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ネット通販ビジネス 物流編

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ネット通販ビジネス 物流編

皆さんは、「物流」という言葉にどのようなイメージをお持ちだろうか。 長距離トラックによる運送や宅配便など、「物を運ぶ」ことそのものを事業としている物流会社に限らず、メーカーであっても、コンビニであっても、またサービス業であっても、企架か活動するときに欠かすことができないものが「物流」だ。 例えば、コンビニにはいつもたくさんの商品が並べられている。では、これらの商品はどのようにしてそこにくるのか、考えてみたことはあるだろうか。弁当やおにぎり類は、1日に4回も違った種類が並べられている。こうした多種多様の商品は、いかにしてコンビニの商品棚まで届けられているのだろうか。

 

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華やかなコンビニの店舗の背後には、実は、たくさん並べられている商品を店舗に供給する独特の仕組みが備わっている。簡単にいってしまえば、これが「物流」と呼ばれるものだ。もちろん、なにもコンビニに限られるものではない。スーパーやディスカウントストア、さらにはメーカー、問屋など、およそモノを取り扱う企業にとって物流は必要不可欠な職能である。 また、詳しくは後で詳述するが、近年、これまでは各企業が自分たちで行ってきた物流をアウトソーシング(外部委託)しようという流れが強まっており、サードパーティロジスティックス(Third‐partylogistics =3PL)と呼ばれる新たなタイプの物流会社が台頭しつつある。従来、企業の物流というのは、物を運ぶのは宅配便やトラック運送業者、在庫管理は倉庫業者、といったように分野ごとに別の業者が担当していたが、最近では注文から発注、配送までの一連の情報管理や物流センターでの在庫管理など、「物流」に関わる幅広い範囲をカバーした複合的な業務を行う物流業者=3PLが増えてきている。 物流の身近な例にアマゾンかある。アマゾンは巨大な物流センターに多くの在庫を抱え、即座に対応できるような物流システムを整えているため、商品を迅速に買い手のもとに届けることができる。このようなインターネット通販はすでに私たちの生活に浸透しているが、この流れは今後ますます拡大していくだろう。こうした時代の中で物流というのは、全体的なシステム運営に加え、荷主に対するコンサルティングや提案などもできるような、インテリジェンスが要求される分野になりつつある。 物流をより効率化したものが、「ロジスティックス」と呼ばれる。この物流やロジスティックスは、いま、企業の競争力を左右する大きな要素として注目されている。工場で使う原料や部品をどのようにうまく調達するか、また、工場でできあがった製品をいかに小売店の店舗まで効率よく流していくのか、さらには通信販売では宅配便を使っていかに迅速に商品を届けるのかなど、物流やロジスティックスが現代の企業の競争力を高める生命線となりつつある。 私は物流専門の研究所で研究員としてのキャリアをスタートさせてから、物流の研究者として大学で教鞭を執る現在に至るまで、長い間、物流の世界を見続けてきた。しかし、いまほど物流が注目されている時代はないという実感がある。その背景には、物流業界で労働力不足とドライバー不足が深刻化し、物流の要である輸送に大きな問題が生じるようになったこと、そして、ネット通販という新たな成長産業が生まれ、このビジネスにおいて物流か重要な役割を占めるようになっていることが大きく関係している。 かつて企業組織の中で物流部は、華々しさからはほど遠い、人事の「吹き溜まり」の部門だった。物流部に配属させられることは左遷を意味していた。このことは、かつて企業の中で物流がどのような位置づけにあったかを端的に示している。つまり、多くの企業にとって、物流は欠かせないものではあるけれども、とりあえず必要な機能を満たしていればそれでよく、経営戦略的に重要な部門ではないことを示していた。だから、優れた人材など必要とせず、吹き溜まりとなっていたのである。 しかし、いまは違う。物流を軽視していては、企業としての成長は図れない。優れた企業は、経営戦略上、物流の重要性を認識し、優秀な人材を物流部門に揃えて、高度な物流システムをつくりあげている。 優れた物流システムのもとでは、注文のある商品は在庫として確実に保管され、より短い時間で正確に納入することができる。しかも、それにかかるコストを抑えることができれば、顧客に対して優れたサービスを提供することができる。これは、他社との差別化を生み、競争力が高まることを意味している。 宅配便にしろ、3PLにしろ、物流業者はこうして企業の物流を支え、企業に必要な物流の進化を導き出している。

いま、物流の世界で何か起きているのか??。
このページでは、「物流を制するものがビジネスを制する」といわれるほど、その動向に注目が集まっている現代の物流の実態と課題について、日本はもちろんのこと、「ネット通販先進国」であるアメリカの物流事情も含めて論じていきたい。

アマゾンが描く近未来

ネット通販ビジネスの生命線

経営戦略上の位置づけ

本を購入しようと思ったとき、以前であれば書店に足を運び、実際に本を手に取って内容を確かめてから買っていたが、最近はアマゾンのホームページで検索して、レビューを読んでから購入することが格段に増えた。また、紙の本だけでなく、キンドルで.電子書籍を購入する機会も増えた。 それだけではない。何か買いたいものがあれば、まずはアマゾンで検索するクセがついた。すると、だいたいの商品は売られている。しかも、値引きして売られているケースが多く、安い。購入手続きを済ませると、朝早く注文した商品であれぼ夕方には自宅に届く。利用し始めた当初はなんて便利なんだろうと、品物が届くたびに驚いていたが、いまではそれが当たり前になっている。??こんな経験をしている人は多いはずだ。 現在、じつに多くの企業がネット通販を繰り広げているが、ネット通販といえば、まずアマゾンのことを思い浮かべる人も多いのではないだろうか。この事業を展開しているのがアマゾン・ジャパンである。アマゾン・ジャパンは2000年から日本でネット通販事業を始め、急激な勢いで売り上げを伸ばしてきた。実際、アマゾンは日本のネット通販の頂点に君臨し、断トツの売上高を誇っている。 アマゾン・ジャパンの親会社は、世界各地でネット通販事業を繰り広げているアメリカのアマゾン・ドット・コム(Amazon.com)で、創業者で最高経営責任者のジェフ・ベゾスが1994年にアメリカ西海岸のシアトルで書籍のネット通販を始めて以来、目を見張るような成長を遂げてきた。2015年の売上高は1070億ドル(13兆540億円。*当時のレートで換算。以下同)にも達する。 本章では、このアメリカのアマゾンに注目してみたい。なぜなら、アマゾンのネット通販の事業展開を見ると、ネット通販において物流がいかに重要であり、物流がネット通販ビジネスの生命線であることがよく分かるからである。雅実、アマゾンは経営戦略上、物流を極めて重要であると位置づけ、ネット通販の物流に新たな風を吹き込んできた。

アマゾンフレッシューーユニークなネット通販 最近、アメリカで注目されているのが「アマゾンフレッシュ(AmazonFresh)」である。日本では馴染みの薄い概念だが、英語圈では日常的に用いられているグロサリー(Grocery)と呼ばれる商品群がある。これは、肉、魚、野菜などの生鮮食品や生活雑貨・日用品などの総称だ。 アマゾンは2013年から、このグロサリーのネット通販を巨人な都市に限定して開始した。まず、ロサンゼルスで販売をスタートさせ、サンフランシスコ、ニューヨーク、フィラデルフィア、さらにはニュージャージー、カリフォルニア北部へと対象エリアを拡大している。 グロサリーは従来、スーパーマーケットやディスカウントストアといった店舗で販売される商品だが、アマゾンはこれらと競合する約50万アイテムにもおよぶ商品を揃え、新たなビジネスを開始したのである。対象エリアをあらかじめ大都市に限定し、注文を受けたその日のうちに、商品を家庭に届ける。鮮度が重要な肉、魚、野菜など生鮮食品を取り扱うので、当日配送という迅速な配送が必須となる。 注目すべきは、商品の配送をアマゾン自身が行っている点にある。これまでネット通販の配送というのは、宅配便事業者に委託するのが主流だった。ところがアマゾンフレッシュでは、アマゾンが自ら配送用のトラックを調達し、また自社でドライバーを雇用して運転にあたらせている。 取り扱いが難しいグロサリーという商品群、大都市限定という対象エリアの限定、ネット通販事業者自らによる配送??こうしたユニークなネット通販はどのようにして生まれたのだろうか。

先駆的なネット通販のウェブバン
アマゾンフレッシュの原型をなす、グロサリーのネット通販を最初に始めたのかウェブバン(Webvan)である。話は少しさかのぼるが、ウェブバンは1996年からグロサリーのネット通販を開始した。アメリカ西海岸のサンフランシスコ・ベイエリアから始め、その後、ロサンゼルス、シアトルといった西海岸の主要な都市、中西部のシカゴ、南部のアトランタと、全米の主要な大都市を対象に広げていった。最終的には、全米で26の都市を対象に事業を展開する計画だった。 この時期に日本は「失われた10年」と呼ばれる不況にあえいでいたが、これとは対照的にアメリカ経済は「ニューエコノミー」と呼ばれ、IT(情報技術)が急速に普及して経済的な繁栄の時期を迎えていた。そして、アメリカ経済は1997年頃から「ドットコムバブル」と呼ばれるインターネットバブルを経験して、IT関連の産業への投資が急速に加速されたのである。 こうしたなかで、インターネットを利用した新たな通販ビジネスを開始したウェブバンも、日本のソフトバンクを含むベンチャーキャピタルから多額の資金を調達するとともに、株式市場からも潤沢な資金を獲得した。ベンチャーキャピタルから8億ドル(約920億円)もの資金を得るとともに、1999年には新規上場株式の発行によって3億7500万ドル(約431億円)の資金を手に入れた。これによって、ネット通販事業を一気に拡大したのである。 ウェブバンはこのビジネスを展開するにあたって、とりわけ物流に力を入れた。まず、ネット通販に必要な大規模な物流センターを、自前で建設して運営した。大規模にネット通販を繰り広げるには、膨大な商品を在庫として確保し、注文に対応できる品を揃えた物流センターが不可欠となる。前述したように、最終的に全米の26の都市での事業展開を構想していたため、それぞれの都市に大規模な物流センターを建設する必要があった。このために10億ドル(1150億円)もの建設費を投じる計画だった。 それだけではない。ウェブバンは自ら天眼の配送用トラックを購入、トラックドライバーもウェブバンが直接雇用して配送を行ったのである。資金力にものをいわせて、ネット通販事業者による自家配送を行うという戦略を取った。

インターネットが本格的に普及し始める時代、その時代を代表する先駆的なネット企業は積極的に設備投資を行い、物流の運営も自前で行うという、これまでにない大胆なビジネスを展開しようとしていた。

アメリカのドットコム史上最大の失敗
ウェブバンはITの時代を迎えたアメリカ経済のなかで、まさに時代の寵児となった。しかし、2000年にインターネットバブルが弾けると、南部のアトランタなど、物流センターが次々と閉鎖され、そこで働いていた多くの従業員が解雇されていった。そして2001年に入ると、ウェブバンは大規模な負債を抱えて経営破綻してしまう。最終的に、2000人の従業員が解雇された。 ウェブバンの倒産は、当時、アメリカのドットコム史上最大の失敗と呼ばれるほど、大規模で衝撃的な倒産となった。 ちなみにアマゾンも、インターネットバブルが弾けたこの時期に、深刻な経営危機に直面している。事実、アマゾンは1999年に売手高を16億ドルにまで伸ばしていたが、続くネットバブルが崩壊した2000年には一転して14億ドルもの大幅な赤字に陥っている。このとき、経済界ではアマゾンの倒産がささやかれた。しかし、アマゾンは翌年から着手した大規模なコスト削減とリストラによって経営危機を乗り切り、業績を再び成長軌道に乗せている。 話を倒産したウェブバンに戻すと、じつは、このウェブバンのネット通販ビジネスの失敗は、自ら構築したネット通販の物流が大きく関係していた。 まず1つは、物流センター内における作業の効率性である。巨額の資金を投じて大規模な物流センターを建設したにもかかわらず、そこで莫大なコストが発生してしまったのである。例えば、100ドルの商品に30ドルの物流コストがかかったと言われている。また、89セントのスープの缶詰を出荷するのに1ドルのコストを費やしたとも言われている。これでは当然採算割れとなるため、100ドルの注文に対して10ドルの費用で処理することを目指したという。しかし、ウェブバンは結局、コストの削減をなかなか推し進めることができなかった。 そしてもう一つは、商品の配送圏域である。先に触れたように、ウェブバンは販売の拡大を狙って、営業の対象地域を都市部だけでなく郊外地域にまで広く設定した。物流センターを中心に、そこから40マイル(64キロ)をネット通販の配送圏域と設定したのである。これが災いする。

当時、ウェブバンの副社長は配送の問題について、インタビューで次のように述べている。「サンフランシスコ市内では1ブロックを移動するだけで200人とすれ違うが、郊外のモラガという町では、1ブロックで6人とすれ違うのがやっとだ」 都市部は人口が集中しているため、一定の配達時間内に多くの家庭に品物を配送することができる、しかし、郊外は人口がまばらであるため、配送の移動距離も長くなる。すると、配達時間内で少ない家庭にしか配送できない。つまり、配送圈域を郊外地域まで広く設定したために配送が非効率となり、結果的に配送コストの増加を招いてしまったというわけだ。 要するに、物流センターにおいても、商品の配送においても、ウェブバン自らが物流をまかなおうとしたものの、それを効率的に運営することに失敗したのである。その結果、物流コストが著しく増加した。こうした、非効率な物流によるコストの増加が経営破綻の大きな原因のIつとなった。 面白いたとえ話がある。アメリカにおいて、グロサリーのネット通販は「Eコマースにおけるバーミューダ海域の三角地帯」といわれていた。奇妙なたとえだが、バーミューダ海域の三角地帯は、アメリカのフロリダ半島、大西洋のバーミューダ諸島、さらにプエルトリコを結ぶ地帯で、昔から多くの船や飛行機が呑み込まれて消えてしまうミステリアスな地域として知られている。これになぞらえて、この分野に多額の資金を投じてもそれが呑み込まれて消えてしまい、資金を回収することか不可能となることを示している。

失敗の原因を徹底的に分析
さて、このウェブバンの物流の失敗がアマゾンにつながっていく。アマゾンは2000年代初頭のネットバブルの崩壊を、ウェブバンや他のIT企業と同じように経験しながらも生き残り、その後、すさまじい成長を遂げていった。そして、アマゾンはアマゾンフレッシュの名のもと、10年以上前に経営破綻したウェブバンと同じグロサリーのネット通販に手をつけたのである。 アマゾンは、自ら「Eコマースのバーミューダ海域の三角地帯」に入っていった。では、アマゾンはどのようにしてウェブバンが犯した失敗を学び、それを新たな事業に活かしていったのだろうか。 ウェブバンが経営破綻した直後から、アマゾンは次のネット通販の事業展開の準備に取りかかっていた。アマゾンは、ウェブバンの経営破綻後、ウェブバンの元経営幹部4人を新たに雇用して自社に招き入れている。そして、この元経営幹部たちに、なぜウェブバンがグロサリーのネット通販の物流で失敗したのか、自分たちの経験を踏まえて詳細に分析させた。さらに、どうすれば「Eコマースのバーミューダ海域の三角地帯」といわれるグロサリーのネット通販に活路を見出せるのかネット通販における物流のあり方を研究させたのである。 そして、次のような結論を得た。第1に、短期間に全米規模でグロサリーのネット通販ビジネスを始めたことが失敗の原因の一つであり、急激な事業の拡大は行わず、しっかりと物流のインフラを整えることが必要である。第二に、顧客への配送効率を高めることが重要であり、このためグロサリーのネット通販の対象領域を潜在的な顧客が高度に集中する大都市に限定すること。そして第三に、物流センターが極めて重要な役割を演じているので、物流センターの効率性を徹底的に追求することが必要である、と。 これを踏まえたうえで、アマゾンは2007年から本拠地のシアトルでグロサリーのネット通販の配送の実験を開始した。それから4年という長い歳月をかけて、実に周到に配送の実験を重ね、事業化の可能性を追求していった。 全米のグロサリーの市場規模は、アマゾンがアマゾンフレッシュを始める前年の2012年は5680億ドル(45兆4400億円)といわれていた。そのうちネット通販の売上高は1%未満に過ぎなかった。逆にいえば、これはネット通販にとって、これから開拓できる膨大な市場がそこに存在していることを示していた。したがって、アマゾンフレッシュはこの膨大な市場に攻め入るためのビジネスだった。 アマゾンは、2013年に満を持してサンフランシスコとロサンゼルスの大部市に限定して、アマゾンフレッシュを開始した。その後も、2014年に西海岸のサンディエゴ、東海岸のニューヨーク、フィラデルフィアと、対象領域を大都市に限定、抑制的でありながらも拡大路線を取り続けている。これは明らかに、ウェブバンが配送の効率性を無視して、むやみに広域にわたってネット通販を展開した失敗を活かしたものである。 また、アマゾンはもともと、物流センターを自前で建設して運営し、そこから商品を発送していたが、これまでと決定的に異なっていたのは、顧客への配送方法だった。それまで商品は宅配他業者に委託していたが、かつてウェブバンが行っていたように、配送トラックを自前で調達し、自社で雇用したドライバーに運転させて配送するようにしたのである。

物流ロボットメーカーの買収
ウェブバンとアマゾンの物流にかかわる連続性は、それだけではなかった。 すでに述べたように、ウェブバンは、物流センター内の高い物流コストに悩まされており、これに対応すべく、新たな物流ロボットの開発を検討していた。ウェブバンは物流センターの物流機器を開発できる技術者を経営幹部に抱え、独自の技術開発でさらなる作業効率の改善を目指していたのである。ところが、新たな技術開発を行っている最中に倒産してしまい、物流ロボットの開発は頓挫してしまった。 しかし、ウェブバンで物流ロボットを開発していた経営幹部の技術者は、ウェブバン倒産後、物流ロボットをつくる新たな会社を立ち上げる。これがキバシステムズ(KivaSymms)というメーカーだ。キバシステムズはその後、優れた物流ロボットの開発に成功し、物流ロボットの生産と販売を拡大して成長していった。 この後に、驚くべき展開が待っていた。なんと、アマゾンがこのキバシステムズを買収したのである。アマゾンフレッシュを始める直前の2012年、アマゾンは7億7500万ドル(約620他日)という巨額の資金を投じてキバシステムズを買収している。ネット通販事業者がロボットメーカーを買収するという一見脈絡のなさそうな行動の裏には、こうした事情かあった。 ウェブバンの物流センターが直面した・課題は、同時にアマゾンの物流センターの課題でもある。その課題に対応するための物流ロボットという新たな技術革新は、アマゾンでも強く必要とされていた。メーカーそのものを買収してしまうことは、いかにもアメリカ的なダイナミックな企業行動だが、このように、ウェブバンで始まった物流センター作業効率化のための物流ロボットは、アマゾンヘと辿り着いたのである。 ちなみに、2015年、キバシステムズは「アマゾン・ロボティクス(Amazon Robotics) へと社名が変更された。同社が生産した物流ロボットはすでに3万台以上がアマゾンの物流センターに導入され、物流作業の効率化に貢献している。

「物流の軽視」で経営破綻
こうしたアメリカの最近の特徴的な事例は、ネット通販において物流がいかに重要な役割を担っているのかを端的に示している。ネット通販事業者が、ネット通販に必要な物流をうまく管理できなければ、事業を継続的に発展させていくことはできない。ネット通販事業をさらに発展させていくためには、経営資源を集中して物流を改善し、物流の機能を高めていくことが欠かせない??。アマゾンの一連の行動は、まさにこうした物流の重要性を充分に認識しているからこそ行われたものである。 ウェブバンが倒産した2001年は、インターネットバブルが弾けて、新興のネット通販が軒並み倒産した年にあたる。 このとき、ネット通販企業の未熟さが露呈したが、特に、経営の未熟さが表れたのが物流である。ネット通販は、物流に関するノウハウやスキルを持ち合わせていなくても事業を開始することができる。しかし、軽視していた物流の運営の失敗が響き、バブル崩壊という逆風のなかで経営破綻に陥ったネット通販が多かったといわれている。 逆に、こうした逆風の中で生き延びてさらにネット通販事業を発展させたものは、物流の重要性を充分認識し、必要なネット通販の物流のノウハウやスキルを蓄積してきた企業でもある。

ドラスティックな変化の可能性

フルフィルメント・センター
ところで、アマゾンは自社の物流センターを「フルフィルメント・センター(fulnllment center)」という特有な呼び方で呼んでいる。この用語について説明しておこう。オーダー・フルフィルメント ( Order Fulfillment)という言葉がある。日本語に訳すと「注文の業務完遂」となる。これは、ネットで注文を受けた後に、顧客に商品を届けるための一連の業務を行うことを意味している。具体的には、受注管理から始まって、在庫管理、ビッキング(集品、品揃え)、パッキング(梱包)、発送、代金請求、決済処理、さらには返品処理、問い合わせ・苦情処理なども含まれる。こうしたオーダー・フルフィルメントは主に物流センターで行われるため、アマゾンでは物流センターのことをこう呼ぶようになった。 アマゾンが全米向けに本のネット通販を開始した際、フルフィルメント・センターは、本拠地のある西海岸のシアトルと、東海岸のデラウェアの2ヵ所に設置された。広大なアメリカ大陸を東側と西側から扶む形で、そこから宅配便で全米に配送するという手法をとった。 その後、アマゾンはネット通販の分野を拡大する。図1にアマゾンの純売上高を示したが、これまで、いかに驚異的な拡大を図ってきたか分かるだろう。当然、こうした事業の拡大は、ネット通販を支えるフルフィルメント・センターの拡大をともなうものだった。

立地戦略
アマゾンは当初、フルフィルメント・センターを特定の州にしか設置していなかった。その特殊な事情は、州が課税する売上税(sales tax)と密接に関係していた。アメリカでは多くの州で売上税を導入していたが、少数の州ではこれを導入していなかったのである。売上税が導入されている州で販売する場合、商品価格に売卜税が上乗せされ、消費者はその分、高い値段で購入しなければならない。ところが、売上税が導入されていない州で販売すれば、売上税がない分、安い値段で購入できる。 そこで、売上根が導入されていない州に物流センターを設置して、商品を販売して発送すれば、購入者は売ヒ税を支払う必要はない。これによって、アマゾンは税負担を免れて全米の消費者に安く商品を販売することができた。これが、アマゾンのネット通販の競争力の源泉のひとつとなっていた。物流におけるフルフィルメント・センターの立地場所が、ネット通販の競争優位性を左右する状態か生じていたのである。 しかしその後、売上税を導入する州が増えていくことによって、価格面での競争優位性がなくなるとともに、物流センターの設置もこれにとらわれずに行われるようになっていった。

物流システムの中核的存在
アマゾンのフルフィルメント・センターは、120万~140万平方フィート(11万1500㎡~13万100㎡)もの巨人な物流施設が主流となっている。アメリカでは従来、伝統的な小売業者の物流センターの規模は約50万平方フィートと言われ、この規模の場合、100~150名程度の作業員が必要とされる。これに対してアマゾンのフルフィルメント・センターでは1000人程度の作業員か雇用され、ここでネット通販に必要な物流の作業が行われている。ちなみに通常の小売業者の物流センターでは、店舗向けに一定の大きさのまとまった貨物の出荷が行われるため、多くの人手を必要としない。一方、ネット通販の物流センターでは、注文される多数の小口の商品を揃えなければならないために多くの作業員が必要となる。 さて、アマゾンが全米のどの地域にフルフィルメント・センターを設置しているのかを示しだのが図2である。人口密度が高い大都市周辺地域に集中的に設置していることが分かる。

さらに、側近の物流施設の状況を表1に示した。アマゾンは機能に合わせて多様な物流施設を展開しているが、フルフィルメント・センターはその中核的な存在である。また、先に触れたようにアマゾンはすでに3万台以上の物流ロボットを導入しているが、この物流ロボットが稼働しているフルフィルメント・センターは全米で13ヵ所に及ぶ。

フルフィルメント・センターと、これと似た機能を持つリディストリビューション・センターは、現在全米で合計75力所に設置され、今後、さらに11のセンターを稼働させる計画を立てている。

次世代を視野に入れた戦略 もうひとつの重要な点は、配送である。 一般的に、ネット通販の場合、商品の配送は宅配便事業者に委託して行われる。宅配便は全国的な輸送ネットワークを構築しているため、宅配便に委託すれば商品を確実に消費者の手元まで届けてくれる。 しかし、近年、アマゾンはグロサリーの販売と同じように、配送を自ら行うことに力を入れ始めている。2016年、アマゾンはボーイング767ワイドボディーのフレーター(貨物専用機)を20機リースすることを明らかにしている。これは、リースした貨物専用の航空機を飛ばして、貨物を自ら航空輸送しようとするものである。輸送にかかわる動きはこれだけではない。2015年の末には、数千台のトレーラートラックを購入したことも明らかにしている。これは、全米に広がるアマゾンのフルフィルメント・センター間の貨物の輸送に使われる。 貨物航空機を調達するということは、航空宅配便の輸送サービスを自前で行うことを意味する。一方、トラックを自前で調達することは、陸上宅配便に代替する輸送サービスを提供することを視野に入れていることを暗示している。

ドローン 「無人配送」の可能性

かつて、アマゾンの最高経営責任者ベゾスは、テレビのインタビュー番組でドローンによる配送実験を明らかにしている。そこで映し出されたシーンは衝撃的だった。日本のテレビニュースでも取り上げられていたので、記憶されている方も多いだろう。 小型貨物を抱いた小さなドローンが、アマゾンのフルフィルメント・センターから飛び立ち、上空を飛行した後、一軒の家庭の玄関前に着陸する。着陸するとすぐに小型貨物を切り離して地面に落とし、ドローンは再び上空に舞い上がって帰っていく。これを玄関口から見ていた住人が、玄関のドアを開けて届いた貨物を取りに出てくる。まるで近未来のシーンのようだが、アマゾンはこうしたドローンの実用化に向けた取り組みをすでに行っている。 じつは、このアマゾンのドローンには日本も深くかかわっている。2016年、安倍政権の重要な経済政策の一つである国家戦略特区に千葉市が指定され、そこでドローンを使用した宅配の実証実験が行われているが、今後、これにアメリカのアマゾンが参加することが検討されている。本拠地のアメリカでは連邦政府の航空規制が厳しく、ドローンの飛行はいまだに実用化されていない。したがって、これに参加することかできればアマゾンにとって新たな突破口を日本で開くことかでき、願ってもない好機が到来することになる。ちなみに下葉巾では、2019年にもドローン宅配の実用化を目指している。 このアマゾンによるドローンの取り組みは何を意味するのだろうか。これは、ネット通販の配送を根本的に変える可能性を示唆している。それは、ドライバーが運転するトラックによる配送から無人の航空機による配送へと、輸送手段および輸送の仕方が変化するイノベーション(技術革新)といえる。これがもし実現すれば、ネット通販の配送が劇的に変わる端緒となることは想像に難くない。 さらにもう一つ重要な点は、ドローンを導入することは、宅配便からの脱却をさらに推し進めていく契機になると考えられることだ。つまり、単なる新たな輸送方法の導入ではない。こうした点でも、今後ドローンの導入がどのように進展していくのかが大いに注目される。

巨大化する物流センター

成長ビジネスを支える二つの機能
右肩ヒがりの市場 成熟化した日本社会で順調な成長を続けているのが、ネット通販だ。小売業の売り上げが伸びないなかで、ネット通販は破竹の勢いで売り上げを伸ばしている。ネット通販は、まさに現代の先端を走る成長ビジネスといっていいだろう。 まずは、ネット通販がいかに拡大しているのかを確認しておこう。 インターネットを通じたビジネスをEコマース(E commerce)と呼ぶが、これには企業と企業との商取引であるB to B(business to business)と、企業と消費者との商取引のB to C(business toconsumer)がある。ネット通販は主にB to Cとなる。このため、ネット通販はB to CのEコマースと呼ばれる。図3に、日本におけるB to CのEコマースの市場規模を示した。


これを見ると、ネット通販の市場規模は、まさに右肩上がりであることが分かるだろう。2014年の市場規模は12兆8000億円に達している。小売業全体に占めるネット通販の売上高比率を示すEC(Eコマース)化率も年々増加している。2010年は2・84%だったが、2014年は4・37%に増加している。
一方、アメリカのネット通販はどうだろうか。図4には、アメリカの近年のネット通販の販売額とネット通販比率が示されている。

ここでは四で期別に示されているが、年間ベースで見ると、2015年の年間販売額は推計値で3408億ドル(約41兆円)に達している。2014年と比較すると、じつに14・6%もの増加である。他方、年間の小売業全体の販売額に占めるネット通販比率は、2014年に6.4%であったものが、2015年には7・3%に増加している。
日本とアメリカを比較すると、年間の成長率はほぼ同じだが、販売額、さらにネット通販比率はアメリカが日本を大幅に上回っている。

「ラストマイル」と「物流センター」
前項では、アメリカにおけるネット通販の巨大企業であるアマゾンが、経営戦略上、いかに物流を重要視しているか、そして実際に物流に大きな力を注いでいるかを見てきた。もちろん、物流の重要性はアマゾンに限らず、日本のネット通販にも共通するものだ。
そこで改めて、ネット通版と物流はどのように関係していて、物流がいかなる役割を果たしているのかを整理してみよう。ネット通販では、とりわけこのビジネスに特有の物流の重要性が存在している。
結論を先に述べてしまうと、ネット通販には「ラストマイル」と「物流センター」という2つの物流機能が必要となる。そして、この二つの機能が有機的に結びつき(図5)、その機能を高めていくことがビジネスに大きな効果をもたらす。

まず、ラストマイル(last mile)から見ていこう。ラストマイルという言葉は、もともと通信の世界で使われていたもので、これは、通信ネットワークを末端の家庭や企業に接続する最終工程のことを意味していた。このことから、ネット通販でも、最終工程である家庭や企業への商品の配送を表す言葉として使われている。 これは、従来の店舗販売のケースと比較すると分かりやすい。当たり前のことだが、店舗販売では、消費者が店に行き、商品を購入した時点で所有権が移転する。消費者はその商品を原則として自分で持ち帰る。そこでは、特に売り手には「物流」は存在しない。 ところが、店舗のない無店舗版売であるネット通販の場合には、注文した消費者の自宅に商品を届け、商品が購入者に渡された時点で所有権が移転し、取引が終了することになる。店舗販売にはなかった商品を自宅まで届ける「配送」というものか、ネット通販にとって必要不可欠な物流となる。これがラストマイルである。 インターネットで商品を注文する際、「当日配送」や「送料無料」という言葉をよく見かけないだろうか。これらはまさにラストマイルに関係する言葉で、ラストマイルの配送の時間とコストを差別化するために始められたものだ。 このように、ネット通販においてはラストマイルが存在し、企業はどのように商品を顧客の元へ届けるか、いかにして他社との差別化を図っていくのかが間われている。 ちなみに、ラストマイルではなく、ラストワンマイル(last one mile)という言葉が使われることもある。日本では、この言葉が使われることのほうが多い。これはネット通販と物流業者の葛藤を描いた興味深い経済小説『ラストワンマイル』(楡周平、新潮文庫、2009年)の影響があるのかもしれない。しかし、ネット通販先進国のアメリカでは、もっぱらラストマイルが使われている。

ネット通販の物流センター機能

そしてもう一つ、ネット通販には重要な物流の機能が必要となる。それが物流センターで、そこで、ネット通販で販売するための商品を在庫として保管し、注文がある商品を選び出し、配送の準備を行う。これが、「物流センター機能」である。 もちろん、在庫を用意しておくだけでなく、その機能を高めることか重要になってくる。例えば、商品が品薄にならないようにできるだけ揃えておく。これがしっかりできていれば、翌日配送や当日配送が可能になる。商品をすぐに届けることができれば、当然、注文した・顧客の満足度は高くなる。しかし、在庫がなかったらどうだろう。注文を受けた商品を納入業者に発注して取り寄せることになるので、顧客への配送は大幅に遅れる。配送に時間がかかればかかるほど、顧客の満足度は低下し、そのサービスが利用されなくなることもあるだろう。 さらに重要なのは在庫の管理である。在庫を多く抱えていれば、いつ注文があっても即座に対応できるので安心だが、在庫を多く抱えることは、企業に大きなマイナスをもたらす。人体にたとえるならば、在庫は脂肪のようなもので、脂肪がたまると生活習慣病を引き起こし、重篤な病気の引き金となる。企業も同じで、在庫が増加すれば企業の収益性に悪影響を及ぼし、経営は不安定になる。在庫をうまくコントロールして、在庫をできるだけ少なくすることも物流管理の大きな役割となる。 このように、ネット通販というインターネット上で商品の売買が行われるビジネスでは、商品というリアルなモノを動かす物流のプロセスが必要不可欠となる。つまり、バーチャルの世界ではなく、リアルの世界での物流機能である。

物流センターに求められる機能
物流センターで何か行われているのか ここでは、まず物流センター機能について詳しく見てみることにしよう。ラストマイル機能については次章で詳述する。「物流センター」と間いて、その姿をすぐに思い浮かべることはできるだろうか。物流センターは住宅地域やオフィスがある地域ではなく、主に商業地域や工業地域に建てられているために目にする機会は少ない。しかし、港湾近くの高速道路をドライブしたり、郊外のインターチェンジ付近をドライブしたりすると、外側に窓のない四角い巨大な施設を目にすることかあるのではないだろうか。これが物流センターである。 この物流センターの内部では、何か行われているのだろうか(図6)。

まず、物流センターでは、インターネットで注文があった商品を購入者にすばやく届けるために、商品を在庫として保管することが必要となる。そのためネット通販事業者は、あらかじめベンダー(納入業者)に商品を発注しておかなければならない。その数は膨大なものになるが、物流センターでは同時に在庫管理も行わなければならない。 次に、さまざまな商品の注文に応じて、膨大な在庫の中から個別の商品を選び出す作業が必要となる。これはピッキング(picking)と呼ばれる。「つまむ」という意味で、集品や品揃えとも言われる。もちろん、注文された商品は、間違いなく、正確に選び出さなくてはならない。そのため物流センターには、ビッカーと呼ばれる専門の作業員がいて、日々、膨大な数のピッキング作業か行われている。 次に、ピッキングされた商品を配送するために梱包する必要がある。商品を段ボール箱に包装する作業である。これはパッキング(packing)とも呼ばれている。 余談だが、ネット通販で商品を注文すると、段ボール箱に包まれた商品が届く。しかし、実際に箱を開けてみると、商品自体は段ボール箱の何分の、程度の小さなものだったというケースが多い。ネット通販のヘビーユーザーになると、段ボール箱がたまってゴミ出しの日に束ねるのが大変だ。もっと小さな段ボール箱に梱包してくれればと思う。 この梱包には贈答用のラッビングなども行われて、さらに販促のチラシやパンフレット、メッセージ用のカードなども商品とともに同封される。個別の顧客ごとに梱包された商品は、物流センターから配送のために、次の宅配便の拠点に向けて発送される。 このように、ネット通販の物流センターでは、商品の保管、ピッキング、パッキング、そして発送が行われている。

四つの特有の要素
ところで、ネット通販の物流には四つの特有の要素が備わっていて、複雑にして煩雑、そして負荷のかかるものとなる。 第一に、ネット通版では、取り扱う商品数が非常に多い。一般の小売業は販売する商品の範囲が、陳列できる店舗のスペースの大きさに制限される。しかし、バーチャルな世界に店舗を構えるネット通販では、仮想店舗上にこうした制限がなく、ネット上に多種多様な商品を「陳列」することができる。このため、ネット通販の取り扱い商品は膨大な数になる。 実際、人手ネット通販の物流センターでは、商品のアイテム(品目)数は20万〜30万にもおよぶ。ちなみに、一般的なコンビニエンスストアの店舗における商品のアイテム数は3000弱である。アイテム数でいえば、コンビニエンスストアの100倍にもなる。 第二に、ネット通版では1個からの注文が可能である。したがって、物流センターでは基本的に最低単位の商品を取り扱うことが必要となる。膨大なアイテム数の商品を1個単位で処理しなければならない。このため、じつに煩雑な作業が必要となる。 メーカーでつくられた製品は、1ダースとか一定の単位で段ボール箱に詰められて、その段ボール箱がパレットの上に何段にも積まれ、パレット単位で出荷される。そして、パレット単位のまま物流センターに搬入されて保管される。 このパレットのように、まとまった単位で出荷するのであれば、物流センター内での作業はそれほど煩雑にはならず、負荷はかからない。しかし、まとまってあるものをばらして.個を取り出す作業をするとなると、作業の負荷は大きく増加する。この負荷のかかるピッキング作業は、それぞれの注文に応じて多くの作業員によって行われている。 第三に、物流センター内における一連の作業には正確さが要求される。煩雑なピッキング作業の過程では、間違った商品を選び出す可能性も生じる。もし、ピッキングミスで間違った商品を届けてしまうと、信頼性が大きく損なわれ、その結果、売り上げにも大きなダメージを与える。

特に最近では、ネットの口コミなどを通じて、こうした情報は、素早く、広範囲にわたって拡散する。それはネット通販事業者の評価に直接つながり、時には販売そのものが大きく影響されることになる。このため、正確性を担保してミスを防ぐことがネット通販の物流の大きな課題となる。 第四に、作業の迅速性である。特に、最近のように当日配送がネット通販の重要な戦略となってくると、これが物流センターの一連の作業にも大きな影響を及ぼしてくる。商品を注文してから、それが実際に手元に届くまでの時間をリードタイムと呼ぶが、もちろん、これにはピッキングやパッキング、配送時間まで含まれる。したがって、当日配送を実現するためには、翌日配送のときよりも短い時間での作業が必要となる。 物流センターでは、このようなネット通販特有の課題を抱え、日々、対応に迫られている。

延べ床面積20万㎡の巨大施設
こうした物流センターを、ネット通販事業者は全国的な規模で数多く設置するようになっている。では、立地を含めた物流センターの設置戦略はどのように行われているのだろうか。アマゾン・ジャパンの例を見てみよう。 最初の方で触れたように、アマゾンが日本でネット通販を始めたのは、アメリカでネットバブルが弾けた2000年である。日本でビジネスを展開し始めた当初は書籍やDVDが中心で、取り扱い品目は少なかった。販売規模も大きくなかったために、物流センターも全国で1カ所だけというシンプルなものだった。その場所は、首都圏のほぼ中心部にあたる千葉県の直川市。このとき物流センターの運営は、当時、物流業者では日本最大手の日本通運に委託している。この物流センターから、宅配便を使って全国に商品を配送していた。 ちなみに、当時アマゾンは「黒船来航」になぞらえられ、その一挙手.長足に注目が集まっていた。アマゾンの物流センターの内部をルポした本も刊行されている。それが『アマゾン・ドット・コムの光と影』(横田増生、2005年、情報センター出版局)である。当時、秘密主義で謎の多かったアマゾンの物流センターでどのような作業が行われたのか、実際に潜入して働いた著者が労働の実態を明らかにしている。 その後アマゾンは、日本でのネット通販事業を急激に拡大、まさに破竹の勢いで成長を遂げる。それとともに、アマゾンは大規模な物流センターであるフルフィルメント・センターを、全国に次々と設置していった。 アマゾンのネット通販ビジネスの特徴は、積極的な設備投資を先行的に行い、そのなかでネット通販の基盤となる物流システムを自ら構築するというものである。短期的な収益をあげることよりも、競争力を強化するための設備投資を優先させるという姿勢は一貫している。 図7には、現在のアマゾンのフルフィルメント・センターの分布が示されている。人口が集中する、首都圏、中部圏、関西圏、そして九州北部に、大規模な物流センターを設置していることが分かる。日本の人口の3分の1が集中する首都圏では、5ヵ所もの物流センターを配置、さらに、関西圏で2ヵ所、中部圏と九州北部にそれぞれ1カ所ずつ配置している。

 

このうち最も新しいものは、2013年から稼働した、神奈川県の小田原にある延べ床面積が20万㎡という巨大なフルフィルメント・センターである。それまでのアマゾンのフルフィルメント・センターが、大聖のもので延べ床面積が6万㎡から8万㎡程度であったのに比べると格段に大きなものだ。この物流センターだけで、作業員を中心に1000人の雇用が生み出されているといわれている。 ちなみに、アメリカのアマゾンのフルフィルメント・センターはすべて大規模なもので、延べ床面積か11万㎡〜13万㎡にも達する。この小田原のフルフィルメント・センターは、これを凌ぐ大きさとなってい

全国分散化の効果
他の大手のネット通販事業者も、アマゾンと同じように全国的な規模で物流センターの設置を急いでいる。 いうまでもなく、こうした物流センターの増加は、ネット通販ビジネスが急激に成長し、その取り扱い量が著しく増大していることへの対応である。それだけではない。物流センターを全国的に分散して設置する背景には、ネット通販の物流に新たな効果を期待したものでもある。それは、当日配送圏域を拡大することだ。 物流センターを人目が集中する大都市周辺の主要な拠点に分散させることができれば、当日配送の圏域は拡大する。例えばアマゾンの場合、九州北部の鳥栖にフルフィルメント・センターを新たに設置することによって、従来は翌日配送だった九州エリア、および山口県で当日配送が可能になる。また、関東の小田原フルフィルメント・センターが稼働することによって、関東地域への当日配送に加え、静岡地域への当日配送も可能となる。当日配送圏域を拡大することができれば、リードタイムの短縮というサービスをさらに一層推し進めることが可能になる。 物流センターの全国分散化で期待される効果はこれだけではない。物流センターからの配送の選択肢を拡大して、配送コストの削減という効果も期待されている。 物流センターが一極集中していると、ラストマイルは全国に配送が可能な少数の大手宅配便事業者に依存せざるを得ない。ところが、全国の大都市周辺に物流センターを設置すれば、注文の多くを占める大都市の消費者への配送は、その地域に輸送ネットワークを持つローカルの物流業者に任せることかできるのだ。 言い方を換えれば、ネット通販事業者にとっては、少数の大手宅配便事業者以外の選択肢が増えることになる。こうした選択肢が増えることによって、配送コストの削減という可能性も広がることになる。 日本では、大手宅配便事業者以外に配送する運送業者を多様化させる動きはさほど進んでいないが、アメリカでは実際に物流センターを分散化することで多様な運送業者を積極的に活用している。すでに見たように、アマゾンは全米に多数のフルフィルメント・センターを設置して分散化しているが、それとともにリージョナル・キャリア(regional carrier)と呼ばれる地域の運送業者をラストマイルの配送に積極的に活用している。 アメリカの宅配便は著しく寡占化が進んでいて、少数の宅配便事業者によって市場のほとんどが占められ、地域の運送業者が占める割合は数パーセント程度だといわれている。これに対してアマゾンは、全体の配送のうち、18%をこうした地域の運送業者に委託している。これは、アマゾンがフルフィルメント・センターを全米規模で分散化しているからこそ実現できるものだ。また、こうした配送の選択肢を増やすことで、ラストマイルの配送コストを削減しようという姿勢を読み取ることができる。

自家物流か、外部委託か

在庫が増えてきたら、どうする? ネット通販は起業しやすいビジネスである。新しくビジネスを始める場合、商品の配送は宅配便に委託するとしても、それ以外の必要な物流は、最初はネット通販事業者白身で行うことができる。ビジネスを始めたばかりの頃は、取り扱う量は少ない。量が少なければ、事務所の.室に販売する商品を保管しておき、注文があれば、社員自らが商品を保管している部屋で発送作業を行える。ちなみに、こうした企業自らが必要な物流を行うことは、「自家物流」と呼ばれる。 しかし、そのうちネット通販事業が軌道に乗って注文量が増えてくると、狭いスペースで片手間的に作業を行うことはできなくなってくる。また、注文量が増えれば作業も混乱し、顧客への発送が遅れたり、間違った商品を送ったりしてしまうミスの可能性も高まる。成長するネット企業は、こうして一定の段階で物流センター機能をどうするのか、真剣に考えなければならなくなる。それは、このまま自家物流を続けるか、それとも専門の物流業者に外部委託するかの選択である。 自家物流を続ける場合、自社で倉庫や物流センターを新たに用意し、そこで作業員を新たに雇って一連の作業を行うことになる。 物流センター機能を自ら充足しようとする自家物流は、ネット通販事業者が経営戦略において物流の重要性を強く認識している場合に積極的に選択されることになる。ネット通販事業者自ら物流センターを運営して物流のスキルを高め、正確で迅速な優れた物流サービスを顧客に提供できるようにする。これによって、他のネット通販事業者との差別化を図り、ネット通販の競争力を強化しようとするのである。

アスクルの自家物流
そこで、重要な経営戦略の一環として、物流センター機能を自ら行っているアスクルの例を見てみよう。オフィス向け用品などのネット通販を展開するアスクルは、ネット通販の物流戦略を明確に持っている。それを表すのが、アスクルの「物流を制する者がEコマースを制する」という考えだ。優れた物流システムを持つネット通販に高い競争力が与えられるため、アスクルはとりわけ自家物流に力を入れてきた。 アスクルは早い段階からリードタイムの短縮に注力し、顧客に対する物流の差別化を積極的に行ってきた。アスクルの社名は「明日来る」にちなんだもので、当初から翌日配送を謳ってきた。現在ではさらにリードタイムの短縮を図り、当日配送圏域を拡大している。 リードタイムの短縮には、配送だけでなく、全国の主要拠点に大型の物流拠点を建設して運営することか必要となる。実際にアスクルは、自ら積極的な設備投資を繰り広げて、全国的な規模で大型の物流センターを建設していった。 現在アスクルは、東北の仙台、首都圏に埼玉、東京、横浜の3ヵ所、名古屋、大阪、福岡と全国の主要拠点7ヵ所に大規模な物流センターを建設し運営している。なかでも埼玉県にある「アスクルLogiPARK首都圏」の延べ床面積は約7万2000㎡、7万アイテムを取り扱う大規模な最新の物流センターである。これを自前で揃えるために、アスクルは土地の聯入、物流センターの建設、物流センター内の物流機器に、約200億円の設備投資を行っている。 アスクルは1990年中ごろから物流センター整備を本格的に進め、2000年代に入ってその再編をさらに積極的に進めている。全国の主要拠点で取り扱い量が拡大することにより、手狭になった物流センターを新たに建設したり、移転したりするなどして、物流インフラの整備を進めてきた。そして、現在のような全国的配置に至った。

ネット通販事業者の変身
ネット通販の物流センター機能を自ら行う自家物流に対する別の選択肢が、専門の物流業者に外部委託することである。自家物流を行うとすれば物流センターヘの大規模な設備投資が必要となったり、物流センターを運営する人材の育成が必要となったりする。こうしたことを行う余裕のない企業は、物流業者に物流センターの機能を外部委託しなければならない。 ところが、自家物流を行っているネット通販事業者が、他のネット通販事業者にこの物流センター機能を提供することがある。通常、こうした物流サービスを提供するのは物流業者だが、自家物流を展開してその能力を高めたネット通販事業者が、他のネット通販事業者の物流も同時に担っているのだ。つまり、ネット通販事業者でありながら、物流業者と同じことを行っているのである。 具体的に見てみよう。この典型的な事例は、またもアマゾンに見ることかできる。すでに述べたように、アマゾンは日本でネット通販ビジネスを開始した当初、物流センター機能を最大手の物流業者である日本通運に外部委託していた。しかし、その後、物流センターを自ら設置して管理運営するようになった。さらに、自社のこうした物流インフラを利用して、物流サービスを他の多くのネット通販事業者に提供するようになったのだ。 アマゾンは、2008年から「フルフィルメントby Amazon」(FBA)というネット通販事業者向けの物流支援サービスを開始した。これは、アマゾン以外のネット通販事業者の商品を、アマゾンのフルフィルメント・センターで保管し、注文があればビッキング、パッキングして出荷し、さらには宅配便事業者に配送を委託して、返品処理まで行うものである。これによって、物流を外部委託するネット通販事業者は、アマゾンと同じフルフィルメントサービスを受けることかできる。 アマゾンは、自社で仕入れた商品をネットで販売する以外に、「Amazonマーケットプレイス」を2001年から開始している。これは、他のネット通販事業者向けのモールを開設して、アマゾンのネット上で他のネット通販事業者が商品を販売できるようにするものである。そして、このマーケットプレイスに参加しているネット通販事業者に対して、物流サービスを提供するのが「フルフィルメント by Amazon」である。

マーケットプレイスに参加しているネット通販事業者にとってみれば、「フルフィルメントby Amazon」を利用することによって、煩雑で面倒なネット通販の物流センター機能をアマゾンに料金を支払って外部委託できるようになる。
自ら構築したフルフィルメント・センターの物流インフラを活用して、他のネット通販事業者に物流サービスを販売する。つまり、アマゾンは物流ビジネスも同時に繰り広げているのである。

楽天の苦悩
ネット企業による物流サービスの提供について、もう一つの注目すべき動きを見せたのが楽天である。楽天はアマゾンとは異なり、モールという仮想商店街をネット上につくり、さまざまな商品を販売する企業が、このモールに参加するというビジネスの形態をとってきた。 楽大のモールに参加する企業は、モールに出店しているとはいえ、商品自体は個々の企業が自ら管理・保管し、注文後のピッキング・パッキングといった一連の作業を行って、宅配便に委託して発送していた。 しかしながら、個々の企業の物流のサービスレベルはまちまちで、在庫管理が不ト分で欠品が生じたり、物流作業が効率的に行われず顧客への商品の到着が大幅に遅れたりする事態が頻繁に起きていた。 かたやアマゾンのように、一部で当日配送をうたって優れた物流サービスを提供するようになると、不安定で不確実な物流サービスの提供は、ネット通販の競争に大きな影響を与える。こうして、モールの主催者も、モールに参加するそれぞれの企業の物流をそのまま放置しておくことができなくなった。 そこで楽天は、2010年に物流子会社となる楽天物流を設立して、その後モールに出店している企業に「楽天スーパーロジスティクスサービス」という物流支援サービスを提供する。この物流支援サービスは、基本的にアマゾンのフルフィルメントサーピスと同じである。楽天市場のモールに参加する企業の物流を、楽天物流が代わりに遂行するのである。 これを実現するために、楽天は、それまで注目してこなかった物流に対して積極的な設備投資を繰り広げていった。楽天は、「楽天フルフィルメント・センター(RFC)」と呼ぶ物流センターを全国5都市に8拠点整備する計画を進めたのである。こうして、モールに参加する企業の物流をサポートするとともに、企業に物流サービスを提供する物流ビジネスを新たに展開していった。 しかしながら、楽天物流は2014年7月に親会社の楽天に吸収合併され、解散してしまった。それまでの事業展開で多額の官業損失を出して、大幅な債務超過に陥ったのである。このため、一部の物流センターか閉鎖され、新しい物流センターの建設計画も撤回されている。こうした過程を経て、楽天は関東に2つ、関西に1つの楽天フルフィルメント・センターを稼働させて、ネット通販事業者向けの物流支援サービスを継続して提供している。 楽天の物流ビジネスヘの参入は、重要な観点を提供している。厳密に考えると、楽天は自家物流ではなく、モールを開設している関係で、新規にモールに参加する企業に物流センター職能を提供するために物流業を立ち上げたといえる。それはアマゾンに対抗するためにも必要だったが、ネット通販の物流ビジネスそれ自体は特有のノウハウやスキルが必要とされる。すなわち、ネット通販の物流のビジネス化というのは、基本的には自家物流であろうと、すぐ後で述べる物流業者であろうと、優れた物流のパフォーマンスが要求されるのである。これは、ネット通販の物流ビジネスが決して簡単ではないことを端的に示している。

3PLビジネスヘの需要の高まり

物流のプロがいる。必要な物流サービスを提供するプロフェッショナルの企業、すなわち物流業者である。まえがきで触れたように、こうした物流業者が提供する物流業務は、3PL(third-party logistics)と呼ばれている。 トラック輸送や保管といった単体の機能ではなく、物流センター機能などの複雑な業務を、顧客に代わってまとめて外部委託したいと考える企業が増えたことで、いま、このビジネスヘの需要が高まっている。 もちろん、3PLビジネスを展開する物流業者は、さまざまな業種の企業の物流を対象にしているが、現在の重要な課題は、ネット通販の物流を取り込むことになっている。 ネット通販向けの3PLビジネスを展開しているのは、日本通運、日立物流などの大手物流業者、NTTロジスコ、スクロール360などの物流子会社系の物流業者だか、自ら運営する物流センターに、ネット通販事業者の販売する製品を在庫として保管・運営するなど、物流センター内で生じる一連の作業を行っている。また、ネット通販には返品がつきものなので、いったん発送された後に返品として戻ってきた商品の処理も行っている。 3PL物流業者は、当然、正確な作業をできるだけ迅速に行い、かつ、できるだけコストが安い物流サービスを提供するノウハウを蓄積している。これが、ネット通販事業者の顧客満足度を高めるとともに、3PL物流業者自身の競争力をも高めている。 また、3PL物流業者は、販売規模の大きいネット通販事業者だけでなく、多数のネット通販事業者を顧客にしたいと考えている。自社の物流センターでできるだけ多くの製品を取り扱うことができれば、コスト面で有利になるからだ。取り扱い量が増加して物流センターからの出荷量が増えれば、配送を委託している宅配便事業者との価格交渉を優位に進めることができ、宅配便料金を下げることが可能となる。 一方、3PL物流業者だけでなく、宅配便事業者の取り組みにも注目したい。いうまでもなく、宅配便事業者はネット通販のラストマイルを担っているが、これと同時に、その前工程である物流センター機能を提供しているのである。

その提供の仕方が独特だ。宅配便の輸送ネットワークのためにはトラックターミナルが不可欠だが、これを大規模な複合的物流施設にして、そこでネット通販のための物流サービスを提供しているのだ。つまり、宅配便事業者は、ネット通販のラストマイルを担うだけでなく、ネット通販のための3PL物流業者にもなっているのである。 この最大の売りは、同じ物流施設であるために、注文に応じて品揃えされた商品を即座に宅配便の輸送ルートに接続することができる点にある。これによってリードタイムの短縮が可能で、当日配送圏域を広げることができるというわけだ。 大手宅配便事業者のヤマト運輸、佐川急便、そして日本郵便は、輸送ネットワークを拡充する目的で大規模かつ複合的な物流施設を積極的に建設しているが、これは宅配便のトラックターミナルとともに、物流センター機能を充足させようとしているということてもある。これを使用して、ラストマイルの前工程であるネット通販の物流の取り込みを行っているのである。

「物流センターの建設ブーム」
最近、大規模な物流センターの建設が相次ぎ、「物流センターの建設ブーム」ともいえる状況が続いている。首都圏では、東京湾沿岸の港湾地区や、東京周辺で都心から半径40〜60キロの環状道路である圏央道(首都圏中央連絡自動車道)周辺の地域に次々と建設されている。都心から高速道路が放射状に延びる、こうした高速道路と圏央道が交差する地域周辺は、物流センター立地の好適地である。同時に、こうした地城は、首都圏という著しく人目が集中している巨大な消費地に対して、短時間、かつ効率的に商品を供給していくためにも、そして物流のネットワークを構築していくためにも優れたロケーションとなっている。 このような、旺盛な物流センターの建設需要を支えているものの1つが、急成長を遂げるネット通販であり、その物流センター機能に対する活発なニーズなのである。「物流も人和ハウス」という、大和ハウスのストーリー性を持たせたテレビCMが面白い。大和ハウスは住宅だけでなく、物流センターを建設して企業に物流サービスも提供しているが、こうした物流センターの建設ラッシュには、物流不動産ピジネスも大きくかかわっている。物流不動産ビジネスは、資金を集めて工場跡地などの土地を購入し、そこに大規模な物流センターを建設して利用したい企業に貸し出す。 ネット通販事業者であれ、それを支える物流業者であれ、物流センターを建設するためには多額の設備投資が必要となる。もちろん、ネット通販における物流センター機能の重要性を認識する企業は、自ら多額の資金調達をして大規模な設備投資を自前で行う場合もある。もちろん、巨額な設備投資のリスクを避け、物流センターを賃貸というかたちで調達する企業も多い。 ネット通販ビジネスの拡大、そして当日配送を実現するためには巨大消費地に近い場所に物流センターか必要となる。これは、ネット通販事業者自らが求めているのか、あるいは3PLの物流業者がネット通訳業者の求めに応じているのかという違いはあるものの、強いニーズが存在していることを示している。このニーズを満たす形で、大規模な物流センター建設か首都圏を中心として繰り広げられているのである。

ラストマイルで何が起きているか

郵便局と宅配便

厄介なネット通販のラストマイル
前項では、ネット通販を支える大事な物流機能である、物流センターについて詳しく見てきた。本章では、もう一つの重要な物流機能であるラストマイルについて見ていこう。 ネットで買い物をする機会が増えると、宅配便の配達員が自宅のチャイムをならすことが増える。あまり外出しない人の場合、会う機会が最も多いのは、宅配便の配達員かもしれない。それほど頻繁に、彼らは各家庭を訪れる。ネット通販が普及した現代では、欲しい商品を買うことは、宅配便のドライバーと会うことと同じになる。 繰り返すか、注文された商品を購入者に届ける配送のことをラストマイルと呼ぶ。輸送のことを考えると、ネット通販のラストマイルは本質的に厄介なものである。最も効率的な輸送とは、大量の貨物をまとめて発地点から着地点に運ぶことだ。例えば、工場で生産される大量の製品を大型トラックに満載して、着地である物流センターに直送する。これが最も単純で輸送の時間が短く、かつ輸送コストも抑えることかできる。 これと対極にあるのが、ネット通販の配送である。極論すればノ不ット通販の配送先は全国の各家庭であり、事業所となる。現在日本では、世帯数は5180万、事業所数は約580万に達する。ネット通販では、注文かあれば全国にある、こうしたさまざまな世帯や事業所に商品を配送しなければならない。 注文は、いつ、どこで発生するのか分からない。しかし、注文があれば、短時間のうちに確実に届けなければならない。しかも、配送する商品は一個かもしれない。一個でなくても、きわめて少量の場合が多々ある。その少ない貨物を、世帯別、事業所別に、ばらばらに個別に配らなければならない。 このために、企業から発生する貨物の輸送に比べるとネット通販の配送作業は煩雑となり、効率も極端に低く、そして貨物の単位当たりの配送コストも高くならざるをえないという性質を帯びている。

小包サービスと宅配便
しかし、こうしたネット通販の輸送のニーズを満たしてくれる物流サービスは、ネット通販が本格的に始まる前から提供されてきた。その1つが、郵便局の小包サービスであり、もう1つが宅配便である。 もともと政府が行っていた郵便局は、手紙やはがき、さらに小包を全国の各家庭や事業所に配達するための独自の輸送ネットワークを構築し、これによって全国の隅々にまで送り届けることができた。郵便小包は「ゆうパック」と呼ばれるようになったが、その後、郵便局は民営化されて日本郵便となった。そして、ゆうパックは宅配便サービスに変わる。これは、郵便局が築いてきた輸送ネットワークをそのまま活かすかたちで行われている。 もう1つが宅配便である。これは、トラック運送業者が始めた、小型貨物を各家庭に配送する輸送サービスである。1976年、ヤマト運輸は家庭から出る小型貨物を対象にして宅配便を開始したが、それ以来、トラック運送業者が同様のサービスを提供していった。現在では、ヤマト運輸、佐川急便といった巨大な宅配便事業者がネット通販の貨物の配送を担っている。 このように、わが国では郵便局の小包サービスとトラック運送業者の宅配便がネット通販のラストマイルに必要な配送を担っている。こうしたパターンは日本だけでなく、他国でも共通している。 例えば、アメリカでも中国でもそうだが、もともと国営で全国を網羅するネットワークを持つ郵便があり、そのなかで民間の宅配便事業者が成長し、ネット通販のラストマイルを担う。つまり、郵便が、国営か民営かといった違いはあるものの、ネット通販のラストマイルを担うパターンは共通しているということだ。 ネット通販のラストマイルでは、先に見たアメリカのアマゾンフレッシュのように、ネット通販事業者自らが配送するという選択肢もある。日本でも、最近では食品などを販売するネット通販で、ネット通販事業者自らが配送することも行われている。 しかしながら、圧倒的な多数のネット通販事業者は、ラストマイルの商品の配送を宅配便を中心とした物流業者に委託している。ということは、ラストマイルでは宅配便が決定的に重要な役割を担っていることになる。

日本の場合、ネット通販が行われる以前でも、カタログ通販やテレビ通販、総合通販、さらには産直(産地直送)など、旧来の通信販売において、小包と宅配便は消費者への商品の配送を行ってきた。ネット通販が急激に拡大しても、これらの事業者はさらにその輸送能力を高めて、そのラストマイルを担っている。

宅配便のサービスレベル

興味深いアンケート
ネット通販にとっては、ラストマイルの輸送のサービスレベルの良し悪しが、ネット通販事業そのものに直接影響を与える。消費者は、ネット上で商品を見つけて購入手続きを済ませると、できるだけ早くその商品を手に入れたいと考える。そして、商品が早く到着すれば満足し、到着に時間がかかればサービスが悪いと判断する。
配送サービスに関する興味深い調査結果がある。図8は、日本、アメリカ、中国の消費者に対して、ネット通販を利用する際の問題点について間いたアンケートである。

消費者が不安や不便に考えているのは、配送時の商品の破損、配送の遅延、誤配の可能性などである。いずれの項目においても、日本の消費者はアメリカや中国に比べてこれらに対する不安が大幅に低い。このことは、ラストマイルにおける宅配便の輸送サービスレベルという点では、日本は高い水準を維持していることを端的に示している。

中国・アメリカのサービスの実態

私たち日本の消費者は、宅配便のサービスレベルの高さを日々経験している。日本ではセールスドライバーと呼ばれる宅配便の配達員が、商品を手渡しで各家庭まで確実に届けてくれる。その際の配達員の接客態度もおおむねよい。 これに対して、ネット通版が日本以ヒに急激に拡大している中国では状況が大きく異なる。宅配便そのものの歴史が浅いせいだろうか、輸送ネットワークの発達が遅れていて、サービスレベルが低い。このため、中国では宅配便に対する消費者の不満か特に強く示されている。 実際、中国における宅配便のサービスレベルがいかに低いのか、その一端を垣間見たことがある。中国の上海で、現地の宅配便事業者の物流現場を見せてもらったときのことである。宅配便貨物を仕分けるトラックターミナルでは、貨物がまるでゴミのように扱われ、乱雑にうずたかく積まれていた。仕分けといっても、宅配便賞物の山のかたまりがいくつもあるだけだ。また、これは別の場所で見た光景だが、オートバイで集荷されてきた宅配便の貨物が、道路わきの地べたにそのまま放置されていた。こうしたいくつもの現場を見てきた私は、日本では到底考えられないぞんざいな貨物の扱いに驚かされた。これでは、貨物か損傷したり、紛失したりするトラブルが発生するのは避けられない。 他方、ネット通販大国のアメリカはどうだろうか。日本の宅配便はビジネスを始める時にアメリカを参考にしているほどで、輸送ネットワークも全米で構築されている。ところが意外にも、サービスのレベルは高くない。 インターネットのYoutubeで、宅配便の配送現場を簡単に見ることができる。そこに映し出される光景は衝撃的だ。例えば、玄関に取り付けられたカメラがとらえた映像がある。配達に来た大手宅配便の制服を着たドライバーが、300ドルもする精密機器のカメラを玄関の入り口から中に放り投げて立ち去っていく。また、別のものでは、ドライバーが配達している液晶テレビを玄関の塀から放り投げ、そのまま帰ってしまう。さらには、宅配便の貨物の集荷に来たドライバーが、まるでゴミを放り投げるように、集めた貨物をトラックに投げ込む………これでは、包装されていても、中の貨物はたまったものではない。破損や損傷も免れない。
YouTubeで映し出されたものは、宅配便ドライバーの劣悪な配送サービスに怒った消費者が投稿したものだが、これらを見ても、アメリカの宅配便のサービスレベルは決して良くないことが容易に想像できる。
話が劣悪な海外の宅配便サービスに傾いてしまったが、元に戻すと、日本の宅配便は優れたサービスを提供し、一方の消費者のほうもサービスに対する不安は少なく、総体的に高く評価されていることをアンケート調査は示している。言い換えれば、日本では宅配便がうまく機能し、消費者も恵まれた状況にあるといえるだろう。

当日配送をめぐる攻防

1日配送の拡大 いま、ネット通販のラストマイルで重要なキーワードとなっているが当日配送だ。これは、ネットで商品を注文してから品物が自宅に届くまでのリードタイムの問題でもある。では、ネット通販事業者はなぜ当日配送を積極的に行うのだろうか。 先に、われわれ消費者は、商品の選択と購入の決断に時間をかけたとしても、いったん購入を決めると、できるだけ早くその商品を手に入れたいと考えるのが常だと述べた。ネット通販で商品を買う場合、直按手に取ることができないため、より短い時間で商品を手に入れることができれば、消費者の満足度が増す。こうして消費者の満足度を満たすことかできれば、ネット通販事業者は当日配送によって差別化を実現できる。 しかし、企業が当日配送を積極的に推し進める理由は、他にもあるといわれている。それは、返品の防止である。ネット通版では返品が多い。返品は売り上げにならないだけでなく、舞い戻ってきた商品を物流センターで処理するのに余計なコストが発生する。 企業の物流センターには返品専用のスペースが設けられているし、フルフィルメント・サービスには返品処理も含まれている。とはいっても、企業からすれば、購入者からの返品はできるだけ避けたい。 そこで、当日配送で素早く商品を届けることができれば、購入者が類似した別の商品の購入を考えたり、別のサイトやショップでの購入を考えたりする時間的な余裕をりえずに済む。このように、当日配送でリードタイムを短縮することで、返品を削減できると考えられている。こうしたこともあって当日配送を積極的に推し進めているのだ。 ところで、消費者が求めているのは、必ずしも当日配送ではないという意見もある。消費者に対するアンケートー調査に基づくと、ネット通販を利用する消費者は、むしろ時間指定や注文した商品を束ねて持ってくるといった、当日配送以外のニーズのほうか大きいという。 しかし、現在ではネット通販事業者は当日配送を積極的に消費者にアピールし、その競争はいっそうの激しさを増している。

なぜ料金が同じなのか
当日配送といっても、これは純粋にラストマイルの配送だけの問題ではない。すでに述べたように、発注から購入者への商品の手渡しまでのリードタイムの短縮には、物流センターを分散して消費者の近い場所に設置すること、そして物流センター内の一連の出荷作業を迅速に行うことが極めて大切となる。 そして、これらにプラスして、ラストマイルの配送を外部委託された宅配便が輸送時間をいかに短縮できるかが、もう一つの重要な要素となる。 ちなみに、宅配便では翌日配達圏は明記されている。例えば起点を首都圏とすると、ヤマト運輸の翌日配達圏は本州全域、四国全域、九州北部となっている。そのほかの地域は翌々日配達となるが、翌日配達は人口分布で90%以上に達している。それほど、宅配便を利用するとリードタイムが短縮されるようになっている(当日配達圏の明確なマップはまだ見ることはできないが、もしかしたら近いうちに当日配達圏のマップが作られるかもしれない)。 輸送のスピードに対する関心は、特に日本で強いようだ。アメリカの宅配便事情は、日本とはだいぶ異なる。アメリカの場合、宅配便は航空宅配便とトラックによる陸上宅配便の1つに大きく分かれているが、アメリカは国土が広いために、長距離を短時間で運ぶことができる航空宅配便が、日本に比べると格段に大きなウエイトを占めている。 その航空宅配便は、迅速性に優れた当日配送もあるが、翌日配送、3日目配送、さらには4日目配送まである。当然、輸送日数が短ければ運賃は高くなり、輸送日数が良ければ運賃は低くなる。利用者は時間と運賃を考えて、宅配便サービスを選択できるというわけだ。それにしても、航空輸送で、これほど日数の要する宅配便サービスが提供されていることに驚く。 さらに驚くのは陸上宅配便である。トラック輸送であるから、輸送日数はさらにかかる。全米規模で見ると、翌日配達から3日目配送、4日目配送、5日目配送、そして6日目配送まで分かれている。最も達いところで、ほぼ1週間を要することになる。しかも、配送日数は営業日で示されている。これは何を意味するかというと、営業日以外の上目は輸送されないということだ。したがって、土日を間に挟んでしまうと、実際の輸送は営業日にプラス2日を加えた配送日の配送となる。 アメリカの宅配他の場合、輸送日数が長く、ネット通販の貨物の運賃を安くしたいのであれば、航空宅配便でも長い輸送日数のサービスが用意されている。さらに運賃を安くしたいのであれば、陸上宅配便を利用できるが、到着口数はさらに長くかかる。このようにアメリカでは、日本のように宅配便の輸送に過度な迅速性を求めているわけではない。 これに関連して興味深いのは、日本では現在、当日配送が拡大して迅速な輸送が提供されているにもかかわらず、それにともなって宅配便料金も変わる、ということになっていない点だ。つまり、別の言い方をすれば、宅配便事業者は高度な輸送サービスに応じた高い運賃を、顧客の企業に求めていないということでもある。 輸送時間が短縮されれば、運賃は高くなるのは当たり前である。それは、目的地に在来線で行くのと新幹線で行くのとでは運賃が大きく異なることと同じ原理である。しかし、現行の宅配便の場合、そうはなっていない。これは、価格競争という、宅配便事業者間による激しい競争合戦が影響しているが、アメリカなどと比べると日本の宅配便事業者は、顧客に対して「人が良すぎる」ように思える。

送料無料と運賃をめぐる異変

ラストマイルの配送はタダではない ネット通販事業者は激しい販売競争を繰り広げる中で、他社との差別化を図る施策を繰り広げてきた。その.つが、「送料無料」である。かつては、商品価格とは別に送料を購入者に負担してもらっていた。それを一定額以上の購入に対して送料無料にしたり、販売商品すべてを送料無料にしたりするようになった。 一部のネット通販事業者が始めたこの送料無料が、購入する消費者にネット通販の割安感と利便性を与えることになり、ネット通販事業者の間で急速に広まっていった。そして、現在ではいろいろな形態はあるものの、送料無料が業界の標準になりつつある。 話はそれるが、送料無料に関しては、以前、こんなトラブルが話題になった。アバレルのネット通販から商品を購入した利用者が、1050円の商品が、送料手数料を含むと1750円になるのは詐欺だとツイッターで批判した。これに対して販売したネット通販の社長は、タダで商品が届くと思うな、とツイッターで購入者に反論した。 販売する会社のトップが顧客を汚い言葉で罵ったこともあり、これがネット上で火炎上を引き起こした。その後、ネット通販の社長が自らの発言を謝罪するとともに、配送料を無料にすることを発表したのである。もちろん、これだけか原因ではないが、こうしてネット通販の送料無料がさらに広まっていった。 このネット通販の社長が言うように、ラストマイルの配送はダダではない。実際にネット通販事業者は、販売した商品を顧客に届けるために、宅配便事業者に運賃を支払って配送を委託している。 ということは、送料無料の場合、送料は販売価格の中に含まれると考えるのが妥当だろう。こうしたことは、何も珍しいことではない。例えば、企業と企業の取引において、わが国の商習慣では、売る方が自らの責任で買う方に商品を届けるのが一般的である。「庭先渡し」や、さらに「店着価格制」と呼ばれているが、売る方の責任で買う方に商品が届けられ、商品の配送料は商品価格の中に含まれる。商品の価格は配送料込みの価格であるから、買う方に配送料を別途請求しない。このように考えれば、ネット通販での送料無料は、これと同様の商習慣であると考えることかできる。

物流コストをいかに抑えるか
ネット通販事業者は、自らの負担で配送料をまかなわなければならない。このため、この配送料をいかに低く抑えるかかポイントになる。 もともとノ不ット通販は他の業種に比べて物流コストが高い。図9は業種別の売上高に対する物流コストの比率を示している。業秤によって物流コストの比率は大きく異なるが、特に小売業の屈服が著しく高いことが示されている。同じ小売業の量版店での物流コストが2・5%、多頻度小口配送が必要なコンビニでも4・9%なのに対して、通販の物流コスト比率は12・1%にも達している。これは、すべての業種のなかで最も高い物流コストとなっている。

 

少量多頻度輸送というラストマイルの配送コスト、物流センターで膨大な数の商品を在庫として抱え、個々の注文に応じて細かく品揃えしなければならないための物流コストという性質上ネット通販では物流コスト比率は高くならざるを得ない。 アメリカのアマゾンは、年間にどのくらいの配送コストを支払っているのか明らかにしている。2015年、アマゾンは配送料金として115億ドル(1兆3800億円)を支払っている。これは一企業が支払う配送料金だけだか、それ自体、巨額な金額である。この年のアマゾンの売上高は1070億ドル(12兆8400億円)であるから、売上高に占める配送コストだけで10・7%に達する。 もちろん、これ以外にフルフィルメント・センターなどの稼働コストもあるために、物流コストはもっと高い比率になる。いずれにせよ、配送料金の支払いだけで売上高の10%を超えているということは、ネット通販にとってラストマイルのコストがいかに大きな負担になっているかということを端的に示している。 こうした物流コストが上野すれば収益は大きく圧迫されるが、逆に言えば、物流コストを抑えることができれば収益の改善に大きく貢献するということだ。ネット通販のラストマイルは、その多くが宅配便事業者に外部委託されている。ということは、宅配便の料金をいかに低く抑えるかが、ネット通販にとって極めて重要になるということである。

宅配便の運賃はどのように決まるのか
宅配便の運賃によって、ネット通販のラストマイルの配送コストが決まる。では、宅配他の運賃はどのようになっているのか。 ネット通販の宅配便の運賃は、宅配便事業者とネット通販事業者との問で行われる運賃交渉によって決められている。一般的に宅配便は、貨物1個当たり重量・容積と地域別に運賃が定められていて、個人の場合には、この運賃が適応される。しかし、貨物を大量に発送する企業の場合には、運賃の交渉は個別に行われる。運賃交渉では、発送する貨物の量が多いほど有利となり、より安い運賃を実現できる。 とりわけ、大量の貨物を発送する大手ネット通販事業者は、貨物量の大きさを背景にして複数の宅配便事業者を競わせ、宅配便の運賃を安くすることかできる。また、アマゾンなどのように、他のネット通販事業者にフルフィルメント・サービスを提供しているネット通訳事業者の場合は、その分、発送する貨物の量が増える。このため、宅配便の運賃交渉を有利に進めることができる。 これは、ネット通販の3PLを行っている物流業者の場合も同様である。中小のネット通販事業者の場合、取り扱い量の多い3PL事業者に物流を委託したほうか、結果的に安い配送コストを実現することかできる。

異変
ラストマイルの宅配便運賃をめぐっては、いま、大きな変化が起きている。 それは、人手宅配便事業者である佐川急便がネット通販最大手のアマゾンの配送業務から撤退したことによって始まった。 佐川急便はそれまでアマゾンのラストマイルを担当してきたが、アマゾンに提供している宅配便の運賃が低く、採算割れの状態が続いたため、運賃の値上げを申し込んだ。しかし、これが受け入れられなかったため、2013年にアマゾンの配送業務から撤退を決断する。 すでに述べたように、アマゾンは、全国の主要拠点にフルフィルメント・センターと呼ぶ物流センターを設置し、そこから、宅配便事業者に委託して近隣地域への商品の配送を行ってきた。佐川急便はこうした配送を前提にして、採算ぎりぎりの運賃設定で契約をしていた。 ところが実際は、地域の物流センターヘの在庫は偏りが多く、顧客からの注文があっても必ずしも近い物流センターから発送できなかった。在庫を持っている別の物流センターから発送せざるを得ない状況が生じたのである。 当初の想定以上の長距離輸送が生じることによってコストも増え、もともと低く設定していた運賃では採算割れにならざるを得なかった。物流センターの在庫の偏在か、配送に負荷をかけたのだ。 佐川急便は、宅配便の運賃をできるだけ安く設定して、急成長を遂げるネット通販の貨物を多く取り込む戦略を展開してきた。しかし、取り扱い量が増えても収益性が悪化するようであれば、こうした戦略は早晩転換せざるを得ない。佐川急便は、収益性を重視して高い運賃を収受する戦略に方針転換する。 この方針転換は、ネット通販のラストマイルに大きな変化をもたらすことになる。寡占化した市場で人手宅配便事業者が抜けることになれば、荷主企業であるネット通販事業者との力関係が大きく変化する。その後、ヤマト運輸も値上げに踏み切り、全体的に低下を招いていた宅配便運賃は上昇に転じた。 おりしも物流業界は、トラックドライバー不足の深刻化によって輸送コストが増加していた。これに、こうした大きな環境変化が加わって、運賃のさらなる上昇がもたらされたのである。

ネット通販のラストマイルは、宅配便の運賃値上げによって配送コストが上野する傾向にある。それはネット通販事業者に大きな影響を与えることになる。

再配達問題

悩みの種
大手宅配便服業者が行ったある抽出調査によると、不在によって再配達を余儀なくされた宅配便貨物の割合は、19・6%に達したという。つまり、5回に1回は配送しても留守で手渡すことができず、再び配送しなければならないということだ。しかも全体の貨物のうち、3・5%は2度以上の配達が必要だった。また、あらかじめ時間指定をしていた人の割合は18%だったが、その再配達率は17・0%に達したという。 再配達は、ネット道服のラストマイルを担う宅配便事業者にとって大きな負担となってのしかかる。いうまでもなく、同じ場所へ何度も配送することは、そのために費やされる時間か増え、配送車の走行距離も増えるということだ。当然、宅配便の配送の効率は大幅に低下する。 再配達が増えれば、ドライバーの労働時間が増加し、より多くのドライバーも必要となる。国土交通省が行った試算によると、現在の再配達率では9万人の新しいドライバーが必要となるという。あとで詳しく述べるが、トラックドライバー不足が深刻な状況では、ドライバーの調達は難しい。もちろん、人件費が増えれば、その分か配送コストとしてのしかかってくる。さらに、配送車両の走行距離が増えれば、排ガスも増え、環境問題にも影響を及ぼす。これも国土交通省の試算だが、宅配便の配送車両の走行距離のうち、25%が再配達のための走行だった。つまり、本来であれば必要のないトラックの走行が全体の4分の1も発生しているということだ。 再配達の問題は、労働力不足や環境への負荷を考えると、大きな社会的問題として捉えることができる。このため、政府も再配達を削減するための方策を検討するようになっている。 この問題は、直接的にはラストマイルを担当する宅配便事業者の問題だが、これを放置すれば非効率な配送による輸送コストの増加、それに伴う宅配便運賃の値上げにもつながる。このため再配達問題は、ネット通販事業者の物流コスト負担の増加にも結び付く可能性をはらんでいる。

解決策
再配達問題については、これまでにいくつかの対応策はすでに検討され、その一部は実施されている。 基本的には、自宅以外で宅配便を受け取ることができる仕組みを導入することか重要になる。具体的には、ネット通販で買った商品をコンビニエンスストアで受け取ることができるようなシステムである。 コンビニエンスストアによって提携している宅配便事業者が異なるために、すべてのコンビニエンスストアで宅配便の荷物を受け取ることはできないが、再配達を削減するには有効な方法となる。また、日本郵便は全国の郵便局で宅配便貨物を受け取れるようにして、利用者の利便性を高めている。 別の方法としては、宅配ロッカーの設置がある。マンションなどの集合住宅では宅配ロッカーが設置されているケースは多いが、現在、宅配便事業者が積極的におし進めているのは、鉄道の駅など普段人々が利用している公共の場所に、宅配便専用のロッカーを設置することである。こうすれば、宅配便の受け取り人が通勤の帰りなど駅で荷物を受け取ることができるようになる。また、この宅配ロッカーで返品もできるようになるかもしれない。 再配達を削減する取り組みはこのような形で一部行われているが、一方で、再配達に追加料金を課すという対策も考えられる。あらかじめ自分の都合で時間指定を行っているのに再配達が生じているのなら、そのコストを消費者自身に負担してもらうのは理に適っているという理屈である。こうすれば、当然、追加料金の負担を嫌う消費者は一度で受け取るようにするだろう。しかし、この方法は宅配便事業者が消極的だ。 逆に、宅配便の荷物を最初の配達で受け取るようなインセンティブを与えてはどうかという考え方もある。宅配便を1回で受け取れば、ポイントを付与するか現金を与えるというものである。再配達に必要なコストを考えると、それを回避するために消費者に金銭的なメリットを与えることは有効な方法であるとも考えられる。しかし、こうした方法はまだ実施されていない。 いずれにせよ、大きな問題としてクローズアップされている再配達の問題をどう解消するのか。改善のための対策と具体的な取り組みが求められている。

現代輸送のインフラ・宅配便

宅配便の誕生と成長

現代物流の象徴
宅配便は消費者に直接荷物を届ける役割を担っているために人の目に触れやすく、広く認知されている。
そして、現代において輸送のインフラといえるほど、必要不可欠な物流サービスとなっている。とりわけネット通販では、そのラストマイルを担ううえで極めて重要な役割を持つ。
しかし、歴史的に見れば、宅配便は比較的新しい物流サービスで、物流業界においては当初、異端児的な存在だった。現在のようにこれほど普及するとは誰も思わなかっただろう。しかし、異端児として誕生した物流サービスか、現在輸送のインフラと呼ばれるほどまでに重要な存在に発展している。

宅配便はどのようにして生まれたのか
宅配便は特殊な輸送サービスである。どこが特殊かといえば、小さい貨物しか輸送しない。具体的には、30kg以下の小型貨物を対象として1個単位で運ぶというものだ。それを全国どこにでも運ぶという輸送サービスを提供している。 宅配便は1976年に誕生した。いまから40年ほど前である。宅配便を最初に始めたのは、現在宅配便の最大手のヤマト運輸である。当時、ヤマト運輸の社長だった小倉昌男は、経営不振にあえいでいた自社の貨物運送事業を立て直すために、新たに「宅急便」事業を開始した。この宅急便の開始が、今日の宅配他の端緒となり、ヤマト運輸はこの宅急便の成長によって、巨大な物流企業に成長する。 小倉昌男は、まさに宅急便の生みの親で、その成長を導いた優れた経営者として高く評価されている。小倉昌男自身、何冊もの著書をあらわしたが、そのなかでも『小倉昌男経営学』(日経BP社、1999年)は、どのようにして宅急便を生み出し、新たな宅配便ビジネスを成長軌道に乗せていったのかか詳しく書かれている。じつに興味深く、今日の宅配便を理解するうえでも貴重な本だ。 宅配便の誕生には、それまでの常識を打ち破る物流業者の新たな経営戦略があった。それは、これまでトラック運送業者が取り扱わなかった家庭から出る小型貨物を対象とした輸送サービスを提供することにあった。 それまで家庭から出る小型貨物の輸送サービスは、官業によって提供されていた。具体的には、国鉄(日本国有鉄道、現在のJRグループの前身)による国鉄手小荷物と、当時国が運営していた郵便局による郵便小包である。こうした国が運営する事業体が、家庭から出る小型貨物を対象とした輸送サービスを提供していた。 しかしながら、「官業」という言葉から想像できるように、輸送のサービスレベルは極めて低かった。国鉄手小荷物も郵便小包も、到着するのに多くの日数を要し、しかもいつ着くのかも分からない。荷扱いが乱暴で貨物がよく破損する。この点では、前述した現在のアメリカの宅配便を想起させる。さらには、発送するのに国鉄の駅や郵便局まで持ち込まなくてはならなかった。

そもそも、お上が「運んでやる」というスタンスで事架か行われていて、利用者にとっては非常に不便な輸送サービスであった。一方、大量輸送に慣れている民間の運送業者はどうかというと、家庭から出る極めて小さな荷物を運んでも儲かりそうもないので、この分野への進出を嫌って避けていた。したがって、消費者が利用できるのは、こうした官業サービスしかなかった。不便で劣悪な輸送サービスでも、消費者はそれに甘んじざるをえなかったのである。 こうした状態のなか、ヤマト運輸の小倉昌男は、儲からず、また事業としては成り立たないと反対する社内の経営幹部を説得して、一般家庭の消費者向け小型貨物の輸送サービス「宅急便」を開始したのである。 この輸送サービスは、単に家庭向けの小型貨物に限定した特殊な領域を取り扱うだけでなく、提供される輸送サービスの水準が画期的なものだった。いまでは当たり前のことになっているが、電話一本で家庭まで集荷に行き、翌日配達、明瞭な運賃設定というように、迅速性や利便性に優れた輸送サービスだった。 注目すべきは、ヤマト運輸がそれまでにない革新的な輸送サービスを提供した点にある。官業の劣悪なサービス市場に切り込むには、官業を凌駕する優れた輸送サービスが必要となる。この点は重要であって、宅配便の成長の原動力は、官業にはない、より高度な輸送サービスを提供するというモチベーションにあふれていることにあった。これは、現代の宅配便でも脈々と受け継がれている。

冷ややかに見られていた宅配便
当時、大方のトラック運送業者は、このヤマト運輸による宅配便の開始を冷ややかな目で見ていた。それまでの常識からすれば、いつどこから出るか分からない家庭の小さな貨物を相手にして、運送業のビジネスは成り在だないと考えられていた。 宅急便開始の初日の取り扱い量は、わずか11個に過ぎなかった。この初日の11個という数字は、その後の宅急便の取り扱い量の急激な増加と比較するために、折りに触れて取り上げられる。実際、宅急便の輸送サービスは消費者の大きな支持を得て、その後、従来の国鉄手小荷物や郵便小包といった既存の小型貨物市場を奪う形で貨物量を倍々ゲームで増やしていった。 官業サービスはこのあおりを受け、取り扱い景の大幅な減少を余儀なくされた。そして国鉄手小荷物はやがて廃止され、郵便小包はサービス存続のために根本的な業務改革に迫られることになる。 こうした一連の流れは、多くの民間トラック運送業者に、従来無視していた新しい輸送市場が存在していることを明確に知らしめた。このため、人手のトラック運送業者を中心として、この勃興しつつある新たな宅配便市場への新規参入が相次ぐことになる。 この参入ラッシュは史上稀にみる激しい競争を引き起こした。それぞれのトラック運送業者が、黒猫、ペリカン、カンガルー、子熊など、消費者向けに動物のシンボルマークを使用していたことから、メディアで「動物戦争」と呼ばれたほどだ。 こうしたなかで、最初に宅配便を始めたヤマト運輸に加えて重要なプレイヤーとなるのが、佐川急便と日本郵便である。佐川急便は、もともとメーカーや卸売業者などから出る小口の商業貨物を対象とした輸送サービスを展開していた。佐川急便もまたヤマト運輸と同様に、迅速性のある優れた輸送サービスを提供し、対象は異なるものの荷主企業の支持を得て、小口の商業貨物の輸送を急激に拡大していった。 そして、ネット通販を中心にして宅配便の需要が急激に拡大すると判断した1998年、佐川急便は正式に宅配便ビジネスに参入する。以前から、佐川急便の商業貨物は宅配便とジャンルか似通っていて競合していたが、佐川急便はこの時点から正式に宅配便事業者となったのである。そして、ヤマト運輸と覇権を争う。

もう1つの重要なプレイヤーが日本郵便である。先に述べたように、もともと国営で官業の郵便局は、全国に張り巡らされた郵便局のネットワークを使って、郵便小包のサービスを提供していた。優れたサービスを提供する宅配便が急成長すると、郵便小包はその影響をもろに受け、取り扱い量の深刻な減少を余儀なくされた。一時期は郵便小包自体の廃止も検討されたが、民間の宅配便と競争できるように郵便小包のサービスレベルの改善を行い、存続を図ってきた。 やがて、政府の郵便事業が公社化され日本郵政公社となり、さらに小泉純一郎首相の郵政改革によって、2007年に民営化されて日本郵政グループのなかの日本郵便となった。郵便小包は日本郵政公社以前から「ゆうパック」に名称が変更されていたが、ゆうパックは民営化されて日本郵便になった時点で正式に宅配便となった。そして、民営化された日本郵便は生き残りをかけて、宅配便市場で積極的な攻勢をかけるようになっている。

市場の急激な成長
図10に宅配便の取り扱い個数の推移を示した。宅配便の統計が作成されるようになった1984年度は3億8500万個だったが、1989年度には10億個を超えるようになった。この頃、取り扱い量の伸びが鈍化してきたために、宅配他市場が成熟化しつつあるとの指摘もなされていた。しかし、これに反して「失われた10年」と呼ばれる1990年代の深刻な不況時に、再びかつての勢いを取り戻し、右肩上がりに転じた。そして2000年度には25億4000万個にも達する。しかし、この成長にストップがかかるのか、2008年度のリーマンショックによる世界同時不況の時期である。事実、この時期の取り扱い量は、2年間連続して前年を下回った。しかし、その後は再び増加を続けている(2014年度はわずかに減少している)。

いずれにせよ、宅配便はこのように誕生から最近に至るまで、基本的に右肩上がりで取り扱い量を増やしてきた。そして現在では、年間の取り扱い景が36億1400万個に達する巨大な市場へと成長している。 ちなみに、1999年度に急激に取り扱い量が増えているのは、1998年に佐川急便が正式に宅配便を始めたためである。また2007年度の増加は日本郵便が民営化されて、それまでの郵便小包を宅配便にカウントするようになったためである。 わが国の物直系において、一つの輸送サービスがこれほど急激に成長を続けた例は他にない。それほど、宅配便は特異な成長性の高い物流サービスであり、宅配便のサービスを提供する物流業者も同時に物流の企業として急激な成長を遂げてきた。

宅配便ニーズの変遷
前述のように、宅配便は、最初は家庭から出る小型貨物を対象にしてビジネスをスタートした。これは、一般に消費者から消費者へと輸送されることから、C to C (consulner to consunler)と呼ばれる。一方、企業から企業への輸送はB to Bと呼ばれている。もともと佐川急便は、企業から出て企業に届ける輸送ニーズを捉えて急成長を遂げた会社である。これに対してヤマト運輸はC to Cを対象にしていたが、急激に拡大する企業の輸送ニーズに対応してB to Bの企業貨物を積極的に取り込んでいった。 そして、もう1つが企業から消費者への輸送である。これはB to Cと呼ばれている。カタログ道服、テレビショッビング、産直など通信販売ビジネスはまさにB to Cの輸送需要となるが、ネット通販によってこのB to Cの輸送需要が飛躍的な拡大を迎えることになる。とりわけ、最近の宅配便の需要拡大を支えているものは、こうしたネット通販を中心としたB to Cである。 こうした3つのパターンの宅配便需要については正確な統計があるわけではない。しかし、その需要パターンは図11のように推移していると考えられる。とりわけ、最近の宅配便需要について注目されるのは、ネット通服のB to Cである。

 

寡占化と価格競争

寡占化する宅配便市場
宅配便を提供する物流業者は巨大な企業に成長するとともに、こうした少数の大規模な物流企業がますます宅配便の多くを提供するようになった。換言すれば、宅配便市場においては寡占化が著しく進展していった。 先にも述べたように「動物戦争」と呼ばれる激しい競争のなか、当時は最大で40を超える宅配便がしのぎを削っていた。しかし、やがて大手の事業者のシェアが増加していくとともに、下位の事業者が市場から脱落して撤退していった。 現在では、宅配便会社は21に減少し、最も多い時に比べると2分の1にまで減少している。これとともに、少数の大手宅配便事業者が著しく高い市場占有率を占めるようになっている。 図12に、直近の宅配便市場のシェアを示した。これによると、最大手のヤマト運輸は45・4%にまで達している。これに対して佐川急便は33・5%。この2社だけで市場全体の78・9%、市場全体の8割弱を占める。第3位の日本郵便は13・6%。上位3社の合計のシェアは、実に92・5%にも達する。かつて、ヤマト運輸と佐川急便の2強による寡占化か突出した時期かあったが、最近ではこのように民営化した日本郵便がシェアを伸ばしている。

一般的に、寡占化というと少数の大手企業が市場に対する支配力を強めるというイメージが強い。ライバルの少ない大手の企業は、相対的に価格を高く設定して、顧客に対して優位に事業を展開することができると考えられる。しかし、実際は、大手宅配他事業者間による激しい運賃競争が繰り広げられているのが現状だ。

決定的な運賃の下落
これまで急激な成長を遂げてきた宅配便にとっての大きな課題が、宅配便運賃の低下である。図13には、ヤマト運輸と佐川急便の宅配便1個当たり平均運賃が示されている。これによると、佐川急便の運賃は、2008年3月期までは1個当たり平均530円近くを維持してきたが、その後、下落を続け、2013年3月期には460円にまで下落した。この間の取り扱い量は順調に拡大しているにもかかわらず、運賃は大幅に下落したのである。

 

一方のヤマト運輸の宅配便運賃の下落幅も激しい。2005年3月期の666円から徐々に低下し、2009年3月期には645円となった。その後さらに一段と運賃下落の傾向が強まり、2014年3月期には574円にまで低下している。 では、大手事業者の市場占有率が拡大しているにもかかわらず、なぜ運賃は下落してきたのだろうか。一般的に市場が寡占化すれば、寡占企業は価格支配力を強めることができる可能性が高まる。つまり、宅配便事業者でいえば、運賃支配力を高めることができる。しかしながら、現実的には逆の状況が生じている。それはなぜか。 これは次の理由から説明できる。いかに寡占化か生じようと、片方の大手企業が相手の貨物を奪って取り扱い量を増やそうとすれば、これを実現するために顧客に対して低運賃を積極的に提示して低価格競争をしかける。そして、相手方もこれに応戦すれば、・顧客に対して競争相手よりも低い価格で運賃を提示することになる。こうした中で、宅配便貨物を大量に持つ荷主企業は、たとえ大手の宅配便業者であろうが、双方を競い合わせることによって結果的に安い宅配便運賃を享受することができる。まさに運賃値下げ競争が激化して、宅配便の平均運賃は低下していったのだ。 2強といわれる大手の宅配事業者は、取り扱い量は多くても収益を上げることができない「豊作貧乏」に陥る悪循環からなかなか抜け出せずにいたが、2013年に象徴的な出来事か起きた。それは前述したように、佐川急便が大口顧客であるアマゾンに対して宅配便運賃の値上げを要請したものの、アマゾン側に拒否され、アマゾンの貨物から全面撤退したという事態である。こうして、佐川急便は結果的にアマゾンの大量の貨物を放棄することになった。しかし、他の荷主に対しても同様に運賃の値上げを要望していた佐川急便は値上げを実現し、収益の確保に結びつけている。 実際、運賃の値上げによって佐川急便は、1個当たりの平均運賃を2013年3月期の460円から2014年3月期に480円台へと増やすことができた。一方、取り扱い量は大きく減少させた。13億5650万個(2013年度)から12億1878万個(2014年度)へと、対前年度マイナス10・2%もの大幅な減少となったのである。佐川急便は、1998年に本格的に宅配便に参入して以降初めての対前年度減少を経験する。これによって営業収益は減少したものの、宅配便のデリバリー部門の営業利益は263億円から363億円へと大幅な増加を実現している。 これと対照的にヤマト運輸は、佐川急便かなくしたアマゾンの宅配便貨物を新たに取得することができたか、宅配便運賃の下落に歯止めをかけることができなかった。平均単価は2013年3月期の591円から2014年3月期には571円へと一段の低下に陥っている。一方、取り扱い量は14億8754万個(2013年3月期)から16億6587万個(2014年3月期)へと大幅に拡大したものの、宅配便のデリバリー事業における営業利益は、419億円から358億円に減少している。 2014年以降になるとドライバー不足が深刻化し、それに伴って輸送の供給不足感が強まってくる。こうなると、宅配便運賃の上昇にも拍車がかかり、佐川急便とヤマト運輸はともに宅配便運賃が上昇に転じる事態が生じた。 しかしながら、もう一つの宅配便運賃の撹乱要因が大きく作用し始める。それは、新たな経営戦略の下で宅配便の失地回復を狙う日本郵便の積極的な攻勢である。上位2社のヤマト運輸と佐川急便が取り扱い量よりも収益重視に軸足を移す中で、第3位の日本郵便は直腸でのシェア拡大を目指し、安値攻勢をかけていく。 こうした安値攻勢が功を奏して、日本郵便の取り扱い量は2013年度の4億2800万個から2014年度の4億8500万個へと、対前年比13・3%へと増加した。その結果、日本郵便の宅配便シェアは前年度の11・9%から13・6%と増加している。しかし、日本郵便の宅配便を含む「郵便‘物流」の営業損益は103億円の赤字、2014年度の業績は悪化している。まさに、赤字覚悟の安値攻勢と言える。 このように、ネット通販を中心に取り扱い量が拡大するなかで、ようやく運賃の下落に歯止めをかけられるようになったが、シェアの拡大に向けた競争は依然として厳しく、安定した運賃を設定するには難しい状態が続いている。この点では、日本の事情は後に詳しく述べるアメリカの事情と大きく異なる。特に大きな差は、宅配便事業者の「運賃支配力」である。

高度化、巨大化、複合化

複雑な輸送ネットワーク
ここでは、宅配便の輸送ネットワークについて見てみよう。宅配便にとって特に重要なポイントは、全国的な規模で宅配便特有のネットワークを構築することである。それは、全国いたるところで発生する小型貨物を、全国の家庭や事業所に短時間で確実に配送できる輸送ネットワークである。 宅配便のように、1個の小型貨物を全国どこの家庭や事業所にでも届けられるようにするためには複雑な輸送ネットワークが必要となる。 具体的には、図14に示したように、まず、小型トラックで一個、個の貨物を集荷して営業所に集める。それをトラックターミナルと呼ばれる物流施設に持ち込み、ここで貨物を全国の方面別に仕分けを行う。同じ目的地に仕分けされた貨物は、束ねられて大型トラックに積載され、大型トラックが目的地のトラックターミナルに向けて長距離輸送を行う。これが幹線輸送だ。そして、目的地のトラックターミナルに到着した貨物は、そこで配達地域に再び仕分けされる。仕分けされた貨物は、営業所を経由して小型トラックに積載されて最終目的地に配達される。

 

このように、宅配便の輸送ネットワークは、小型トラックによる集荷、発のトラックターミナルでの仕分け、大型トラックによる幹線輸送、着のトラックターミナルでの仕分け、小型トラックによる配達によって成り立っている。 別の見方をすれば、これは貨物を拠点に集約させ、拠点の間をまとめて輸送する典型的なハブ・アンド・スポーク・システム(hub and spoke system)を採用していることになる。図15に示したように、トラックターミナルかハブとなり、そこの貨物を集約して束ねてハブと別のハブとの間で大量輸送を行う。そして目的地のハブでそれを最終目的地別にばらして、着荷主のもとへ貨物が到着することになる。

 

したがって、全国的な輸送ネットワークを形成するには、ハブを主要な拠点に置くことが必要となる。これは先ほど言ったトラックターミナルであり、全国の主要な拠点に設置されている。 このハブとなるトラックターミナルは、極めて重要な役割を演じる大規模な物流施設である。トラックターミナルでは、集中した貨物を短時間のうちに仕分けしなければならない。いうまでもなく、宅配便にとって重要なのは輸送の迅速性である。このために高速自動仕分け機が導入され、短時間での仕分けを可能にしている。こうした大規模な物流施設であるトラックターミナルが、全国の主要な拠点に配置されている。 宅配便の輸送ネットワークの典型は、ヤマト運輸において見ることができる。現在のヤマト運輸は、表2に示されているような輸送ネットワークを作り上げているが、ネットワークの中核となるトラックターミナル(主管支店)は全国に69力所、また、営業所(センター)は全国で約6000ヵ所におよぶ。

そして、末端の集荷と配送のために、全国で3万3000台を超える小型トラックが使用され、セールスドライバーと呼ばれる宅配便専用のドライバーが集荷配送業務にあたっている。さらにターミナル間の幹線輸送では大型トラックが使用されている(幹線輸送は他のトラック運送業者に外部委託することが多いため、自社で保有するトラック台数は少ない)。このようにして、宅配便では全国規模でハプ・アンド‘スポークの輸送ネットワークを構築しているのである。 こうした輸送ネットワークの構築には莫大な設備投資か必要となるのは言うまでもない。すなわち、宅配便は「装置産業化」しているといえるが、これができあがれぼ規模の経済が働き、輸送ネットワークをさらに広げることができる。これがまた、競争力の大きな源泉の1つとなる。宅配便がこれまで発展する過程で、下位の宅配便事業者が次々と市場から撤退していったのは、輸送ネットワークを拡大することができず、それによって規模の経済が働かずに競争力を低下させたためである。

「ゲートウェイ構想」「羽田クロノゲート」
宅配便は、このようにインフラとしての輸送ネットワークが構築されることによって、翌日配達が全国的に可能になった。しかし、今日のように収り扱い量がさらに拡大すると、それまで構築した輸送ネットワークでは能力不足となり、新たな課題が浮上する。 また、単に輸送量の量的拡大を図るだけではなく、今後の宅配便において競争力を高めていくためには、輸送のサービスレベルの質を高めていくことが必要となる。具体的には、従来の翌日配送をさらにレベルアップして、当日配送を実現できる、より迅速な輸送ネットワークの構築である。 ヤマト運輸は、「ゲートウェイ構想」を戦略として掲げている。このゲートウェイ構想は、日本の大動脈を形成している東京、名古屋、大阪の3大部市圏間で、従来の翌日配達から当日配送を実現しようとするものである。このために、それぞれの大都市間の周辺に大規模な総合物流ターミナルを建設する。 実際、東京の首都圏には神奈川県厚木市に「厚木ゲートウェイ」が建設され稼働している。さらには、今後、名古屋、および大阪に同じようなゲートウェイが建設される予定だ。 このゲートウェイと呼ぼれる総合物流ターミナルは、従来のトラックターミナルの機能だけでなく、最新鋭の物流センターの機能を兼ね備えた複合的な巨大物流施設となる。 この物流センターでは、ネット通販事業者の商品が右岸として保管され、注文に応じてピッキング・パッキングを行い、その後、同じ施設内のトラックターミナルに移動して宅配便の輸送システムに接続することかできる。通常、物流センターとトラックターミナルは離れているので「横持ち」と呼ばれる輸送が必要となるが、同じ施設内であれば横持ち時間が大幅に節約されることになり、当日配送の圏域を広げることができる。 もちろん、処理能力も大幅に拡大させている。トラックターミナルに導入されている高速自動仕分け機の処理能力は格段に上がり、1時間当たり2万5000個、一口で20万個の貨物の仕分けができるようになっている。 そして、このゲートウェイを経由して日本の大動脈を形成する東京、名古屋、大阪間で当日配送を実現するために、ハブ間の大型トラックによる幹線輸送の方式を変更した。これまで、ターミナル間の幹線輸送は夜間の定時にターミナルを出発していたが、これを、貨物が集まり次第、随時、幹線輸送を行う方式に変えた。こうすれば、ターミナルで貨物の滞留時間を極力削減して、当日配送を実現することができる。 さらに、これとは別に「羽田クロノゲート」という日本最大級の複合的な物流施設も建設して稼働させている。これは、羽田空港周辺という好立地を活かして、航空貨物や国際物流も含めて多様な物流サービスを提供することを目的としている。ヤマト運輸は、こうした巨大物流施設の建設を中心として、総額で2000億円の設備投資を行う。 ちなみに、この羽田クロノゲートは見学コースが用意されていて、一般の見学が可能だ。以前、物流を勉強する大学のゼミの学生と見学させてもらったことがある。まるで博物館のようで、宅配便の仕組みがよく分かるようになっていた。また、高速自動仕分け機で宅配便貨物が次々と瞬時に仕分けされる様子はまさに圧巻だった。 ところで、羽田クロノゲートの入り目の.角にスワンベーカリーというパン屋がある。巨人な物流施設の入り口に、なぜパン屋があるのか不思議に思われるかもしれない。ヤマト運輸の小倉昌男は、宅配便ビジネスを成功させて経営の第一線を退いた後、46億円もの私財を投げ打って障害者のためにヤマト福祉財団を立ち上げた。そこで障害者が自立できるようにつくられたのが、このスワンベーカリーである。宅配便の生みの親で名経営者と名を馳せた小倉昌男が、なぜ障害者の福祉に情熱を傾けたのか。『小倉昌男祈りと経営』(森健、小学館、2016年)を読むと、そこには予想を超える苦悩かあったことに驚く。 話がそれてしまったが、新たな総合物流ターミナルは、宅配便の取り扱い量の増加に対応できるとともに、当日配送という輸送の迅速性を可能とするハードウエアである。こうした物流施設を積極的に建設していくことは、まさに輸送ネットワークの再構築につながる。これによってサービスレベルを高度化し、他社との差別化を図り、サービスの品質をめぐる競争力の強化を実現しようとしているのである。

相次ぐ輸送ネットワークの高度化
こうした基礎的な輸送ネットワークの高度化は、他の宅配便事業者にとっても必要不可欠だろう。民営化して再び宅配便事業で起死回生を狙う日本郵便も、独白の輸送ネットワークの高度化を積極的に推し進めている。 特に、こうした小型貨物の輸送ではトラックターミナルの役割が重要で、その部分を高度化させることが重要となる。日本郵便はこれを「メガ物流局」と呼んでいる。日本郵便は総額1800億円を新たに投じ、2018年度までに全国に20ものメガ物流局を建設しようとしている。 これまで日本郵便は、全国に約70ある「地方区分局」と呼ばれる大型郵便局で、郵便やゆうパックの仕分けを行っていた。しかし、昔の名残で、大型郵便局は鉄道の貨物ターミナル近くや都心部などに位置していて、物流施設としては手狭で立地条件が悪く、作業効率も悪かった。これを踏まえて日本郵便は、高速道路出目周辺のアクセスの良い好立地場所を新たに選定し、そこに高度化した物流施設を建設していく。これが「メガ物流局」である。 2015年に埼玉県和光市に稼働させたメガ物流局は、延べ床面積が7万8000㎡で6階建ての巨大物流施設。自動高速仕分け機を備え、宅配便のゆうパックー日11万5000個、郵便450万通を仕分けする処理能力を持つ。それに加えて、従来にはなかった保管、ビッキング、梱包などの物流機能を備えた施設も用意され、3PLビジネスが同時にできるようになっている。 こうした複合的な物流施設は、ヤマト運輸のゲートウェイと基本的に同じものであり、巨人で複合的な物流施設を新たに主要な拠点に次々と設置することによって、宅配便の輸送ネットワークの再構築・高度化を推し進めている。 また、宅配便第2位の佐川急便も同じように宅配便の輸送ネットワークの高度化を椎し進めている。佐川急便は東京ー大阪間で当日配送を行っているが、これを名古屋や福岡、そして仙台の大都市間にも拡大するという。物流施設の具体的な詳細は明らかにされていないが、設備投資のために必要な資金を、不動産投資信託(REIT)を立ち上げて資金を募集して1000億円調達するという。

このように、大手宅配便事業者は今後のさらなる宅配他市場の成長を睨んで、大規模な設備投資合戦を繰り広げている。それによって、さらに多くの貨物を取り扱うことかできるとともに、輸送時間短縮や複合的な物流サービスの提供など、サービスを高度化し、巨大化する市場での競争優位性を高めようとしている。

収益性の向上に力を入れるアメリカの宅配便

アメリカの宅配便の特徴
日本の宅配便が開始される前、新しい運輸ビジネスを考えていたヤマト運輸社長の小倉昌男は、宅配便ビジネスが発達しているアメリカを現地視察した。訪れたニューヨークのマンハッタンで、エンパイアステートビルから路上を眺めていた。眼下では宅配便のUPSの集配車が、ビルのワンブロックに4台駐車していた。これを見て小倉昌男は、貨物が一定の場所に集約して発生すれば、小型貨物の宅配便も事業として成り立つと考えた。これは、先に触れた『小倉昌男経営学』で紹介されている宅配便誕生時の有名なエピソードだが、このように、日本の宅配便のビジネスモデルは、アメリカによって提供されたといえる。 しかし、アメリカの宅配便は日本のそれと共通する部分を持ちながらも、違うかたちのビジネスを展開している。その大きな特徴は、陸上宅配便(ground)と航空宅配便(express)の双方がある点にある。日本でも航空宅配便はあるとはいえ、全体としてはごくわずかであるし、日本の宅配便事業者は、利用運送業者として航空会社に宅配便貨物の輸送を委託しているに過ぎない。つまり、あくまでトラック輸送による宅配がメインである。 これに対してアメリカの宅配便は、日本と同じようなトラック輸送による陸上宅配便と同時に、自ら貨物専用の航空機を運航して航空宅配便も提供している。特に航空貨物の世界では、自ら航空機を運航して末端のトラックによる集配もすべて自社で行う航空貨物運送事業者のことをインテグレータ(integrator)と呼ぶが、アメリカの宅配便事業者は、このインテグレータでもある。 陸上宅配便に関しては、先に日本の宅配便の輸送ネットワークについて述べたが、アメリカの宅配便も基本的に同じ仕組みを全米規模で構築している。これに対して航空宅配便では、航空輸送のハブ・アンド・スポーク・システムを導入している。全米の中心部にハブ空港を設定し、そこで貨物を仕分ける巨大な物流施設を稼働させ、全米のローカル空港から専用の貨物航空機をハブ空港に集中させる航空のネットワークを構築している。 こうして、アメリカの宅配便事業者は、全米を対象として、トラックの輸送ネットワークを持つとともに、独自の航空の輸送ネットワークを併せて持っているのだ。
航空に関していえば、こうしたアメリカの大手宅配便事業者は、国内の航空宅配便だけでなく、同時に世界的な規模で航空輸送ネットワークを構築していて、まさにグローバルな事業展開を行っている。

日本の市場規模を大きく上回る
図16に、アメリカの大手宅配使事業者3社の国内宅配使の売上品を示した。これによると、売上高はリーマンショック後の大幅な景気後退によって減少したものの、2010年以降は急激に回復し、その傾向は続いている。

特にアメリカでは、ネット通販ビジネスが隆盛を極め、それにともなって宅配便直腸は絶好調ともいえるような状況にある。
ちなみに、図に示されているアメリカ大手3社の国内の宅配使の売上高は、会計年度は異なるが、直近の2015年は774億ドル(約9兆3000億円)だった。一方、日本の大手宅配使3社の2015年度の宅配便売上高は約2兆円である。ここで示したアメリカの数字はあくまで国内の宅配便に限定したものだが、航空宅配使をあわせて提供しているアメリカの宅配使の市場規模は、日本のそれを大きく上回っている。

日本との類似性
そして興味深い点は、アメリカの宅配使市場のプレイヤーが日本のそれとよく似ていることだ。アメリカの宅配便も市場が著しく寡占化しており、民間企業であるUPS(United ParceI Service)とFedEX さらに郵便事業者であるアメリカ郵政公社(United States Postal Service: USPS)の3社によって、国内の宅配使市場のほとんどが占められている。このほかに地域の宅配便事業者がいるが、これらは特定の地域を専門とした小規模なローカルの運送業者で、全体に占めるこうした地域の運送業者のウエイトは極めて小さい。
そこで、宅配便大手3社の売上高の構成比を図17に示した。これによると、国内宅配使トップのUPSが49%、次いでFedEXが32%、そしてUSPSが19%となっている。

 

民間企業の大手2社と郵便事業者の3社で宅配便市場のほとんどを、そして、民間企業のトップが全体の半数近くを占め、次いで2位の民間企業が3分の1程度、残りが郵便事業者という構成は、日本と極めてよく似ている。

格段に強い運賃支配力
一方、日本とは決定的に異なる点もある。それは、アメリカの宅配使の運賃支配力が、日本の宅配使のそれと比べると格段に強いという点だ。つまり、アメリカの宅配使、特に民間の大手宅配使2社は、積極的に宅配使運賃の値上げを実施している。 日本の宅配使運賃は、基本的に貨物の大きさと輸送距離で決められている。これに対してアメリカの宅配使の運賃は、これと同じように基本の運賃は提示されているが、これに加えてさまざまな追加料金が適応される。 具体的には、石油価格の上昇に応じて付加する「燃料追加料金」、事業所とは異なって一般家庭に配送する際の「家庭配送追加料金」、さらには配送効率の悪い地域に対する「配送地域追加料金」などである。 UPSとFedExの大手宅配使事業者は、基本的な宅配使料金を、毎年、継続的に値上げしてきた。これに加えて、こうしたさまざまな追加料金についても値上げを実施している。例えばUPSの場合、企業から消費者への輸送=B to Cは、宅配使全体の45%に達している。こうしたなかでの家庭配送追加料金の値上げは、非常に大きな意味を持つ。 それだけではない。UPSとFedExの大手宅配使事業者2社は、実質的な運賃の値上げとなる新たな運賃制度を導入している。それは、容積重量価格(dimensional weight pricing)と呼ばれるもので、容積か重量のいずれかを基準にした運賃ではなく、貨物の容積に一定の指数を掛けた数値とその貨物の実際の重量とを比較して、高い方の数値の運賃表を適用する運賃制度である。 この運賃制度によって、容積は大きいが重量は軽い貨物の運賃は値上がりする。ネット通販の貨物は、重量が軽い割には容積が大きいものが比較的多い。このため、この運賃制度が導入されると、小型貨物は大幅な運賃の値上げとなる。この運賃制度はUPSとFedEXの双方が2015年から導入している。

運賃値上げの意味
このように、アメリカの大手宅配使事業者は、ネット通販の隆盛を背景に次々と運賃値上げに踏み切っている。これは、アメリカの大子宅配使事業者が、特に収益性管理(yield management)に力を入れているからである。これによって、大手宅配使事業者は宅配使ビジネスにおいて高い収益性を確保することが可能となっている。 運賃の値上げと収益性の向上は、輸送能力の拡大のためにも必要であると考えられている。実際、過去において、高まる需要に対してサービスの供給が追い付かず、大きなパニックが生じたことがある。2013年のクリスマス商戦では、アマゾンで予想を超えたネット道服の売り上げが記録され、これにUPSの宅配使の輸送能力が追い付かず、大事なクリスマスまでにプレゼントなどの商品が届かない大規模な貨物の遅延が発生してしまった。 このためにアマゾンは、顧客に対して運賃の返還と、一人当たり20ドルのギフトカードを配るなどの対応を強いられた。いずれにせよ、こうしたパニックを引き起こさないために、将来に向けた宅配使の輸送能力の拡大が必要なのである。 しかしながら、こうした大手宅配便事業者の相次ぐ値上げは、物流コストの増加も招く。アマゾンでは、特にラストマイルの配送コストの増加が顕著となっていて、これに対する積極的な対応が求められているのが実情だ。

ドライバー不足

輸送の根幹を脅かす

「荷物が届かない」
ここまで、現代の先端を走る成長ビジネスであるネット通販の現場で、物流の役割がいかに重要な意味を持っているのかを、アマゾンなどの事例を通して紹介してきた。また、巨人化する物流センター、ラストマイルにおける課題など、新たな物流機能の実態と問題を、アマゾン、ヤマト運輸、佐川急便などの事例を通して見てきた。ここからは、主に日本が抱えている物流の課題ーードライバー不足と「買い物難民」問題に目を向けていきたい。 ネット通販で注文した商品が、指定された口時に宅配便で自宅に届けられるのは当たり前だと私たちは考えている。宅配便の便利なサービスに慣れ親しんでいると、それが普通だと思ってしまう。しかし、これがもし当たり前でなくなったらどうだろうか。日本では、そう遠くない過去に、「荷物が届かない」という輸送をめぐる混乱が起きている。 2014年4月、消費税が5%から8%に引き上げられた。その直前に駆け込み需要が発生し、このとき、輸送に大きな混乱が発生したのである。しかし、こうした物流をめぐる混乱は、同年2月、日本列島を襲った記録的な大雪のときから予想されていた。当時の新聞は次のように伝えている。 2週連続で週末に大雪に見舞われた物流業界。高速道路や幹線道路が寸断されて、トラックが立ち往生しモノの流れが止まった。宅配便でも遅延、集配不能といった事態に追い込まれた。ヤマト運輸は21日午後時点、埼玉県、東京都、山梨県、長野県の1都3県で、一部地域向けの荷物の受け取りを停止したままだ。 製造業にも余波が及び、東日本大震災以来、サプライチェーン(部品供給側)が大規模に寸断された。トヨタ自動車、ホンダなどが生産ラインを停止し、物流の重要性が改めてクローズアップされた。…… 今回は予兆ーー。最近、冗談ともつかない声が漏れてきた。3月は消費税の駆け込み需要による輸送量の拡大が見込まれており、トラック不足が懸念される。物流会社、荷主企業がトラック確保に動くなど、狂騒の前兆はある。幹線輸送のトラック運賃が2倍になったともいわれており、「3月を乗り越えられるか」と背筋を凍らせる。
(日系産業新聞、2014年2月24日、17面)
そして、3月末という年度末の予想以上に厳しい状況を、次のように伝えている。
2013年度末は物流業界の「ものさし」が大きく狂った。消費税引き上げを控えた輸送需要の増大は予想を上回り、八二ック状態となった配送現場もみられた。宅配使では3月31日分の発送がピークとなり、各社の1日あたりの取扱個数は3月として過去最高となったもようだ。
4月1日もその影響が残った。ヤマト運輸は宅急便、クロネコメール便で、東京都全滅に加えて、埼玉県、福岡県、長崎県の一部地域で半日から1日超の遅れが発生した。
家電限飯店大手は増税前の3月末までに販売した商品の配送が4月以降にずれ込むケースが相次いだ。
ヤマダ電機やケーズホールディングス(HD)など大手4社は、配送かずれ込んだ商品の売り上げ規模が1000億円を超えた見通し。
混乱はまだまだ続きそうだ。引っ越しは3月からずれ込んだ案件が積み重なっており、業者によっては依然として予約がいっぱいだ。
今回の混乱は予兆かおり、昨年12月にもトラックか不足する事態か起こっていた。
(日経産業新聞、2014年4月2日、15面)
この報道から明らかなように、2014年の3川水、消費税の引きLげによる駆け込み需要という特殊な事情はあったにせよ、輸送の需要に供給か対応できない事態が生じた。
こうした輸送の混乱が充分に予想されていたのは、日本ではすでに、貨物を運ぶトラックが大幅に不足していることが認識されていたからである。といっても、車両が不足したわけではない。トラックを運転するドライバーか不足していたのだ。

ドライバー不足と日本経済への影響
現在の日本の物流における大きな問題は、トラック運送業で深刻なドライバー不足が生じていることである。先に見た、2014年3月末に全国各地で起きた輸送が滞る深刻な事態は、ドライバーが不足してトラックを運行できないために発生した。 こうしたドライバー不足は、経済全体に大きな影響を及ぼす。なぜなら、トラックの輸送は、わが国の物流における貨物輸送の大部分を担っているからである。輸送機関分担率で見ると、トラック輸送は日本全体の貨物輸送のじつに91%を担っている。つまり、貨物輸送の重量ベースで9割以上がトラック輸送なのだ。もし、ドライバーが不足したらどうなるだろうか。単に物流業界の問題だけでは済まされなくなるのは目に見えるだろう。 人体になぞらえると、トラック輸送が、からだ全体に血液を送る動脈の役割を演じるとすれば、ドライバー不足で貨物輸送が滞ったり、輸送ができなくなることは、その流れが悪くなったり、部分的にストップしてしまうことを意味する。それは人体に極めて大きな影響を与える。日本経済も機能不全に陥るだろう。 身近な例でいえば、宅配使が、家庭や事務所に貨物をスムーズに運ぶことができなくなる事態も予想されうるということだ。

ドライバーの雇用状況
ドライバー不足が深刻化したことを表す一つの指標がある。図18は、トラック運送業者の景況感の調査の一環として、ドライバーの雇用状況を調査したデータである。これは、トラック運送業者にドライバーの雇用に関する過不足を間いたもので、それを指数化したものである。この数値が上昇すれば、ドライバー不足が強まっていることを示している。

図18によると、2008年から2009年までは雇用状況の指数が下降してマイナス状態が続いており、労働力の過剰感が強まっていた。リーマンショックに端を発した世界同時不況による影響を受けて景気が大幅に後退し、輸送する貨物も減少してドライバーか過剰となった。 しかし、その後2011年半ば頃から雇用指数はゼロを超えて、ドライバー不足感が表れ始めた。そして、2012年から年を追うごとにトラック運送業のドライバー不足感が強まっている。特に、先に述べた2014年第一四半期は、年度末でドライバーの不足感がピークに達したことが端的に示されている。その後もドライバー不足感は多少の変動かおるものの、高い水準で推移している。 こうした動向はドライバーの有効求人倍率にも示されている。図19のように、ドライバーである貨物自動車運転者の有効求人倍率は、2009年度以降上昇に転じ、2013年度からは1を超えた。その後も有効求人倍率は上昇傾向を続けている。しかも、ドライバーの有効求人倍率は、職業全体の有効求人倍率の上昇を大幅に上回っている。これを見れば、トラック運送業においてドライバー不足がとりわけ深刻となっていることは明らかだ。

ドライバーが不足する理由

産業構造
なぜ、これほどまでにドライバー不足が深刻化しているのだろうか。 トラック運送業における深刻な労働力不足の原因を考えるためには、まず、トラック運送業の産業構造を理解する必要がある。 もともと、トラック運送業などの貨物運送業や、鉄道業やバス事業など旅客運送業の交通産業は、政府による経済的規制の対象となっていた。政府は、交通産業に対して参入規制や運賃規制を課して、行き過ぎた競争を制限して交通産業の健全な発展を図ろうとしてきたのである。しかし、こうした規制政策は、やがて事業者の自由な競争を阻害して経済全体に悪影響を及ぼすと考えられるようになった。 そして、1990年に政府は、日本の物流を支えるトラック運送業に対して規制緩和を実施する。これが「物流2法」(貨物自動車運送事業法と貨物運送取扱事業法)である。物流2法の施行に基づいて、規制緩和をおし進め、事業者間の競争の促進を図ったのである。具体的には、参入規制を緩和してトラック運送業への新規参入を促した。さらに運賃の規制を緩和して、事業者がより自由に運賃を設定できるようにして競争を促進した。 その結果、規制緩和政策は、日本の物流を担うトラック運送業の産業構造を大きく変えていった。園20は、日本のトラック運送業の事業者数を示している。規制緩和が開始された1990年には約4万だったが、その後、新規事業者の参入が相次ぎ、「失われた10年」と呼ばれる不況の1990年代、さらに2000年代にも事業者は増加を続け、その結果、2010年には約6万3000に達した。1990年の規制緩和の実施以来、じつに2万を超える事業者か参入したことになる。

しかも、こうした新規参入者の大半は零細事業者だった。この規制緩和政策で重要なポイントは、新規参入に必要な条件として、事業者の最低トラック台数を5台に引き下げたことである。これによって保有台数が5台程度の零細事業者の新規参入が促された。しかし、その一方でトラック運送業は零細事業者が多くを占めるようになったのである。

過当競争
こうした零細事業者の大幅な増加は、トラック運送業に何をもたらしたのだろうか。それはもちろん、当初の目的である事業者間の競争をもたらした。しかし、実際に生じた競争は当初の想像を超える過当競争だった。 トラック運送業に対する規制緩和が開始された1990年代はバブルが弾けた後で、「失われた10年」と呼ばれる深刻な不況に直面していた。バプル経済の後遺症は深刻で、金融不安は表面化し、デフレ経済が深く進行した。生産の停滞が続き、企業活動が活発にならず、貨物輸送の需要は容易に拡大しなかった。つまり、貨物輸送需要が低迷するなかで、トラック運送業者数は大幅に増加していったのである。単純に言えば、新規参入の増加で、トラック輸送の供給が需要を上回った。こうした状況ド、強い立場にある荷主企業は多数の事業者を競わせ、低い運賃を実現していった。逆に、トラック運送業者は過度な競争を強いられ、時として赤字に陥るような低い運賃で貨物を運ばざるをえなくなった。 しかも、多くの事業者はトラック台数の少ない零細事業者であり、こうした零細事業者は荷主企業の貨物を直接運ぶことができず、同じ業界の規模の大きい事業者の下請けとならざるをえなかった。 下請けは、一次下請けの次が、「孫請け」と呼ばれる二次下請け、そして「ひ孫請け」と呼ばれる三次下請けへと続くか、トラック運送業界で今まで間いたなかで最大の下請けは「七次下請け」だった。それほどまで、下請け化か進行していった。 下請けのそれぞれの段階で、荷主か支払う運賃から手数料が引かねていく。このため、最後の下請けが実質的に受け取る運賃は、とてつもなく低くならざるをえなくなる。貨物をめぐって事業者間の競争が激化するなかで、こうして採算性の維持が難しい極めて低い運賃でも運ばざるを得ない零細事業者が増えていった。 図21には、1990年代から2000年代半ばまで、トラック運賃が長期にわたって低下傾向にあることが示されている。2000年代半ば以降も、2014年初頭直前まで低迷が続いている。

 

トラック運賃が継続的に低下して運賃収入が増えないなかで、トラック運送業者か負担するコストは増加していった。その1つが、石油価格の高騰による燃料費の増加である。さらには、環境問題に対応するための規制が強化され、安全性を高めるための規制も強化された。このため、新しい環境基準に対応したり、安全性を高めたりした、より高価なトラックを購入しなければならないなど、この間にトラック運送業者はコストの増加に直面した。運賃収入の減少と相まって、トラック運送業者の経営は大きく圧迫されたのである。

労働条件の低下
単純に考えると、運賃の低下やコスト増によって経営が赤字になれば、その企業はやがて倒産するか廃業することによって市場から撤退していく。しかし、実際のトラック運送業はそうはならなかった。新規参入が続くなかで、既存の多くの事業者は踏ん張って市場にとどまり、事業を継続したのである。 では、どのようにして生き残りを図ったのだろうか。典型的な労働集約的産業であるトラック運送業の最大のコストはドライバーの人件費だが、それはコスト全体の4割弱に達する。トラック運送業者は、このドライバーの人件費の削減に手をつけたのである。こうして、ドライバーの賃金は低下していった。 賃金が低下しただけではない。ドライバーに追い打ちをかけだのは、長時間労働だった。トラック運送業者は厳しい経営を強いられる中で売り上げを伸ばそうとして、できるだけ多くの貨物を限られたトラックで運ぼうとするようになった。これによって労働時間か長時間化したのである。一方のドライバー自身も、自らの賃金が減少していくなかで、できるだけ収入を確保しようとして運転する労働時間を増やしていった。 このように、規制緩和後の過当競争は、ドライバーの賃金の低下と労働時間の増加をもたらしたのである。

賃金の格差
図22は、トラック運送業におけるドライバーの賃金と、製造業と建設業の労働者の賃金を比較したものである。トラック運送業のドライバーが転職する場合に選ぶのは、製造業や建設業が多いと言われている。このため、ここでは同産業と比較した。

 

この図から明らかなように、トラック運送業のドライバーの賃金は2001年以降、大きく減少している。
しかも、この間、製造業や建設業の労働者との賃金格差は明らかに拡大している。
ちなみに、製造業の労働者の賃金を100とすると、2001年のトラック運送業のドライバーの賃金は90、2014年には81となっている。

労働時間の格差
さらに図23には、同じくトラック運送業におけるドライバーの月間労働時間と製造業と建設業の労働者の月間労働時間を比較している。これらの業種の間には、もともと月間労働時間に大きな格差が存在していた。
製造業および建設業の月間労働時間が180時間余りなのに対して、トラック運送業では210時間に達している。ここから、労働時間においても他産業との格差が大きいことが明らかに分かる。

 

これを年間労働時間にしてみると、製造業および建設業の約2160時間に対して、トラック運送業は約2520時間。年間にすると360時間、2ヵ月も多く働いていることになる。

ドライバーの声
ドライバーの労働条件の悪化はドライバーの他産業への流失を招き、トラック運送業に人が集まらなくなる決定的な要因となる。
図24は、トラック運送業に労働力が集まらない理由をドライバーに聞いたものである。これによると、「賃金が安い」「賞与・一時金が少ない」「退職金が少ない、退職金制度がない」といった給与に関する指摘と、「深夜・早朝などの不規則労働が多い」「休日が少なすぎる」「労働時間が長すぎる」といった労働時間に関する指摘が上位を占めている。

 

バブル経済時の深刻なドライバー不足
トラック運送業は、これまで深刻なドライバー不足を何度か経験してきた。なかでも、1980年末から1990年にかけてのバブル経済期はとりわけ深刻だった。 その頃は景気が過熱し、日本は広い領域で労働力不足か発生していた。きつい、汚い、危険の3K職場と呼ばれてきたトラック運送業では、より魅力的な労働条件を提供する他産業に労働力が移動してしまうようになっていた。運ぶ貨物があるにもかかわらず、「物が運べない」状態に陥ったのである。その影響で倒産した業者も出るほど、事態は深刻だった。 話はそれるが、当時、ドライバー不足の中で破格の給料を稼いでいたのが佐川急便のセールスドライバーである。バブルが弾ける前は月100万円といわれていた(もちろん、当時と現在では状況は全く異なる)。自分で商売をするための自己資金をつくりたい若者にとっては非常に魅力的な職場だった。実際、佐川急便のセールスドライバーとして働き、稼いだ自己資金をもとに起業して成功した有名な経営者も少なからずいる。しかし、20代のような若くて強靭な肉体の持ち主でなければ過酷で務まらなかったという。

繰り返すドライバー不足
1990年にバブル経済か終焉を迎え、その後日本経済が「失われた10年」と呼ばれる長期的な不況に突入すると、3K職場のトラック運送の現場でも仕事の需要が高まり、労働力不足の問題はまるで潮が引いたように消え失せてしまう。トラック運送業の規制緩和が始まると新規参入が相次ぎ、競争が激化し、ドライバーの労働条件か低下していっても、ドライバーの需要は満たされていた。 2000年代に入ると、日本経済はようやく長期的な不況から抜け出すことになる。そして景気回復とともに、2000年代半ばになると労働力の需給がタイトになり、トラック運送業におけるドライバー不足が再び顕在化する。特に、長距離運転のドライバーは、長時間にわたる夜間の運転や車中での宿泊など、労働条件がとりわけ過酷なために働き手が減り、明らかにドライバー不足に陥った。 ドライバー不足が再び顕在化するなかで、2007年に国土交通省はその対応策を検討することになった。国土交通省に専門の委員会が設置され、後に社会的に大きく注目されることになる、ある数値が生み出された。将来におけるトラック運送業の労働力不足を予測したのだが、2015年に14万人のドライバーが不足するという数値が弾き出されたのである。その後、いみじくも予測は的中し、この数値が世の中で独り歩きすることになる。 ところが、この予測に反してドライバー不足は続かなかった。2008年秋に起きたリーマンショックを機に世界同時不況へと発展し、日本経済もこれに巻き込まれ、深刻な生産や販売の落ち込みを経験したのだ。経済不況は貨物輸送需要を後退させ、輸送供給能力の過剰を生じさせた。これとともに、ドライバー不足は再び沈静化する。 しかし、2010年代を迎えると状況は大きく変化する。2012年、政権の座についた自民党は安倍内閣の下でアベノミクスと呼ばれる経済政策を開始した。これを機に為替相場は円高から円安へと変化し、輸出の拡大がもたらされ、国内景気が急激に回復する。それとともに、日本経済全般にわたって労働力不足の問題が頭をもたげたのである。 特に2011年に発生した東日本大震災以降、東北地方を中心とする復興プロジェクトで建設関係に労働

力が吸収されていったと指摘されている。さらに、2020年に開催される東京オリンピックに関連した建設プロジェクトにも、労働力が吸収されていると言われている。

ドライバーをどう確保するか

高齢化するドライバー
では、どうすればドライバーを確保できるのだろうか。
それにはまず、ドライバーが高齢化している現状を認識する必要がある。図25はドライバーの年齢構成の変化を示したものである。ここに見られるのは、30代以下の年齢層の比率が大幅に減少しているという特徴である。

 

もう一つの特徴は、60代の高齢者のドライバーの割合が増加している点である。ここから、定年を過ぎてもハンドルを握る高齢者のドライバーの姿が浮かび上がってくる。 これまで、この業界では経験を積んできたプロのドライバーが積極的に採用されてきた。こうした人々は運転経験が長く、すでに一定の運転技術をマスターしたドライバーであるため、即戦力となる。 しかし、こういったドライバーは流動性も高く、比較的短期間で職場を変える傾向が強かった。その面では、ドライバーを安定して確保できないという課題かあった。労働力の供給が豊富なときは、トラック運送業者は、こうした労働力に依存する形でドライバーの調達を行ってきたのである。 しかしながら、プロのドライバーたちもやがて引退することになる。そこでいま注目されているのが、これまでこの業界に就業経験のない新しい分野から広く人材を集めることである。それが女性であり、新卒を中心とした若年層である。

女性ドライバーの活用
女性の社会進出が叫ばれて久しい。だが、トラック運送業でドライバーとして働く女性は極めて少ない。
1990年以前、バブル経済の時期にドライバー不足が大きな問題となったとき、これに呼応するかのように女性ドライバーを積極的に採用することが考えられた。
しかしながら、その後バブルが弾けて警戒不況に突入し、それまでの深刻な労働力不足が解消されると、女性ドライバーを戦力化することは、いつしか忘れ去られてしまった。この間に、わが国全体では女性の社会進出が進んでいったが、トラック運送業界では女性の活用はいっこうに進まなかった。
バブル経済の終焉から四半世紀が過ぎたが、園26に示されるように、トラック運送業界で働く女性は依然
として少ない。総務省の「労働力調査」によれば、全産業に占める女性労働力の割合は43%だが、トラック運送業におけるドライバーの女性労働者の割合は、なんと2・4%に過ぎない。

トラック運送業の職場は依然として「男の職場」そのもので、これまで女性の進出を拒んできた。しかし、現状の危機的なドライバー不足の中で、これからは女性ドライバーを積極的に採用して戦力化することが必要になるだろう。「トラガール」??。トラック運送業のドライバー確保を支援する国土交通省は、女性ドライバーの就労を促進するために、この名称を考えた。「トラック」と女性の「ガール」を合わせた造語だ。そして、このトラガールの採用拡大に向けた情報を提供するプロジェクトを推進している。 トラックを運転する職業につきたいという女性は少なからずいるはずだ。しかし、これまで「男の職場」であったために、女性の採用は積極的になされてこなかった。採用されたとしても長続きせず、定着するには至らなかった。こうした経緯を踏まえると、採用するトラック運送業者間も、女性が働くのに適した職場環境を整備していくことが必要となる。

新卒ドライバーの活用
他方、新卒者はどうだろうか。 トラック運送業で若年層が減少している理由の一つに、新卒者がこの業界に入ってこないことが大きく影響している。特に、高校を卒業した新卒者は、これから有力な戦力に育つ優秀な人材のはずだ。しかし、こうした新卒者がこの業界に入ってこなくなった。 これには中型免許制の導入も影響している。2007年に中型免許が導入されたが、それまで普通免許で運転可能であった中型車の運転に、新たな免許の取得が義務づけられたのだ。この中型免許の取得条件は、年齢が20才以上で運転経験が2年以上とされた。この制度の下では、高校を卒業した新卒者をすぐに中型車の運転にあたらせることができない。このため、トラック運送業者は新卒者の採用にさらに消極的になって、業界では新卒の若者が減少した。 しかし最近、免許制度の改正が行われ、2017年から新たに準中型免許か導入される。7・5トン未満の準中型車の免許取得条件は18識以上となるため、この新しい免許制度のもとでは新卒者でも大きなトラックを運転することができる。これによって、トラック運送業者は新卒者をすぐに戦力として考えることができるだろう。そのためには、新卒者のリクルートが重要となる。

まずは賃金
だが、より重要なのは、ドライバー不足を招いた労働条件に関わる根源的な原因を取り除いていくことだろう。 すでに述べたように、ドライバー不足の原因は、低賃金と長時間労働にある。こうした、他産業に劣る労働条件を改善していくことが、労働力を集めるために本質的に必要となる。 まずは、ドライバーの賃金を上げなければならない。賃金をトげていくためには、そのための原資をつくらなければならない。それは、荷主企業に求めるトラックの運賃を引き土けて、収入を拡大することによって実現できる。荷主企業と交渉を行い、運賃の値上げを実現して売り上げを増加させ、賃金を上昇させるための原資とするのである。 ドライバー不足は、物が運べないという事態を生じさせただけでなく、買い手市場から売り手市場へと、トラック運送業者と荷主企業との関係を大きく変化させた。言い換えれば、トラック運送業者が荷主企業との運賃交渉を有利に行うことができる環境へと変化したのだ。荷主企業との交渉力を高め、トラックの運賃を適正な水準まで上昇させることができれば、ドライバーの低賃金を解消できるだろう。

労働時間の短縮
ドライバーの労働時間の削減も重要だ。特に最近は働く価値観が多様化し、仕事ばかりを優先させるのではなく、自らの生活スタイルを維持することを優先させるようにもなっている。 それだけではない。ドライバーの労働時間が長くなってしまうのには、物流に特有の要因も存在してきた。ドライバーの労働時間というのは、単にトラックを運転する時間だけではなく、トラックヘの貨物の積み下ろしの時間、そのための発地や着地での待機時間も含まれている。これらが、ドライバーの労働時間の長期化を招いてきた。 荷主企業の物流センターや倉庫などで、ドライバーが一つひとつの貨物をトラックに積み込む作業が行われる場合がある。これは「手荷役」と呼ばれるが、トラックの大きさと貨物の種類によっては、手荷役に数時間かかることもある。着地でも、ドライバーは貨物を積み下ろすために同じような負担をしなければならない。この手荷役は、たんに時間を要するだけでなく、積み込む貨物が重たい場合に労働の負荷が大きく、ドライバーか最も嫌う作業の一つである。 これに対して、あらかじめ貨物をパレットにのせてフォークリフトで積み込めば、短時間でトラックヘの荷役を処理することができる。着地での荷下ろしも同様である。しかし、パレットを使用するとトラックの積載効率が落ちるため、輸送の効率性を重視する荷主企業はパレットを使用しない。しかし、トラックの積載効率ではなく、ドライバーの労働負荷の軽減を重視するならば、こうした荷役方法に変えていく必要かおるだろう。 また、荷主企業の物流センターや倉庫では、多くのトラックが集中するために貨物を積み込む際に、そこで長時間待だされる。これは「手待ち時間」と呼ばれ、物流の現場では慣行となっている。その間、ドライバーは待機しているが、これも拘束時間であり、労働時間の中に含まれる。 こうした状態を改善して、計画的に貨物の積み込みができるようにすれば、手待ち時間が短縮されて何も生み出さないムダな時間を取り除き、ドライバーの労働時間を短縮することかできる。

ドライバー不足の原因は、トラック輸送が日本経済の物流を支える重要な役割を担うようになったにもかかわらず、物流におけるさまざまな不合理性を内包しているために発生しているとも考えられる。まずは、その不合理性を取り除かなければならない。 一般の企業は、これまでトラック運送業者を競わせ、時に不当に安いトラック運賃で物流コストの上昇を抑えてきた。また、自分の都合でトラックを待たせ、長い手待ち時間を放置してきた。こうした不当な低運賃、そして物流現場における長時間労働を改めていかなければならない。 これらを実現することで、トラック運送業が魅力的な職場になると同時に必要な輸送が確保されていくことになる。しかしそれは、荷主企業がこれまで享受してきた好条件を改めていかなければならないことを意味する。 その意味で、ドライバー不足を改善していくことは、荷主企業の物流を変えていくことに結びつくのである。

買い物難民

食の砂漠

高齢化率のトップを走る
大学で若い学生に接していると、自分が還暦を迎えて立派な老人に近づいていることをつい忘れてしまう。しかし、高校や大学で同級生だった友人だちと会うと、親の病気や介護の話になる。認知症の親の介護をどうするのか、老人福祉施設をどう利用するのかといった、若い時には到底想像できなかった話が中心となる。 先日、NHKで、高齢者になった団塊世代に関するショッキングな内容のドキュメンタリー番組を見た。この世代の高齢者は、老若介護、すなわち長寿命となった自分たちの親を介護しなければならない事態に直面している。それはある程度推測がついたが、他方で、自分たちの子供も面倒をみなければならない高齢者が増えているという。 すでに中年の域に達しようとする子供たちは、バブル崩壊後に失業したり非正規労働者になったりして、今でも安定した職に就けない。このため、団塊世代の高齢者は、親だけでなく子供も養っていかなければならない。そうなると年金では到底賄えず、蓄えた貯金を切り崩して生活していかざるをえない。しかし、それもやがては底をつく。これまで団塊世代の高齢者は豊かだと思われていたが、実際には貧困化がひたひたと忍び寄っているという内容だった。 日本がすでに高齢社会に突入していることは周知の事実だ。これは推計だが、2020年に65膜以上の高齢者の人口は3612万人、全人口に占める65歳以上の比率である高齢化率は29・1%に達する(図27)。すなわち、わが国の人口の30%弱か65歳以上の高齢者という、驚くべき高齢者人口の割合である。

人口の将来推計を見ると、今後日本全体の人口は大幅に減少していくものの、高齢者の人目は増加を続けていく。その結果、65歳以上の人口が占める高齢化率は一貫して上野を続け、2060年には39・9%に達すると予測されている。
人口の高齢化は、成熟化が進む先進国に共通する傾向だが、日本は現在、先進国の中で高齢化率がトップの国となっている。財界的に見ても、特異の高齢化率に達した先進国なのだ。この傾向はこれからも一段と強まるため、日本社会はこれまでに経験したことのないさまざまな課題に直面していくことになるだろう。

「買い物難民」の発生
その1つが「買い物難民」の問題である。「買い物弱者」や「買い物困難者」とも言われるが、買い物難民とは読んで字のごとく、買い物が不自由であったり、困難であったりする人々のことを指す。 われわれは口々の生活を送る中で、生鮮食品、加工食品といった食品や日用品などを購入することか必要となる。スーパーやコンビニエンスストア、商店などに行って、これらの商品を買う。まさに、人が生活をしていくための購買行動だ。しかし、買い物難民にはこれが難しい。とりわけ高齢者は、車やバスなどの輸送手段の利用が制限されたり、身体的に制約されたりするので買い物のための移動ができず、通常の買い物ができなくなる。 こうした問題は、ヨーロッパやアメリカでは「フード・デザート(food desert )」と呼ばれて社会問題化している。直訳すると「食の砂漠」だが、これは、食料を摂取するという人間の根源的な営みにおける荒涼とした現実を充分に想起させる言葉だ。 食の砂漠とは、炭住している周辺にスーパーなどの小売店がなくなったり、住民自身が低所得であったりするために、生鮮食品など必要な食品を購入することが困難になり、それによって栄養状態が悪化し、健康問題を引き起こす人々か増加してしまうことを意味している。こうした人々は、ヨーロッパやアメリカでは、高齢者、外国人労働者などの低所得者層や障害者など多様な人々が含まれているが、日本での食の砂漠の中心は高齢者となる。

地方の過疎地域でも都市部でも
高齢者を中心とした買い物難民は、特に地方の過疎地域で発生していると考えられる。農山村などの過疎地域では、若年層が流出して大幅な人目の減少が起こり、残された高齢者が多くを占めるようになった。こうした地域の高齢者は、周辺地域に小売店がなくなり、また自家用車などの移動手段を持たないために、遠距離にある小売店に必要な商品を買いに行くことかできない。 これまで過疎地域では、交通弱者(transportation poor)が大きな問題となってきた。地方ではモータリゼーションか進展して、自家用車による移動が生活の中心を占めるようになった。これによって鉄道やバスなどの公共交通機関が大きな影響を受け、衰退化か進んだ。自由な移動が極度に制限されたのは、自家周東を運転できない高齢者や子供である。 過疎地域で、移動手段を持たない交通弱者が買い物難民に直結することは容易に想像できるだろう。とはいえ、買い物難民は過疎地域に限定されるものではない。買い物難民は全国の都市部でも大量に発生している。 都市部における買い物難民は、近くにたくさんあった商店やスーパーなどが廃業に追い込まれ、食品などを購入できる小売店がなくなってしまったことが大きな原因の、つとなっている。これには、2000年に「大規模小売店舗立地法」(大店立地法)が施行され、大型小売店の新たな出店に対する規制が緩和されたことが大きく影響している。これによって、大型小売店は都市郊外への出店が容易となり、都市の郊外に大型小売店が林立するようになった。 この影響を受けて、従来の都市の中心部にあった商店街では小売店が軒並み閉店してしまい、いわゆるシャッター商店街が出現するようになった。かつては多くの人が暮らしてきた団地周辺も同様である。団地の周辺には、かつてスーパーなどの小売店が多くあったが、そうした小売店も郊外店との競争か激しくなり、次々と廃業に追い込まれて閉店していった。 さらには、都市部でのモータリゼーションの進展や人目の減少によって、パスなどの公共交通機関も経営状態が苦しくなった。それまで運行していた路線の縮小や便数の減少、さらには路線そのものが廃止されていった。過疎地域だけでなく、都市部であっても公共交通機関の衰退は、高齢者に大きな影響を及ぼすことになる。

約700万人
買い物難民はどれくらい存在しているのだろうか。経済産業省によれば、全国で高齢者を中心とした買い物難民は700万人に達すると推計されている。図28に示すように、内閣府「平成22年度高齢者の住宅と生活環境に関する意識調査結果」によれば、「日常の買い物に不便」と答えた60歳以上の高齢者は17・1%に達した。この17・1%という数字から、約700万人という推計値が弾き出された。

 

さらに、図29は、これを都市規模別に見たものである。これによると、「日常の買い物に不便」と答えた人の割合は、都市の規模に反比例している。町村で最も高く、大都市で低い。このことから、買い物難民の割合は町村で特に多いことが分かる。しかし、注目すべきは、大都市においても買い物に不便を感じている高齢者が確実に存在していることである。これは先に示唆したように、買い物難民は地方の過疎地域だけではなく、大都市を含めた都市部でも着実に増えていることを示している。

また農林水産政策研究所は、別の視点から高齢者の買い物難民に関する推計を行っている。「食料品アクセス問題の現状と対応方向ーーいわゆるフードデザート問題をめぐって」(2011年)によると、表3に示されるように、自宅から500メートル以内に生鮮食料品を販売する店舗がない65歳以上の高齢者は970万人に達しており、地域別に見ると地方圏が680万人、3大都市圏(東京圏、名古屋圏、大阪圏)で30
0万人となる。

また、自宅から500メートル以内に生鮮食料品を販売する店舗がなく、かつ自動車を持だない65歳以上の高齢者は全国で350万人。その内訳は、地方圏が210万人、三太郎雨間が140万人となっている。

対応策

3つの方法
高齢者の買い物難民に対して、現状ではいかなる対応策が考えられ、実施されているのか、そして、どのような対策が有効なのだろうか。さらに、その際に物流はどのような役割を持つことが可能で、機能することができるのだろうか。 そもそも買い物難民は、消費者である高齢者が居住している場所と、日々の生活に必要なものを販売している小売業者の店舗が地理的・空間的に離れていて、高齢者がその場所までアクセスすることが困難であるために発生している。これを克服するためには、次のようなことか考えられる。 まず、①場所的に離れている既存の小売店の店舗に高齢者がアクセスできるように、バスやタクシーなど移動手段を提供する。これとは逆に、②高齢者自身が移動しなくてよいように、居住者の身近に小売店を設置する。そして、③小売店から居住者の自宅まで必要な食料品などを配送する。このように、買い物難民への対応は大きく3つに分類することができる(表4)。

まず①に関しては、高齢者自身が移動できるようにする対応策である。距離的に離れた商業施設のある地域に、高齢者が買い物に行けるように交通手段を提供する。バスなどの公共交通機関を利用できるように路線バスの停留所を増設して、高齢者でもバスを使いやすくする。さらには、乗合タクシーのサービスを提供して、高齢者でも集団で離れた場所での買い物ができるようにする。こうした高齢者自身が移動できるサービスは、バス会社やタクシー会社が主体となって提供することか可能だ。ここでの大きなポイントは、人の移動を可能にする交通である。 続いて②は、販売する施設を高齢者の近くに設置することである。一つは、高齢者の訳注している近くで、スーパーなどの小売店が撤退した場所や地域の集会場などを利用して、新たに販売所を設けて販売する手法かある。さらに現在注目されているのが、移動販売車による版売である。軽トラックや小型トラックに生鮮食品や加工食品、日用品を積載して、高齢者の訳注する地域を巡回して版売する、トラックの店舗が移動して版売を行う方法である。こうした移動販売車による版売サービスの提供は、全国各地で行われている。移動販売の主体は、スーパー、生協(生活協同組合)、コンビニエンスストア、運送業者など、多様な事業主体によって行われている。 さらに③の家まで届けるという点では、生鮮食品や加工食品などの食材を中心として、各家庭に直接届ける宅配が行われている。この代表的な事例に、小売業者であるスーパーマーケットか行うネットスーパーや、生協が行う宅配がある。 これとは別に、買い物代行サービスがあり、個別に注文を聞いて本人に代わり店舗に行って商品を購入して、その商品を自宅まで届けるサービスも提供されている。これもスーパー、コンビニエンスストア、宅配使事業者など多様な主体によってサービスか提供されている。 さらに、配食サービスがある。これは、食材ではなく調理してすぐに食べられる弁当や夕食などを個別の家庭に届けるサービスである。これもコンビニエンスストア、生協、そのほかに配食専門事業者などがサービスを提供している。

ネットスーバーの可能性
このように、買い物難民に対しては多様な取り組みが行われているが、民間企業だけでは到底捕えない。したがって、地方自治体や町内会などの自治組織やNPOなどが、買い物難民のために独自に活動することが必要となる。さらには、政府による補助金の支出も重要な役割を担っている。 こうしたなかで注目されるのは、特にネットスーパーの事業展開である。いうまでもなく、ネットスーパーの主体であるスーパーなどの小売業者は、まさに現代の代表的な小売業態であり、広範囲にわたって生鮮食品や加工食品などを販売して消費者の日々の消費生活を支えている。このようなネットスーパーは、買い物難民を支えるうえでその役割をますます高めていくだろう。そこで次章では、買い物難民に対するネットスーパーの可能性について考えていきたい。

ネットスーパー

店舗型とセンター型の物流
ビジネスとして成り立つか ネットスーパーでは、スーパーの店舗で販売されている商品を、即日、自宅まで届けてくれる。外出がままならない高齢者、子育てで忙しく買い物に行けない主婦など、スーパーに直接買い物に行けない消費者にとっては便利な版売サービスである。買い物難民となっている高齢者でも、生活に必要な食料品や日用品をこうした方法で手軽に購入できれば、その負担を大きく軽減できる。もちろん、インターネットを使用できることが前提だが、タブレットを使いこなせる高齢者は少なくない。また、40〜50代のほとんどはインターネットに慣れているので、こうした世代がやがて高齢者になれば、需要はますます高まっていくだろう。 そこで重要なのは、小売業の新しい形態であるネットスーパーが、ビジネスとして順調に発展できることである。当然ながら、ネットスーパーがビジネスとして成り立ち、発展していかなければ、買い物難民対策として有効に機能しない。 本命では、新たな販売ビジネスであるネットスーパーに焦点を当てる。ネットスーパーは、その特性ゆえに物流が大きな役割を占め、かつ、その特性ゆえの重要な課題がある。その課題とは何か、そして、それをどのようにクリアしていけばよいのかを見ていきたい。

次々と市場に参入
ネットスーパーは、インターネットの普及とともに、新しい小売業のビジネスとして始められた。ネットスーパーの発展をたどってみると、わが国では、2000年に人手スーパーの西友がネットスーパーを開始している。歿年には、イトーヨーカ堂やイズミヤがネットスーパーに参入。その後、ブロードバンドの普及により、インターネットを利用する環境が整備されてくるとともに、2007年にユニー、2008年にはイオン、ダイエーと、大手スーパーか本格的に参入している。さらに、2009年以降になると、全国の地方のスーパーも次々と参入していった。 これは推計だが、ネットスーパーの市場規模は、2014年度で約1200億円、今後、年2〜3割という驚異的な成長か見込まれていて、5年後の売上高は2・5倍に増加するとの予測もある。 ネットスーパーのトップを走るイトーヨーカ堂は、全国にある約180の店舗のうち、8割の140店舗でネットスーパーを展開しているが、2015年2月期の売卜高は約500億円に達する。また、イオンは全国各地にある約350の店舗のうち、福井県と徳島県を除く190店でネットスーパーを展開している。イオンはネットスーパーの売上高を非公表としているので不明だが、毎年20%以上、売上荷を伸ばしてきたといわれている。一方、地方では、それぞれの地域に根ざした中堅スーパーもまた、ネットスーパーを拡大している。

ネットスーバーの物流とは
ネットスーパーは、もともとスーパーマ店舗販売を行っている小売業者が始めたネット通販である。ここで、サプライチェーンという観点から、スーパーとネットスーパーの違いを見てみよう(図30)。その前に、
ネットスーパーには2つのタイプがあることを確認しておきたい。一つは、図30の②で示した「店舗型」、もう1つが、③で示した「センター型」である。

現在、ネットスーパーの多くは店舗型である。ネットスーパーでは顧客から注文を受けると、作業員が店内の陳列場所や各棚を回り、商品をまとめてピッキングする。その後、店舗のバックヤードにこれらを集め、各商品を個々の顧客の注文ごとに仕分けする。それが注文通りになっているかどうかを伝票に基づいて検品し、最後に配送用の容器に入れて梱包する。こうした、ピッキング、仕分け、検品、梱包という一連の物流の作業がスーパーの店舗の中で行われる。店舗では、こうした一連の作業を、注文に応じて手狭なスペースで手作業で行わなければならない。店舗に備わっているバックヤードを利用できるとはいえ、効率的であるとは言い難い。 これに対してセンター型は、商品の品揃えをスーパーの店舗ではなく、その1つ前の段階である専用の物流センターで行う。この物流センターから、消費者の自宅まで商品を配送する。センター型では多くの専用スタッフが投入され、機械化や自動化も導入されているので効率もよく、大量の注文をさばくことができる。取り扱い量が拡大すれば、規模の経済が働くセンター型が威力を発揮する。 センター型では店舗が省略されるが、店舗型でもセンター型でも共通するのは、従来の店舗販売にはない新たな2つの物流機能が生まれるということだ。一つは、注文を受けた商品の品揃えをするという物流機能。もう一つは、その品揃えした商品を消費者まで配送するという物流機能である。

大きな負担がかかる物流コスト
ネットスーパーではこれらの物流機能が加わることによって、新たな物流コストがかかってくる。実際、店舗型のネヅトスーパーでは、店舗での一連の物流作業で注文I件当たり400〜800円のコストが発生するといわれている。配送コストも、注文された商品を届けるのに500〜900円程度のコストが必要だといわれている。言い換えれば、ネットスーパーで販売される商品というのはこうしたコストを含んでいるので、店頭よりも高い価格で販売するか、もしくは消費者に対して、このコスト分を別に負担してもらう必要が出てくる。 しかし実際には、ネットスーパーで販売されている商品は、店舗販売の商品と同じ価格で販売されており、配送などの物流コストも、実質的に消費者負担とはなっていない。 ネットスーパーでの価格設定の特徴は、配送料にある。ネットスーパーによって異なるが、例えば、一回当たりの配送料を350円と設定し、一定規模の隣人額(2000〜6000円程度)を超えれば、配送料を無料にするような仕組みだ。購入額の規模はネットスーパーごとに異なるものの、多くのネットスーパーはこうした配送料金の制度を導入している。 こうした仕組みは、購入者にまとめ買いを促すように設定された仕組みだといえる。この最低基準を超えて隣人すれば、配送料を支払うことなく、結果的に店舗で購入する場合と同じ価格で商品を購入できるというわけだ。もちろん、その際の配送料金は、実質的にネットスーパー白身が負担している。 ところで、あるネットスーパーでは、一定額以上購入すると翌月の配送料を無料にするサービスを提供している。顧客か引き続き購入することを促す什組みだ。しかし、この仕組みだと、翌月の購入には最低購入額が設定されていないため、少額の注文が増えてしまい、注文件数は増えるが購入額の増加に結び付かない。 いずれにせよ、ネットスーパーの小売業者からすれば、配送料無料はやむをえなかったといえる。そうしなければ、ネットスーパーの利用者を拡大することはできなかっただろう。ネットスーパーでの販売量を増やすことで、こうした基本コストは吸収できると考え、ビジネスを始めたのである。 配送コストを含む物流コストの問題は、ネットスーパーにとっては大きな負担だ。市場規模は拡大しているとはいえ、赤字から抜け出せないネットスーパーはまだまだ多い。その大きな原因の、つか、ここまで見てきたように販売価格に転嫁できずにネットスーパー白身が負担する物流コストにある。
イトーヨーカ堂のネットスーパーは、2009年度に売上高が210億円に達し、この時点で初めての黒字となった。2001年にネットスーパーを開始して以来、8年を要してようやく黒字にこぎつけたのである。しかし、物流コストが重くのしかかるため、その他のネットスーパーで黒字を実現しているのは極めて少ないといわれている。

センター型の事例
先に、ネットスーパーの多くは店舗型だと述べたが、日本では数少ないセンター型の事例を見てみよう。 イトーヨーカ堂は、これまで店舗型のネットスーパーを展開してきたが、2015年3月、東京都荒川区にネットスーパー専用の物流センターをオープンさせた。この物流センターの敷地面積は3600,m。生鮮食料品、冷凍・冷蔵食品、加工食品、飲料、日用品など1万品目を対象にして、注文に応じたピッキング、梱包などの一連の物流作業を行う。また、自動化機器が導入されているとともに、センター専用の作業員か投入されている。 この物流センターでは1日2000件の注文を処理することができるという。これは、通常の店舗での処理数の約5倍にあたる。作業の生産性も店舗型の1・5倍。これによって3割ものコスト削減を目指している。 配送の仕組みも変えた。この物流センターの配送四域は7〜9キロ。店舗型の5キロに対して1・5〜2倍近い広域の設定が可能となった。人目密度が高い地域に位置しているため、密度の高い配送か可能となったのである。 配送圏域が拡大するとともに、商品の配送体制も強化した。従来の店舗における商品の配送では、1便2時間の間隔で、1日10便が通常だったが、このセンター型では、朝10時から夜の23時30分までの1日23便という、よりこまめな配送時間を設定した。

「闇の店舗」
海外の動きに目を転じてみよう。日本と同様にネットスーパーが拡大しているヨーロッパでは、センター型が積極的に採用されている。特にイギリスでは、ネットスーパー専用の物流センターが次々と設置されている。 こうした物流センターは実際の店舗ではないので、「ダークストア(dark store)=闇の店舗」と呼ばれる。小売業者は暗い印象を与えるこのネーミングを嫌い、Eコマースにふさわしい「ドットコムセンター(dotcom cenler)」と呼んでいる。 イギリスのスーパーマーケット最大手のテスコ(Tesco)は、オンライン・グロサリー・ショッピング(online grocery shopping)を積極的に繰り広げている。これは、まさにネットスーパーそのものである。ネットスーパーを始めた当初は、日本と同じようにスーパーの店舗でピッキング、梱包して発送していた。しかし、取り扱い量が拡大すると店舗ではまかないきれなくなり、専用の物流センターを設置するようになった。 そして、ダークストアを主要な拠点に次々と設置していった。例えば、テスコのイギリスで6つ目のダークストアは、約11万㎡の大規模な物流センターで、3万アイテムの商品を取り扱い、ピッキングや梱包を行う作業員が550人にもおよぶ。作業員は最大で1000人まで収容可能で、1日の注文処理能力は最大3500件だという。 こうしたネットスーパーによるダークストアの設置の動きは、イギリスだけでなく、フランス、ドイツ、さらにはオランダでも広がっている。これらEUのネットスーパーに共通するのは、最初は店舗型のネットスーパーを開始するものの、売上高が店舗販売の10%を超えるようになると、店舗型の物流に大きな支障が生じるためにセンター型に転換するという点である。

配送コストをどうするか

配送の効率化と黒字化の実現
ネットスーパーでは、生鮮食料品が含まれる商品を迅速に配送することが求められている。注文を受けて店内でピッキング・仕分け・梱包を行い、出荷できる体制が整うと、商品は配送担当に渡され、その日のうちに即座に配送が行われる。 配送は、ネットスーパー自身が行う場合と、配送専用の物流業者に委託して配送する方法がある。いずれにせよ、配送のためのコストが発生するのは避けられない。 そこでの重要なボイントは、いかにして効率的な配送を行い、配送コストの削減を実現するかである。そのためには、まず、配送地域を比較的狭い地域に設定しなければならない。 ネットスーパーで効率的な配送を実現している事例を見てみよう。三重県のスーパーサンシは、すでに1980年代に電話による宅配事業を始め、2000年にはネットスーパーに参入して事業を拡大してきた。2008年にはネットスーパーの黒字化も達成している。この間に、自社配送で効率的な配送システムを構築してきた。 スーパーサンシは、配送圏域を自社の店舗からトラックで20分以内に設定。その狭い範囲で1台の小型トラックの配送件数の上限を20〜25件に設定して、配送の密度を高くし、トラックが高回転できるようにした。その結果、高い配送効率を実現し、I件当たりの配送コストの削減を実現した。 効率的な配送を阻害する要因となるのが、宅配時の不在である。再配達となれば、配送効率は大きく低下してしまう。そこで、スーパーサンシは、これに対応するために、配送先の家庭に宅配専用の鍵付きのロッカーを貸付けて設置している。こうしたロッカーがあれば、不在でも配達を完了することができ、再配達の必要がなく配送効率が阻害されることがない。スーパーサンシはこの手法で効率的な配送システムを構築して配送コストを削減し、黒字化達成の重要な要因を築いたのである。

配送料をどう負担するか
先に述べたように、通常、ネットスーパーでの配送コストは1件当たり500〜900円程度といわれている。また、基本となる配送料金は設定しているものの、配送料は実質的にはネットスーパー側が負担するという什組みか、採算性の維持を難しくしている。 先ほど触れたイギリスのテスコは、配送料をしっかりと徴収している。配送料金は、曜日や時間帯によって、1回につき3ポンド(約520円)〜5ポンド(約860円)。これに対して、デリバリーセーバーと呼ばれる配送料の定額プランも導入されている。このプランでは、すべての曜日に配送可能で、3ヵ月間で36ポンド(約6200円)、6ヵ月間で60ポンド(約1万300円)の配送料金を設定している。 いずれにせよ、テスコの場合、販売する商品は店舗と同じ値段を設定し、必要な物流コストを購入者から収受している。こうしたこともあって、多くの日本のネットスーパーと異なり、テスコはネットスーパー部門において安定して継続的な黒字を達成している。 先に見た三重県で事業展開しているスーパーサンシも、配送料を利用者から収受している。スーパーサンシは2つのパターンの配送料金を設定している。ひとつは、配送1回ごとに96円プラス消費税(2回以上は144円プラス消費税)を徴収するもの。もうひとつは、月に何回配達してもらっても定額で、月477円プラス消費税(1日2回以上は762円プラス消費税)を徴収するものである。しかし、通常のネットスーパーで行われているように、一定の購入金額を超えると配送料が無料になる仕組みは導入していない。逆に、1回当たりの購入金額が1429円未満の場合には、サービス料として77円プラス消費税を徴収している。 このように、黒字化しているネットスーパーの場合、配送コスト全体を賄うほどの金額ではないが、必要な配送コストを徴収している。黒字化を考えた場合、こうした物流コストを購入者に負担してもらい、配送料をしっかりと徴収することが重要なポイントとなる。 一般的に配送料が無料の中で配送料金を購入者に負担してもらうには、顧客にとってネットスーパーそれ自体の利用価値を高めることが重要な要素となってくる。すなわち、配送コストを払ってまで購入したいと思えるような、商品の品揃えの良さや品質の高さ、さらには商品価格の安さが必要になってくる。これを前提にすれば、配送のコスト負担も可能になるだろう。

注目の配送サービス

高齢社会における物流サービスの好例
ネットスーパーの配送で重要な役割を演じているのは宅配便である。特にヤマト運輸は、ネットスーパーの事業展開をトータルに支援するサービスを提供している。「ネットスーパーサポートサービス」では、ネットスーパーの事業展開に必要不可欠なインターネットの情報システムを提供している。既存の店舗を持つスーパーが新たにネットスーパーを始める際には、ネットスーパーのウェブを開設して販売する商品情報を掲載し、さらにインターネットを通じて注文を受け入れるシステムが必要となる。 ヤマト運輸のグループ企業であるヤマトシステム開発が、このシステムをASP(ソフトの期間貸し)で提供し、中小のスーパーでも少ない情報システムの投資でネットスーパーを始めることができるようにしている。 他方、ヤマト運輸か自治体や社会福祉協議会と協力しながら展開しているサービスとして注目すべきものが、「まごころ宅急便」である。これはネットスーパーの配達ではないが、ヤマト運輸が提供する高齢者を対象とした「買い物代行」および「見守り」サービスだ。 例えば、過疎地域に住む高齢者からヤマト運輸のコールセンターに商品の注文が届くと、それを受けて社会福祉協議会の職員が地元のスーパーで商品のビッキングと梱包を行う。それをヤマト運輸のセールスドライバーか、注文した高齢者の自宅に配送し、商品の配達と同時に購入代金の受け取りも行う。それとともに、配送先の高齢者の健康状態など、安否確認のチェックを行い、その結果を社会福祉協議会にファックスして報告するという什組みである。こうした取り組みは高齢社会に有効ではないだろうか。 ネットスーパー専用に配送業務を担う物流業者もまた、特有のビジネスモデルを作り上げている。その注目すべき物流業者に、ココネットかおる。ココネットは、商業貨物を中心として特別積み合わせを行う人手物流業者のセイノーホールディングスが、高齢社会に対応した物流業務を提供するグループ企業として立ち上げた。 以前、ココネットの社長にヒアリングをお願いしたとき、とても若い社長だったことに驚いた。その社長はセイノーホールディングスで経営企画を担当した際、これからは高齢者の支援が必要となると考え、新しい企画を作成して提出したという。それがホールディングスの上層部に受け入れられ、自ら会社を立ち上げて社長として経営することになった。このような若い経営者が展開する高齢者向けの物流ビジネスは、斬新なものである。 ネットスーパーが配送業務を外部委託する場合、その受け皿となっているのは軽貨物運送事業だが、これは軽貨物トラックを使用して営業行為を行う個人事業者である。国土交通省へ届け出れば個人で事業を始めることができるため、全国で数多くの軽貨物運送業者が運送業務を行っている。その一部が、個人ベースでネットスーパーの配送業務に携わっているのだ。 ところが、ココネットは、こうした軽貨物トラックの個人事業者とは異なり、自社で雇用した女性従業員を軽貨物トラックの運転業務に従事させ、ネットスーパーの配送業務全体を組織的に請け負っている。そして、サービスレベルが個々にばらばらな個人事業者とは異なり、心を込めた気配りのあるサービスを提供できるような教育を受けた女性ドライバーによる、接客に優れた配送業務を行っている。 とりわけ、配送先に届けるドライバーの顧客に対する対応は重要となる。それは、店頭における販売員の接客態度と同じように優れたサービスが求められる。配達するドライバーがしっかりした対応を行えば、ネットスーパーに対する顧客の信頼が増す。それが次回の注文へとつながり、さらに注文量の増加へと結びつく。このため、「まごころ」や「思いやり」を意味するハーティストと呼ばれる女性ドライバーの配達は、単なる配送業務だけでなく、ネットスーパーにとっては重要なプラスアルファの機能を賄うことになる。 その.つに買い物代行サービスかおる。ハーティストが高齢者の自宅を少なくとも週1回訪問して、買い物代行サービスを行う。これは、ネットスーパーの注文を直接聞くだけでなく、ネットスーパー以外の買い物にも対応して、要望を聞いて購入して届けるサービスである。この買い物代行は1件当たり880円で請け負っている。さらに、離れて暮らす高齢者の子供に訪問の際に状況を知らせるサービスも、月額880円で提供している。 こうした取り組みは、高齢社会における物流サービスのかたちを示す好例になっているのではないだろうか。

ココネットは、東京、名古屋、福岡といった都市部に加えて、地方でも配送業務を提供している。さらに、全国展開をはかる大手スーパーとともに、地方の中小スーパーに対してもネットスーパー向けに専用の配送業務を行っている。 大手スーパーでは、店舗ごとにネットスーパーの配送業務を包括的に請け負う。地方の中小スーパーでは、ネットの注文のための情報システムの導入や支払い決済方法も含めて、ネットスーパーの立ち上げを支援するコンサルティングを行う。これは、地方の中小スーパーの場合、独自でネットスーパーを立ち上げるのが難しいことによる。したがって、最初にネットスーパー立ち上げのためのコンサルティングを行ったうえで、開始されたネットスーパーの運送業務を担うことになる。この点では、先に見たヤマト運輸と同様なアプローチを行っている。

これまでにない「第三の配送」
ここで、これまでにない配送が行われているアメリカでの新しい動きを紹介しよう。 多くの既存の食料品店舗から生鮮食料品などをピックアップして、最短1時間で注文先の顧客に届けるネット道服を展開しているインスタカート(Instacart)という会社がある。2012年にスタートし、ボストン、シカゴ、サンフランシスコなど数多くの主要な都市を拠点としている。 アメリカでは小売店舗のことを「ブリック・アンド・モルタル(煉瓦とモルタル)」というが、これにちなんで店舗を持つ小売業者がネット通販を展開する形態を「クリック・アンド・モルタル(ネットのクリックとモルタル)」と呼ぶ。インスタカートは、既存の店舗を前提としている点では、このクリック・アンド・モルタルのタイプであり、形態としては日本のネットスーパーそのものである。しかし、事業の主体は既存の店舗の小売業者ではなく、インスタカートという純粋なネット通販事業者である。複数の既存店舗を束ねて店舗の商品をネットで情報提供し、注文があるとインスタカートのコントロールで商品を既存の店舗から品揃えをして、購入者に迅速に届ける。 極めてユニークなのは、配送の方法だ。宅配便などの物流業者に外部委託するのでもなく、トラックとドライバーを調達して自家配送するのでもない。ショッパー(shopper)と呼ばれる個人によって実際の発送が行われているのだ。 登録されているショッパーがスマートフオン等で指示を受けて店舗に直行し、あらかじめ指示された店舗の棚から商品をビッキングする。さらにアプリの指示で、ショッパー自身が所有している自家用車やバイクを使い、注文した顧客の自宅に届ける。その際、ショッパーと呼ばれる個人は、配送にあたって手数料や配送先の顧客からチップを得ることができる。 ここで注目されるのは、店舗のピッキングおよび配送を一般の個人か担っていることである。物流業者でもなく、これまでの自宗配送でもない、第二の配送方法だといえるが、実は、こうした方法はすでに他の分野で急速な広がりを見せている。 これは、最近臣界的に注目されているウーバー(Uber)と同じ手法だ。ウーバーは、人を運ぶサービスを、タクシーに代わって自家用事を持っている個人がスマートフォンのアプリを使って行う。こうしたネットを利用した新たなビジネスによって、個人が非正規の労働者として単発的に仕事をしたり、企業が個人に仕事を依頼したりするようになっている。こうした経済の勤きはギグ・エコノミー(gig economy)とと呼ばれているが、インスタカートは、まさにこのネットスーパー版といえる。ネットスーパーの配送の新たな、面だといえるだろう。

競合する生協宅配の物流

生協の宅配の特徴
ネットスーパーと同様に重要な役割を演じているのが、生協(生活協同組合)の宅配である。実際、生協の宅配を利用しているという人も多いだろう。生協の宅配も、買い物難民の問題に対して有効で重要な役割を担うものとして期待されている。 生協の宅配は、ネットスーパーが始まる前から全国的に行われていた、いわば個別宅配の元祖的な存在だった。かつて生協では地域の組合員が班を形成して、班ごとにまとめて配達する「共同購入」が主流を占めていたが、現在では個人ごとに配送する「個人宅配」が多くを占めるようになっている。 生協は、地域生協が行う宅配事業供給高(売上高)が2014年度で1兆6967億円に達し、前年比1・5%と増加を続けている。特に、個人宅まで配送する「個配」の供給高は1兆I199億円で、前年比4・0%と大幅な伸びを見せている。 イトーヨーカ堂のネットスーパーの売上高が500億円程度であるから、生協の宅配の売上高がいかに大きいかが分かるだろう。生協としては、店舗事業が毎年縮小しているなかで、供給高でこれを上回る宅配事業が重要な事業の柱となっているのか実情だ。 生協の宅配の特徴は、生協の会員を対象にチラシやカタログ、さらにインターネットで注文を受け、週1回、あらかじめ決められた曜日の時間に個別の家庭に配達するという点にある。購入する消費者からすれば週1回という制約上、あらかじめ計画的に、一度にまとめて発注することが多くなる。生協からすれば、週1回にまとまった景の商品を定期的に配送するということは、計画的で効率的な輸送を行うことができるということでもある。

生協の宅配に求められるもの
こうした生協の宅配における物流は、明らかにネットスーパーの物流とは大きく異なる。これは、「多頻度小口化」という視点で比較すると分かりやすい。日本では、特に企業の物流の現場で、できるだけ在庫を抱えないための多頻度小口化が大きく進行してきた。「必要なときに、必要なものを、必要なだけ」調達するのが多頻度小口化だ。 発注する購入者側は、これによって在庫を削減できるが、商品を届ける販売者側は、物流上の大きな負担か生じる。物流センターで少量のピッキングが増え、こまめに少量ずつ、何度も配送しなければならない。このために、物流への負荷が増加する。 このように考えると、週1回の生協の宅配は、多頻度小口化の以前の段階の物流の状況で、物流への負荷は小さい。他方、ネットスーパーは多頻度小口化が進んだ状態で、物流への負荷は大きい。しかし、消費者にとっての利便性という点では、生協よりネットスーパーのほうが高いのは言うまでもないだろう。 もちろん、生協の宅配も、一部では週1回の配達ではなく、あらかじめ消費者が配連日と時間を指定できるサービスを提供している。だが、それでも配達は注文から3日後で、注文から商品が届くまでのリードタイムは依然として長い。ネットスーパーとの間には、依然として大きな格差が存在している。 したがって、生協の宅配には、消費者の利便性を向上するための物流サービスの高度化、すなわち多頻度小口化を可能にする物流システムを構築していくことが求められている。

これまで物流は、どちらかというと経済や企業を背後で支える地味な存在で、社会的に大きく注目されるようなことはなかった。しかし現在、物流は経済全体に大きな影響を与える、極めて重要な存在だと認識されるようになった。 その一番の大きな理由は、このページで詳しく触れてきたように、物流が重要な役割を担うネット通版が急激に拡大してきたからだ。 物流がビジネスの生命線となるネット道服は、物流をさらに高度化させ、深化させていくことになるだろう。物流センターでは、これから物流ロボットなどの新たなイノベーションが導入され、効率化の追求がなされていく。さらに、そう遠くない将来にラストマイルにドローンが導入されると、物流は劇的に変化する可能性を秘めている。ネット道服の物流は、その他の産業の企業物流の進化を先導する役割をもつようになるかもしれない。 企業物流を支える物流業者には、さらなるアグレッシブな事業展開か期待されている。宅配便は労働力不足という課題を抱えながらも、輸送ネットワークの高度化を図り、輸送時間を短縮した優れた宅配便サービスをこれからも提供していくだろう。さらに、3PLビジネスの物流業者も物流センター機能のアウトソーシングを受け、ネット通販に求められるような高度な効率化した物流サービスを提供して事業の拡大を図っていくだろう。 これから深刻化が予想される買い物難民の問題に対応するためにも、物流の役割が重要になってくる。ネットスーパーは買い物難民に対する有効な手段だが、買い物難民を支えるネットスーパーが順調に事業を拡大していくためには、店舗型からセンター型への移行、効率的な配送の仕組みの構築といった物流の進歩は欠かせない。もちろん、これからの物流の姿を探るためには、ドライバーの不足をどうするのかという大きな問題を解決しなければならない。ドライバー不足という問題は、これまでトラック輸送がいかに不合理な条件の下で企業物流を支えてきたかを示しているが、これを回避して必要な輸送力を確保しようとすれば、ドライバーの賃金の上昇と労働時間の短縮が必要となる。 それはトラック運送業者の企業努力によって実現されるが、一方で従来の企業物流の見直しを迫るものとなる。企業物流は運賃の上昇による輸送コストの増加を受け入れ、ドライバーに長時間労働を強いる物流の仕組みを改めていかなければならない。つまり、企業物流もより一層の改革が求められることになるだろう。

 

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