲の環境を非難する言葉がよく出てきます。前のページのCさんDさんもこのパターンですね。 境界性パーソナリティ傾向の強い人というのは、感情の起伏が激しく、ちょっとしたことで怒り出したり、泣き出したりといった態度がみられる、いわゆる「キレやすい」人。俗に、「よくヒステリーを起こす」などと言われる人も、ここに入るかもしれません。対人関係上も、ある人を大好きになったかと思うと、些細なことで同じ相手を大嫌いになったりします。また、ちょっと嫌なことがあったりすると、自暴自棄になったりすることもあります。ただし、自殺未遂やリストカット、大量服薬(薬のイッキのみ)などの問題行動を繰り返す人は、境界性パーソナリティ傾向というよりは境界性パーソナリティ障害と診断したほうがよいでしょう。
依存傾向の強い人というのは、読んで字のごとくです。依存の対象は家族(配偶者や親など)であることが多いのですが、みのがしてはならないのは、精神科医や医療機関に依存的になっている患者さん。おそらくは不安が強くなるからなのでしょうが、予約日以外にも受診を希望したり、電話をかけてきたりする患者さんがいます。このような依存傾向の強いうつ病の患者さんも治りにくいようです。
まあ、こういったパーソナリティ傾向をもっていることが多いというのも、現代ニッポンにはびこるニュータイプなうつ病の患者さんの特徴と言えましょう。 最後に、これはパーソナリティ障害でもパーソナリティ傾向でもないのですが、アルコール依存症を併存しているうつ病の患者さん。こういう患者さんでは、うつ病もアルコール依存症も治りにくいというデータがあります。また、アルコール依存症の診断はつかないまでも、うつ病の症状や悩みを飲酒によって紛らわそうとしている患者さんや、眠れないので睡眠薬代わりにお酒を飲んでいるという患者さんでは、難治例になる傾向が強いようです。

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